神々の愛し子

アイリス

文字の大きさ
31 / 50

31

しおりを挟む



魔法をひたすら練習していた香月だが、教会方面が騒がしいのに気がつき、声がする方を見つめる。




近くに控えていたシュリクロンも眉をひそめ、同じ方向を見ていた。




「何だろう?」



「騒がしいですね......少し様子を見て参りますので、お傍を離れますが宜しいですか?」


 
シュリクロンは香月に確認をとる。香月はヴィレムがいるので快く頷いき、シュリクロンを送り出す。



シュリクロンが足を踏み出そうと動いた。その時。




「おぉ、シュリクロン!ここに居たのか!」




教会の方面から歩いてきた人間。背は低く、胴が横に大きい。特に腹が丸く、貴族らしく着飾っている服装が悲鳴をあげんばかりに限界まで引っ張られ、今にも生地が千切れそうだった。



そのふくよかな体型の男は親しげな様子でシュリクロンに呼びかけ、近付いた。



名前を呼ばれたシュリクロンは一瞬固まり、瞳が激しく揺れる。一目で動揺したことがわかる、わかり易すぎる態度だった。




シュリクロンは刹那の後、すぐに表情を戻した。




「お父様、こんな所まで御足労いただき、どうされたのですか?」




「無論、娘であるお前に会うために決まっている!お前が教皇猊下の跡継ぎ最有力候補なのがとても誇らしくてな。久々にゆっくり話でも、と思って教会まで足を運んだのだ」




「そうですか......お父様、騒ぎの原因は貴方でしたのね。愛し子となったわたくしに会うには手続きを踏んでもらわねばならないのですよ。伯爵たるお父様でも許されぬ行為ですわ、今すぐ教皇猊下に謝罪をされるべきです」



シュリクロンは透徹した物言いで、父親に言い聞かせるように言い募る。




教会は手続きが必要だと止めただろう。しかし、シュリクロンの父であるこの男は、規則を無視してここまで足を踏み入れたに違いない。




それ故の騒ぎだったんだろうとシュリクロンと、目の前のシュリクロンの父親の会話から推測される。




それよりも香月が気に留めたのは、教皇最有力候補という言葉だ。




シュリクロンが教皇最有力候補だと、彼は言った。フロウティアが健在であるのに。あくまで候補であり、すぐ代替わりするとは言ってないのに、何故か胸が騒ぐ。



そして、シュリクロンも愛し子だという事に驚きを隠せない。シュリクロンにたずねたいのに、そんな雰囲気ではなく、香月は口を噤むしかない。下手にここで会話に加わるのはよいとは思えない。ここは黙って空気になっておくのが正解だろう。



だが、そんな香月を見逃さないのは向こう側だった。



「お前に会いたい故なんだ、シュリクロン。それよりもお前はここで何を......」




視線を感じた。きっと男は香月の姿を目にしている。




香月は顔を上げるか悩む。



「カツキ様、ご紹介が遅れまして申し訳ありません。こちらはわたくしの父親にございます」




香月はシュリクロンに紹介されたので、無視する訳にもいがず顔を上げる。




男と目があう。




「お父様、此方の方はわたくしが現在お仕えしている愛し子、カツキ様です」




「香月です」



仲良くなりたいわけではないので、あえて名前だけを告げる。



名前を言った香月を呆然と見つめる。熱に浮かされたように焦点のあわない瞳。



それは香月がよく目にしてきた瞳だ。



香月の人間離れした美貌に誑かされて魅了されている様子。これが長く続けば厄介な事になりそうだと考えていたら、直ぐに瞳は冷静さを取り戻す。いや、香月よりも気になる事柄があったのだと理解する。




「カツキ様......ん?お前は教皇猊下にお仕えしているのだろう?何故、愛し子に仕えておる?愛し子に愛し子が仕えるとは、どういう事だ!?お前は、最有力候補ではないのかっ?」




シュリクロンの父親はシュリクロンに掴みかかり、詰問する。



肩を掴まれ、乱暴に身体を揺らされるシュリクロンは顔を真っ青にさせながらも反論することなくされるがままだった。




「教皇最有力候補だから、わざわざ会いに来てやったのに!まさか、候補ですらなくなったのか?どうなんだ、シュリクロン!」



香月は親子の話に口を挟むのはどうかと思い、黙っていたけれどそろそろ限界だ。



シュリクロンは乱雑に扱われ、今にも倒れそうなくらい顔色が悪いというのにそれに気を留めず、ひたすら責め立てる親。シュリクロンも反論するなり、反撃するなり、手を払いのけるなりすればいいのに微動だにしない。




まるで人形のように、されるがまま。




「シュリクロンが苦しそうですよ!一旦放してあげたらどうですか?」



香月は我慢できずに声をかける。



「愛し子だからと調子に乗るな、小娘。わしは伯爵であるのだぞ、小娘如きが易々と話しかけていいと思っているのか?はぁ、まったく、教会の教育はどうなっている?」




香月が声をかけた途端、伯爵であるシュリクロンの父親は顔を真っ赤にさせ怒鳴り散らすように吐き出した。投げられた言葉は驚くほど傲慢で、教会の現状を嘆くように嘯きながら、香月を侮辱する。彼は香月の態度がなっていないと、礼儀を弁えぬと言う。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...