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しおりを挟むフロウティアは断言した。つまり、シュリクロンが減刑を願い出ても受け入れられないということ。
「そう......」
「カツキ様、今までフォーディス伯爵が罰せられなかったことの方がおかしいのです。ですから、どんな罰が彼に下されようとも自業自得なのですよ......きっとそう言ったところで、酷い罰ならカツキ様は気にされるのでしょうけど」
「そうだね、きっと、私は気にしてしまうんだと思う。私だけが原因じゃないけど引き金になっているのは、紛れもない事実だから」
だけど、きっと気にするだけだ。香月は自分にできること、できないことの線引きができる。
気にしてもどうにもできないこともあると理解しているし、フォーディス伯爵に関しては傍観するに限ると考えている。多少罪悪感が存在するのはシュリクロンが関わってくるから。
知らないままなら、何も思わなかった。いや、こんなことだって起こらなかったかもしれない。
「カツキ様が望むならば、耳に入れぬように徹底することは可能でございますよ」
フロウティアは沈痛な面持ちの香月に提案する。
香月が知りたくない、と強く望むなら知らせないと。
元々人との関わりが極端に少ない香月である。
フロウティアやヴィレム、シュリクロンが話さず、教会内でもフォーディス伯爵について箝口令が敷かれれば、香月が情報を得るのはとてつもなく困難だろう。
いや不可能だろう。
香月が頷けばフロウティアは間違いなく実行に移す。そして、シュリクロンにも徹底させるだろう。そうして、香月は何事も無かったように過ごせば、きっと表面上は平和なんだろう。
「......フロウティア、ありがとう。でも、できるなら、フォーディス伯爵がどうなったのかは教えてくれる?」
香月は覚悟を決めて、フロウティアに自分の考えを告げる。
「......宜しいのですか?」
フロウティアは眉を下げ、心配そうに香月を見つめ覚悟を問う。
香月は深く頷く。シュリクロンとこれも関わっていくなら、知っておかねばならないだろう。
気にするし、気落ちするかもしれない。けれど、齎された事実を受け入れ、飲み込み、処理していなければ。聞かないのは、見ないふりをするだけ。何の解決にもならない。
「......カツキ、無理する必要はないんだよ?嫌なものは嫌だと突っぱねればいい。カツキはそれが許された立場にいる。本来なら、罰など待たず、死を与えればよかった......けど、あいつはリローズ様の愛し子だから、こんなまわりくどいやり方になっているだけ。でも、リローズ様もカツキとシュリクロンと秤にかけて選ぶのは間違いなくカツキだ」
黙っていたヴィレムが想いを吐き出すように並べ立てる。
ヴィレムの言葉はやはり過激で、香月に贔屓的で、しかし、間違っていないと感じさせるほど強い。
香月も何となく、そうなるんだろうと理解している。リローズが選ぶのは香月だと。何故あんなにも執着されているのかわからないが、香月が泣きつけばリローズは香月の望むように処理する。そんな予感がする。
リローズがしなくてもヴィレムは率先してそうするし、フロウティアもやる。
「......全部に耳を閉ざすのは簡単だよね。何も聞きたくない、理解したくないと示せばそれを叶えてくれる環境があって。そこでは私が何よりも優先され、全てを解決できる術を持っている」
香月は自分で並べ立てながら、我ながら凄い待遇だと舌を巻く。
「でも、そうしたら、私は何のためにここで生きているの?」
「それは、」
ヴィレムが言いかけた言葉を香月は食い気味に話して、遮る。ヴィレムも香月の話を優先するように開いた口を閉じた。
「幸せになるため?人生を生きていくのは、幸せだけじゃできないよね。辛いこと、幸せだと感じること全てが積み重なって、生きていく、それが人生だよね?違う......?」
「違わない。カツキは何も間違ってない。ただ、辛い思いをしてほしくないから」
だから、残酷な現実を目の当たりにしないよう、真綿に包まれるように庇護されいればいいとヴィレムは言う。
自分のせいで誰かの人生に変化をもたらす、いい事なら嬉しいが、悪い方へと進むなら辛いだろう。耐えきれぬ想いを抱えるだろう。
香月だってこの世界に来てまで他人の人生の行く末を思案さなければならないのは、不幸せかもしれない。
「私だって、進んで辛い思いをしたいわけじゃないよ」
できれば、幸せだけを詰め込んだ人生を送れたら。そうしたら、きっと幸せなんだと思う。けれど、それは味気ない。出来上がった道の上をなぞるだけのつまらないもの。
「でも、色んな経験をしていきたいから。今回の事も愛し子としての経験、だと思うの。だから、私は向き合う。残酷でなければいいなぁ......」
本当に切に、願う。フォーディス伯爵の罰が凄惨で残酷でなければいいと。
どんな罰が下されるのか、それが実行されることにより、何が起こるのか──。
そして、香月がフロウティアたちと話をしている間にフォーディス伯爵の犯した罪に対する判決が下った。
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