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相手を倒さない良い方法
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ダンは悲鳴を上げて顔を押さえていた。
「大丈夫ですかダンさん!」
真っ先に寄ってきたリルがダンの顔を覗き込みながら言う。
ダンは両手を目の辺りに当てているので他の部分を見て取ることが出来たが、頬や口などには特別火傷など怪我の様子は伺えなかった。
「あああ~~~」
それでもダンは手を顔に当ててフラフラとしていた。
何か状態異常かと他の仲間達も心配していると、ようやくダンが顔からその手を離した。
「あ~~、目がチカチカする」
瞬きをしながら自分の手や周りの景色を見るダン。
どうやら強烈な光を受けて目が痛みを訴えていただけの様だ。
「「「うん。知ってた」」」
内心は(若干ではあるが)最悪の事態を想定していた仲間達は、あっさりとダンが復帰したのを理解した。
そもそも訓練の模擬戦の際にも、火の魔法や斬撃などをその身に受けてケロリとしているダンだ。いかに珍しい魔法とはいえ、そんなダンが怪我をするとは到底思えない。
でも一応聞いておく。
「体は問題ないんですかダンさん?」
そう言われてペチペチと自分の顔を叩き、手や胸から下を見て自分でも確認するダン。
「……問題無いみたいですね? というか、僕よりもあちらは騒がしいですが」
そうダンに言われて全員がそちらを見る。
『ぐあああ!?』
魔法王ルフは自分の手の平を見つめながら苦悶の声を上げた。
先程、放った相手の負のカルマの量によってダメージの変わる特殊な聖属性魔法であるホーリーライトを使ったのだが、自分の放った魔法でダメージを受けるという魔法を覚え始めた頃にしか体験したことのない現象に襲われたからだ。
『まさか魔法の逆流現象を起こす、とは?』
魔法の逆流現象とは、放つ魔法の強度を越えた魔力を注いだり、魔法のイメージなどの構築が不十分な時に余った魔力が自分へと傷を与える現象のことだ。
特に魔法を使い始めた初心者が、魔法を使う際に無理に力んだりしたとき魔力配分を失敗して起こる。
だがルフは自身のダメージを負った手を見て別の事を考えていた。
ダメージを受けた手の平は妙に青白い色をしていたのだ。
『王よ! 無事ですか!?』
『王様! やられたのですか?』
自分を心配して戦闘を切り上げて近寄ってくる信頼できる仲間であるアレックスとエミリー。
その2人の顔や肌もよく見れば青白い肌をしている。特にエミリーは肌の露出が多いからより分かりやす――
『って、冒険者時代の戦闘服じゃないか!?』
『あらやだ。急いでいたので着替えを忘れましたわ』
テヘと表情に乏しい顔で舌を出すエミリー。メイド服を着ている時には見慣れたものだが、冒険者時代にはそんなことをしたことが無かったので違和感しかない。そもそも冒険者の時はもっと表情が豊かだったのだが。
『――とそんなことよりも2人とも、ちょっとそのまま動くんじゃないぞ』
ルフはその2人へ向けて手を突き出した。
『王?』
『そんな、こんな人前で……』
アレックスはともかく、エミリーは何か勘違いをしているようだ。というか冒険者時代の性格が若干戻ってきているのか、セレスとよく言い合いをしていた時のような雰囲気が覗える。
頼むから、変な事を言ってセレスの怒りが私に落ちてくるようなことはやめてほしいのだが。
そうなると問題を起こしたエミリーではなく、なぜか私が激しく折檻されるからだ。
余計な事は考えないようにして、『魔力調整』を行い自身が望む魔法を脳裏に描き、さらにイメージを補強するように詠唱を唱える。
普通の魔法であれば詠唱はほとんどいらないが、私が開発したいくつかの魔法はより確かなイメージを持って行使しないと発動すらしない、超高難易度の魔法も開発しているのだ。その内の一つを記憶より呼び出していく。
『知識の神の座。そこにある知識の泉より紡がれし詞を我が元に――』
神属性と名付けた、世界のシステムにアクセスすることが可能な属性魔力を行使しようとしたとき、私の耳にその声が聞こえてきた。
「――王の無茶ぶりに近衛達から苦情が来る。明日にでも遠回しだとしても伝えようと思った」
『――なんだって?』
思わず詠唱を止めて聞き返してしまった。
『んな!? その日記は!』
同時にアレックスの狼狽した声が聞こえ、それが虚飾でもなんでもないアレックス自身が考えた事だと確信を持った。
ダンに指さされそちらを見ると、王様と騎士とメイドたちが何やら集まって話をしているのが見えた。
悲鳴を上げていた王様も何やら神妙な顔をして話しているところを見ると、戦闘以外の事に意識が向いているのが分かった。
「お、気が逸れてる?……う~ん。もう少し別の事で気を散らして話が出来るくらいになって欲しいですね――あ」
その様子を見ていたダンが何かを思い出したのか、マジックバッグを下ろして中を漁り始める。しばらくして目的のモノを探し当てたのか、ダンがバッグから抜いた手には3冊の本が握られていた。
「え? ダンさんソレって」
その本の正体に気づいた者が声を掛けるが、ダンは「ちょっと行ってきますね~」と軽いノリで最近見た時と同じように存在感が薄れていきその姿が見えなくなった。
全員がダンは何処に行ったのかと探す中、リルとロウキが鼻を利かせてダンが何処に行ったかを教えてくれた。
「「あそこ」」
そう指さすのは王様達の方向だった。
まずその姿が現れたのは騎士アレックスの背後だった。そして手にした本の1冊を持って言う。
「王の無茶ぶりに近衛達から苦情が来る。明日にでも遠回しだとしても伝えようと思った」
『んな!? その日記は!』
振り返ってダンの姿を見て、さらにその手にした本を見たアレックスが驚愕の表情を浮かべる。慌ててダンへと手を伸ばすが、その姿はジワリと消えた。
残像だった。
ついで現れたのはメイドのエミリーの背後。
「連日連夜の『秘薬』で王も大ハッスル。セレス様公認なのでアプローチし放題」
『え!? 私は何も聞いてないぞ??』
これには王様の方が反応した。
『乙女の秘密をバラすとは……。殺しますよ坊や?』
エミリーは頬に手を当て照れた仕草をするが、吐く言動は物騒なものだった。
そしてダンは音もなく王様の乗るゴリアテの横に移動すると日記を読む。
「『疑似的ダンジョンコア』または『疑似スポット』」
『――それは私の考えた言葉! ってそれは私の日記か!?』
聞こえてきた単語は世にあるものではなく、自らの創作した言葉だったので聞き覚えのあった王様がゴリアテから飛び降りてダンを見た。
「王様? 今は、この塔そのものがダンジョンですよ?」
ダンに言われて王様の動きが止まった。
『ダンジョン?』
『王様の日記? ちょっとソレ見せなさい!』
アレックスはまだ良く分かっていない表情をして、エミリーはダンの手にした日記に興味を示したので、軽く放物線を描くようにエミリーへと放った。
それを受け取り食い入るように見始めたエミリー。
3人とも動きが止まったこのタイミングで、ダンは更なるダメ押しをすることにした。
武器ポーチから鞘を抜くと、さらに内部のコクシン・テットウサイを抜き放ち、鞘を床へと置いて構えた。
その構えは、右手は顔の横に置いてコクシン・テットウサイを持ち、左手は眼前に突き出して刀の峰を支えるように構える。そして視線の先と刃先を合わせて狙いを定めた。
「ダン流刀術で、この技は唯一の活殺技になります」
そう前置きをしたダンは深く深呼吸をした。そして十分な息を吸い込んだところでその目が見開かれる。
『ダン流刀術・鎧落とし!』
『ダン流刀術だと!?』
何か王様が驚いた顔をした気もするが、ダンはこれから放つ技に集中していたので詳細は分からなかった。
ダンの右腕が猛烈な速度で前後へと振られる。併せて手にしたコクシン・テットウサイが黒い筋となって王様を含めた3人へと向かった。
だがその黒い筋は3人の体に直接吸い込まれることはなく、その3人の体の表面を撫でる様に幾本も走っていく。
ダン流刀術・鎧落とし。
鎧通しという概念がある。
これは鎧すらも貫けるほどの鋭く厚みのある刀身で鎧の装甲を一点集中で貫く。というものだ。
硬い装甲を持つ魔物や重厚な盾など高い防御力を打ち破る一つの攻撃方法。しかしコレは相手を殺していい場合は選べるが、相手を殺したくない時には使えないものだ。
何せ鎧にしろ装甲にしろ盾にしろ、全てその向こう側は相手の生身の体があるのだから、貫いた時点で止めるというのは非常に困難であるからだ。
そんな相手に初代ダンは出会ってしまい、幾日も苦悩した末にある結論へと達した。
『鎧を貫くのではなく、鎧を落としてしまえばいいんじゃないか?』
武器破壊ならぬ防具破壊。
武器を破壊しても相手によっては戦意が折れない者もいるが、武器と併せてその身を守る防具も破壊してしまえば大体の者は戦う気持ちが維持できるものではない。
まあ初代ダンを含めた剣の里の猛者ともなれば、たとえ裸一貫になろうとも戦意が折れることはそうそうないのだが。
そうして生み出された『ダン流刀術・鎧落とし』の本質は『削り』だ。
鎧だろうが装甲だろうが、防御する以上は相手にその防御面を向けていなければならない。その接している面の装甲を幾度となく撫で斬りしていき、最終的に鎧の装甲を削り切る。
削り切るとどうなるか?
繋がって覆っているから装甲として成り立っているのであって、そこの一部や複数が切られればもはやそれは鎧ではない。
連続した突き切りで幾度も切られた王様と騎士アレックスとメイドのエミリーは、しかしその姿になんら異変は生じていなかった。
「ふぅ」と息を吐いてダンの攻撃が終わる。そのダンはやり切った顔をして床に置いた鞘を持つとコクシン・テットウサイを納刀した。
『まて、お主のそのカタナは』
王様がダンへと一歩近づく。
パラリ
『ん?』
『は!? 王よ、不用意に近づいては――』
アレックスが正気を取り戻して腕を上げて王様を制止しようとした。
ガラン、ガラガラ
『な?』
『おっと? 思わず日記を読み込んでしまいまし――』
エミリーが読み込んでいた日記から顔を上げる。
パタパタパタ
『へ?』
「唯一『ダン流刀術』でイアイを使わない技『鎧落とし』。人は恥ずかしいと戦えない」
『ぬおおおおおお!?』
『あああああああ!?』
『きゃああああああ!』
裸に剥かれた3人の悲鳴が響き渡った。
「え~っと、話は出来そうですか?」
『ああ、可能だぞ。ダンの末裔よ』
あの後、王様とアレックスには大きめの布を渡して身にまとってもらい、エミリーには脱ぎ捨てたメイド服を再度着てもらうことで、ようやく王様達と会話をすることが可能となった。
そして王様が口を開く。
『それで王位を簒奪したい。という話だったかな?』
「なんでそうなるんですか!?……やはりまだ正気ではない?」
ダンは疑いの目を王様に向けつつ、何度か手刀で空を切ってみる。それを見た王様が慌てて訂正をした。
『大丈夫! 話は聞けるから素振りをするな! しかし王家の血筋が入っているダンの末裔ならば、そう考えてもおかしくはなさそうなのだが? 私の知っている何代目あとかは分からんが、『北の地』はもう封印出来ているのだろう?』
「いえ? まだ『北の最前線』は攻略中ですよ。というかウチって王家の血筋が入ってるんですか?」
『ん?』
「え?」
それぞれに興味が無いことには割と無頓着な2人はお互いに顔を傾げる。
「「「えええ~! 王家の血筋!?」」」
『『もう一つの王家!?』』
当事者たちよりも、その周囲の方が大きく驚いていた。
――――――――――――
ここ数日ポイントが増えないなぁと思いながら
お話をポチポチ書いていましたが、
『公開してない』ことにやっと気づいた。
思い返せば『新しい話追加』ボタンの隣に、
いつも戦々恐々としている『一括未公開』ボタンが
無いことに気づくべきだった。
という訳で3話一気に連続公開します。
「大丈夫ですかダンさん!」
真っ先に寄ってきたリルがダンの顔を覗き込みながら言う。
ダンは両手を目の辺りに当てているので他の部分を見て取ることが出来たが、頬や口などには特別火傷など怪我の様子は伺えなかった。
「あああ~~~」
それでもダンは手を顔に当ててフラフラとしていた。
何か状態異常かと他の仲間達も心配していると、ようやくダンが顔からその手を離した。
「あ~~、目がチカチカする」
瞬きをしながら自分の手や周りの景色を見るダン。
どうやら強烈な光を受けて目が痛みを訴えていただけの様だ。
「「「うん。知ってた」」」
内心は(若干ではあるが)最悪の事態を想定していた仲間達は、あっさりとダンが復帰したのを理解した。
そもそも訓練の模擬戦の際にも、火の魔法や斬撃などをその身に受けてケロリとしているダンだ。いかに珍しい魔法とはいえ、そんなダンが怪我をするとは到底思えない。
でも一応聞いておく。
「体は問題ないんですかダンさん?」
そう言われてペチペチと自分の顔を叩き、手や胸から下を見て自分でも確認するダン。
「……問題無いみたいですね? というか、僕よりもあちらは騒がしいですが」
そうダンに言われて全員がそちらを見る。
『ぐあああ!?』
魔法王ルフは自分の手の平を見つめながら苦悶の声を上げた。
先程、放った相手の負のカルマの量によってダメージの変わる特殊な聖属性魔法であるホーリーライトを使ったのだが、自分の放った魔法でダメージを受けるという魔法を覚え始めた頃にしか体験したことのない現象に襲われたからだ。
『まさか魔法の逆流現象を起こす、とは?』
魔法の逆流現象とは、放つ魔法の強度を越えた魔力を注いだり、魔法のイメージなどの構築が不十分な時に余った魔力が自分へと傷を与える現象のことだ。
特に魔法を使い始めた初心者が、魔法を使う際に無理に力んだりしたとき魔力配分を失敗して起こる。
だがルフは自身のダメージを負った手を見て別の事を考えていた。
ダメージを受けた手の平は妙に青白い色をしていたのだ。
『王よ! 無事ですか!?』
『王様! やられたのですか?』
自分を心配して戦闘を切り上げて近寄ってくる信頼できる仲間であるアレックスとエミリー。
その2人の顔や肌もよく見れば青白い肌をしている。特にエミリーは肌の露出が多いからより分かりやす――
『って、冒険者時代の戦闘服じゃないか!?』
『あらやだ。急いでいたので着替えを忘れましたわ』
テヘと表情に乏しい顔で舌を出すエミリー。メイド服を着ている時には見慣れたものだが、冒険者時代にはそんなことをしたことが無かったので違和感しかない。そもそも冒険者の時はもっと表情が豊かだったのだが。
『――とそんなことよりも2人とも、ちょっとそのまま動くんじゃないぞ』
ルフはその2人へ向けて手を突き出した。
『王?』
『そんな、こんな人前で……』
アレックスはともかく、エミリーは何か勘違いをしているようだ。というか冒険者時代の性格が若干戻ってきているのか、セレスとよく言い合いをしていた時のような雰囲気が覗える。
頼むから、変な事を言ってセレスの怒りが私に落ちてくるようなことはやめてほしいのだが。
そうなると問題を起こしたエミリーではなく、なぜか私が激しく折檻されるからだ。
余計な事は考えないようにして、『魔力調整』を行い自身が望む魔法を脳裏に描き、さらにイメージを補強するように詠唱を唱える。
普通の魔法であれば詠唱はほとんどいらないが、私が開発したいくつかの魔法はより確かなイメージを持って行使しないと発動すらしない、超高難易度の魔法も開発しているのだ。その内の一つを記憶より呼び出していく。
『知識の神の座。そこにある知識の泉より紡がれし詞を我が元に――』
神属性と名付けた、世界のシステムにアクセスすることが可能な属性魔力を行使しようとしたとき、私の耳にその声が聞こえてきた。
「――王の無茶ぶりに近衛達から苦情が来る。明日にでも遠回しだとしても伝えようと思った」
『――なんだって?』
思わず詠唱を止めて聞き返してしまった。
『んな!? その日記は!』
同時にアレックスの狼狽した声が聞こえ、それが虚飾でもなんでもないアレックス自身が考えた事だと確信を持った。
ダンに指さされそちらを見ると、王様と騎士とメイドたちが何やら集まって話をしているのが見えた。
悲鳴を上げていた王様も何やら神妙な顔をして話しているところを見ると、戦闘以外の事に意識が向いているのが分かった。
「お、気が逸れてる?……う~ん。もう少し別の事で気を散らして話が出来るくらいになって欲しいですね――あ」
その様子を見ていたダンが何かを思い出したのか、マジックバッグを下ろして中を漁り始める。しばらくして目的のモノを探し当てたのか、ダンがバッグから抜いた手には3冊の本が握られていた。
「え? ダンさんソレって」
その本の正体に気づいた者が声を掛けるが、ダンは「ちょっと行ってきますね~」と軽いノリで最近見た時と同じように存在感が薄れていきその姿が見えなくなった。
全員がダンは何処に行ったのかと探す中、リルとロウキが鼻を利かせてダンが何処に行ったかを教えてくれた。
「「あそこ」」
そう指さすのは王様達の方向だった。
まずその姿が現れたのは騎士アレックスの背後だった。そして手にした本の1冊を持って言う。
「王の無茶ぶりに近衛達から苦情が来る。明日にでも遠回しだとしても伝えようと思った」
『んな!? その日記は!』
振り返ってダンの姿を見て、さらにその手にした本を見たアレックスが驚愕の表情を浮かべる。慌ててダンへと手を伸ばすが、その姿はジワリと消えた。
残像だった。
ついで現れたのはメイドのエミリーの背後。
「連日連夜の『秘薬』で王も大ハッスル。セレス様公認なのでアプローチし放題」
『え!? 私は何も聞いてないぞ??』
これには王様の方が反応した。
『乙女の秘密をバラすとは……。殺しますよ坊や?』
エミリーは頬に手を当て照れた仕草をするが、吐く言動は物騒なものだった。
そしてダンは音もなく王様の乗るゴリアテの横に移動すると日記を読む。
「『疑似的ダンジョンコア』または『疑似スポット』」
『――それは私の考えた言葉! ってそれは私の日記か!?』
聞こえてきた単語は世にあるものではなく、自らの創作した言葉だったので聞き覚えのあった王様がゴリアテから飛び降りてダンを見た。
「王様? 今は、この塔そのものがダンジョンですよ?」
ダンに言われて王様の動きが止まった。
『ダンジョン?』
『王様の日記? ちょっとソレ見せなさい!』
アレックスはまだ良く分かっていない表情をして、エミリーはダンの手にした日記に興味を示したので、軽く放物線を描くようにエミリーへと放った。
それを受け取り食い入るように見始めたエミリー。
3人とも動きが止まったこのタイミングで、ダンは更なるダメ押しをすることにした。
武器ポーチから鞘を抜くと、さらに内部のコクシン・テットウサイを抜き放ち、鞘を床へと置いて構えた。
その構えは、右手は顔の横に置いてコクシン・テットウサイを持ち、左手は眼前に突き出して刀の峰を支えるように構える。そして視線の先と刃先を合わせて狙いを定めた。
「ダン流刀術で、この技は唯一の活殺技になります」
そう前置きをしたダンは深く深呼吸をした。そして十分な息を吸い込んだところでその目が見開かれる。
『ダン流刀術・鎧落とし!』
『ダン流刀術だと!?』
何か王様が驚いた顔をした気もするが、ダンはこれから放つ技に集中していたので詳細は分からなかった。
ダンの右腕が猛烈な速度で前後へと振られる。併せて手にしたコクシン・テットウサイが黒い筋となって王様を含めた3人へと向かった。
だがその黒い筋は3人の体に直接吸い込まれることはなく、その3人の体の表面を撫でる様に幾本も走っていく。
ダン流刀術・鎧落とし。
鎧通しという概念がある。
これは鎧すらも貫けるほどの鋭く厚みのある刀身で鎧の装甲を一点集中で貫く。というものだ。
硬い装甲を持つ魔物や重厚な盾など高い防御力を打ち破る一つの攻撃方法。しかしコレは相手を殺していい場合は選べるが、相手を殺したくない時には使えないものだ。
何せ鎧にしろ装甲にしろ盾にしろ、全てその向こう側は相手の生身の体があるのだから、貫いた時点で止めるというのは非常に困難であるからだ。
そんな相手に初代ダンは出会ってしまい、幾日も苦悩した末にある結論へと達した。
『鎧を貫くのではなく、鎧を落としてしまえばいいんじゃないか?』
武器破壊ならぬ防具破壊。
武器を破壊しても相手によっては戦意が折れない者もいるが、武器と併せてその身を守る防具も破壊してしまえば大体の者は戦う気持ちが維持できるものではない。
まあ初代ダンを含めた剣の里の猛者ともなれば、たとえ裸一貫になろうとも戦意が折れることはそうそうないのだが。
そうして生み出された『ダン流刀術・鎧落とし』の本質は『削り』だ。
鎧だろうが装甲だろうが、防御する以上は相手にその防御面を向けていなければならない。その接している面の装甲を幾度となく撫で斬りしていき、最終的に鎧の装甲を削り切る。
削り切るとどうなるか?
繋がって覆っているから装甲として成り立っているのであって、そこの一部や複数が切られればもはやそれは鎧ではない。
連続した突き切りで幾度も切られた王様と騎士アレックスとメイドのエミリーは、しかしその姿になんら異変は生じていなかった。
「ふぅ」と息を吐いてダンの攻撃が終わる。そのダンはやり切った顔をして床に置いた鞘を持つとコクシン・テットウサイを納刀した。
『まて、お主のそのカタナは』
王様がダンへと一歩近づく。
パラリ
『ん?』
『は!? 王よ、不用意に近づいては――』
アレックスが正気を取り戻して腕を上げて王様を制止しようとした。
ガラン、ガラガラ
『な?』
『おっと? 思わず日記を読み込んでしまいまし――』
エミリーが読み込んでいた日記から顔を上げる。
パタパタパタ
『へ?』
「唯一『ダン流刀術』でイアイを使わない技『鎧落とし』。人は恥ずかしいと戦えない」
『ぬおおおおおお!?』
『あああああああ!?』
『きゃああああああ!』
裸に剥かれた3人の悲鳴が響き渡った。
「え~っと、話は出来そうですか?」
『ああ、可能だぞ。ダンの末裔よ』
あの後、王様とアレックスには大きめの布を渡して身にまとってもらい、エミリーには脱ぎ捨てたメイド服を再度着てもらうことで、ようやく王様達と会話をすることが可能となった。
そして王様が口を開く。
『それで王位を簒奪したい。という話だったかな?』
「なんでそうなるんですか!?……やはりまだ正気ではない?」
ダンは疑いの目を王様に向けつつ、何度か手刀で空を切ってみる。それを見た王様が慌てて訂正をした。
『大丈夫! 話は聞けるから素振りをするな! しかし王家の血筋が入っているダンの末裔ならば、そう考えてもおかしくはなさそうなのだが? 私の知っている何代目あとかは分からんが、『北の地』はもう封印出来ているのだろう?』
「いえ? まだ『北の最前線』は攻略中ですよ。というかウチって王家の血筋が入ってるんですか?」
『ん?』
「え?」
それぞれに興味が無いことには割と無頓着な2人はお互いに顔を傾げる。
「「「えええ~! 王家の血筋!?」」」
『『もう一つの王家!?』』
当事者たちよりも、その周囲の方が大きく驚いていた。
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『公開してない』ことにやっと気づいた。
思い返せば『新しい話追加』ボタンの隣に、
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無いことに気づくべきだった。
という訳で3話一気に連続公開します。
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