神々の愛し子

アイリス

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次の日。シュリクロンは朝になったら普通に現れて、世話をしてくれる。




昨日とは異なり、起きてきた時点で机には朝食が準備され、すぐに食事が摂ることができるようにされていた。



「おはようございます、カツキ様。お食事の準備はできておりますので、洗顔の後、お召し上がり頂けます」




「おはよう、シュリクロン。ありがとう」




香月は挨拶を交し顔を洗いに行き、椅子に座り朝食を食べる。




「今日はどうされますか?」




「魔法の練習をしようかな?」




文字は昨日頑張ったのである程度、できた。だから大丈夫だ。話す、見るとは元からできているしあとはコツコツ頑張っていくでもいいだろうと判断する。




どちらかといえば魔法の方が練習が必要だし、練習したいと思う。無理するつもりは無いが、色んなものを試してみたい。




だが問題は、シュリクロンが香月の事情をどこまで知っているかということだ。フロウティアがどのように伝え、香月に仕えるように告げたのか。




細かく説明しているかもしれないし、何も言っていないかもしれない。ただ世話だけを任せる為に付けてくれたのかもしれない。




聞いてみないと判断出来ないが、聞きづらい。どうたずねればいいのか悩む。




「魔法の練習と文字の書き取りが必要だとはフロウティア様から伺っています。カツキ様が望むままにさせて頂くように、仰せつかっております。微力ながら、実践のお手伝いもさせて頂きます。昨日と同じ場所でよろしいですか?」




香月はシュリクロンにどう説明をしようか悩んでいたが、フロウティアからも説明があったようだ。シュリクロンの口ぶりから察するに、必要最低限な情報のみだ。というより、香月がやりたいと望んでいることを叶えるように言われている感じだ。



異世界からとか、リローズとかが絡む話は恐らく耳に入っていない。




「カツキ様?」




「じゃあ、昨日と同じ場所で練習するから」




「かしこまりました」




香月はヴィレムを抱き上げる。



ヴィレムは心得たと言わんばかりに頷き、転移魔法を使い昨日練習した場所へ移動した。















昨日と同じく教会の裏へ到着し、香月は魔法を練習していた。



基本的な魔法を練習していた。一つの属性をゆっくりと順番にこなしていく。



香月が魔法を使う様を見守っていたシュリクロンは、目を見開き香月を凝視する。



シュリクロンの中では、というより、一般的に基本的で初歩的な魔法といえど、魔法は殆どの者が詠唱し、使用する。それが普通であり、シュリクロンにとっても当たり前の事だった。



例外は特別な者だけだ。教皇であるフロウティアであったり、神獣であるヴィレム。神に連なる、普通の人では手に届かぬ領域に達する者だけが使える。



そういう認識であるにも関わらず、香月は無詠唱で魔法を使う。



初歩的な魔法である。技術的には拙く、まだ荒削りな魔法。でも、それが霞むくらいに稀有なやり方。




シュリクロンは香月を呆然と見つめる。




「カツキ様、無詠唱で魔法を......?」



「え?あ、そうなの。無詠唱で使えるみたい」



香月は、無詠唱で魔法を使えることを当然のこととして答える。



シュリクロンは自分の目の前で起こっている出来事であるにもかかわらず、目を疑うような光景に、言葉を失う。



自らの常識が奪われ、そして、やはり香月という愛し子は自分たちと一線を画す存在であると、認めざるを得ない。



自分たちには無い能力を備えた特別な、生き物。




シュリクロンは乾いた口を潤すように唾を飲み込む。




「カツキ様は元から魔法が......使えたのですか?」



シュリクロンは香月が元々魔法が使え、愛し子となりこのような境地に至ったと考えたくて、たずねる。それが、限りなく可能性の低いものだとわかっていながらも、聞かずにはいられなかった。



「ううん、魔法は儀式をした後初めて使ったから、今練習している最中なの」




香月はそう言うと、再び魔法を使うため集中する。



香月の邪魔をしないよう、シュリクロンは少し離れた。そして、考える。儀式を執り行ったのは、二日前だと。




香月と話をしていると、違いを突きつけられてシュリクロンは胸が痛む。何処までも、この愛し子は、神に殊更、愛されていると見せ付けられる。




自分とは違う。自分よりも愛され、自分よりも必要とされ、自分よりも事を簡単に進めてゆく。




(これだけ凄いのだから、教皇に指名されるのは不思議じゃないわ......)




違いすぎて比べるのは烏滸がましいだろう。




香月との差に打ちのめされながらも、シュリクロンは精一杯表情を取り繕い、何事もなかったかのように振る舞う。それが今、自分にできる事だった。




この身を焼くような強い怒りは、行き場が無い。香月に投げかけるのは見当違いである。しかし、自らの生まれを呪うに至るには弱い。自分の人生を嘆くほど、シュリクロンは悲惨な生まれをしていない。自分よりも過酷な生を生きる者がいることを知ったから故に、それもできない。




ただ、息をするのが苦しい。




持て余す心をどう処理すればいいのか、見当がつかない。




『思うまま行動すればいい』



香月でもヴィレムでもない、声が聞こえた気がした。








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