元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

文字の大きさ
45 / 116

出発準備、ニアラの街を後にする

しおりを挟む
 王都への手紙をギルド間通信にて送ったダンは、翌日から精力的に活動していた。
 ガン、ガン、ガン!
 ログハウスから距離を置いて作られた簡易鍛冶場と化した場所で、上半身裸にズボンを穿いただけの格好のダンが槌を振るって武器を打っていた。
 主に槍の穂先が大量に打ち出されていく光景に一つ奇妙なものが置いてあった。それは焼き入れの水とも違うどす黒い液体が満たされた土桶があること。ちゃんとした水は別にあった。
「ダンさん、話しかけても大丈夫か?」
「ん? ファーニさん、どうかしましたか?」
「いや~、ってなんなのかなって。水ではないみたいだし。ちょっとドワーフの血が目を引かせたというか」
 苦笑いしながらもファーニの目はその液体に興味津々といった様子だ。
「なんか鉄っぽい匂いもするし。液体みたいな金属ってあるのかい?」
 ファーニの鼻が捉えたのは鉄臭さ。
 ダンはあっけらかんと答えた。
「え? これ、ですけど?」
「は!?」
 鍛冶をしているダンのすぐそばに置いてあったために思い至らなかったのだろう。つい最近にも血の匂いにファーニは気づかなかった。
 並々と入った血は、ダンが数日掛けて貯めた自分自身の血だ。それに打ち出している穂先を浸していく。幾度かの工程の合間に、ダンの血に浸された穂先にはダンの血に含まれる闘気オーラが浸透していた。
 ファーニは血という事実に引いていたが、ダンは自身の技である『自動操り人形オートマリオネット』の為に必要な事なので気にせず武器を作っていく。

 バルバロ帝国を相手に使った『自動操り人形』であるが、実はこのアーツには1つ欠点があった。
 それは闘気で作ったマーキングを越えた、武器が襲い掛かるという点だ。
 このという点が厄介で、ダンから離れた闘気は条件に合った相手にのだ。それはダン自身も例外ではない。
 そこでダンは自分自身の闘気を自分の武器に染み込ませて、ダンから離れても、その欠点を回避していた。
 兵士時代、単独行動を強いられていたダンの苦肉の策から生まれた方法であった。
 ちなみに『闘気操り人形オーラマリオネット』は自分自身と闘気が離れていないので、操る武器にこういった細工をする必要はないのだが。

「まあ、僕が使う分だけしかこんなことしてませんよ? ファーニさんの剣とかも、普通に作った武器ですから僕の血が付いてたりはしませんから安心してください」
「えええ~!?」
 ダンの発言にファーニが変な声を出す。ダンは『疑われてるかな?』とも思ったが、ファーニとしては『いやいや、この血の!』と驚いていたのだが。

 そんなこんなでバルバロ帝国にニアラの街が襲われてから数日が経過した。
 ダン達も武器の補充や整備が終了したので、森の中から出てきてニアラの街へと来ていた。
 ギルドへと至る道ではどこか陽気な雰囲気が漂ってきていた。街の危機が無くなったことによる住人達の陽気な声が聞こえてくるそれは、どこか祭りを思い出させるようだった。
「あ、ダンさん来ましたね~」
 ギルドへと入ったダンを見かけてミニーが声を上げた。ギルドに居た冒険者達もダンに続く面々を見てボソボソと何かを呟いていた。

『ぶっ飛びドワーフって、どいつだ?』
『いや、それよりも破壊僧のエルフだろ?』
『いやいや、それよりもヤベー鉄塊のヤツ。俺のダチが撥ねられたって話だぜ?』
『『『それな!』』』

「……人身を撥ねた覚えはありませんが?」
「あ~、話に尾ひれとか付いたんじゃない?」
「……ウチの噂が無い気がする」
 聴力の優れた入イリアが普通に耳にし、キョーコがそれにフォローを入れる。
 マロンは自分の噂が無いことに落ち込んでいたが、実は陰で『ヤバイヨウジョ』と呼ばれていた。
 ……噂がマロンの耳に入っていたら、まさにヤバイ状態になっていたかもしれない。
「久しぶりですミニーさん」
 背後で行われていた会話を気にも留めずにダンがミニーに話しかけた。
「いえいえ、この街を救ってくれた冒険者に、使申し訳ないです」
 ややシュンとしたミニーにダンは「気にせずに」と言った。
 バルバロ帝国の進軍と同時に発生した魔物行進モンスターパレードについて、ギルドが帝国の件を情報規制したことによって、ダンへの報酬が後回しになったのだ。
 緊急事態とはいえ、かなりの数の冒険者へ報酬が支払われることとなり、ギルドの金庫が一時的に底をついたのだ。急いでウルスラの街へと伝令を出して、ウルスラのギルドの金庫から持ち出しを行って補填したのだ。

 まあ、ダン達が高ランクの魔物素材を持ち込みすぎて、元々ニアラのギルドの金が少なくなっていたことも原因の一つであるが。

 そして素材売却の売上金がニアラの街に昨日届いたのだ。これによりギルドの金庫が復活を果たした。ダンはバルザールから指定されていた今日、その報酬の受け取りに来たのだった。
「にしても今日は随分としっかりした装備ですね?」
「ええまあ」とあいまいに答えて、ダンはミニーに案内されてギルドマスター室へと移動した。


「よく来たな『英雄』さんよ」
「それは魔物行進を止めた冒険者の皆さんの事では?」
 バルザールの言葉に素っ気なく返すダン。「そうかいそうかい」とバルザールも本気の言葉ではなかったのだろう、肩をすくめて話題を変える。
「とりあえずお前さんへの報酬が決まった。コイツがそうだ」
 どさりと置かれる革袋。やや小さいが、『まさか?』と思い革袋へ手を伸ばすと、その口をそっと開けて中から一枚取り出した。
「あ~、白金貨ですか」
 金貨よりも価値の高い白金貨。大体100金貨で1白金貨だったはず。指先に摘まみながら白金貨の表裏を見ているダン。正直、。革袋の中にもまだ何枚か入っているようだった。
「白金貨で35枚。それと金貨で数枚だな。色々と含んでその金額だ。何せウチの冒険者の命をとはいえ救ってくれた恩人だしな」
「間接的に? 何のことです?」
 ダンが良く分からないと首を傾げる。
「お前たちが卸してくれたくれた魔物の革で作られた防具で救われたヤツラが結構居るってことだよ」

 ダンは知らぬことだったが、東の森の熊だの狼だのの素材は優秀な防具となって、かつ大量に素材が出回ったので比較的初心者の冒険者でも胸の一部などが強化された鎧などが買えたらしい。それが致命傷を防いだために存命出来た冒険者がいたということだった。

「そうですか。でも結果的に、それは自分の命を守るために金を払った冒険者自身の判断では?」
「ま、俺は感謝してるんだ。素直に受け取っておけ」
「ところで」とバルザールがダンの姿を見た。いつもラフな格好のダンだが、今日は部分鎧とはいえ防具を身にまとっていたからだ。
「なんかクエスト出てたっけか?」
「いえ、ちょっと王都――ではなく、ベタルって街の先にまで行こうかと」
「は!? 街を出るってのか?」
 バルザールは慌てた。ダンという優秀冒険者が居なくなるという事にそれはもう慌てた。
「いきなりどうした!? 帝国のヤツラも連チャンじゃ来ねぇだろ? 次に来たら俺だって出るぞ!」
 いきなり捲し立てる様子のバルザールに「どうどう」とダンが抑えにかかる。
「俺は牛じゃねぇ!」
「何言ってるんですか? そんな理由で街を出るわけないですよ。そもそも冒険者を引き留めることは出来ないはずでしょう?」
 確かに冒険者を引き留めるには理由が必要だ。ましてやダンの現在のランクはD級。中級冒険者をただギルドの戦力として引き留めるわけにはいかない。
「なら俺の推薦でA級に――」
「やめてください」
 ドカリ! とダンに手刀を頭へと打ち込まれて悶絶するバルザール。
「とりあえず戻ってこないわけではないので、そういったことはやめてください」
 フラフラと起き上がるバルザール。心なしか頭が凹んでいるように見える。
「――あー、今日出立するのか?」
「そうですね。道中の食料を買ってから出ようかと」
「なら昼飯時くらいまでは居るんだろ? ギルドのロビーに昼に一回顔を出せ」
「? 分かりました」

 ギルドマスター室を後にしたダンは、メンバーと手分けをして食料や保存食等を街にて買い込み、昼前にはギルドへと戻ってきていた。
 なにやらギルド内から視線を感じるが、まだ帰ってきていないメンバーを待つダン。そこにイリアに手を引かれたロウキが帰ってくる。
「うう、串肉が」
「すみません。屋台前で発見しました」
 幼児が拗ねたような仕草のロウキ。それをしっかりと手を引いて引率してきたイリア。
 どうみても外見は逆の立場にしか見えない。
「さて、ギルドに入りましょうか」
 ダンが先頭でギルドへと入っていく。
 瞬間、拍手で迎えられた。それも大勢の人の拍手でだ。
「は?」
「「「我らが街の勇敢な冒険者達の門出を祝って!」」」

『えんかいだぁぁぁぁ!』
 ダンは一瞬『頭の中切れちゃったのかな?』と考えた。

「急遽だが食事を用意した! さあ、食っていけ!」
 ロビーには多数の冒険者とギルド職員、そして一番目立つところにバルザールが居た。
「え? これから出立って――」
 ダンの言葉を遮って突き出される酒。ダンは半眼になりながらも突き出された酒を受け取る。いつの間にか他のメンバーも酒を渡されていた。
「「「乾杯!」」」
 有無を言わせぬ展開で乾杯させられるダン。
「――いいんですか、いただいても?」
「冒険者だったら食える時に食っとけ!」
「そうですか――」
 その時のダンは目の奥が底冷えしていたのだが、バルザールは気づかなかった。既に駆けつけ一杯ならぬフライング一杯以上を飲んでいた。
「リルさん、イリア、ロウキさん。?」
 3匹の食いしん坊の目が光る。
 そして荒れ狂う宴会場。
 いつしか宴会場は即興の大食い大会へと変化していった。


「うあ~、頭いてぇ」
 そしてバルザールが正気を取り戻したとき、その額に紙が貼られていた。
「?」と手に取り、酔った目の焦点をパチパチと調節する。
 それは、かなりの額の請求書であった。
「あいつらデリバリーまで頼みやがった!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...