前世魔王だった僕は、前世勇者だった男に求婚されたので逃げ出しました

榎村まこと

文字の大きさ
33 / 76
第二章

第33話 アークライト城帰還

しおりを挟む
 アークライト城
 考えてもみたら僕はこの城の外観を見るのは初めてだった。
 小高い丘の上に立つ堅牢たる城、三つの黒い屋根の尖塔とは対照的に、真っ白な壁が印象的だ。
 日が暮れて白壁のアークライト城は今、茜色に染まっていた。
 ちなみに城門前までは瞬間転移魔法で移動している。全員、この魔法は使えるんだよね。
 門兵たちはゼムベルトの顔を見た瞬間敬礼をし、城門を開けた。
 前庭は綺麗に整った芝生、城内へ続く石畳の道が続く。
 城内の玄関に入ると、イプティーがこちらに走り寄って来た。
 彼は僕の顔を見て目を潤ませてから、ゼムベルトの前に跪いて言った。

「殿下、それにジュノーム様、よくぞご無事で」
「イプティー、心配をかけたな。ジュノをいつもの部屋へ。その隣の部屋にこの客人を。ジュノームの捜索に協力をしてくれた恩人だ」
「かしこまりました。ジュノーム様、お怪我はありませんか?」

 イプティーは僕の元に歩み寄り心配そうに声をかけてくる。
 彼には何度謝っても足りない。
 きっと彼は城を出て行った僕を止められなかったことに責任を感じていただろうから。

「僕は大丈夫だよ。イプティー、本当に心配をかけてごめん」
「もう二度と、突然私の前から姿を消さないでください」

 俯くイプティーの声はかすかに震えていた。  
 本当は僕のことを叱りたい気持ちなのだろうけど、でもそれ以上に僕の身体のことを案じてくれている。

「本当にごめん……」
「ジュノーム様が無事で何よりでした。だけど、本当に心配したんですからね!」

 最後の方はやや怒った口調で言ってから、ぷいっと踵を返すイプティー。
 ゼムベルトは苦笑してから僕の肩を叩いた。

「しばらくは拗ねていると思うが、ああ見えて、君が戻ってくるのを心待ちにしていたからな」

 ゼムベルトの言葉に僕は頷いた。
 拗ねられても仕方がないし、嫌味の一つや二つ言われても仕方がないと思う。
 それでも僕のことを待っていてくれた、という言葉に温かい気持ちになる。
 生まれ変わってからは、誰かが僕を待っていてくれるってことはなかったからね。

◆◇◆

「ここがノア様のお泊まりになる部屋です」
「おお、すげぇな! さすが帝城の客室だな」
  
 イプティーに案内され客室に入ったノアは声を弾ませた。そんじょそこらの貴族の部屋よりもかなり広い部屋なものだから大感激したみたいだ。
 その隣の部屋が、以前僕が滞在していた部屋で、久々に入ると気持ちがほっとした。
 何だか帰って来たって感覚がする。
 いつの間にかここは僕の居場所になっていたのかな……。
 
「オルティス様が戻りましたら、応接の間にご案内します」
「オルティスはどこかへ出掛けているのか?」
「はい。皇室が経営している孤児院に月に一度訪れているようです。他にも用事があるようなので帰ってくるのはいつも日が暮れる頃になるのですが」
「そういえばそんなことを言っていたな。情報を得にギルドの館にも行っているらしいね」
「ええ、だから驚きましたよ。ルンダーナ山近くのギルドの館を訪れたオルティス様から、あなたとよく似た特徴の人物が冒険者として働いているという報告を受けた時には。それを聞いた殿下は、何もかも放り出して城を飛び出していったのですからね」
「……」

 ……何もかも放り出して僕を探しに行ったのか。
 僕が出て言ったことで、色々な人に迷惑を掛けてしまったみたいだな。今更ながらにとんでもないことをしていたんだな、と自覚する。
 それにあの僻地にあるギルドの館にまでオルティスが訪れていたのにも驚きだ。
  瞬間移動魔法を使ったとしても、魔将軍だったオルティスでも半分の魔力を消費する。
 どうがんばっても移動するだけで一日仕事になるから、多忙な身であるオルティスが此処に来ることはないだろうと、僕も高をくくっていた。

 それだけ必死に探していたんだな、僕のことを。

 もう二度と黙って城を出て行くようなことはしない。出て行くとしても、ちゃんと話し合わないと駄目だね。
 多分、オルティスにも小言を言われるんだろうな。あいつは前世の時からけっこう口うるさい奴だったからな。
 う……魔王だった時、一人でオーク族の軍勢を片付けにいった時も、こっぴどく叱られたこと思い出してしまった。

『魔王様、お一人でオーク族の軍勢に挑むなど危険すぎます。今度から黙ってお一人で行くような真似はやめてください』
『いや、オークの軍勢なんか余裕で勝てるし。僕が片付けた方が早いじゃないか』
『あなたは唯一無二の方なのですよ!? あなたの命を狙うのは人族だけじゃなく魔族の中にもいるのですから。ももう少しご自分の立場を考えて行動してください』
『はーい』
『返事は短くお願いします』
『……はい』


 僕は前世でも今世でも親に叱られた記憶がないんだけど、親に怒られる感覚ってああいう感じなんだろうなって思ったものだ。
 あいつの説教がどれくらい長く続くかわからないけれど……まぁ、謝るしかないよね。オルティスも僕を探すために相当無理をしてきている筈だから。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。けれど付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...