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しおりを挟むリローズはフロウティアをちらりと見つめる。フロウティアは心得た、というように小さく頷く。
「じゃあ残念だけど、香月とこうやって話すためには仕方ないわね」
「そうだね、そうして......」
「じゃあ、話が逸れてしまったけど、続きを話すわね。ドゥームが言っていた下の奴らというのも、神という存在よ。ただ、下というのは地下を示していて、そこにも様々な神が棲んでいるの。そこに棲む神は、わたくしたちに連なる神と、連ならない神──悪に堕ちた悪神というモノが存在するの。ドゥームが言ってるのは、悪神のほうよ」
「悪神......?」
その単語を聞いた瞬間、血の気が引くのがわかった。身体中から熱がすり落ちていくのがわかる。心臓がうるさいくらいに脈を打ち、血液が一気に逆流する。その場で座っていられないくらい、身体が言葉を全力で拒絶する。
「香月!!大丈夫?」
リローズはすぐに香月の様子が変わったことに気付き、立ち上がり香月の傍にやってきた。
「リローズ......」
ヴィレムとフロウティアも心配そうに香月を見つめている。
リローズは香月の横まで来たあと、優しく背中を撫でる。
ゆっくりと撫でられ、香月も安心し、平常心を取り戻す。
「ありがとう、リローズ」
「顔色は戻ったわね。ねぇ、香月......やっぱりこの話をするのはやめておかない?」
落ち着いた香月を見つめながら、リローズはすぐ隣に椅子を移動させ、腰を下ろしそう提案する。
「話をしたいし、香月にも必要な情報なのは確かよ。でも、香月には早いのかもしれないわ。単語を聞いただけで心を乱してしまうのよ......話を続けて、
貴女が平静でいられるとは思えないわ......」
リローズは慎重に言葉を選びながら、香月に言い聞かせるように告げる。
確かにリローズの危惧は尤もだ。
現に先程、香月は名前を聞いただけで酷く狼狽し、畏れていた。紛れもない事実だ。
「そうね、確かに、何て言えばいいのかな。恐ろしくて、逃げ出したくて、気持ち悪くて......」
香月にとってドゥームよりも厄介で、関わりたくない存在だと感じたのは間違いない。
「......香月がそう思うのは無理ないわ。だって奴らは全ての出来事の元凶といえる存在ですもの」
リローズは香月の言い分を耳にしながら、苦笑する。
「全ての、元凶?」
「ええ。香月が今、こうなっている原因......」
リローズは香月の状態を度々確認しながら話をする。
「私がこうなってる原因......?」
リローズにそう言われりも、あまりピンとこない。
「......わたくしは、香月に全ての事を話していないの。申し訳ないと思うけれど、全て話すことはできないの」
「......それは何故?」
「香月が壊れてしまうからよ」
リローズは悲しそうな目で香月を見ながら、続ける。
「全てを今日知りたいというのは本当に駄目よ、香月。全部は教えてあげれない。とりあえず今日は、香月が大丈夫そうなところまでよ」
香月は頷く。リローズが意地悪で教えない、と言っているわけではないのは、重々承知しているから。
「奴らは、かつての香月を殺した」
香月は身体を強ばらせる。ある程度予想していた事とはいえ、つい反応してしまう。
「......魂は、覚えているんでしょうね。あった出来事を。......奴らは様々な理由で悪に堕ち、ありとあらゆるものを、壊し、滅した」
リローズはその時を思い出すように、一つ一つの言葉を区切り、話してゆく。
「その中に、香月もいた。魂が覚えているから、畏れているの。......奴らは、世界の下、地下に封印されたわ。でも長い年月を経て、最初ほど完璧な封印は保てず、何年かに一度綻びが出てくるの。気付く度に、気付いた神々は綻びを修復していたわ、でも、今回、わたくしのこの世界で綻びができたみたい」
リローズの説明を整理すれば、香月が悪神を恐れるのは、ずっと昔に生きていた香月を殺したから。
その悪神は神々によって封印されているが、長い年月と共に状態を保てず、劣化し。その度に発見した神々が補うが、それも完璧ではなく。
今回リローズが管理するこの世界でその綻びが現れた。つまり、ドゥームが言っていた這い出てくるものとは悪神ということだろう。
そこまで理解していく中、ドゥームの言葉を思い出す。
奴らに奪われるのは許さない、と言っていた。
「ねえ、リローズ......私は悪神にも、狙われているの......?」
香月が弾き出した答えに、リローズは絶句する。
香月にとってドゥームに狙われているのも負担だろう。それに加えて悪神が香月を求めていると説明するのは憚られる。余りにも、心に重い。
だが、偶然と呼ぶには出来すぎたタイミングである。誤魔化しようがないくらいに。
だから、リローズは覚悟を決めて口を開いた。
「......えぇ、そうよ......」
リローズは言葉を紡ぎながら、目をつぶった。香月がどんな表情をしているのか確かめるのが怖かったのだ。
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