34 / 50
34
しおりを挟むフロウティアは断言した。つまり、シュリクロンが減刑を願い出ても受け入れられないということ。
「そう......」
「カツキ様、今までフォーディス伯爵が罰せられなかったことの方がおかしいのです。ですから、どんな罰が彼に下されようとも自業自得なのですよ......きっとそう言ったところで、酷い罰ならカツキ様は気にされるのでしょうけど」
「そうだね、きっと、私は気にしてしまうんだと思う。私だけが原因じゃないけど引き金になっているのは、紛れもない事実だから」
だけど、きっと気にするだけだ。香月は自分にできること、できないことの線引きができる。
気にしてもどうにもできないこともあると理解しているし、フォーディス伯爵に関しては傍観するに限ると考えている。多少罪悪感が存在するのはシュリクロンが関わってくるから。
知らないままなら、何も思わなかった。いや、こんなことだって起こらなかったかもしれない。
「カツキ様が望むならば、耳に入れぬように徹底することは可能でございますよ」
フロウティアは沈痛な面持ちの香月に提案する。
香月が知りたくない、と強く望むなら知らせないと。
元々人との関わりが極端に少ない香月である。
フロウティアやヴィレム、シュリクロンが話さず、教会内でもフォーディス伯爵について箝口令が敷かれれば、香月が情報を得るのはとてつもなく困難だろう。
いや不可能だろう。
香月が頷けばフロウティアは間違いなく実行に移す。そして、シュリクロンにも徹底させるだろう。そうして、香月は何事も無かったように過ごせば、きっと表面上は平和なんだろう。
「......フロウティア、ありがとう。でも、できるなら、フォーディス伯爵がどうなったのかは教えてくれる?」
香月は覚悟を決めて、フロウティアに自分の考えを告げる。
「......宜しいのですか?」
フロウティアは眉を下げ、心配そうに香月を見つめ覚悟を問う。
香月は深く頷く。シュリクロンとこれも関わっていくなら、知っておかねばならないだろう。
気にするし、気落ちするかもしれない。けれど、齎された事実を受け入れ、飲み込み、処理していなければ。聞かないのは、見ないふりをするだけ。何の解決にもならない。
「......カツキ、無理する必要はないんだよ?嫌なものは嫌だと突っぱねればいい。カツキはそれが許された立場にいる。本来なら、罰など待たず、死を与えればよかった......けど、あいつはリローズ様の愛し子だから、こんなまわりくどいやり方になっているだけ。でも、リローズ様もカツキとシュリクロンと秤にかけて選ぶのは間違いなくカツキだ」
黙っていたヴィレムが想いを吐き出すように並べ立てる。
ヴィレムの言葉はやはり過激で、香月に贔屓的で、しかし、間違っていないと感じさせるほど強い。
香月も何となく、そうなるんだろうと理解している。リローズが選ぶのは香月だと。何故あんなにも執着されているのかわからないが、香月が泣きつけばリローズは香月の望むように処理する。そんな予感がする。
リローズがしなくてもヴィレムは率先してそうするし、フロウティアもやる。
「......全部に耳を閉ざすのは簡単だよね。何も聞きたくない、理解したくないと示せばそれを叶えてくれる環境があって。そこでは私が何よりも優先され、全てを解決できる術を持っている」
香月は自分で並べ立てながら、我ながら凄い待遇だと舌を巻く。
「でも、そうしたら、私は何のためにここで生きているの?」
「それは、」
ヴィレムが言いかけた言葉を香月は食い気味に話して、遮る。ヴィレムも香月の話を優先するように開いた口を閉じた。
「幸せになるため?人生を生きていくのは、幸せだけじゃできないよね。辛いこと、幸せだと感じること全てが積み重なって、生きていく、それが人生だよね?違う......?」
「違わない。カツキは何も間違ってない。ただ、辛い思いをしてほしくないから」
だから、残酷な現実を目の当たりにしないよう、真綿に包まれるように庇護されいればいいとヴィレムは言う。
自分のせいで誰かの人生に変化をもたらす、いい事なら嬉しいが、悪い方へと進むなら辛いだろう。耐えきれぬ想いを抱えるだろう。
香月だってこの世界に来てまで他人の人生の行く末を思案さなければならないのは、不幸せかもしれない。
「私だって、進んで辛い思いをしたいわけじゃないよ」
できれば、幸せだけを詰め込んだ人生を送れたら。そうしたら、きっと幸せなんだと思う。けれど、それは味気ない。出来上がった道の上をなぞるだけのつまらないもの。
「でも、色んな経験をしていきたいから。今回の事も愛し子としての経験、だと思うの。だから、私は向き合う。残酷でなければいいなぁ......」
本当に切に、願う。フォーディス伯爵の罰が凄惨で残酷でなければいいと。
どんな罰が下されるのか、それが実行されることにより、何が起こるのか──。
そして、香月がフロウティアたちと話をしている間にフォーディス伯爵の犯した罪に対する判決が下った。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる