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第二章
第33話 アークライト城帰還
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アークライト城
考えてもみたら僕はこの城の外観を見るのは初めてだった。
小高い丘の上に立つ堅牢たる城、三つの黒い屋根の尖塔とは対照的に、真っ白な壁が印象的だ。
日が暮れて白壁のアークライト城は今、茜色に染まっていた。
ちなみに城門前までは瞬間転移魔法で移動している。全員、この魔法は使えるんだよね。
門兵たちはゼムベルトの顔を見た瞬間敬礼をし、城門を開けた。
前庭は綺麗に整った芝生、城内へ続く石畳の道が続く。
城内の玄関に入ると、イプティーがこちらに走り寄って来た。
彼は僕の顔を見て目を潤ませてから、ゼムベルトの前に跪いて言った。
「殿下、それにジュノーム様、よくぞご無事で」
「イプティー、心配をかけたな。ジュノをいつもの部屋へ。その隣の部屋にこの客人を。ジュノームの捜索に協力をしてくれた恩人だ」
「かしこまりました。ジュノーム様、お怪我はありませんか?」
イプティーは僕の元に歩み寄り心配そうに声をかけてくる。
彼には何度謝っても足りない。
きっと彼は城を出て行った僕を止められなかったことに責任を感じていただろうから。
「僕は大丈夫だよ。イプティー、本当に心配をかけてごめん」
「もう二度と、突然私の前から姿を消さないでください」
俯くイプティーの声はかすかに震えていた。
本当は僕のことを叱りたい気持ちなのだろうけど、でもそれ以上に僕の身体のことを案じてくれている。
「本当にごめん……」
「ジュノーム様が無事で何よりでした。だけど、本当に心配したんですからね!」
最後の方はやや怒った口調で言ってから、ぷいっと踵を返すイプティー。
ゼムベルトは苦笑してから僕の肩を叩いた。
「しばらくは拗ねていると思うが、ああ見えて、君が戻ってくるのを心待ちにしていたからな」
ゼムベルトの言葉に僕は頷いた。
拗ねられても仕方がないし、嫌味の一つや二つ言われても仕方がないと思う。
それでも僕のことを待っていてくれた、という言葉に温かい気持ちになる。
生まれ変わってからは、誰かが僕を待っていてくれるってことはなかったからね。
◆◇◆
「ここがノア様のお泊まりになる部屋です」
「おお、すげぇな! さすが帝城の客室だな」
イプティーに案内され客室に入ったノアは声を弾ませた。そんじょそこらの貴族の部屋よりもかなり広い部屋なものだから大感激したみたいだ。
その隣の部屋が、以前僕が滞在していた部屋で、久々に入ると気持ちがほっとした。
何だか帰って来たって感覚がする。
いつの間にかここは僕の居場所になっていたのかな……。
「オルティス様が戻りましたら、応接の間にご案内します」
「オルティスはどこかへ出掛けているのか?」
「はい。皇室が経営している孤児院に月に一度訪れているようです。他にも用事があるようなので帰ってくるのはいつも日が暮れる頃になるのですが」
「そういえばそんなことを言っていたな。情報を得にギルドの館にも行っているらしいね」
「ええ、だから驚きましたよ。ルンダーナ山近くのギルドの館を訪れたオルティス様から、あなたとよく似た特徴の人物が冒険者として働いているという報告を受けた時には。それを聞いた殿下は、何もかも放り出して城を飛び出していったのですからね」
「……」
……何もかも放り出して僕を探しに行ったのか。
僕が出て言ったことで、色々な人に迷惑を掛けてしまったみたいだな。今更ながらにとんでもないことをしていたんだな、と自覚する。
それにあの僻地にあるギルドの館にまでオルティスが訪れていたのにも驚きだ。
瞬間移動魔法を使ったとしても、魔将軍だったオルティスでも半分の魔力を消費する。
どうがんばっても移動するだけで一日仕事になるから、多忙な身であるオルティスが此処に来ることはないだろうと、僕も高をくくっていた。
それだけ必死に探していたんだな、僕のことを。
もう二度と黙って城を出て行くようなことはしない。出て行くとしても、ちゃんと話し合わないと駄目だね。
多分、オルティスにも小言を言われるんだろうな。あいつは前世の時からけっこう口うるさい奴だったからな。
う……魔王だった時、一人でオーク族の軍勢を片付けにいった時も、こっぴどく叱られたこと思い出してしまった。
『魔王様、お一人でオーク族の軍勢に挑むなど危険すぎます。今度から黙ってお一人で行くような真似はやめてください』
『いや、オークの軍勢なんか余裕で勝てるし。僕が片付けた方が早いじゃないか』
『あなたは唯一無二の方なのですよ!? あなたの命を狙うのは人族だけじゃなく魔族の中にもいるのですから。ももう少しご自分の立場を考えて行動してください』
『はーい』
『返事は短くお願いします』
『……はい』
僕は前世でも今世でも親に叱られた記憶がないんだけど、親に怒られる感覚ってああいう感じなんだろうなって思ったものだ。
あいつの説教がどれくらい長く続くかわからないけれど……まぁ、謝るしかないよね。オルティスも僕を探すために相当無理をしてきている筈だから。
考えてもみたら僕はこの城の外観を見るのは初めてだった。
小高い丘の上に立つ堅牢たる城、三つの黒い屋根の尖塔とは対照的に、真っ白な壁が印象的だ。
日が暮れて白壁のアークライト城は今、茜色に染まっていた。
ちなみに城門前までは瞬間転移魔法で移動している。全員、この魔法は使えるんだよね。
門兵たちはゼムベルトの顔を見た瞬間敬礼をし、城門を開けた。
前庭は綺麗に整った芝生、城内へ続く石畳の道が続く。
城内の玄関に入ると、イプティーがこちらに走り寄って来た。
彼は僕の顔を見て目を潤ませてから、ゼムベルトの前に跪いて言った。
「殿下、それにジュノーム様、よくぞご無事で」
「イプティー、心配をかけたな。ジュノをいつもの部屋へ。その隣の部屋にこの客人を。ジュノームの捜索に協力をしてくれた恩人だ」
「かしこまりました。ジュノーム様、お怪我はありませんか?」
イプティーは僕の元に歩み寄り心配そうに声をかけてくる。
彼には何度謝っても足りない。
きっと彼は城を出て行った僕を止められなかったことに責任を感じていただろうから。
「僕は大丈夫だよ。イプティー、本当に心配をかけてごめん」
「もう二度と、突然私の前から姿を消さないでください」
俯くイプティーの声はかすかに震えていた。
本当は僕のことを叱りたい気持ちなのだろうけど、でもそれ以上に僕の身体のことを案じてくれている。
「本当にごめん……」
「ジュノーム様が無事で何よりでした。だけど、本当に心配したんですからね!」
最後の方はやや怒った口調で言ってから、ぷいっと踵を返すイプティー。
ゼムベルトは苦笑してから僕の肩を叩いた。
「しばらくは拗ねていると思うが、ああ見えて、君が戻ってくるのを心待ちにしていたからな」
ゼムベルトの言葉に僕は頷いた。
拗ねられても仕方がないし、嫌味の一つや二つ言われても仕方がないと思う。
それでも僕のことを待っていてくれた、という言葉に温かい気持ちになる。
生まれ変わってからは、誰かが僕を待っていてくれるってことはなかったからね。
◆◇◆
「ここがノア様のお泊まりになる部屋です」
「おお、すげぇな! さすが帝城の客室だな」
イプティーに案内され客室に入ったノアは声を弾ませた。そんじょそこらの貴族の部屋よりもかなり広い部屋なものだから大感激したみたいだ。
その隣の部屋が、以前僕が滞在していた部屋で、久々に入ると気持ちがほっとした。
何だか帰って来たって感覚がする。
いつの間にかここは僕の居場所になっていたのかな……。
「オルティス様が戻りましたら、応接の間にご案内します」
「オルティスはどこかへ出掛けているのか?」
「はい。皇室が経営している孤児院に月に一度訪れているようです。他にも用事があるようなので帰ってくるのはいつも日が暮れる頃になるのですが」
「そういえばそんなことを言っていたな。情報を得にギルドの館にも行っているらしいね」
「ええ、だから驚きましたよ。ルンダーナ山近くのギルドの館を訪れたオルティス様から、あなたとよく似た特徴の人物が冒険者として働いているという報告を受けた時には。それを聞いた殿下は、何もかも放り出して城を飛び出していったのですからね」
「……」
……何もかも放り出して僕を探しに行ったのか。
僕が出て言ったことで、色々な人に迷惑を掛けてしまったみたいだな。今更ながらにとんでもないことをしていたんだな、と自覚する。
それにあの僻地にあるギルドの館にまでオルティスが訪れていたのにも驚きだ。
瞬間移動魔法を使ったとしても、魔将軍だったオルティスでも半分の魔力を消費する。
どうがんばっても移動するだけで一日仕事になるから、多忙な身であるオルティスが此処に来ることはないだろうと、僕も高をくくっていた。
それだけ必死に探していたんだな、僕のことを。
もう二度と黙って城を出て行くようなことはしない。出て行くとしても、ちゃんと話し合わないと駄目だね。
多分、オルティスにも小言を言われるんだろうな。あいつは前世の時からけっこう口うるさい奴だったからな。
う……魔王だった時、一人でオーク族の軍勢を片付けにいった時も、こっぴどく叱られたこと思い出してしまった。
『魔王様、お一人でオーク族の軍勢に挑むなど危険すぎます。今度から黙ってお一人で行くような真似はやめてください』
『いや、オークの軍勢なんか余裕で勝てるし。僕が片付けた方が早いじゃないか』
『あなたは唯一無二の方なのですよ!? あなたの命を狙うのは人族だけじゃなく魔族の中にもいるのですから。ももう少しご自分の立場を考えて行動してください』
『はーい』
『返事は短くお願いします』
『……はい』
僕は前世でも今世でも親に叱られた記憶がないんだけど、親に怒られる感覚ってああいう感じなんだろうなって思ったものだ。
あいつの説教がどれくらい長く続くかわからないけれど……まぁ、謝るしかないよね。オルティスも僕を探すために相当無理をしてきている筈だから。
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