元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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訓練を開始する

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 あの後騒ぎが大きくなったのをなんとか宥めて、全員で結界の範囲を見に行ったり結界石を見たりした。ついでにダンが結界の外から魔物を投げつけて結界の強度を見せたが、なぜかみんな引きつった顔をしていた。結界の強さが証明されたのになんでだろうと思った。

 その後ログハウスのリビングに戻った全員に、そういえばとダンが話し始めた。
「お互い名前も聞いてなかったですね。僕はダンと言います。王国軍――っと、今は冒険者でした。F級の駆け出しです。こちらはリルさん。同じくF級の冒険者をしています」

「「「は!?」」」
 全員が同じ顔をしてびっくりしていた。

 しばらく固まっていたが、気を取り直して話し始めた。
「まずは私から、冒険者をしているウェンディと言います。回復要員ヒーラーがメインです」
 エルフの女性が言った。ダンが道具を手渡した女性だ。
 続けて赤髪の女性が言った。
「あたしはドワーフのファーニだ。助けてくれてありがとな」

 ドワーフ。
 エルフが森との自然に寄り添う種族ならば、ドワーフは山などの自然環境に住む種族だ。特徴としてはガッシリとした体格に、筋肉質な者が多いのが特徴だ。その分、背が高いのは少ない。
 確かに背が低いし、満足な食事が無かったであろう環境でもその手足はしっかりとしていた。アレは骨が太かったからか。
 続けて緑髪の女性が話し始めた。彼女も背が低い。
「ウチはホビットのマロンだよ。いや~、生きてるっていいね~」

 ホビット。
 小人族とか言われる種族だ。ならば逆に背が高い方かもしれない。
 ホビットは色々な場所に住む。定住地を持っていたり、逆に遊牧民のように移動をする者もいる。ダンが聞いたところ部族単位で行動するので、そういった違いがでるそうだ。特徴は背の低さ。だが人種の子供と違うのはその顔つきや、胴体に比べて長い手足だ。指先も長く、その器用さはホビットの特徴である。顔つきの方は成人を迎えたホビットでは子供特有の丸みがないのか上げられる。
 まあ、それでも個々人の差異はあるが。
 次は赤髪で長髪の女性だ。
「私はキョーコ、人間よ。私たちは4人でパーティを組んでいました」
 ということは4人パーティは彼女たちの事か。

 ここで髪の色についての話をする。
 ダンは黒に限りなく近い赤髪だ。人の髪の色は自身と結びつきの近い属性の魔素が出てくる。聞いた話ではあるが、魔素を魔力として変換しても体から徐々に大気に抜け出ていく、口から吸ったソレが抜けるのは体全体だが、長くて細い髪は抜ける魔力によって染められるようなのだ。
 中には魔力持ちではない貴族などが染めたりする場合もあるようだが。

 つまり4人は多少魔力が使えるようだ。
 とはいえ全員が後衛では成り立たないだろう。補助的に使っていた前衛担当がいるようだ。
 にも負けそうですけどね。とはダンの感想だ。

「え~と、ライとリンも冒険者だよね? 何か記憶がある?」
 そういわれてライとリンは腕を組んで考える。
 と早々にライが気づいた。
「あ」
「何か記憶に浮かんだ?」
「私たち、こんな持ってません」
 組んだ腕を上げてライが言う。
「ま、体は馴染んだ動作をするだろうからね。なにか分かったら教えて」
 その後ポツポツと出てくる言葉を要約すると、低級の試験の一環で、山の調査に向かったような気がするといった。時折浮かぶのは苦悶の表情。ゴブリンの時の記憶が蘇っているのかな。
 ポーラとクローディアは村から連れ去られた住人だ。
 簡単であるが全員の自己紹介は終わった。

 ダンは「ふむ」と腕を組んで考える。
 ちなみにリビングに全員車座になって座っている状況だ。ダンの顔は全員が見えていた。
「どうかしましたか?」と代表してリルがダンに声をかけた。
「……ま、今日はご飯を食べて寝ましょうか。明日の朝に説明します」
 そういったダンは備え付けの台所へと向かい、5の刺繍のされたマジックバッグから食材を取り出すと、6のバッグから取り出した村の鍋を釜の上に置いて火にかける。
 適当なサイズに食材を切っているダンの後ろ姿を見ながら、リルを除く全員が不安を感じていた。確かに森に入ってから襲われた熊の魔物もよく思い出せば強力な魔物そうだった。事前説明なしに死の森に人を連れてくるダンのに、全員が気づいた。
『この人、自分の言葉が足りてないのに気づいてないな』と。
 しかし助けられた手前文句も言えずに、出来上がった鍋を全員で食べてその日は就寝したのだった。


「さあ、朝ですよ~」
 カンカンカンと金属が叩かれる音で全員が起きてリビングに出てくると、そこにはダンがテーブルいっぱいに料理を準備して待っていた。ちゃんと人数分あるようだ。
 とウェンディは横にリルがゴシゴシと目を擦りながら立っているのに気付いた。
『あれ? この人ダンさんのパートナーですよね?』
 とはいえ冒険者は料理番などは持ち回りだったり、担当が居たりとパーティによってさまざまだ。その分ほかの役割をこなすことでパーティが上手く回っていたりする。そう思ってウェンディは気にしてもしょうがないとテーブルに向かった。
 全員でぎゅうぎゅうになりながらテーブルで食事を取る。
 そしてダンが言った。
「食事の後は表に集合してくださいね~」

 食事を終えて、寝間着のまま外へと出てきたウェンディ達。
 ダンがその前に立って朗らかに告げた。
「では運動を始める前に体を解しま~す! らじお体操開始~、僕の動きをまねしてくださ~い」
『らじお体操?』とウェンディが首を傾げた。すると横で声を上げる人物がいた。
「ラジオ!? この世界ラジオがあったの??」
 キョーコだった。その目は丸々と開かれている。ダンはこちらに背を向けた体勢から、首だけを振り返ってキョーコを見ていう。
「ん? え~っと、キョーコさん『らじお体操』って言葉知ってるんですか?」
「今自分で言ったじゃない! あなたも知ってるんでしょ?」
「いえ、この言葉は僕の同僚から教えて貰いました。なんでも運動する前にするのがいいと言ってましたね。それまでは自己流でやってましたけど、コレってしっくりくるんですよね」
「とりあえず体を動かしますよ~」というダンの動きをまねして動いてみる。全員ぎこちなくも体を動かしていく中、キョーコだけはダンの動きを模倣するようについていった。なぜかブツブツと言いながらだったが。
 一通り体を動かして『らじお体操』は終わった。
 するとダンがこちらを振り返ると同時に服を脱ぎ始めた。
 ウェンディ達は全員顔を覆い、ライはポカンとしていた。リンは顔を覆っていた組だ。
 服を脱ぎ棄て下着1枚になったダンは、ブーツも脱いで腰に手を当てこう言った。
「皆さんの最終目標は1人1オーガです」
 全員声を失った。
 というか理解出来なかった。
 少なくともウェンディは全く理解出来なかった。

 オーガ。
 大鬼とも呼ばれる魔物で、伝説に居たとされるジャイアントほどではないが、人の背丈をはるかに超える魔物だったはずだ。少なくともウェンディは遭遇したことはないし、そもそも遭遇したら生きては帰れない魔物だ。
「1人1オーガ」
 どう意味だろう? まさかオーガ並みに強くなれというのではないだろう。知識としてオーガ相手にソロで挑むというのは『英雄』級の仕事だ。なにかの例えか?

「まずは皆さんの得意な武器と基礎体力を鍛えましょうか」
 ダンが続きを話そうとしたので、ウェンディは慌てて顔の前の手を挙げてダンの気を引いた。ダンはそれに気づいた。
「はい、なんでしょうウェンディさん?」
「さきほどの「1人1オーガ」の意味を説明してください」
 と問いかけるとダンが首を傾げる。
「? そのままの意味ですよ?」
「いえ、オーガってソロではな相手ですよ? そんな魔物並みに強くなれってことですか?」
 ウェンディがそういうと、ダンはビシリと固まった。
 そうか、きっと辺りを言い間違えたんだとウェンディは思った。それでもオークも強い相手であることに変わりはないが。
 ダンは腕を組み顎に手を添える。何やら思案顔だ。
「ま、とりあえず訓練はしましょうか」
 ホッと一息ついていたウェンディは、この時ダンが考えていたことを読み違えていた。

『そっか、オーガは狩れないのか』と。『なら目指せ中級だな』とそんなことを考えていたのだった。

 さてその前の疑問に戻ろう。
「それで、なぜ裸なんですか?」
 それにダンは困惑顔だ。
「皆さんのの為ですけど?」
 逆に『なぜ?』って顔だ。ウェンディは『こっちが聞きたい』って顔をしていた。
「ああ!……コレは筋肉の動きを見せるためですよ」
 なぜかダンはウェンディの表情を見て、そして手を叩いてそう言った。違う、何か誤解してるとウェンディが頭を抱える。
「スキル頼りで体の使い方がなっていない人が多いですからね。まずは得意な武器で僕に攻撃してみてください」
 そういってダンは脱いだ服の隣に置いていたポーチから木製の武器を取り出して、ウェンディ達の目の前の地面に置いていく。剣や槍、斧などといった武器から、弓やそれからよく分からない武器? まで取り出していく。ちなみに矢は矢じりの部分に丸い球が付いていた。
 それにウェンディ達とライリンの冒険者達が手を伸ばす。
 クローディアも弓に手を伸ばした。
 ポーラだけは「すみません、武器を使ったことがありません」といって見学することとなった。
 あとリルとタマモもやる気を見せていた。
「さ、始めますか」
 ニコリと笑うダンに思わずドキリとしたウェンディだったが、それはすぐさま思い違いだったと反省することになった。

「スキルがある人、アーツがある人は使っても構いませんよ」
 ダンがそういっているが、相変わらずの下着姿に何も持っていない空手だ。全員どうすればと顔を見合わせる。
「じゃあ、私からいきま~す」
 リルが一気に駆け寄って、その手に持った手斧を振りかぶった。
 ドンッ! と音がしてウェンディ達の間を何かが通り抜けた。えっ!? と振り返るとダンに近づいていたリルだった。強烈な当身だったのか目を回している。
「もう、リルさんは後で相手するつもりだったのに……。なんでしたら全員で一斉に掛かってきても構いませんよ?」
 その後、殺気をぶつけられたウェンディ達は手に持った武器を構えて、ダンに文字通り死に物狂いの勢いで襲い掛かった。


「え~、まずスキルを使う際にもスキル任せにせずに――」
 全員地面に倒れた状態でダンの説明を聞いていた。
 やはり勝てなかったのだ。
 そして何事もなかったようにダンは全員に武器の振り方やスキル、アーツの使い方を説明していく。
 そこでダンが何故裸同然の格好になったのか分かった。
「こう、踏み込みの際の足の筋肉の使い方は――」
 自分でポーズを取りながら意識する部分を指さすダン。確かに服を着ていたら分からない部分であったが。
『『『なんでさっきの段階で服を脱いだんでしょう?』』』
 説明が丁寧で理解しやすいが、その部分は理解出来なかった。

 ネタ晴らしするとダンが段取りを間違えただけなのだが、再度服を着るのがめんどくさがったダンが服を着なかったのだ。

「アーツは使うことが出来る人はあまり多くはありません。でも使える人は、子供の頃からでも使っていまして」
「すみません、アーツってなんですか?」とマロンが聞いた。
 ダンは説明を中断してマロンへと向き直った。そしてマロンの手にする槍を受け取ると構える。
「スキルとしての【○○術】というものを鍛えると、使える様になったりします。あとはこんな風に――」
「はっ!」とダンが掛け声と共に槍を突いた。一瞬槍が2本に見えた全員が目を見開く。
「今のは【ダブルスラスト】という槍のアーツですね。正確にはその模倣ですけど」
 ダンが振るった槍を地面に置いて説明を続ける。
 その様子にふと好奇心からウェンディはあるスキルを使ってダンを見た。
「え、ええ~!?」
「どうしましたかウェンディさん?」
 ダンはまた説明を中断して奇声を上げたウェンディを見る。
「え? あれ? ダンさん、レベル1?」という言葉にダンは頭を掻いて言う。
「あ~、神官系の人って診断魔法ステータスチェックが使えるんでしたっけ。なんだか恥ずかしいなぁ」
 神の領域にある人の数値、それを見ることのできるスキルが診断魔法ステータスチェックだ。それとは違い鑑定系スキルは自己診断魔法セルフステータスチェックを強制的に通して調べていると考えられている。
 ちなみに神官の診断魔法ステータスチェックは掛けられた本人が心を許していれば掛けることが可能だ。
「え? でもコレって、どういう?」
「ふむ。まあ、内緒にするわけじゃないモノですからね。ついでに称号のことについても教えましょう」
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