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第二章
第34話 オルティスとの再会
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その後、イプティーに勧められ、軽く入浴をしてから身なりを整えた。
用意してくれている衣装は、どれも上質なものばかり。
絹のシャツに深緑色のチュニックに着替えた僕はイプティーの案内のもと応接の間に来た。
部屋の真ん中には円卓があり、それを囲うように肘掛け椅子が置かれている。
既に応接の間には先客がいた……一瞬誰かと思ったが、僕と同様身なりを整えたノアだった。
無精髭も剃り、ざんばらな髪の毛も整えた彼は秀麗な顔が際立っていた。
年は二十四歳だった筈だけど、やっぱり髭を剃ると僕とそんなに年が変わらないように見えるな。
背は僕より高いし、体つきも細身だけど精悍なもの。
僕はノアの右隣に腰を掛けた。
細やかな彫刻が施された椅子は、ベルベットの生地が心地よく柔らかな座り心地だ。
「ま、お城の中だからな。それなりの格好はしておかないとな。あ、服を用意してくれてありがとな、坊主」
「坊主じゃねぇよ。兄ちゃん」
剥れた表情でノアの後ろに控えている少年がいた。あ、炎の妖精族の子、アドラだったな。彼はどうやらノアの世話係を仰せつかったらしい。
しかし本人は全くと言って乗り気ではなく、さっきからそっぽ向いた状態。
イプティーが眉をひそめ、そんなアドラを咎める。
「アドラ、お客様に対してその態度は何ですか?」
「うるせぇな。俺はジュノーム先生のお世話をしたかったのに、何でイプティーがその役目なんだよ」
「私は最初からジュノーム様のお世話を仰せつかっているのです。未来の皇后になられるお方を、経験の浅いお子様には任せておけません。」
「これだから水の妖精族は嫌いだ。すかした態度で俺を馬鹿にしやがって」
「文句を言う前に、その言葉遣いを直すことですね」
炎の妖精族と水の妖精族はそもそも仲がよろしくない。
二人はツーンとそっぽ向いた状態だ。
ノアはやれやれと肩をすくめ、僕も苦笑いを浮かべ女官が出してくれたお茶を頂くことにした。
そこに扉が開かれ、ゼムベルトとそれからオルティスが入ってきた。
ゼムベルトが僕の右隣の椅子に腰掛けると、オルティスが僕の元に歩み寄り跪いた。
「ジュノーム様、無事にお戻りになり、このオルティス、今とても安堵しております」
「すまなかった、心配をかけたな」
「ええ、本当ぉぉぉに探し回りましたよ。ジュノーム様、あなたは非力な人族の上、未来の皇后になられるお方。もう少し自覚を持って頂かないと大いに困るのですよ」
ああ……懐かし。
そうそう、こういうやり取りをしょっちゅうしていたんだよな。
僕は顔が綻んでいたらしく、オルティスは訝しげに首を傾げる。
「何を嬉しそうな顔をしているのですか? 私は一応怒っているのですよ」
「怒ってくれるから嬉しいんだよ。僕を怒ってくれる人、なかなかいないからさ」
前世は前世で魔王という頂点にいたから怒られるなんてことなかったし、今世は今世で僕は疎まれていたから、僕の為に怒るような人はいなかった。
お前だけは僕に遠慮することなく怒ってくれたんだよな。
オルティスはそんな僕の台詞に少し複雑な表情を浮かべたが、気を取り直したように言った。
「とにかく今度は勝手に出て行くようなことはなさらないでください」
「はーい」
「返事は短くお願いします」
このやりとりも懐かしいな。
魔王だった時代、僕は真面目なオルティスのことをおちょくっていたりしたんだよな。
僕たちの会話を聞いていたゼムベルトは可笑しそうに笑いながら言った。
「まぁまぁ、オルティス。それぐらいにしてやって欲しい。それよりもお前に会いたいという人物がいてな。ジュノの捜索にも協力してくれた人物だ」
苛立っているオルティスを落ち着かせる為に、ゼムベルトはすぐに本題に入ることにしたようだ。
ノアは席を立ち手を胸の前に置いて一礼をする。
「ノアリス=フォレストロードと申します。フォレストロード伯爵家三男で、現在は冒険者として生計を立てております」
……ノアは、貴族だったのか? ノア=フォレストは本名を略した偽名か。
貴族の息子が冒険者って、親は何も言わなかったのかな?
それにしても敬語が似合わない。ノアがそんな言葉遣いをしていると、どことなく芝居がかって見える。
オルティスは何故か驚いたようにノアの顔を凝視していた。
「二人とも席に着きなさい」
ゼムベルトに勧められ、オルティスもノアも円卓の席に着いた。
二人は向かい合う形で座ることになる。
「……」
「……」
ノアもオルティスも一言も発しない。どっちかが先に喋って欲しいところだ。
……うーん、何だろ?
何とも言えない緊張感のようなものが二人の間に漂っているような。
ようやくオルティスが一度深呼吸をしてから口を開いた。
「私は宮廷魔導師のオルティス=ハインシュと申します」
オルティスは辛うじて平静を装った口調で自己紹介をする。……うん、平静を装っているんだよね。本来の彼は長老(!?)らしく、もっと、どっしりと構えているのだけど、今は何となく落ち着きがない。
喋る前に深呼吸をするなんて、何とも彼らしくない。
「オルティス……それはあなたの本名ですか?」
何故か確認をするようにノアはオルティスに尋ねてくる。
オルティスはオルティスで、どこかぎこちない口調で「私の本名です」と答えた。
用意してくれている衣装は、どれも上質なものばかり。
絹のシャツに深緑色のチュニックに着替えた僕はイプティーの案内のもと応接の間に来た。
部屋の真ん中には円卓があり、それを囲うように肘掛け椅子が置かれている。
既に応接の間には先客がいた……一瞬誰かと思ったが、僕と同様身なりを整えたノアだった。
無精髭も剃り、ざんばらな髪の毛も整えた彼は秀麗な顔が際立っていた。
年は二十四歳だった筈だけど、やっぱり髭を剃ると僕とそんなに年が変わらないように見えるな。
背は僕より高いし、体つきも細身だけど精悍なもの。
僕はノアの右隣に腰を掛けた。
細やかな彫刻が施された椅子は、ベルベットの生地が心地よく柔らかな座り心地だ。
「ま、お城の中だからな。それなりの格好はしておかないとな。あ、服を用意してくれてありがとな、坊主」
「坊主じゃねぇよ。兄ちゃん」
剥れた表情でノアの後ろに控えている少年がいた。あ、炎の妖精族の子、アドラだったな。彼はどうやらノアの世話係を仰せつかったらしい。
しかし本人は全くと言って乗り気ではなく、さっきからそっぽ向いた状態。
イプティーが眉をひそめ、そんなアドラを咎める。
「アドラ、お客様に対してその態度は何ですか?」
「うるせぇな。俺はジュノーム先生のお世話をしたかったのに、何でイプティーがその役目なんだよ」
「私は最初からジュノーム様のお世話を仰せつかっているのです。未来の皇后になられるお方を、経験の浅いお子様には任せておけません。」
「これだから水の妖精族は嫌いだ。すかした態度で俺を馬鹿にしやがって」
「文句を言う前に、その言葉遣いを直すことですね」
炎の妖精族と水の妖精族はそもそも仲がよろしくない。
二人はツーンとそっぽ向いた状態だ。
ノアはやれやれと肩をすくめ、僕も苦笑いを浮かべ女官が出してくれたお茶を頂くことにした。
そこに扉が開かれ、ゼムベルトとそれからオルティスが入ってきた。
ゼムベルトが僕の右隣の椅子に腰掛けると、オルティスが僕の元に歩み寄り跪いた。
「ジュノーム様、無事にお戻りになり、このオルティス、今とても安堵しております」
「すまなかった、心配をかけたな」
「ええ、本当ぉぉぉに探し回りましたよ。ジュノーム様、あなたは非力な人族の上、未来の皇后になられるお方。もう少し自覚を持って頂かないと大いに困るのですよ」
ああ……懐かし。
そうそう、こういうやり取りをしょっちゅうしていたんだよな。
僕は顔が綻んでいたらしく、オルティスは訝しげに首を傾げる。
「何を嬉しそうな顔をしているのですか? 私は一応怒っているのですよ」
「怒ってくれるから嬉しいんだよ。僕を怒ってくれる人、なかなかいないからさ」
前世は前世で魔王という頂点にいたから怒られるなんてことなかったし、今世は今世で僕は疎まれていたから、僕の為に怒るような人はいなかった。
お前だけは僕に遠慮することなく怒ってくれたんだよな。
オルティスはそんな僕の台詞に少し複雑な表情を浮かべたが、気を取り直したように言った。
「とにかく今度は勝手に出て行くようなことはなさらないでください」
「はーい」
「返事は短くお願いします」
このやりとりも懐かしいな。
魔王だった時代、僕は真面目なオルティスのことをおちょくっていたりしたんだよな。
僕たちの会話を聞いていたゼムベルトは可笑しそうに笑いながら言った。
「まぁまぁ、オルティス。それぐらいにしてやって欲しい。それよりもお前に会いたいという人物がいてな。ジュノの捜索にも協力してくれた人物だ」
苛立っているオルティスを落ち着かせる為に、ゼムベルトはすぐに本題に入ることにしたようだ。
ノアは席を立ち手を胸の前に置いて一礼をする。
「ノアリス=フォレストロードと申します。フォレストロード伯爵家三男で、現在は冒険者として生計を立てております」
……ノアは、貴族だったのか? ノア=フォレストは本名を略した偽名か。
貴族の息子が冒険者って、親は何も言わなかったのかな?
それにしても敬語が似合わない。ノアがそんな言葉遣いをしていると、どことなく芝居がかって見える。
オルティスは何故か驚いたようにノアの顔を凝視していた。
「二人とも席に着きなさい」
ゼムベルトに勧められ、オルティスもノアも円卓の席に着いた。
二人は向かい合う形で座ることになる。
「……」
「……」
ノアもオルティスも一言も発しない。どっちかが先に喋って欲しいところだ。
……うーん、何だろ?
何とも言えない緊張感のようなものが二人の間に漂っているような。
ようやくオルティスが一度深呼吸をしてから口を開いた。
「私は宮廷魔導師のオルティス=ハインシュと申します」
オルティスは辛うじて平静を装った口調で自己紹介をする。……うん、平静を装っているんだよね。本来の彼は長老(!?)らしく、もっと、どっしりと構えているのだけど、今は何となく落ち着きがない。
喋る前に深呼吸をするなんて、何とも彼らしくない。
「オルティス……それはあなたの本名ですか?」
何故か確認をするようにノアはオルティスに尋ねてくる。
オルティスはオルティスで、どこかぎこちない口調で「私の本名です」と答えた。
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