神々の愛し子

アイリス

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リローズの心配をよそに、香月は差程驚いていなかった。いや、驚きはしたが絶望はしていなかった。



香月はもう一人で悩まなくていいと知っている。



リローズ、ヴィレム、フロウティア、シュリクロン。皆が居てくれる。協力し、助け、導いてくれるのを知っているから、絶望はしない。




「リローズ、悪神に狙われているとしても、前言った言葉は、変わらないのよね?」




「前の言葉?」



「私はここで自由に、好きに過ごしていいって言ったでしょう」




「もちろん、二言はないわ。悪神がいようといまいが、関係ない。香月、貴女はこの世界で好きなように、好きなことをして過ごしてくれればいいの」



リローズは断言する。その言葉に嘘偽りはない。香月がやりたいように過ごせばいい。だからリローズは迷わず言い切る。




「じゃあ、当初の予定通り、旅行へ行ってもいいのよね?」



リローズの返答を聞き、香月はだずねる。



「......えぇ!どこだろうと、香月が行きたい場所に行ってもらって構わないわ。美しい景色も、宝石も、食べ物だって香月がしたいままにすればいいの」




リローズは安堵し、香月の言葉に被せるように述べる。





「じゃあ、私は大丈夫。狙われてるって分かっても、ただ絶望するだけじゃない。リローズだってどうにかしようとしてくれているし、私だって魔法が使える。もっと練習して使いこなせるようになれば、不安に押しつぶされることもない......」




狙われていても、自らどうにかする力がなければ、嘆き悲しみに暮れるしかない。でも、今は違う。魔法という力を有し、協力してくれる人がいる。




「香月......」




「リローズ、全てを話していなくても、大丈夫だよ。私はリローズを信じているし、頼りにしているもの。......それに、話さないといけない時、リローズは話すって、わかってるから」




今は必要ないから話さないだけ。どうしようもなくなったら、リローズは躊躇いなく、いや、躊躇いつつも包み隠さず香月に教えるだろう。





「......強くなっているのね......」



リローズは嬉しそうな、しかし複雑そうな形容し難い感情を瞳に浮かべ香月を見つめる。




「短期間にこれだけのことを体験すれば多少は耐性がつくよ」



香月は苦笑する。今まで経験したことがないことばかりを、この短い間に体験した。かなり内容の濃い体験である。怖いことも、楽しいことも。




「そうね、そうよね......繰り返す度に貴女は強くなっていく......わたくしも、信じているわ、貴女を。貴女が今度こそ諦めず、生き抜き、そして私たちの元へやってくることを」





リローズは早口で、言い聞かせるような、独り言のように告げる。香月や他の相槌を求めぬ、そんな響きを持つ言葉だった。




「じゃあ、香月。気を付けて行ってきてね」




「うん、ありがとう、リローズ!お土産買ってくるからね!」




「お土産は必要ないわよ、香月」




「え?」




香月はリローズがお土産を断るとは思っていなかった。むしろ欲しがり、ねだるとすら思った。



しかし、よく考えればこの世界を統べる女神に、この世界のお土産などいらないと思い至る。




「そっか、わかった」



香月は少し落ち込んだ声で答える。




「香月、勘違いしているわ。わたくしは貴女からのお土産ならなんでも喜んで貰うし、飾るわ。違うのよ、香月。わたくしも一緒に行くから必要ないのよ」




香月のしょんぼりした様子を目にしたリローズは慌てて香月に弁明する。




「えっ?一緒に!?どういうこと?」




「フロウティアも一緒に行くでしょう。頻繁には無理かもしれないけど偶に身体を借りれるわ。だから、お土産はわたくしには必要ないの。だって、一緒に食べたり、楽しんだりできるんですもの」




リローズは嬉しさを隠さぬ、興奮した様子で言う。フロウティアも恭しく頷き、リローズの望みを叶えようとしているのがわかる。
頻繁には無理と言いつつ、香月と色んなことを体験する気満々なので、けっこうな頻度でくるつもりに違いない。



「でも、フロウティアは大丈夫なの?」




「問題ありませんよ、カツキ様」




フロウティアは香月の心配に対してすかさず答える。本人が大丈夫だと言うのだからこれ以上は何も言うまい。




こうして香月たちは当初の予定通り、教会から旅立つ事が決定したのだった。















「当初の予定とは違うけれど、わたくしも旅について行くわ。奴らが現れたなら、他の仕事よりも此方の方が優先度は遥かに高いから」


リローズの言葉にヴィレム、フロウティアは頷いた。




「そうだね、今回のことは始まりに過ぎないよね」




「えぇ、そうね。悔しいけど、ドゥームが気付き、アイツの身体を器として使っていたから大事にはならなかったけど......」




ドゥームが現れず、香月が接触し、事が起こっていたらと考えるだけで恐ろしい。



「ドゥームにも気をつけなければならないし、悪神にも気をつけなければならないから、気を引き締めて、二人とも。わたくしは歪みを早く見てけ、修復を目指すわ」




「かしこまりました、リローズ様」




「わかったよ、リローズ様」





「頼んだわよ、ヴィレム、フロウティア。警戒は怠らず、でも、香月に気負わせないでね、わかったわね?」




再度、両者に言い含め、頷くのを見届け、リローズはシュリクロンの身体から出ていった。









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