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ベタルの街に到着する

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 翌日も昨日の件でとげとげしい2人に挟まれつつ、ダン達はベタルの街の外壁へとたどり着いていた。
 ざっと地図を思い出して、街道からベタルへと繋がる道が南からだと思い出したダンは外壁沿いに歩き始めた。
 そして南門にたどり着くと入場待ちの列が出来ている。

「それじゃあ並ぶとしますかね。列の一番最後はどこだろう?」
 ダンは列の最後尾を見つけるとその後ろに並んだ。
 しばらく待っているとダン達の順番が回ってくる。

「次は――随分な? 何があってそうなった?」
 門番をしている衛兵がダンの格好を見て質問をしてきた。正確にはダンの髪やら服やらが砂まみれになっていることへの問いかけだ。
「あ~、長旅の影響です」
「その割に後ろの仲間は身綺麗だが?」
 どうみても仲間と見える者とダンのギャップが激しい。門番に『こいつ奴隷か?』との考えが頭を過ぎる。
「だから街に入る前に綺麗にしましょうって言ったのに!」
「いつ何処で何が起こるか分かりません。街に入るまでは節約です」
 それは分かるがと門番も思ったが。ともかくどうやら奴隷ではなさそうだ。
 『チェック』を受けさせて、問題が無ければ通そうと門番は考えた。
「それじゃあ『チェック』を受けて貰おう。まずは、ダンだな」
 身分証としてのギルドカードを提示しつつ、ダンは水晶球に手を触れた。

『虫大量殺』
 パッと手を放して再度手を触れる。水晶球は青い光のままだ。
 衛兵がダンを見ている。
「えっと、青いままですよ?」
 衛兵が呟く。
「……大量討伐者スレイヤーだと?」
「え? スレイヤー?」
「そうだ。同種の魔物を100匹以上倒した者に与えられる称号だ」
「つまり、犯罪称号ではない、と?」
「気にするところはそこか!? まあ、その通りだが」
 ダンの見当違いな方向への心配に、そうだと肯定する衛兵。
 名のある冒険者なのだなと手にしたカードを眺める。
「D級!?」
「まだまだ駆け出しでして」
 呆気にとられながらもカードをダンへと渡す衛兵。
 その後、メンバー全員が無事に門を抜けることが出来た。

「ようこそベタル、水の街へ」

 とりあえずダン達は宿を取ることにしたが、大通りに面した宿屋は大半が埋まっていて部屋を確保できなかった。

「仕方ない。冒険者ギルドに行って、移動報告とおすすめの宿を聞いてみましょう」
 何軒か前に訊ねた宿の受付にてギルドの場所は聞いていたダン。
『初めからギルドに行くべきだったのでは?』
「結果的にそうなりましたけど、本当なら旅の汚れを落としてから行きたかったんですよね」
 肩に乗るタマモのツッコミに答えるダン。
 ちなみにタマモは汚れていなかった。あとイリアも服こそくたびれてはいるものの、それほど汚れているわけではなかった。

 タマモは精霊族なので厳密にいえば生物の範疇ではなく、イリアは自身の代謝を出来る限り落として汚れが出ることを防いでいた。

「とはいえ食べたら出るけどね」
「キョーコ……。発言が中年男性の様ですよ?」

 そんなやり取りをしながら歩いていくと、大きな建物が見えてきた。
「あれがベタルの冒険者ギルドか。結構大きいですね」
「そうですね。ベタルの冒険者ギルドはの東を纏めているギルドになりますから」
 ウェンディから簡単に説明してもらうと、ここベタルが中継点となって、大河の東に位置する各街のギルドの連絡のやり取りをしているらしい。
「あくまでも位置関係の話ですけどね。ギルド間通信以外の手紙などのやり取りは、ここで一回集まるようですよ」
「ほうほう」とウェンディの説明を聞きながらダンはギルドの入り口をくぐった。

「お~、外と同じく中もそれなりに広い――ん?」
 ギルドのロビーの広さに驚くダンだが、ふとその広さに見合わない冒険者の数の少なさが目に入った。
 とりあえず受付カウンターに近寄って、職員に話しかける。
「すみません。到着報告と宿屋をいくつか教えてほしいのですが」
「ん~? 到着報告なんて珍しい。……はいはい、到着を受理しました。それで宿の紹介ねぇ」
 職員はダン達のカードを受け取り手早く処理を済ませて返却してきた。しかし宿については顔が難色になっている。何かあるのだろうか?
「何かあったのですか?」考えてもしょうがないので素直に聞いてみた。
 職員も普通に答えてくれた。

「明日からベタルの祭りがあるんですよね。あなた達は祭りが目当てではないようですけど、年1回の2日間行われる祭りってことで近隣の村からも結構な人達がベタルに入っているんですよ。ん~、だから宿屋を紹介したくてもいっぱいになっちゃってるかもしれないんですよね~」
 なるほどそういう事情か。と、そこで隣の別職員が思い出したかのように声を上げた。
「あそこはどうだ? 双子宿」

 少し詳しく聞いてみれば『双子の座』という宿が表通りから少し奥に入ったところにあり、大人数用の部屋があるのでもしかしたらまだ空いているかもしれないとのことだった。
「なるほど。大人数ってのは、かなりの人数ってことですか」
 ダン達を見れば軽く10人以上だと言うのは分かっただろう。その上での提案だとすれば大人数とはそれなりの団体向けの部屋だということだ。
「ま、話でしか聞いたことがないけどね」
 少なくとも土地勘のないダン達には有難い情報だ。
 他にもいくつか宿屋の候補を教えて貰い、ダン達はひとまず教えて貰った『双子の座』を目指すことにした。

「確かに団体客用の部屋は空いております」
 『双子の座』について早々、ダンは宿の受付に部屋が空いているかと聞いてみた。
「なるほど。ではそこで」
「……失礼ですが、人数に限らず1部屋としてお貸しすることになりますのでお高いですよ?」
「おいくらで? あと食事とかのサービスは?」

「それもついて、1泊金貨5枚をいただいております」
 若干鼻が膨らんでいる宿の受付の前、カウンターに金貨を積んでいくダン。
「……13、14、15っと、それじゃあ3日分お願いしますね」
 あっさりとしたダンの対応に宿の受付がポカンとした顔を見せる。
「あ、厩舎とかありますか?」
「あ、はい。ございます」
「それじゃあサニーを案内してもらいますか。……えっと?」
 動きのない受付に視線を向けるダン。他のメンバーも受付を見ている。
 見られていることに気づいた受付が素早く金貨を回収、宿帳に名前を記載して――
「お客様すみません。お名前をよろしいですか?」
「ああ、忘れてました。リーダーのダンです」
「あなたが!?――いえ、失礼しました。……そうだよね、この人が金貨を出したもんね」
 口の中で何かを呟いていたが、すぐにダンの名前を記入すると奥から別の人間を呼び、ライを入り口から外へ案内していった。そして受付がそのままダン達を部屋へと案内する。

「かなり広い部屋ですね」
 到着したその部屋はかなり広く作られていた。途中に柱が立っているところをみると、この部屋は間仕切りを設けずに1つの大きな部屋として作られたのが分かる。
「そうですね。最大で50人が宿泊できる部屋となっております。とはいえその場合は雑魚寝という状態となってしまいますが……」
 ダンが見た感じ最大50人という人数が入れば、寝床だけで埋まってしまうくらいの広さではあった。いちおう窓際に荷物を置くための棚が備え付けてあるが、それ以外はないだけの部屋である。
「寝具とかはあるんですか?」
「それはこちらでお持ちします。あ、部屋に入る際は靴を脱いでくださいね。敷物を敷くなどをする床が汚れないためです」
 なるほど合理的だなと思いながら、ダンは段差を作ってある場所でブーツを脱ぎ、部屋の入り口に置いてあった布を足元に置くと自身の手で軽く足を払ってから乗った。メンバーもログハウスでの生活で慣れていた事なのでスムーズに進んで部屋へと入る。
「そういえば体を拭くとか、トイレってどこですか?」
 大体初見の客が戸惑うところをスムーズにこなしたダン達に驚いていた受付が、ダンの問いかけに意識を戻して答えた。
「あ、はい! この部屋は備え付けの風呂場とトイレがあります」
 そういって部屋の隅を指し示すとそこには3つの扉と少し離して1つの扉があった。
 3つがトイレ。1つ離れた方には石が敷かれ、大きめの木桶が置かれた部屋があった。
「お湯ってサービス?」
「1度はサービスに含みますが、それ以降は燃料代がありますので有料とさせていただきます。とはいえ皆さんの人数ならば足りるとは思いますが……。排水はそのまま流してください。傾斜がついてますので」
 トイレも排水はそのまま流してくれていいそうだ。水は大河の傍で豊富にあるというので特に料金は発生しないらしい。汲むのは自分で行ってくださいとのことであったが。

「さて、確かこの街は大河に面してるとのことでしたね」
「あれ? ダンさん、この街を通ってきたんじゃないんですか?」
 ダンの言葉にウェンディが疑問をぶつける。

 、王都からのルートであれば北周りでも南周りでも、このベタルの街を経由するルートが最もベターな道順である。その際に街の立地は目にしているはずだ。
 ウェンディはそこはかとなく嫌な空気を感じ始めた。
「とりあえず祭りという事で街が騒がしくなっていますからね。落ち着いた頃に出発としましょう」
 そう言ってダンは宿の従業員にお湯を貰ってくると言って、部屋から出て行った。

「な~んか怪しい感じがしてきたぞ、あたし」
「ん? なんかあったん?」
「そもそもベタルの街って、ダンさんからすれば遠回りじゃないか? ウルスラからベタルと『大橋』に向かう分岐をベタルに向かうんじゃなくて、そのまま『大橋』に向かった方が距離的に近いだろ? あたし等はダンさんのマジックバッグで食料の持ちだって普通の冒険者とは違うんだし」
 ファーニの言葉にウェンディも同意だった。先に挙げたルートは食料の量などの問題が起きないよう、日数を勘案して余裕を持ったルートであった。との但し書きがつくが。
「まさかダンさん。。とか言い出すんじゃないだろうな?」
 ファーニの言葉にウェンディとマロンが顔を強張らせる。
 一方それ以外のメンバーはいまいち分かっていない顔をしていた。
「というかキョーコだって前から冒険者だろ!? なんで『分かってない』顔をしてるんだ!」
「え? 私は元々ウルスラとニアラくらいしか知らなかったし」
「それにしたって『大河』ってとこの危険性は噂くらいでも聞いてるんだろ?」
「え~? 噂って、噂なんでしょ」

 冒険者や近隣の街や村に伝わる噂。
 曰く『大河の真ん中には竜が住む』

「竜って言ったって、大きな影をそれっぽく言ってるだけなんじゃ?」
「かもしれないが、水の中なんて場所であたしらもいつも通りに動けるわけじゃない。実際、度胸試しだと試した馬鹿な冒険者が年間何人かは戻ってこなかったって話だ。もちろん小舟で出ても結果は同じ。大河の真ん中は結構な深さがあるって話だし、大型の魚型魔物でも居れば一撃だよ」
 だから大河を渡る方法は2つ。
 ベタルを北へ周り、いくつかの小川の場所を超える昔ながらのルート。
 ベタルから南へ行き、多大な労力と犠牲を払いつつ作られた『大橋』と呼ばれる橋を越えるルートのどちらかだ。
「間違っても泳ぎじゃ行けないんだよなぁ」
 そもそもドワーフのファーニやホビットのマロンはそれほど水に浮かないという欠点がある。

 その後お湯を貰ってきたダンから「今日は休息です」と言われた一同は、久々のしっかりとした休息が取れる場所での休みに皆、泥の様に眠りについた。
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