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戦いの後始末をする。ついでにやらかした痕跡も消す
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脇腹を短剣で刺されたダン。
刺した張本人である少年はダンから距離を取って大きく腕を振った。するとダンの正面にいたフード付きマントの人物の形が崩れ、中から無数の蛇が飛び出して少年の足元へと集まっていく。
「ははは! ブラッディバイパーの出血毒を塗り込んだ刃だ。たとえ傷跡が小さかろうと、内部に少しでも入り込めば血液は形を保てずに破壊される!」
少年の手に握られた短剣は針型短剣だった。短剣の長さを持つ針といってもいい形状の短剣は刺突に特化した武器だ。
ダンは脇腹に感じる針で刺されたような痛みの原因がそれであると理解した。
少年へと問いかけるダン。
「君は、何者だ?」
その問いかけに少年は短剣を持っていない方の手を、自分の顔を撫でる様に動かした。そして少年の顔が変化する。
「――なるほどホビットか」
「幻覚魔法の類でも大きく姿を変えれば違和感となる。しかし私はホビット。顔つきさえ変えれば、人種の少年のように見えただろう? まあ奥の手ではあったがな」
少年のような顔が、ホビットの男性の顔へと変化する。その顔も見慣れない人ならば人種の少年にも見えるであろうが、目の前の人物はさらに念を入れて自身の顔だけに幻惑魔法を使っていたのだ。
「私はバルバロ帝国暗殺部隊の1人、『スネークマスター』だ。ヒドラを失ったことは手痛い損失だが、あの有名な『クロフォードの死神』と引き換えならば惜しくはない」
「なるほど。普通の少年にしては違和感があったわけですね。そして蛇達で囮を作ったと」
「そうだ。スキル『腹話術』という一見役に立たなそうなスキルだが、こうして囮を私だと思い込ませるには役に立つという訳よ! さて、クロフォード王国への進出の為に選んだこの街で、嬉しい誤算というヤツだな」
ダンの痛みを堪える姿勢に陽気さを浮かべる『スネークマスター』。
「しかし、あなた1人だけで、もはや戦力はほとんど居ないのでは?」
ダンはそっと後ろを見た。そこにはダンが切り飛ばしたヒドラの血液の被害を受けた兵士達の姿があった。
「ふふん。私が操るヒュプノバイパーを混乱に乗じて衛兵詰め所に放てば、人手など作り出せるというものよ」
「くっ。君こそ作戦の要だったというわけですか」
「無論我が軍の兵士が生き残っていれば共に行動していたがな。いかにヒュプノバイパーの力とて2、3日で完全に操ることは不可能だからな」
足元に居た蛇の1匹を掬い上げながら『スネークマスター』が言う。その独特の模様の蛇は1匹だけだった。
「見たことが無い蛇だ」
「希少種だからな。使役するのに苦労した」
「希少種。他の蛇も見覚えが無いものばかりですね」
「どれも希少種――まて、貴様、なぜ喋れる?」
愉悦の表情の『スネークマスター』が、ふと真顔になってダンへと問いかける。
「いや、是非とも僕の知識になるのでご教授していただきたいのですが?」
「確かにブラッディバイパーの毒が塗ってあるぞ! って、血が付いていない!?」
自分の持つ短剣を見て、その先端の針の様に尖った先に付いているべき赤い血が付いていないことに驚愕する『スネークマスター』。
「確かに全体重を乗せて突き刺したのだぞ!? いくら私が軽いとはいえ、このスティレットが刺さらなかったわけがあるまい!」
「いや、確かに刺さりましたよ? チクっときましたから」
刺された脇腹を擦りながらダンが言う。
「たぶん、ちょっと刺さりましたよ? 蚊くらい?」
「そんなわけないだろうが! お前、本当に人種か!?」
ダンが指で少し隙間を作りながら言う。『スネークマスター』はもう半狂乱だ。
「鍛えてますから」
「普通は刺さると言ってるだろうが!」
ムンと胸を張るダンに『スネークマスター』の常識が崩壊していく。
確かに普通刺さる。だがダンの異常なまでの闘気量による防御力は普通という言葉を置き去りにしていた。
ここで注意しておきたいが、一般的な『英雄』と呼ばれる者達でも、ここまでの防御力は持ってはいない。
ダンは気づいていないが、闘気によって強化されても人種の皮膚というものは防御力が1に闘気を上乗せされたくらいだ。防具や先日ダンが試した木材などは、防御力とすれば10や20はあるものが闘気によって乗算されたように硬度を上げていく。
つまり何が言いたいかと言えば、人種の皮膚は柔らかいのだ。
これが竜人種や蜥蜴人種等であれば鱗の硬さがあるし、獣人種でも毛皮などを持つ種ならば一種の防具代わりになるかもしれない。
「まさか混血か?」
「いえ、純血の人種ですが?」
皮膚の下、ダンの姿として収まる闘気が作り出す圧力。それがダンの防御力の正体である。
しかし繰り返し注意したい。
普通は刺さるのだ。
「ええい、ならば直接攻撃だ! 蛇達よ!」
足元に集まっていた様々な種類の蛇達を一斉にけしかける『スネークマスター』。しかし――
「さっき注意しましたよね? そこを動くなと? 僕としては当然、2度目を認める気はありませんよ?」
右手の刀を構えて、下から上へと切り上げる。先程指揮官の剣を受けた時と同じように、全ての蛇にその刀身を当てていくダン。闘気によって強化された腕が縦横無尽に振るわれて、全ての蛇に刀身を当てていく。先程と違うのは蛇達は全て実体で、ダンの刀身を受け止められるほどの硬さは持ち合わせていないという点だ。
ダンと『スネークマスター』の間に血煙が巻き起こる。
「な、蛇達が」
狼狽する『スネークマスター』にダンが詰め寄った。
「さて、まだ話を詳しく聞かせてもらいたいので、ここらで投降していただきたいのですが?」
完全に勝機が無くなり意気消沈した『スネークマスター』に近づくダン。相手の顔を見るために中腰の姿勢になると『スネークマスター』の肩に左手を置く。
「『催眠』!」
するりと『スネークマスター』の首から1匹の蛇がダンの眼前に現れて、蛇の頭近くの胴体が広がり複雑な模様を見せながらダンの瞳を見る。
思わずその蛇の顔をじっと見てしまうダン。
しばしその場で、ぼ~っとしてしまう。
「かかったな! こいつの『催眠』はかなりの高位! 相手は瞬く間に催眠状態へと変わる!」
『スネークマスター』の高笑い。戦況は一変したと、ぼ~っとしたダンへと指を突き付けた。
「お前は今日から私の下僕だ!」
「そうですか」
突き付けられた指を握るダン。
そして一気に指をへし折った。
「ぐああ!」と絶叫を漏らす『スネークマスター』。
ダンはヤレヤレと指を放して解放してやる。
「何故だ!? 確実に意識が逸れていたはず」
「え? いや~、模様が綺麗だなとは思いましたよ?」
手首を返して小回りさせた刀で蛇を切り裂いたダンがそう言った。
「僕、『魅了』とか『催眠』って効きにくいんですよね。――昔、散々食らいましたから」
サキュバス達との記憶がフラッシュバックする。ブルリと背筋が震えるダン。
「くっ! しかし私は何も話す気はない! お前諸共ここで果てるとしよう!」
懐に手を伸ばす『スネークマスター』。ダンはその行動よりも素早く『スネークマスター』の頭を左手で掴むと、一気に闘気を高めた。
「『戦乙女の加護』全解放!」
「あぴばるなかるあば……」
「イカン、やりすぎた」
あれから少し時間が経ったが、未だに『スネークマスター』は壊れた言葉を垂れ流し、眼の焦点が合っておらず、ついでに失禁もしていた。
『スネークマスター』の懐から取り出した自爆用と思われる巻物を手にしながら、ダンは一人遠い目をしていた。
『戦乙女の加護』を現在のダンが極限まで解放(称号レベルを下げること)できるところまで解放する全解放。ダンはそれによって発生する闘気で相手の意識を飛ばそうと試みたのだった。
「素直に当身をした方が良かったか? しかし高レベルの相手に一撃で意識を奪えなかった場合は、コレが目の前で炸裂したと考えると……う~ん?」
ついでにその闘気の余波でだいぶ周囲が薙ぎ払われていた。よく見ると外壁の上に居た衛兵もその余波を食らったのか、姿が見えなかった。
整理してみよう。
ヒドラ。残骸。
蛇達。粉々。
兵士。ヒドラの血により焼けただれて死亡(ダンの攻撃の死体あり)。
指揮官。首無し。
「うん、面倒だ!」
ダンは戦場に散らばった自分の武器を拾い集めると、足を闘気で強化して外壁を飛び越えた。
「お、おお、おおお! ダ、ダン! 門の向こうはどうなったんだ?」
飛び降りた先でダンにマークスが聞いてきた。
「えっと、なんやかんやと混戦模様になったところで、敵のお偉いさんが自爆しまして……。僕は退避して難を逃れたんですが、けっこう凄惨な現場になっちゃいまして」
「バルバロ帝国のやつらはどうなった?」
「あ~、自爆ってのが錯乱系だったのか? まあ、惨たらしいモノでしたよ? 生き残りのホビットの男性もまともに答えられそうに見えませんでした」
「そうか。帝国も無茶をするやつらとは聞いていたが、まさかそこまでとは……」
「外壁の上に居た方たちも、その余波を食らったようでした。救護に行かれた方が良いかもしれません」
「なんだって!?」とマークスとその周りに居た衛兵が慌てた様子で外壁を登っていく。
その様子を見て、ダンはそそくさとその場を離れていった。
「なあ、ダン?」
「どうしましたかギルドマスターさん?」
数日後のニアラの街のギルドロビーにてダンはバルザールに捕まっていた。
「お前、実際のトコ、南門でナニをやらかした?」
「やだな~。僕はちゃんと報告書で提出しましたよ?」
「全部読んだら、お前の行動がオカシイから聞いてんだろうが!」
ベシベシと叩くその紙はダンがギルドに提出した報告書だ。とりあえず戦闘記録を一から十まで通して記載してある。ただ記載していないが、ダンにとって面倒くさいことは除外してたり辻褄を合わせてあったが。
「お前が単独でヒドラを討伐しただの、その猛毒血液で敵兵が死んだだのと」
『そこは本当の事なんだけど』という言葉は飲み込むダン。「なら嘘があるのか!?」なんて返されると面倒くさい。
「極めつけは錯乱系自爆とか訳わからん!」
「戦場は時に混乱が起こりえるものなんですよ」
「はぁ……、王都のギルドになんて報告すりゃいいんだよ」
バルザールが溜め息をついて出てきたぼやき。それにダンが反応した。
「そうだ、ちょっとこの手紙をギルド間通信で王都に送ってくれませんか?」
そういって懐から2通の手紙を出すダン。
「このタイミングで王都宛の手紙だぁ? ギルド間通信の場合は検閲が入るが構わんのか?」
「口外はしないと聞いてますからいいですよ? 別に読まれても困る手紙ではないですし」
バルザールはダンから手紙を受け取ると軽く目を通した。
「お、おまっ! この相手は!」
なにやらバルザールが狼狽えているがダンは気にせず続けた。
「送り先は元上司と同僚です。王国軍の相手ですから、変な手紙じゃないですよ?」
バルザールは何やら考え込んでいたが、急に何かを思いついたような顔をしてダンへと聞いてきた。
「この手紙2通の代金をチャラにするから、俺の手紙も便乗させてもらっていいか?」
「? あれ? ギルド職員は元からタダなのでは?」
「馬鹿野郎、んなことあるか! 割引は効くが、タダじゃねー!……それで、どうだ?」
「まあ、金貨2枚が浮くなら助かりますが?」
そのダンの言葉を聞くと、「ありがて~!」と言ってバルザールはウキウキとギルドの奥へと消えていった。
とりあえず先程の追究が終わったのを幸いと、ダンは用事を済ませて東の森へと帰宅していった。
ちなみにヒドラの素材剥ぎ取りはギルド職員を泣かしていた。とだけ言っておく。
刺した張本人である少年はダンから距離を取って大きく腕を振った。するとダンの正面にいたフード付きマントの人物の形が崩れ、中から無数の蛇が飛び出して少年の足元へと集まっていく。
「ははは! ブラッディバイパーの出血毒を塗り込んだ刃だ。たとえ傷跡が小さかろうと、内部に少しでも入り込めば血液は形を保てずに破壊される!」
少年の手に握られた短剣は針型短剣だった。短剣の長さを持つ針といってもいい形状の短剣は刺突に特化した武器だ。
ダンは脇腹に感じる針で刺されたような痛みの原因がそれであると理解した。
少年へと問いかけるダン。
「君は、何者だ?」
その問いかけに少年は短剣を持っていない方の手を、自分の顔を撫でる様に動かした。そして少年の顔が変化する。
「――なるほどホビットか」
「幻覚魔法の類でも大きく姿を変えれば違和感となる。しかし私はホビット。顔つきさえ変えれば、人種の少年のように見えただろう? まあ奥の手ではあったがな」
少年のような顔が、ホビットの男性の顔へと変化する。その顔も見慣れない人ならば人種の少年にも見えるであろうが、目の前の人物はさらに念を入れて自身の顔だけに幻惑魔法を使っていたのだ。
「私はバルバロ帝国暗殺部隊の1人、『スネークマスター』だ。ヒドラを失ったことは手痛い損失だが、あの有名な『クロフォードの死神』と引き換えならば惜しくはない」
「なるほど。普通の少年にしては違和感があったわけですね。そして蛇達で囮を作ったと」
「そうだ。スキル『腹話術』という一見役に立たなそうなスキルだが、こうして囮を私だと思い込ませるには役に立つという訳よ! さて、クロフォード王国への進出の為に選んだこの街で、嬉しい誤算というヤツだな」
ダンの痛みを堪える姿勢に陽気さを浮かべる『スネークマスター』。
「しかし、あなた1人だけで、もはや戦力はほとんど居ないのでは?」
ダンはそっと後ろを見た。そこにはダンが切り飛ばしたヒドラの血液の被害を受けた兵士達の姿があった。
「ふふん。私が操るヒュプノバイパーを混乱に乗じて衛兵詰め所に放てば、人手など作り出せるというものよ」
「くっ。君こそ作戦の要だったというわけですか」
「無論我が軍の兵士が生き残っていれば共に行動していたがな。いかにヒュプノバイパーの力とて2、3日で完全に操ることは不可能だからな」
足元に居た蛇の1匹を掬い上げながら『スネークマスター』が言う。その独特の模様の蛇は1匹だけだった。
「見たことが無い蛇だ」
「希少種だからな。使役するのに苦労した」
「希少種。他の蛇も見覚えが無いものばかりですね」
「どれも希少種――まて、貴様、なぜ喋れる?」
愉悦の表情の『スネークマスター』が、ふと真顔になってダンへと問いかける。
「いや、是非とも僕の知識になるのでご教授していただきたいのですが?」
「確かにブラッディバイパーの毒が塗ってあるぞ! って、血が付いていない!?」
自分の持つ短剣を見て、その先端の針の様に尖った先に付いているべき赤い血が付いていないことに驚愕する『スネークマスター』。
「確かに全体重を乗せて突き刺したのだぞ!? いくら私が軽いとはいえ、このスティレットが刺さらなかったわけがあるまい!」
「いや、確かに刺さりましたよ? チクっときましたから」
刺された脇腹を擦りながらダンが言う。
「たぶん、ちょっと刺さりましたよ? 蚊くらい?」
「そんなわけないだろうが! お前、本当に人種か!?」
ダンが指で少し隙間を作りながら言う。『スネークマスター』はもう半狂乱だ。
「鍛えてますから」
「普通は刺さると言ってるだろうが!」
ムンと胸を張るダンに『スネークマスター』の常識が崩壊していく。
確かに普通刺さる。だがダンの異常なまでの闘気量による防御力は普通という言葉を置き去りにしていた。
ここで注意しておきたいが、一般的な『英雄』と呼ばれる者達でも、ここまでの防御力は持ってはいない。
ダンは気づいていないが、闘気によって強化されても人種の皮膚というものは防御力が1に闘気を上乗せされたくらいだ。防具や先日ダンが試した木材などは、防御力とすれば10や20はあるものが闘気によって乗算されたように硬度を上げていく。
つまり何が言いたいかと言えば、人種の皮膚は柔らかいのだ。
これが竜人種や蜥蜴人種等であれば鱗の硬さがあるし、獣人種でも毛皮などを持つ種ならば一種の防具代わりになるかもしれない。
「まさか混血か?」
「いえ、純血の人種ですが?」
皮膚の下、ダンの姿として収まる闘気が作り出す圧力。それがダンの防御力の正体である。
しかし繰り返し注意したい。
普通は刺さるのだ。
「ええい、ならば直接攻撃だ! 蛇達よ!」
足元に集まっていた様々な種類の蛇達を一斉にけしかける『スネークマスター』。しかし――
「さっき注意しましたよね? そこを動くなと? 僕としては当然、2度目を認める気はありませんよ?」
右手の刀を構えて、下から上へと切り上げる。先程指揮官の剣を受けた時と同じように、全ての蛇にその刀身を当てていくダン。闘気によって強化された腕が縦横無尽に振るわれて、全ての蛇に刀身を当てていく。先程と違うのは蛇達は全て実体で、ダンの刀身を受け止められるほどの硬さは持ち合わせていないという点だ。
ダンと『スネークマスター』の間に血煙が巻き起こる。
「な、蛇達が」
狼狽する『スネークマスター』にダンが詰め寄った。
「さて、まだ話を詳しく聞かせてもらいたいので、ここらで投降していただきたいのですが?」
完全に勝機が無くなり意気消沈した『スネークマスター』に近づくダン。相手の顔を見るために中腰の姿勢になると『スネークマスター』の肩に左手を置く。
「『催眠』!」
するりと『スネークマスター』の首から1匹の蛇がダンの眼前に現れて、蛇の頭近くの胴体が広がり複雑な模様を見せながらダンの瞳を見る。
思わずその蛇の顔をじっと見てしまうダン。
しばしその場で、ぼ~っとしてしまう。
「かかったな! こいつの『催眠』はかなりの高位! 相手は瞬く間に催眠状態へと変わる!」
『スネークマスター』の高笑い。戦況は一変したと、ぼ~っとしたダンへと指を突き付けた。
「お前は今日から私の下僕だ!」
「そうですか」
突き付けられた指を握るダン。
そして一気に指をへし折った。
「ぐああ!」と絶叫を漏らす『スネークマスター』。
ダンはヤレヤレと指を放して解放してやる。
「何故だ!? 確実に意識が逸れていたはず」
「え? いや~、模様が綺麗だなとは思いましたよ?」
手首を返して小回りさせた刀で蛇を切り裂いたダンがそう言った。
「僕、『魅了』とか『催眠』って効きにくいんですよね。――昔、散々食らいましたから」
サキュバス達との記憶がフラッシュバックする。ブルリと背筋が震えるダン。
「くっ! しかし私は何も話す気はない! お前諸共ここで果てるとしよう!」
懐に手を伸ばす『スネークマスター』。ダンはその行動よりも素早く『スネークマスター』の頭を左手で掴むと、一気に闘気を高めた。
「『戦乙女の加護』全解放!」
「あぴばるなかるあば……」
「イカン、やりすぎた」
あれから少し時間が経ったが、未だに『スネークマスター』は壊れた言葉を垂れ流し、眼の焦点が合っておらず、ついでに失禁もしていた。
『スネークマスター』の懐から取り出した自爆用と思われる巻物を手にしながら、ダンは一人遠い目をしていた。
『戦乙女の加護』を現在のダンが極限まで解放(称号レベルを下げること)できるところまで解放する全解放。ダンはそれによって発生する闘気で相手の意識を飛ばそうと試みたのだった。
「素直に当身をした方が良かったか? しかし高レベルの相手に一撃で意識を奪えなかった場合は、コレが目の前で炸裂したと考えると……う~ん?」
ついでにその闘気の余波でだいぶ周囲が薙ぎ払われていた。よく見ると外壁の上に居た衛兵もその余波を食らったのか、姿が見えなかった。
整理してみよう。
ヒドラ。残骸。
蛇達。粉々。
兵士。ヒドラの血により焼けただれて死亡(ダンの攻撃の死体あり)。
指揮官。首無し。
「うん、面倒だ!」
ダンは戦場に散らばった自分の武器を拾い集めると、足を闘気で強化して外壁を飛び越えた。
「お、おお、おおお! ダ、ダン! 門の向こうはどうなったんだ?」
飛び降りた先でダンにマークスが聞いてきた。
「えっと、なんやかんやと混戦模様になったところで、敵のお偉いさんが自爆しまして……。僕は退避して難を逃れたんですが、けっこう凄惨な現場になっちゃいまして」
「バルバロ帝国のやつらはどうなった?」
「あ~、自爆ってのが錯乱系だったのか? まあ、惨たらしいモノでしたよ? 生き残りのホビットの男性もまともに答えられそうに見えませんでした」
「そうか。帝国も無茶をするやつらとは聞いていたが、まさかそこまでとは……」
「外壁の上に居た方たちも、その余波を食らったようでした。救護に行かれた方が良いかもしれません」
「なんだって!?」とマークスとその周りに居た衛兵が慌てた様子で外壁を登っていく。
その様子を見て、ダンはそそくさとその場を離れていった。
「なあ、ダン?」
「どうしましたかギルドマスターさん?」
数日後のニアラの街のギルドロビーにてダンはバルザールに捕まっていた。
「お前、実際のトコ、南門でナニをやらかした?」
「やだな~。僕はちゃんと報告書で提出しましたよ?」
「全部読んだら、お前の行動がオカシイから聞いてんだろうが!」
ベシベシと叩くその紙はダンがギルドに提出した報告書だ。とりあえず戦闘記録を一から十まで通して記載してある。ただ記載していないが、ダンにとって面倒くさいことは除外してたり辻褄を合わせてあったが。
「お前が単独でヒドラを討伐しただの、その猛毒血液で敵兵が死んだだのと」
『そこは本当の事なんだけど』という言葉は飲み込むダン。「なら嘘があるのか!?」なんて返されると面倒くさい。
「極めつけは錯乱系自爆とか訳わからん!」
「戦場は時に混乱が起こりえるものなんですよ」
「はぁ……、王都のギルドになんて報告すりゃいいんだよ」
バルザールが溜め息をついて出てきたぼやき。それにダンが反応した。
「そうだ、ちょっとこの手紙をギルド間通信で王都に送ってくれませんか?」
そういって懐から2通の手紙を出すダン。
「このタイミングで王都宛の手紙だぁ? ギルド間通信の場合は検閲が入るが構わんのか?」
「口外はしないと聞いてますからいいですよ? 別に読まれても困る手紙ではないですし」
バルザールはダンから手紙を受け取ると軽く目を通した。
「お、おまっ! この相手は!」
なにやらバルザールが狼狽えているがダンは気にせず続けた。
「送り先は元上司と同僚です。王国軍の相手ですから、変な手紙じゃないですよ?」
バルザールは何やら考え込んでいたが、急に何かを思いついたような顔をしてダンへと聞いてきた。
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「? あれ? ギルド職員は元からタダなのでは?」
「馬鹿野郎、んなことあるか! 割引は効くが、タダじゃねー!……それで、どうだ?」
「まあ、金貨2枚が浮くなら助かりますが?」
そのダンの言葉を聞くと、「ありがて~!」と言ってバルザールはウキウキとギルドの奥へと消えていった。
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