元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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 4階は複雑な造りにはなっていなかった。
 単純な通路。
 右手に1つ、左手に2つの扉が見える。

 通路の壁の長さから右手の部屋が大きそうなので、まずは左手に見える手前の部屋から調べることとした。

「いいですか? いきます!」
 ドアノブを開けると素早く中へと侵入するダン。まず全員の中で一番防御力が高いダンが先陣を切った。
 手にした鞘を構えて、油断なく部屋の中を見渡す。

「――敵は居ませんね。とりあえず探索をお願いします」

 部屋の探索を数人に頼むと、ダンは続けてもう一つの左の部屋に向かった。


 こちらも同じようにダンが突入する。

「――! あっぶな」
 勢いよく侵入したダン。その額目掛けて、扉と連動して仕掛けで動作したトラップが作動、そこから放たれた短剣をなんとか鞘を盾にして防ぐと、油断せずに辺りを窺う。

「……。大丈夫そう、ですね。――この部屋はトラップに気を付けて調べてください」

 そう仲間へ指示を出すと、ダンは本命の右手の扉の部屋を目指す。


「さて、さっきの部屋にトラップがありましたし、ここはどんな仕掛けがあるのやら……」

 ダンがゆっくりと扉を開けて蝶番やドアノブ。扉の上下を確認しつつ、首だけ覗き込める隙間を作って裏を覗き込む。

「こちらにもトラップがありましたか?」
 なぜかワクワクした雰囲気のリルに、ダンはという行動で示した。

 ゆっくりと開いていく扉を見つつ、一体どんなトラップなのだろうと緊張するリル。

 そして扉が全て開き切って――

「――ダンさん。罠は?」
「どうやら先程の部屋だけだったらしいですね?」

 肩透かしを食らったようなリルに、ダンも予想が外れて困惑顔で返す。

『もしかして王様の部屋は先程の部屋だったのかな?』とダンは考えるも、天蓋付きのベッドや調度品などは先程の部屋よりも良さそうな物を置いてあるように見える。
 ダンはその辺りの家具などの真贋を判断できないので、あくまでもそう感じたというものではあるが。

「とりあえず敵は居ませんから、この部屋の探索をお願いします。僕は最初の部屋から見てきますから」

 そう言ってダンは最初の部屋に戻った。



 最初の部屋に戻ったダンはその部屋の荷物などから、この部屋は近衛の長が使っていた部屋だと確信した。
 棚には鎧や武器を手入れするための道具や、普段使いとしては大型なナイフなどが置かれていたからだ。

「ダンさん、コレコレ。コレ見てくれよ」

 最初の部屋の探索をしていたファーニがダンを手招きする。ダンはファーニに誘われるまま、この部屋に据えられた机まで移動した。

「なにかありましたか?」
「コレ。日記みたいだぜ、この部屋の持ち主の」

 ファーニの指差すものは机の上に置かれた一冊の本だ。タイトルがないその本を軽く目を通すと、王国歴○○年○○月○○日と几帳面な字で書かれているのが読める。内容はまだ分からないが、確かに日記の様だ。

 ダンはファーニへ感謝を伝えると、日記に1礼して最後の方から読み始める。



『王国歴295年5月6日

 今日から我が王の久々の休みだ。
 日々王国内の政務を行われている王の唯一と言ってよい気分転換となる塔への移動。
 趣味と実益を伴うこの塔での実験は王の心を満たすものではあるが、たまに近衛達へ無茶な実験に突き合わせるのはいかがなものだろうか?』

「……」

『王国歴295年5月20日

 王が興味を持ったダンジョン産のゴーレムが運び込まれる。
 王が狂喜乱舞している。あまりに酷すぎるのでメイド長に殴られていた。さすがメイド長!
 王妃に信頼されたあの方ならば、王の無茶ぶりを止めてくれるに違いない!』

「……」

『王国歴295年5月30日

 王がこのところ徹夜で何か作業をしている。
 魔法好きの王ではあるが、ここの最近、その関心はあの『大型ゴーレム』に向いているようだ。
 「これが完成すれば魔法が! グフ、グフフ!」と危険な香りをする発言。
 メイド長がつきっきりで様子を見ている。頼んだぞメイド長!』

「え? これで終わり!?」

 途中の『今日の献立』とか『訓練内容』、『保養地での出来事』などを除くと、これくらいしかなかった。というか前後で似たような愚痴を毎度書いてあるのだが、王様の無茶ぶりが相当酷かったのか? と思ってしまうダン。

「ほかに目ぼしいものはありましたか?」というダンの言葉に「特に見当たらない」と部屋を探しているメンバーが答える。

「仕方ない。とりあえずマジッグバッグを渡しますから、一通り入れてもらえますか?」
 ダンはマジッグバッグを部屋に置くと、次の部屋へと向かった。



 次の部屋は順番としてトラップが仕掛けられていた部屋だ。ダンは覗き込みながら聞いてみる。
「どうですか皆さん。何か見つかりました――」

 ダンの言葉が止まったのは、部屋の中でをした仲間達の姿を見たからだった。
 聞いた方が早そうだと、ダンはその仲間達に聞いてみる。

「――どういう状況ですか?」
「助けてくださいダンさん~! トラップが~、トラップが~」

 腕を上げた姿勢のポーラが言う「トラップ」の言葉に、ダンは注意深く室内を見た。

 室内の調査用としてだろう、もともと部屋の内部に据え付けられたランプが灯っているので室内は明るい。ダンは『ポーラが自分で腕を上げているのではない』として、ポーラの上半身や上げられた腕を中心に視線を動かしていく。

 すると空中に光を反射する線が、ポーラや他の仲間へと向かって何本も繋がっているのが見えた。

 ダンはその線をいくつか目で追っていく。
 そして一つの置物へと線が収束しているのを発見した。

「壺ですね」

「あ、ああ! 何かが締まり始めました!」
 同じ部屋に居たクローディアの声に悠長にしている場合ではないと、ダンは鞘から刀を抜き放つと空中を走る線を一太刀で切り裂いた。

 バツンッ! と大きな音が鳴ると、切られた箇所から壺に近い線は壺の模様に吸い込まれていく。
 反対に巻き付いていた線は真っすぐな状態になって、部屋の床へと落ちた。

 ダンはその線を摘まみ上げて目を凝らして見る。

「これは『鋼糸』ですね。しかも金属面がないので判断が難しいですが、おそらく『ミスリル鋼糸』です。あのまま巻き付かれた状態で力を込めて引かれていたら体が切られていたかもしれません」

 ダンが指先で力を込めたり、表面に指を這わしてみた感触から素材を推測する。

 素材特性として、金属としては軽く適度な弾力があり復元力が高い。細剣を作るのに向いている素材だ。
 似たような特性を持つ金属は、ミスリルの更に上位としてオリハルコンがある。ただしあちらは糸まで細くすることは非常に難しいが。

 ダンの『切られていたかも』との見解に、巻き付かれていた者はゾッと顔を青くしていた。

 ちなみにダンは言及していないが、もし切れ味の悪い武器で切断しようとしていたら、壺が巻き取る力に余計な力が加わって、更に酷い結果となっていただろう。

 ダンは壺に近づくと中をそっと覗いて確認してから、壺を床から持ち上げた。 
 バキッ! と壊れる音がすると、ダンの持ち上げた壺の底から何か金属の部品が見えた。

「とりあえずコレでこのトラップは作動しないでしょう。皆さんお怪我は?」

 ダンの問いかけに全員が「大丈夫」と答える。
 それから全員が更なる注意力を発揮してトラップを警戒しつつ部屋を探索する。


「そして、やっぱりが残りましたか」

 ダンがそう言い全員が見つめる先には、があった。

 ダンが「やっぱり」と言った理由もある。
 この机は最初にダンが引っかかったボウガンの設置場所に近く、また先程全員が絡めとられたトラップ壺の傍でもあったからだ。
 全員が部屋の捜索で無意識的に後回しにした場所でもある。

 そんな場所に置かれた机。

「……ふぅ。見ていても仕方ない。順番に開けますよ」
 ダンの言葉に全員が固唾を飲んで見守る。

 上の引き出しを開ける。
「特に何もない。か」

 真ん中の引き出しを開ける。
「――問題なし」

 一番下の引き出し――
「――いいですか皆さん? いきます!」
 勢いよく引かれる引き出し。全員がのけぞるように身構える。

 ・・・・・・

「何もなし?」
 ダンが代表して引き出しの中を覗いてみるが、やはりそこには何もなかった。

「この部屋は恐らく傍付きの『メイド長』という人の部屋っぽいんですけどね。王様の身の回りの世話をする人ですから、私物はあんまり持ってなかったのかな?」
 先程の近衛の長で見つけた日記に書かれている『メイド長』というのが、ほぼ間違いなくこの部屋の主のはずだが、やはり重要な物は王の部屋にあるのか。とダンが考えていると、1人騒ぎ出した者がいた。

「あー!」とマロンが机を指さす。
「どうしましたマロンさん?」
「一番上の引き出し、!」

 みんなが机を見ていたが、身長差からマロンにだけそれが見えたらしい。
 全員がしゃがみ込むと、確かに一番上の引き出しの裏面に何かあった。
 ダンが腕を伸ばしてそれを掴む。

 チク

「ん? これは――」

 指先に触った感触から腕を引き抜いて見てみるダン。中指の先に跡があった。
 ダンは今度はさらにしゃがんで、引き出しの裏を見ながらその何かを手にする。

「何かあったんですかダンさん?」

 ウェンディに聞かれたダンは皆に注意をしてもらうために素直に話した。

「指が当たるところに針が仕掛けられてました。たぶんですね、魔物由来の」
「ええ!? だ、大丈夫ですか? あわわ、げ、解毒を」
「あ~、。毒も体内に入ってませんよ」
 慌てるウェンディに答えるダン。そして引き出しから抜き出したものを机の上に置いた。

「……なんかカワイイ色の本だね?」
「花の染料で染めたのかな?」

 ポーラとクローディアが言う様に淡い色の表紙の本であった。
 パラリとめくると、年月日が書いてある。
 日記だった。

「日記が多いなぁ。当時は流行ってたのかな?」

 とりあえず1礼してから最後の方のページをめくる。
「え? メイド長ってことは女性なんじゃないですか!? だ、ダンさん読むの?」

『王国歴295年5月5日

 明日から王様が休みに入る。
 例年通り、向かうのは保養地の『塔』でしょう。
 セレス様との密約で、あの土地に居る間はアプローチし放題だ。
 今回は『秘策』も用意した。
 ああ、明日が楽しみだ』


『王国歴295年5月6日

 とうとう今日から『塔』に向かう。
 道中の料理は我がメイド隊が用意することとなる。
 今日の献立は――』

「あ」とクローディアが声を出す。
「何か気づいたんですか?」
「この献立。ウチでが付くって食べてた」
「はぁ」

 日記にはしばらく献立が書いてある日が続いたので飛ばしていく。

『王国歴295年5月14日

 とうとう保養地に到着した。
 途中の街に留まらずに向かったからか去年よりも早い。
 とりあえず今日は体を休める日としてお休みをいただく。
 そして疲れも吹き飛ぶ『秘薬』を混ぜて、夜の御酒をお出しした。
 ふふふ』

「ふふふ?」
 なぜかここまで読んで、謎の寒気に襲われるダン。
 またしばらく献立の記述が続く。

『王国歴295年5月20日

 王が見たがっていたダンジョンのゴーレムが運び込まれた。
 その中でも王がはしゃいでいる、あの白いゴーレム。むかつく。
 まるで人形遊びをしているような、いや、それ以上に危ない光景となっているので殴って正気を取り戻させる。
 あの大きさであの外観だと、イケナイ遊びをするようにも見えてしまった。
 ゆるさん。どうせなら私にしろ』

「ん? 何かおかしくないですか、この人?」
「いや、途中からおかしい事しかしてませんでしたよ」

『王国歴295年5月30日

 王の興味を別のゴーレムに移すことに成功した。
 しかし連日連夜『秘薬』を差し入れしていたせいか、王が大ハッスルされている。
 身の回りの世話という名目で同室に居るが、そろそろ私の体力が限界だ。
 ここらで一回休憩を入れよう。何、王国に戻るまでまだ日程はある』

「で、終わり。と?」


「この王様、死んでない?」
 クローディアが唐突に言ってくるのでダンが聞き返す。


「え? でも王様はこの時点で生きてると思いますよ?」
 そういったダンに、クローディアは首を横に振って答える。

「さっきの献立。全部がのつく食べ物」
「え? のつく食べ物ですよね? それがなんで『王様が死ぬ』ってことになるんですか?」
「あ~、はどうなるか知りませんが、一般的にそういった食べ物を取りすぎると、『心臓が破裂する』なんてエルフでは言いますね」

『???』とダンは混乱の極みにいた。

「ダンさんは必要になったことが無さそうだから知らないんじゃない? だって
「相手? 組み手のこと?」
「あ~、、かな?」

 ・・・・・・

「そういうことか! え? 精力剤を飲まされまくってたの王様!?」

 ダン自身、実はサキュバスの里で食べていた中に献立のメニューに似たものが出ていたのだが、まだ若く、しかも初の任務ということで食事などは些事として記憶に残っていなかったのである。

 あまりにやばいメイド長の事実にそっと蓋をして、素早くメイド長の部屋を撤収し、ダン達は王の部屋へと移動した。



「はいコレ」
 入るとリルから渡される1冊の本。

「……。見るしかないか」

 日記だった。
 もうお腹いっぱいだったが、まだダンの欲しい情報がない。

 書見台があったので、全員が見える様にその上で日記を開いていく。


『王国歴295年5月5日

 明日から休み』

『王国歴295年5月6日

 塔へ出発。
 とにかく急ぐように指示』


「で、一気に14日まで飛んでますね」
 王様は筆不精だったようだ。


『王国歴295年5月14日

 明日から実験開始だ!
 今日はよく寝て、明日から充実した実験をしたいと言ったら、
 珍しくエミリーが寝酒をくれた。
 セレス以上に厳しいのに、たまにこうして要望を聞いてくれる。
 まったく飴と鞭の使いどころが巧みなメイド長だ』


「王様ー。上手く騙されてますよー」


『王国歴295年5月20日

 ゴーレムだらけのダンジョンが発見されたという事で、
 攻略者から実験の為にゴーレムをいくつか買い付けたものが届いた。
 中でも人にそっくりなゴーレムにはしゃぎすぎてエミリーに殴られた。
 さすがに反省してメイド長に謝罪する。
 しかし『魔法』を使えるゴーレムか。早く色々実験したい』


「王様ー。それ割と理不尽に殴られてますよー」


『王国歴295年5月25日

 白いゴーレムを調べ終わって気づいたが、
 どうも本体は別に運び込まれた『大型ゴーレム』のようだ。
 他のゴーレムは魔石を使った魔法の行使だが、
 あの『大型ゴーレム』は人と同じように大気の魔素を
 魔力へと変換しているようだ。
 この研究が進めば、更なる魔力の運用も可能となるに違いない』

『王国歴295年5月29日

 とうとう再現できそうなところまできた。
 これは『疑似的ダンジョンコア』と名図けよう。
 いや、『疑似スポット』か? まあ、名称は後でどうとでもなる。
 この発明によって我が王国の魔法は更なる発展を遂げるだろう。
 しかし活力が端から湧いてくるようなこの気持ちはなんだ?
 まさか年甲斐もなくワクワクしているということか!
 寝ることだけはエミリーに管理されているが、未だかつてないほどの
 体力が満ち足りている。明日の最終調整が待ち遠しい。
 と、もう寝る時間らしい。ここで筆を置く』


「王様ー。それ薬とか盛られてますよー。……って、あれ? この日で終わり?」
 他の日記では30日まで書かれていたのに、29日で終わっていることにダンは困惑する。

「色々とツッコミどころがあったけど、その王様の日記の前の方のページには、ダンさんが欲しい事は書かれてないのかな?」
「ええっとですね。王国歴過ぎてからじゃないと、ウチに諸々の通達が来ないんですよね。はぁー、どうしようかなぁ」

 溜め息をつくダン。しかしそんなダンの肩を叩く人物が居た。キョーコだ。

「いやいや~、ダンさん。何かお忘れじゃないですか?」
「え?」
「ほら、ここはまだ4階。じゃないですよ? この上にのことですよ」
「ああ」

 ニヤリと笑うキョーコを見て、残ったメンバーの顔を見回したダンが聞いた。
「皆さんも?」
 そう問いかけると全員が頷いた。

 それを確認したダンは立ち直った。
「では最上階に行きますかね」
「お~! フラグ回収だ~!」
 全員が次の階へと向かって歩き始める。




「……相当強いボスに成ってるはずなのに、頼もしいなぁ」
「ダン、今なんと?」
 ボソリと呟いたダンの言葉にイリアが聞き返し、リルが尻尾を振り、ロウキは肩を怒らせる。


 狂王の塔、最上階へ向けダン一行は進む。

「いや、え? ちょっとダン?」
 困惑するイリアを連れて。
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