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しおりを挟む守護神獣ことヴィレムに連れられ、香月はファースナルドのローズナイド帝国帝都オルフェリアに辿り着いていた。
ヴィレムは魔法を使えるようで、香月が初めていた場所──神の森──より帝都まで瞬間的に移動した為、時間は数秒足らずで済んだ。
あまりの短さに、香月は何時間も歩き続けたことが無駄だったのでは、と落ち込みそうになった。しかし、帝都の景観を目にして憂いは消えた。
帝都は御伽噺に出てくるようなお城と街並みで香月の心を慰め、目を楽しませる。
「うわぁ、すごい!」
歓喜する様子を隠さない香月にヴィレムは目を細め、胸に小さな手を添えて安堵した。
「喜んでもらえてよかったよ。今見えている大きな城が帝都の中央に存在する皇城。あとは東西南北に要所があるんだ。教会本部は南にあるから、まずそこに行こうね」
ヴィレムは簡単にローズナイド帝国の内部を説明した。そして、帝都にある教会本部へ香月を案内するつもりのようで、ある程度香月が帝都の景色を眺め、満足したところでそう話しかけてきた。
香月も否定する理由もないもないので頷く。リローズからも教会本部が一番生活基準的にも妥当な場所であるとあらかじめ説明を受けていた為、拒否するつもりもない。
「ねぇ、カツキ。リローズ様から幸せになれって言われたでしょう?カツキは何をしたら幸せになるの?」
教会へ向かおうと話していて唐突にヴィレムは香月に問いかけてきた。ヴィレムは好奇心故に、聞いたようだった。そこには深い考えなどなく、ただ聞きたいから聞いてみた、というような軽さが存在していた。
香月自身も答えが出ていない質問に、香月は言葉を詰まらせる。答えようがなかった。
全てが急ぎ足で進み、今もなお止まらず進み続けている状況である。今の状態を受け入れることすら、曖昧な状態で、ままならない。それなのに、更に先を問われても香月は困惑することしかできない。考えも、心も定まらない、定められない。
皆幸せに、と言うけど何をすれば幸せになれるかわからない。
この答えようがない気持ちと、それに追随する絶望に似た虚無感を、ヴィレムにどう説明すれば理解してもらえるのか。話したところで、わかってもらえるのか。
香月が俯き、唇を噛み締めたところでヴィレムが慌てて言う。
「ごめん、カツキ、そんな顔をさせたいわけじゃないんだ。あの、ただ、何をしたらカツキが笑ってくれるかな、って.......ただ、そう思っただけで」
途切れ途切れ紡がれる言葉に悪意は無く、そこにあるのはただ純粋な気遣いだった。
香月はあまりにも必死なヴィレムを見て、思わず笑が浮かぶ。
焦っているヴィレムには悪いが、小さな手を振り回し、言い募る姿のなんと愛らしいことか。
「今はまだわからないけど、色々してみたいかな。元の世界でできなかったこと、この世界でしかできないこと」
「そっか。じゃあ、カツキが望むままに、望む通り、世界を動かそう?」
「......ヴィレム、発言が怖いからね?」
不穏な言葉に香月はすぐさまヴィレムを宥めるように名前を呼んで窘めるが、ヴィレムが気にした様子はなかった。
さすが神獣。リローズに仕えていただけあり、主人そっくりな自由さである。香月はこっそりため息をついたが、ヴィレムは教会に向かう準備を進めていた。
教会本部へも、先ほどと同じ魔法を使い瞬間移動のように秒速で移動した。ヴィレムは唄うように魔法を紡ぐ。魔法が発動した途端、瞬く間に場所が変化している。
魔法は香月を驚かせる。今まで体験したことないことだから当たり前だが、使えるなら使ってみたいというのが本音だ。色んな事を試したいと思うが、使用したことがないから不安もある。勝手に発動させるのも恐ろしくて試せない。
使うならば、やはり練習してからがいい。
しかしヴィレムが積極的に使用して香月に使う暇を与えない。香月が言葉にしないからというのも理由だが、使わなくていいなら使わせない、といった意思も感じる。リローズの差し金かもしれない。
香月の勘が当たっているのならば、十中八九そうだろう。
「ヴィレム、私、魔法使ってみたい」
「え?」
突然香月がそう告げれば、案の定、ヴィレムは少し困ったような表情を浮かべる。
「駄目なの?私が今、やりたいと思うことなのに」
「駄目じゃ、ないけど......」
駄目と否定はしたくないが、リローズは有事の際以外で香月に魔法を使わせるな、と言っていた。別に使うのは構わない。失敗も成功も、威力も技量も、何も香月を縛るものはない。
しかし、香月の魔力はとても特殊だ。契約が成された今だからこそ、ヴィレムは断言できる程の確信を得ている。リローズはそれ故に、使わせるなと。
「またゆっくり練習しようよ?」
だからヴィレムは誤魔化すように機会があれば、と濁す。
「......わかった、また今度ね。今は教会に行く方がいいもの」
香月はヴィレムがまた、と言って明確に日付を口にしなかったことに不満を持つが敢えて追求はしなかった。ただ何故使わせようとしないのか、それが気になった。
(何か理由がある......?)
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