元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

文字の大きさ
72 / 116

いつのまにか決まっていたことを知らされる

しおりを挟む
 あの後ダンのもあり、バクゥの群れは無事に討伐されて『大橋』の通行が再開された。

「とりあえず『宿舎処』は大丈夫でしたかね?」
「はッ! 念のために確認として1人向かわせましたが、バクゥが狙っていた冒険者は『大橋』に逃げ込んできたことから問題ないと思われます!」

 ビシッ! とした姿勢でダンの質問に答えているのは兵士長と呼ばれていた男性だ。ダンもとした記憶に覚えがあった顔なので、王都で会ったことのある兵士の1人なのだろう。たぶん。
 それよりもそのガチガチの姿勢の方が気になった。

「そんなに改まった格好しなくても良いですよ?」
「いえ! これがいつもの格好ですので!」

 あまりにビシッ! としているその恰好が普通かと言われると、どう考えても普通ではないし、いつもしているとは思えない。式典の時くらいじゃなかろうか? とダンは思った。

「あ~、休め」
 ダンの言葉に肩幅に開いた脚と後ろ手にした格好へと変わる兵士長。
 とりあえず話は聞いてくれた。命令という形であるが。

「ん~、このバクゥはどうしますか?」
「そう旨い肉ではありませんが、非常食用に干し肉に変えようかと思います」
「ま、妥当ですかね」

 ダンの目の前に積みあがったバクゥの山。合計16体分がちょっとした丘の様に積みあがっていた。

 バクゥ掃討が終わった時に、逃げ込んでいた冒険者達が「そのバクゥを譲ってくれ!」と願い出ていたが、ダンも兵士長も「無理」の一言で断っていた。
 コレに味をしめた冒険者が、『『大橋』の兵士達に魔物を討伐させる』。などといったトンデモナイ考えを持たれないように、一切の素材交渉を受け付けない方針としたのだ。
 恨めしそうな顔をした冒険者に、ダンがを当てると、顔を青くしてそのまま王都方面へと姿を消していったのであった。

 そして、その結果が先程のダンと兵士長の会話である。
 自分の所で消費するにしても、使用用途が余りに少なくて頭を悩ませていたのであった。

 2人して頭を悩ませるダンと兵士長の元に、川下方面から1人の兵士が駆け寄ってくる。

「兵士長! 『宿舎処』は無事でした。今回の件で一切の被害も発生しておりません!」
「ご苦労」と兵士長が、その報告を持ってきた兵士にねぎらいの言葉を掛ける。

 先程から出ている『宿舎処』とは、ここ『大橋』に勤務している兵士達の宿舎の事だ。宿舎とはいっても、妻帯者などが住む戸建てや単身者の住む長屋のような住居、さらに小さな畑を持ち、その周囲を頑強な柵で覆った村のような規模の場所だった。
 『大橋』から大河に沿って南下すると『宿舎処』が存在している。
 過去は大河に沿って川上側にあったのだが、により現在の『大橋』より川下側に建設されることとなったのだ。

「おや、なかなかに体力が有りそうですね彼。そこそこいい速度で走ってきたんじゃないですか?」
 バクゥ討伐から1時間とちょっと過ぎているくらい。今の橋の袂から『宿舎処』は確か歩いて1時間ほどの距離だったはず。

 ちなみにダンは昔その距離を僅か10分で駆け抜けたことがあるのだが。

「戦うにしても逃げるにしても体力は必須。でしたな?」
「お~」とダンは昔自分が教えた言葉を違えずに覚えていた兵士長を称賛した。

「そういえばは何故に大橋へ? しかも王都方面へと渡っているということは東にいらっしゃったのですよね? いったいいつの間に?」
 兵士長の疑問は至極まともだった。
 普通、大河の西と東を行き来するとなれば『大橋』を渡るのが一般的だ。

 決して、というまともじゃない方法を選択する等とは考えもしない。
 そしてそのまともじゃない思考回路を持ったダンは普通に返答する。

「かれこれ2カ月くらいは前だったかな? のは。その時は1人でしたからね」
「なるほど。1人だけでの移動でしたら見落としていても不思議ではありませんな! さすがフットワークが軽いですな
「「ははははは」」2人して笑っているが、実際はお互いの頭の中の想像は、双方食い違っていることに気が付いていなかった。

 だがダンの笑いが止まる。

「ん? ?」
「ええ。あ、ひょっとして極秘でしたか?」
「極秘? いえいえ、そんなことはありませんよ? それよりも僕は――」
「そうでしたか? いや~、王都で鍛えていただいた後、ここ『大橋』でまた隊長に会えるとは……。あ、すみません。隊長の方が言いやすくてつい。申し訳ありません殿!」
 ビシッ! と敬礼しつつ兵士長はダンへと敬意を込めてその肩書を言う。

『ん~、やっぱりコレって僕のことを言ってますよね? ん~、第3軍ってなんだ?』

 ダンは『言い間違いか? いや、間違いなく僕に向いてるよなぁ……。言い間違いだと良かったなぁ』と、まだかすかに残る希望のような何かに願掛けして聞いてみる。

「ちょっと連絡が途絶えてましたかね~。 第3軍のこと、?」
 答え合わせをするようなダンの質問に、兵士長がにこやかな笑顔で答える。
「はっ! かねてより第2軍に代わって、辺境及び緊急要請をされた場所へと派遣される新設軍。それが第3軍と心得ております」

 確かに現在の第2軍が満足に活動しているかと問われれば、首を横に振るしかないのはダンとて分かることだ。それはいい。
 問題は、だ。

「う~ん、どうも僕のいないところで『旗揚げ』となったのかな?」
「はっはっは! 確かに隊長は1人で王国内のあちらこちらに向かわれてましたからな。……え? まさか本当に?」
 ダンの言葉がボケかと思った兵士長は盛大に笑うが、いつまでもダンが返事を返さないことに気づくと目を丸くしてダンへと聞き返す。
 それにダンは無言で頷いた。

 どうやって答えていいモノか窮する兵士長と、遠い目をしながら額に青筋を1本立てているダン。
 二人は無言のまま、ダンの仲間達が到着するまで並んでただ立っていた。

 傍らにバクゥの山がある光景は、どこかシュールなものとなっていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...