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第一章
第1話 奴隷として家族に売られました
しおりを挟む……頭が痛い
何でこんなにズキズキするんだ?
ああ、そっか。
さっき、無理矢理両手を縛られそうになったから抵抗をして。
そしたら後頭部に強い衝撃、痛みを感じた。多分、鈍器で殴られたのだろう。
僕が気絶している間に、両手に手枷と足枷が付けられたみたいだ。鉄で出来たそれは、当然外すこともできず、動くことすらままならない。それに口には猿ぐつわを噛まされていて喋ることもできない。
それでも何とか上体を起こし、周りを見回す。
ここは一体……?
目の前には派手に着飾った多くの客たちがいる。皆仮面のようなものを付けているな。
ということは、ここは競売所の舞台の上か。
「おお、本当にブラッドレッドだ」
「何て美しい瞳なの?」
大衆のざわめく声が聞こえる。僕が目を覚まし身体を起こしたことに、少し驚いているようだ。
「……っっ!?」
僕は我に返り自分の姿を見る。
そういえば気絶させられる前、局部のみを覆い、尻に食い込む紐のような下着を履かされ、上は半透明な衣を羽織らされていた。
悪夢だ……こんな恥ずかしい姿を今、多くの人間に見られているのか?
首には首輪が嵌められていて、鎖で繋がれた状態。
その鎖を持っているのは屈強な男で、もう一方の左手には棍棒を持っていた。
奴隷が抵抗をした時、それで叩きつけるつもりなのだろう。
僕の後頭部を叩きつけて気絶させたのも、多分この男だ。
「さぁ、犬のように四つん這いになれ。その姿をお客様にご披露しろ」
男に命じられ僕は猿ぐつわを噛みしめながらも言われたとおりにする。
すると男は野卑な笑みを浮かべ、さらに僕に命じてきた。
「尻を突き上げるようにしろ。お客様の中にはお前の尻の形や色具合を気にしている者もいるからな」
「……っっ!」
僕はかたく目を閉じて、言う通りの格好をする。すると客席から、嬉しげな歓声があがる。
何で、何で、僕はこんな恥ずかしい格好をしなきゃいけないんだ?
犬のように四つん這いになって、尻を持ち上げて。
嫌だ……早く終われ。
こんな屈辱的で恥ずかしい時間、これ以上続いたら気が狂いそうだ。
「さぁ、ご覧ください!本日のメインはなんと隣国の侯爵家、ティムハルト家の元令息!!ブラッドレッドと呼ばれる不吉な瞳を持っていた為、一族からは忌み嫌われておりました。しかし我が国ヴィングリードでは皆様もご存知の通り、ブラッドレッドは、神秘!! 富の象徴です。恐らく手元に置いておくだけでも幸運が訪れることでしょう!!」
ヴィングリードといえば、世界屈指の軍事国家として名を馳せている。
争いを嫌う祖国アーネルシアにとっては、僕の瞳は戦を呼ぶ凶兆の象徴とされているけれど、富、発展の為ならば争いを厭わぬヴィングリードにとって、僕の目の色は吉兆の象徴とされているみたいだ。
今はそんなことよりも、こんな屈辱的な格好を皆に見られているのかと思うと恥ずかしさのあまり、死にたくなる。
猿ぐつわを噛まされているのも、僕と似たような境遇の奴隷が、舌を噛んで死のうとすることがあるからだろう。
後頭部の痛みと恥辱に頭の中が真っ白になった瞬間。
「…………っっ!!」
僕の中で膨大な情報が突如湧いた温泉のようにあふれかえった。
それは過去の記憶。
しかも生まれる前の記憶だ。
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