元兵士その後

ラッキーヒル・オン・イノシシ

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意外と知らない本人の評価を聞く

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 ギルドマスターの、それはそれは見事な土下座でした まる

「あんなに謝ることはないと思うんですけど?」
「いえいえ、『王都一の助っ人』とも呼ばれたダン隊長を気づかなかったとはいえ、不審者扱いをしてしまったことは実にこちらの不手際と言えますので」
 おでこが赤くなっている顔で至極真面目な表情をしながら、ダンと向かい合わせに座っているボッカの街のギルドマスター――名前をハドソンと言う――は何度もペコペコとしながら謝っていた。
 話を聞けば割と最近まで――とはいえダンが王都を出る前くらいの事だが――王都のギルドで仕事をしていて、ダンの顔をよく見ていたらしい。

 ちなみに王都におけるダンの生活スタイルは、

 起床→訓練→見回り→公衆浴場→就寝

 といった具合だ。

 サラリと公衆浴場が入っているがダンも街中で砂洗浄をするわけもなく、近くにあるのだからと毎日公衆浴場に入りに行くほどの風呂好きだった。
 そして訓練→見回りの部分が時に『仕事』に入れ替わり、その中でも冒険者ギルドからの情報で動く場合もあった。
 そして王都での生活サイクルが、先に挙げたようにほぼ確立しているダンが冒険者ギルドへ行くとなれば、それなりに身綺麗な状態で訪れることとなる。
 まあ意外でも何でもないが、王都の住人で『砂被り状態』のダンを見たことのある人はそう多くはなかったのだ。

「しかし、なにゆえランクDの冒険者カードをお持ちで?」
「え? 普通に登録して作ったからですが?」
『『『『絶対そういう意味で言ったんじゃない!』』』』
 置いてけぼりの状態であるが、この部屋には現在ダンとギルドマスターのハドソンにイチカ達獣人3姉妹とギルド職員のヘルチカが居る。
 絶妙にかみ合っていない会話をする2人を横に、手近な椅子に座って会話を聞くだけの置物と化していたのである。

『どうゆうことだよミカ! ダンさんがあのだって知ってて救援要請したのか!?』
『そんな気遣い出来る状態じゃなかったよイチカねぇ!』
『ヘルチカちゃん知ってた?』
『わわ、私も今初めて知りましたよ~! 正直最初にギルドに来た時にはかと思うくらいにボサボサの埃だらけだったんですから~!……まあ、討伐した記録は異常でしたけど』
 小声で怒鳴りあうという器用な事をする女性4人。

「ほぉ……。なるほど身分を隠すために、ですな?」
「いやいや、普通に発行してもらっただけなんですけどね?」
「しかしニアラの街で発行したということですが、もう少し日付を遡った方が自然だったのでは? これでは最初に登録してからほぼ移動していることになりませんかのぉ?」
「実際、同じ場所には1月くらいしか留まっていませんからねぇ。それ以外は移動してましたよ?」
 ハドソンが存在しない裏事情を読み、ダンが真実を告げる。

 当然、同席している女性陣も話を聞いているが、どちらが正しいのかなんてわからない会話だ。
 そっと目を逸らして、テーブルの上に置かれたヘルチカが淹れたお茶を見て、そしてゆっくりと飲んでいた。必死に、全力で空気になろうとしている。
「して? そこの3姉妹が揃っているという事はオークの集落については問題解決。ということでしょうかな?」
 ようやくハドソンが本題へと入ってくれた。
「そうですね。まあ正しく言うと、オーク集落でしたけど」
「オーガが占領ですと?」
「おそらく進化したことによってオーガになった個体でしょうね。まあ『おそらく』と言葉は付きますが。とりあえず集落自体は再利用されないように、に変えてきましたから大丈夫だとは思いますが」

『更地?』
『いや~、あれは凄かったよ。こう、バコーン! ボコーン! って魔法使いがやったみたいに、で小屋とかが潰れるんだぜ?』
『それは流石に嘘でしょう~』というヘルチカに、3姉妹が揃って『ホントホント』と口をそろえて言う。

「さすが『地竜潰し』のダンさんだ。オーガ程度では何の問題もなかったようで」
「あ~、『地竜潰し』は少し誇張してる呼び方ですよ? あの時は第1軍と協力して倒しましたからね。僕一人の功績じゃあない」
「あれは王都まで響いた音が、地竜をと市民の口に上がった名ですからね。真実はどうだったのかは2つ名では重要ではない一例ですな」

『地竜潰し、って元大手クランの『大陸』のメンバーがほとんどいる第1軍って軍がやったんじゃなかったっけ? メンバーの大半が人種じゃない亜人種のはずだろ? ダンさんも実は人種じゃないのか?』
『いえ? 冒険者カードに記載された情報は間違いなく『人種』でしたよ?』
『匂いも特に普通の人種っぽい感じがしたけどねぇ?』

「ふむ……。森の危険度は高いと思いますかな?」
「断言は出来ませんけど、大丈夫なんじゃないかな? それよりも王都近くなのに、ウチの見回り組は何をやっているんでしょうね。王都に着いたら一回、アイツラと面と向かって話し合いの場でも作りますか」
 一瞬ダンから発せられた寒気を伴う覇気に、ダンの事をあれこれと予想しながら話していた女性陣が「ひえぇ!?」と震える。
「ふおぉ!?」とハドソンはダンの正面に座っていたせいか、ビクリビクリと体全体を震わせていた。

 ちなみにダンの言った見回り組というのは正式な名前や部隊の事ではなく、主にダンが長期に渡って王都から離れる任務に就いた際にダンの任務を任せていたメンバーのことである。
 ダンはまだ内心では除隊届が有効であると思っているので、軍からダンが居なくなった後、今までダンがやっていた仕事は彼ら彼女らが仕事を引き継いでやっているものと思っていたのだ。
 何せダンがほとんど一人でやっていたような仕事量だ。
 手分けしてやっていればダンが抜けた後も同じ仕事量をこなせるはずだと考えていた。


 実際のところ、それは不可能に近いのだが。


 ダン自身の機動力に戦闘能力。
 それを持ってして完遂されていた王都周辺よりも外の巡回視察を同じようにこなそうと思ったら、各街に最低50名以上は配置して日々ローテーションを回すくらいはしないと同じ効果が得られると思えない。
 誰が、

 街から街の間を1日で駆け抜け、
 とんでもない広域を1人で索敵し、
 敵が居れば即殲滅。

 なんて芸当の出来る人物が居るというのだろうか?
 事実、見回り組がダンから後を任された時は全員が全員、まさに『死力を尽くして』仕事に当たっていたのであった。
 下手に手を抜いて仕事をしていた結果、万が一にもダンの怒りを買うような事態になってしまった場合、ダンの訓練が待っているのが目に見えていたからである。
 まあ実際にそうなったときは、流石にダンも鬼のような訓練を行うことはないのだが。

「――そういえば近頃王都では何か儀典でも行われるのでしょうか?」
 話題を逸らす為だろうか、ハドソンの話題にダンは無意識に出していた闘気オーラを引っ込めつつ聞き返した。
「儀典、ですか? ちょっと僕は聞いてませんけどそう言われるという事は、何かそう思う根拠があるということですか?」
「そうですね。最近、貴族の方たちが私兵を連れて王都に向かっていく姿が目撃されます。供回りとしてもは多いですからね。あれだけの人を動員するとなると、何かしらの儀典を行われるのかと」
「え? ちょっと待ってください、どれだけの人数が通過したんですか?」
 さすがにダンもその言葉に驚いて動揺してしまった。
 それはダンの常識からすれば、事態であったからだ。
 だがハドソンの次の言葉に、ダンは愕然としてしまった。

「そうですね……。このボッカの街を通り抜けたのは、おそらくは居たでしょうね」
「そんな! まさかあり得ない!!」
 急な大声を上げるダンに部屋に居た全員の視線が集まる。
「ど、どうなされたのですかダンさん?」
 そんな様子のダンに、ハドソンが何とか声を掛ける。
「――分かりません。分かりませんが、なにか王都で起こっているのは間違いなさそうですね」
「え? それはどういう――」
「クロフォード王国は各貴族に戦力を持たせることを禁じてはいません。しかしなどを防止するために王都への過剰な戦力の持ち込みを禁じています」
 飛行系の魔物や極端な話、竜などのとんでもない存在でもなければ、王都に近づく前に王都の外周部とも言える各街や貴族の領地で防ぐことが出来る。その為に王国軍は2つの軍団としての戦力しか備えておらず、ダンが調べたところではその戦力ですら年々縮小してきているという。
 かわりに王国としての財政は潤沢なものらしいが。

 『過剰な戦力』という言葉に獣人3姉妹の視線がまたダンに向いたが、ダンはそれを気にせずに続ける。 
「そもそも『自領の安全』の為に許可された戦力を移動させることにも問題が出てくるんですけど……。これは王都に急いでいく必要がありそうですね」
 さすがに縮小されたとはいえ王都にはクロフォード王国が持つ最大の武力である王国軍がある。
 しかしダンは王都の方角を見ながらも、その胸中には言い知れぬ不安が沸いてきていた。


『……あっちは北の方角なんじゃが?』
 ハドソンはダンの雰囲気に思っていることを胸の内にしまい込んだ。

 ボッカの街。王都の東に位置する街である。
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