元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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事後釈明。更なる理不尽? そんなものは無……

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「あ~、何年振りなんだろ3? 4年ぶりなのか?」
「こらレット! 村の大恩人様に気安く声をかけてるんじゃないの!」
 何故かそわそわと浮足立っている少年剣士の頭を引っ叩く魔法使いの女性。よく見れば少年とそれほど年の離れていそうな雰囲気ではない。ということは少女か。
「ほう。この御仁がお前さんらが言っていた村を救った様か?」
「ふ~ん、改めて見るとそんな年寄りでもないんだねぇ」
 竜人種の格闘家と、よく見ればエルフ種の女性だった弓使いの4人に近づかれてダンは困惑していた。

「あの、王国軍には『騎士』は居なくてですね。まあ、名乗っちゃってる人達も居るんですが、僕は兵士でして」

 王国軍は軍団と名乗っているので『騎士』なんて居ない。一部の第2軍団員が『騎士』と名乗っているが、それは自分達が貴族だからと見栄とノリで口走っているだけで、正確には一般の『兵士』と魔法を使える『上級兵士』が居るだけだ。
 一応、王を守護する近衛騎士が居るが、あれは王族の所有する部隊で王国軍とは系統が別である。

「でもまさか黒騎士のあんちゃんが、ギルドのなんてなぁ」

「ん?」

「うむ、軍に所属していた過去があったとしてもあの戦闘力だ。もしやはAランク、ひょっとするとSランクだったのではあるまいか?」

「へ?」

「村を救ってくれた時も凄かったんですよ! 黒騎士様のお仲間の方も皆強かったんですが、もう村のあちこちで黒騎士様の姿が見える程にあっちで切ってこっちで切って。縦横無尽ってああいう事なんだって思えるくらいでしたもん」
「? それは黒騎士様が複数居たってこと?」
「違いますよ? それはもう、物凄くんですよ」

「それは、まあ手が足りないことが多かったですからね。開拓村の緊急要請の時は。――じゃなく」
 何やら会話が進んでいるので止めようとダンは声を掛けようとするが――

「あ、自己紹介がまだだった。俺はCランクのレット。あんちゃんに教えて貰った剣でこれからB級昇格試験を受けるんだ!」
「ファムです。レットと同じ村に居ました。同じように昇格してきたのでCランクです」
「おお、確かに名乗ってなかったな。ワシはファザム。武者修行の一環で冒険者をしておる。何やら面白い経験が出来るかとレット坊とパーティを組んでる。ランクは同じくCランクだ」
「わたしもたまたまそこに居合わせた縁でパーティに入ったエルフのミーザよ。わたしは里で面白いものが在りそうな外の世界に興味が出てきたから冒険者になった口よ。同じくCランク」

 4人に自己紹介をされたダンも礼儀として返答する。

「僕はダンです。さっきも言いましたが元兵士。皆さんと同じです。ああ、ランクはDですね」

 静寂が訪れる。
 2秒、3秒、4秒……

「「「「はあぁ!?」」」」



「まさか現役冒険者だったとは……。しかもワシらよりもランクが低いとか、冒険者ギルドの管理はどうなっておるんじゃ?」
 何やらブツブツと呟く格闘家のファザム。
『何か考え事してるのかな?』くらいの気持ちでダンは全員を見まわしてから告げた。
「それじゃあ手分けして訓練しましょうか。弓使いのミーザさんにはクローディアさん。魔法使いのファムさんにはウェンディさんとキョーコさんで。レット君とファザムさんは先に僕が見ましょうか。近接系ですしね」

 若干呆けたようなミーザをクローディアが。ファムをウェンディとキョーコが修練場の的が設置してある方へと連れて行く。ダンは残ったメンバーとレット、ファザムの前に移動した。

「さて、それじゃあ先にファザムさんからやりましょうか。とはいえ格闘家の技は変幻自在。技のつなげ方は人それぞれですからね。ん~、ちょっと待っててくださいね~」
 目を閉じて額に指を当てるダン。
 しばらくするとその目を開けて、両手を合掌した。

「ちょっと闘気オーラを出しますね」

 日常会話くらいのノリで告げたダンに対して、いつものメンバーはグッと丹田に力を込めたが、レットとファザムは「何事?」と首を傾げる。
「『戦乙女の加護』解放リリース!」
 瞬間ダンを中心に暴風が吹き荒れたかと思うほどの圧力プレッシャーで吹き飛ばされるレットとファザム。
 思いっきりひっくり返って、レットは後頭部を押さえて悶絶していた。
 受け身を取ることに成功していたファザムも、全身にブワッと浮き上がった冷や汗に体温が下がったような感覚に襲われた。
 まだまだダンの行動は続く。
「え~と、こうっ、かな?」
 ダンが放出した闘気がその身に収縮していくと、ダンの両腕両足、それと腰に異形のモノが現れる。

 それは鱗を持った爬虫類型の四肢。
 ダンの両腕と両足を覆う様に現れただった。
 そして腰からは尻尾のようなものが生えている。

 可視化できるほどの凝縮された闘気が、ダンの姿を変えていた。

「とりあえず、僕が昔戦った竜人種ドラゴニュートの動きを再現してみますね」
「え? ちょ、待――」
 色々な事にツッコミを入れたかったファザムだが、目を閉じて集中状態に入ったダンに声を掛けることが躊躇われたのだ。

 そしてダンの演武が始まる。

 足を出すと同時に突きを放つ。右、左、右と3連突き。ドシリドシリと踏み込む足音がその威力を物語るように響き渡る。
 次いで左足を軸に後ろ回し蹴りを放つ。回転する体に尻尾部分がブオン! と音をたて、右足へと続く2連撃となる。
 回転する勢いを殺さず、さらに一回転したダンの左腕、その五指が開かれると一気に斜め下へと振り下ろされる。五指についた爪の鋭さが虚空に残った。
 やや前進しすぎたのか後ろに後退したダンはそれからも色々な攻撃を見せた。
 爪を生かした前蹴りや、肘の部分の鱗を利用した肘内。五指を揃えた刺突や尻尾部分を使った同時攻撃等々……

 一通りの演武が終わると、ダンはふぅと息を吐いて闘気の四肢を元へと戻した。
「とりあえずこんな感じですかね? あとは自分なりに落とし込んでもらってその後、リルさんかロウキさん、イリアさん辺りと組み手をしてもらえば良いか、と? お~い、聞こえてますか~?」
 凝視した姿勢のまま固まっているファザムの肩をポンポンと叩くと、ビクッと体を震わせてからダンへと焦点を合わせるファザム。

「――やはり人種ではない?」
「人間です」

 首を捻りつつ次のレットの為に場所を移動したファザムを見送り、レットへと向き直るダン。
「手ほどきを希望した少年はあなたが初めてでしたね。言われれば面影が残っているのに、気づかずにいて申し訳ありませんでした」
「そんな! 俺こそあんちゃんに気づかなくて申し訳ないよ。村の復興を手伝ってくれながら、俺に剣を教えてくれた恩人なんだから……」
 しょげた様子のレットの肩を叩き、顔を上げさせる。実際ダンは気にしてない。というか内心ではをかいていたりする。
 言い訳するつもりではないがダンが兵士として仕事をしていた5年間で、同じように助けたり支援した回数はかなりの数に上る。たまたま少年の様に『剣の手ほどきをした』という特殊な事情でもなければ、ダンの記憶の中で『え~っと、たぶんどこそこ村の子供かなぁ?』ぐらいにしか蘇ってこなかっただろう。というか下手をすると記憶を捏造していた可能性すらあった。
「しかし僕の言う通りに、『基本に忠実』を守って剣を振るっていたみたいですね」
「ああ! いっぱい練習したけど、『型』は守るようにしてたぜ」
 ニカリッと笑うレットの言葉にウンウンと頷くダン。
 古い記憶が蘇ってくる。

 確かオークだったかノールだったかの魔物達に襲われた、集落と呼べるほどのサイズの開拓村に居た少年だった。
 一緒に連れていたと、ついでに輜重部隊の中から目をつけた相手を引き連れて向かった場所で、戦闘経験と陣地構築などにも生かせる復興作業を経験させた時、のはずだ。
 被害が出ないように8割はダンが魔物の相手をして、その後の復興に従事させているときに、同じく作業をしていたダンへと熱意を持った視線で頼み込んできた少年。
 残りの作業を連れてきた面々に丸投げしても数日。
 その間にダンは少年へと剣を振る『型』と鍛錬の方法をつきっきりで教えた覚えがある。

「その場でのしゃがみ込みとか、剣の振り方とか、姿!」
 うんうんと頷くダン。
 周りで聞いている残ったメンバーはドン引きしていた。
『4年前って、本当に子供だったんじゃないかなこの子。その子供に要求するレベルの話じゃない気がするのだけれど』
「そうそう、先程の最後の攻撃ですが……」
『褒めずに進めた!?』
 ダンは自分の教えをしっかりと覚えて実践している少年に感心していた。しかし基本を守っていることに感心はすれど、あくまで基本のことなので褒めることとは違うと思っている。

 ダンと少年の思考が似か寄りすぎていて、周りとの温度差が発生していたのだ。

「あれは、あんちゃんが村を出る最後に教えてくれた技を真似したんだ」
「たしかに、僕は最後の選別として見せましたね。――ですが、僕は?」
 頷き、しかし鋭い目つきでダンはレットを見た。

 単純に考えても剣を短く持つことは威力の低下に繋がる。特殊な条件、例えば狭い通路などで剣を振るう際の工夫や鍔迫り合いなどの力を込める場合としてはあり得る話ではあるが、レットの剣は最初から布が巻かれていた。確かに剣の根元まで使うことなど早々ない事ではあるが、普段からそうしているということは明らかだ。

 ダンの視線にレットが恥ずかしそうに俯きながら答える。
「――あんちゃんの真似をしたかったんだ」
「へ?」
「その! 他で探したこともあるんだけど、同じ剣は見つからなかった! それでもあんちゃんの、その、構えとか真似、したくて……」
 尻つぼみになっていくレット声。その指差すものはダンの手に持つ剣。

 だが……
「僕はあんな剣の使い方したことないんですけどね?」
「よっ」と左手に持ち替えたから剣を引き抜くダン。
 レットは目を真ん丸に見開いて、指し示していたモノを行ったり来たり。

 鞘と剣。
 というか、どう見ても初見の者にはだ。
「え、ええ~!?」


「あんちゃんに騙されたよ~」
「すみませんね。騙していたつもりはないんですが」
 あの後、目の前のびっくり箱を開けてしまったかの如く硬直していたレットは再起動を果たし、ダンから指導を受けていた。
 その手にはダンの武器ポーチから取り出された剣が握られている。
 両手剣サイズの剣だが、その刃の根元は刃がつけられていなかった。兵士時代世話になっていた雑貨屋兼武具屋の注文でいくつか作っていた剣の中から、レットの使っていた剣に近い形状の物を渡したのだ。
 その時の店主曰く、

『冒険者ってのはとにかく荷物を軽くしたがる。武器を2本も持っていくぐらいなら、どっちか1つは置いていきたがるもんさ。ならどうとでも使えるような武器を作れば売れるんじゃないか?』

 結果、試し打ちをして武器を卸したが、念のため自分でも使ってみようと、試し打ちの方を今まで武器ポーチに死蔵していたのだ。
 もちろんダンは妥協することを良しとしないので、レットの腰にはショートソードが更に下げられているが。
「でも俺達で大丈夫かな?」
 新しい剣の重心を確認しつつ剣を振るうレットがポツリと漏らす。
「大丈夫? 何かあるんですか?」
「実はこの街にはBランクの昇給依頼を達成するために来たんだけど」
 先程の自己紹介の時にそう言っていたなと思い出すダン。
「あんちゃんに手も足も出なかっただろ? いや、今更だけど黒騎士だったあんちゃんに勝てるわけないんだけどさ」
 勝てるかどうかはさておき、どうもレットはダンとの勝負で自信を無くしてしまったようだ。
「ん~? それは依頼を達成するための相手がだと?」
「え? いやいや、あんちゃん並みの相手だったらヤバすぎだって」
「なら大丈夫じゃないですか? 正直、あの連携の攻撃を捌けるような魔物は心当たりが――あー、少ししかないですね」
 ダンの言葉にレットを含めて、周りで武器の素振りをしていたメンバーもギョッとする。
 思いっきり『そのの心当たりの相手を教えてください!』と誰もが心の中で思った。
 でもやめた。皆、自身の心の平穏を保ちたかったからだ。
「それで相手の魔物は分かってるんですか?」
「う、うん。この先の森に生息する蜘蛛型魔物が対象なんだ」
「ふむ蜘蛛ね」とダンは少し考え込む。
 そしてポンと手を打って、レットへと提案をする。
「なら樹上を警戒する訓練をしてみましょうか」
「樹上?」
「蜘蛛は大体が木に巣を作りますからね~。それじゃあ、皆さん集合してくださ~い!」
 ダンの呼びかけにバラバラになっていたメンバーが再度集まってくる。
 メンバーが揃ったことを見届けると、ダンは持っていた剣を仕舞って両手を開けた。

 この時点でダンのパーティメンバーは警戒度を1つ上げていた。 

「これから戦う相手の参考になればと思いまして、これから一つの訓練を始めま~す」
 軽いノリのダン。だがその両手に闘気を集め始めた時点で、ダンパーティの警戒度が一気にMAXまで跳ね上がる。
「頭上からの気配感知訓練として、今からを行います」
 レット達4人はポカンとした顔だ。
 だがダンの両手から放たれた2つの闘気の玉が修練場の天井近くへと浮き上がると同時に、ダンパーティは全員がその場から四方へと散っていく。全速力だ。
「じゃ、いきますよ~」
 パチンと両手を打ち鳴らすと、浮き上がった闘気の玉から糸のようなものが放たれる。それも何十本もだ。
「「「「えええ!?」」」」
 困惑しかないレットパーティ。全員がその額に闘気の糸を受ける。
 攻撃として闘気ではないものの、当たったことが分かるように指で突かれたくらいの衝撃が各人の頭を襲った。

 ここで注目してもらいたいのは、ということだ。

「「「「ふおぉぉぉぉ」」」」
 額を押さえて悶絶するレットパーティ。

 一方、幾度とない経験から事前に回避運動をしていたダンパーティは善戦していた。
「いきなりすぎるよダンさん~!」
「え~い、各自散らばれ散らばれ~! 的を絞らせるな~」
「うわ、盾が引っ付いた! 持ってかれる~」
 ある者は速力で躱し、ある者は周りの状況を見渡し、ある者は防御を試みる……

 阿鼻叫喚の嵐である。

 その後レットパーティが復活を遂げ、ダンが及第点を下すまでこの訓練は続いた。



 翌日、ベタルの街を出発しようと宿で荷物を整理しているダン一行。
「そういえば今日出発するんだって、レット君たち」
「ほう、そうですか」
 雑談としてキョーコがメンバーに話しかける。
「蜘蛛型魔物、ということは迷いの森ですかね? 彼らの目的地は」
 ウェンディが対象の魔物から目的地を想像する。
 たしかに蜘蛛型魔物が生息するところとなれば森や洞窟だろう。そして彼らは明確にこの街を目指してきたと言っていた。ならば近くにある迷いの森が消去法で出てくる。
「そういえば『蜘蛛型魔物』って漠然としてるよね? 蜘蛛だったら何を狩っても合格なのかな? それじゃあ簡単すぎと違う?」
「ああ、何か言ってましたね。確か、とか」
 マロンの言葉にダンが答える。ガサゴソとマジックバックの整理をしながら、思い出すように続けた。
「なんでも足を広げて5~6mくらいのサイズの大型種が対象らしいですね」
 ゴソゴソとマジックバックに突っ込んでいた腕が中のモノに当たる。
「そうそう、このくらいのサイズですかね」
 そして抜き出されるのはいつぞやのタイラントスパイダーの足。
 それを見て全員が固まる。
「ん~、こいつはもうちょっと大きいかな?」と再度マジックバックに仕舞いながら言うダンに、全員が何とも言えない表情で考えていた。
「ダンさん。確認したいんですけど」
 そしてリルがもっとも聞きづらいことを指摘する。

「ひょっとして……、が対象の魔物ってことはありませんか?」

 整理をしているダンの腕が止まる。
 他のメンバーの顔には脂汗が浮いている。

「ま、まあ、他にも蜘蛛型魔物は居るはずですから、決してだけが対象とは言えないでしょう」
「ははは」と笑うダンの声も力なく。

 その後ダン達は無言で荷物の整理を終えると、ベタルの街を後にするのだった。


 余談だが、その後レット達はクィーンフォレストスパイダーという大型の蜘蛛型魔物を討伐し、無事にBランク昇格試験を達成したという。
 ただし祝いの言葉を送った受付嬢に対して、
『俺達、これ以上の相手と戦った経験あるからね』と漏らしたという。
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