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第三章
第45章 春の舞踏会②
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春の舞踏会は確かに諸外国の王族、貴族も来訪するとは聞いていたけれど、何故、ティムハルト侯爵家の奴らがここに来ている?
かつて兄上だった人だけはいないけどね。
兄上だったあの人は留守なのかな? 普段なら率先して華やかな場所に出たがるのにね。体調でもくずしたのだろうか?
僕の過去を心得ている皇室があいつらをわざわざ招待するとは思えない。
だけどアーネルシアの王族は無視するわけにはいかないから、今回アーネルシアの王太子はここに来ている。彼の随行として、あいつらが付いて来た、と考えた方がいいだろう。
あいつら一体何を企んでいる?
まぁ、自分たちが虐げてきた人間が、この国の皇太子妃になるなんて我慢ならないかもしれないね。何としても阻止するか……あるいは、逆に僕が皇太子妃になることを利用し、ゼムベルトから金をせしめようとしているのかも。
予想通り面倒なことをやらかしそうだな。
妙な事をしたら、即死魔法で黙らせるしかないかな?
皇帝陛下の御前に僕たちは跪く。
ざわめいていた広間がしんっと静まりかえる。
皇帝陛下は皇后様に支えられながらゆっくりと立ち上がり、高らかに告げた。
「皆の者、春の舞踏会にはるばる遠方からよく来てくれた。今宵は我が息子、ゼムベルトの婚約を正式に発表すると同時に、未来の皇后となる人物を紹介したい。ジュノーム=ティムハルト、生命の象徴を宿した美しき瞳を皆に披露するといい」
皇帝陛下の命に従い、僕は立ち上がり後ろを振り返った。
ゼムベルトも同じように振り返り僕に寄り添う。
目を開き周囲を見回すと、多くの人々が僕の目に釘付けになっていた。
もちろん奇異な目で見る者もいる。
僕の家族だった人たちだ。
相変わらず嫌悪露わにこっちを見るよね。そこまで嫌そうな顔をしているのは、お前らだけだよ。
同じアーネルシア出身の王太子、シリル殿下は、異様なものを見る目でじろじろと上から下まで僕のことを見ている。
「古き伝承に従い、我らはこの赤き瞳の貴人を皇太子の婚約者に迎える。この婚約に異議がある者は申し出よ」
皇帝にそう問われ、異議を申し立てる馬鹿はまずいない。特にこの華やかかつ祝賀ムードが漂う今の雰囲気に水を差すようなことを言えば、皇帝の不興を買うことは目に見えているからね。
いくら僕のことを嫌っていてもさすがにその場で異議を唱えることは――――
「異議がございますっっ!!」
高らかに声を上げたのは僕の父親だった男、ダグラム=ティムハルトだ。
会場の全体が凍り付く。
僕も堂々と手を挙げる自分の父親が信じられなかった。
何、あの人、今の空気読めていないの?
しかも余所者の一貴族が、一国の皇帝相手に意義を申し立てるなんて。
ヴィングリード帝国が小国だったらまだ分かるが、ハッキリ言ってアーネルシアの数倍の領土を持つ大国だぞ?
自分の無能を棚に上げ、何かにつけて僕の瞳の色のせいにしていたけれど、想像以上に愚か者だったんだな。
「そのジュノームは確かに我がティムハルト家の人間ですが、不吉の証である目の色を持っていたが故に、いくつもの禍がもたらされました。その罪深き存在を我らは排除すべく奴隷の身におとしたのでございます。そのブラッドレッドの瞳は生命の象徴ではない。不吉の証なのでございます!!」
元父上、さっきの話、ちゃんと聞いていた? 皇帝は僕の瞳の色を生命の象徴とたたえていたのに。ヴィングリードの貴族たちは冷ややかな目で、僕の父親だった人を見ているよ。
まぁ、元父上の主張は血の色を富みの象徴と尊ぶヴィングリードの信仰を全否定しているようなものだもんね。
しかもまだ空気が読めないのか、元父上はさらに言い続ける。
「そのような不吉な人間、皇太子殿下の妃には相応しくない。もし、魔法の名門である我がティムハルト家と縁を結びたいのであれば、我が娘、ミーリアムを差し出します故、そのものは、奴隷として排除してくださいませ!!」
僕は思わず眉を揉んでしまった。
この人、自分が何を言っているのか分かっているのかな。ミーリアムは、すっかりその気になって、媚びたような目をゼムベルトに向けている。
こんな人たちと血で繋がっているのかと思うと恥ずかしい。
「なるほど……ジュノの代わりに、その娘を私が娶れば良いのか?」
今まで聞いたこともないくらい冷ややかな声で問いかけるゼムベルト。
横からすごい殺気を感じるよ。僕以上にあいつらに殺意を抱いているな。
しかし、そんなゼムベルトの内心など知るよしもなく、僕の父親だった人は大きく頷く。
「その通りでございます! 殿下、どうか賢明な判断を」
そう言って頭垂れるダグラム=ティムハルト。姉であるミーリアムは勝ち誇ったような目でこっちを見ている。
あんたの婚約者、奪ってやる……って、顔に書いてあるね。
「一つ聞くが、私が彼女を娶るということは、この国の人間になるということだが」
「もちろん承知の上でございます。この国に骨を埋める覚悟で嫁がせていただきますわ」
そう誇らしげに答えるミーリアム。
僕はちらっとゼムベルトの顔を見上げる。
その表情は無表情に近い。だけど目だけは研ぎ澄まされた冷ややかさを湛えていた。
「――では、その娘がこの国の人間になった瞬間、処刑せねばならぬな」
かつて兄上だった人だけはいないけどね。
兄上だったあの人は留守なのかな? 普段なら率先して華やかな場所に出たがるのにね。体調でもくずしたのだろうか?
僕の過去を心得ている皇室があいつらをわざわざ招待するとは思えない。
だけどアーネルシアの王族は無視するわけにはいかないから、今回アーネルシアの王太子はここに来ている。彼の随行として、あいつらが付いて来た、と考えた方がいいだろう。
あいつら一体何を企んでいる?
まぁ、自分たちが虐げてきた人間が、この国の皇太子妃になるなんて我慢ならないかもしれないね。何としても阻止するか……あるいは、逆に僕が皇太子妃になることを利用し、ゼムベルトから金をせしめようとしているのかも。
予想通り面倒なことをやらかしそうだな。
妙な事をしたら、即死魔法で黙らせるしかないかな?
皇帝陛下の御前に僕たちは跪く。
ざわめいていた広間がしんっと静まりかえる。
皇帝陛下は皇后様に支えられながらゆっくりと立ち上がり、高らかに告げた。
「皆の者、春の舞踏会にはるばる遠方からよく来てくれた。今宵は我が息子、ゼムベルトの婚約を正式に発表すると同時に、未来の皇后となる人物を紹介したい。ジュノーム=ティムハルト、生命の象徴を宿した美しき瞳を皆に披露するといい」
皇帝陛下の命に従い、僕は立ち上がり後ろを振り返った。
ゼムベルトも同じように振り返り僕に寄り添う。
目を開き周囲を見回すと、多くの人々が僕の目に釘付けになっていた。
もちろん奇異な目で見る者もいる。
僕の家族だった人たちだ。
相変わらず嫌悪露わにこっちを見るよね。そこまで嫌そうな顔をしているのは、お前らだけだよ。
同じアーネルシア出身の王太子、シリル殿下は、異様なものを見る目でじろじろと上から下まで僕のことを見ている。
「古き伝承に従い、我らはこの赤き瞳の貴人を皇太子の婚約者に迎える。この婚約に異議がある者は申し出よ」
皇帝にそう問われ、異議を申し立てる馬鹿はまずいない。特にこの華やかかつ祝賀ムードが漂う今の雰囲気に水を差すようなことを言えば、皇帝の不興を買うことは目に見えているからね。
いくら僕のことを嫌っていてもさすがにその場で異議を唱えることは――――
「異議がございますっっ!!」
高らかに声を上げたのは僕の父親だった男、ダグラム=ティムハルトだ。
会場の全体が凍り付く。
僕も堂々と手を挙げる自分の父親が信じられなかった。
何、あの人、今の空気読めていないの?
しかも余所者の一貴族が、一国の皇帝相手に意義を申し立てるなんて。
ヴィングリード帝国が小国だったらまだ分かるが、ハッキリ言ってアーネルシアの数倍の領土を持つ大国だぞ?
自分の無能を棚に上げ、何かにつけて僕の瞳の色のせいにしていたけれど、想像以上に愚か者だったんだな。
「そのジュノームは確かに我がティムハルト家の人間ですが、不吉の証である目の色を持っていたが故に、いくつもの禍がもたらされました。その罪深き存在を我らは排除すべく奴隷の身におとしたのでございます。そのブラッドレッドの瞳は生命の象徴ではない。不吉の証なのでございます!!」
元父上、さっきの話、ちゃんと聞いていた? 皇帝は僕の瞳の色を生命の象徴とたたえていたのに。ヴィングリードの貴族たちは冷ややかな目で、僕の父親だった人を見ているよ。
まぁ、元父上の主張は血の色を富みの象徴と尊ぶヴィングリードの信仰を全否定しているようなものだもんね。
しかもまだ空気が読めないのか、元父上はさらに言い続ける。
「そのような不吉な人間、皇太子殿下の妃には相応しくない。もし、魔法の名門である我がティムハルト家と縁を結びたいのであれば、我が娘、ミーリアムを差し出します故、そのものは、奴隷として排除してくださいませ!!」
僕は思わず眉を揉んでしまった。
この人、自分が何を言っているのか分かっているのかな。ミーリアムは、すっかりその気になって、媚びたような目をゼムベルトに向けている。
こんな人たちと血で繋がっているのかと思うと恥ずかしい。
「なるほど……ジュノの代わりに、その娘を私が娶れば良いのか?」
今まで聞いたこともないくらい冷ややかな声で問いかけるゼムベルト。
横からすごい殺気を感じるよ。僕以上にあいつらに殺意を抱いているな。
しかし、そんなゼムベルトの内心など知るよしもなく、僕の父親だった人は大きく頷く。
「その通りでございます! 殿下、どうか賢明な判断を」
そう言って頭垂れるダグラム=ティムハルト。姉であるミーリアムは勝ち誇ったような目でこっちを見ている。
あんたの婚約者、奪ってやる……って、顔に書いてあるね。
「一つ聞くが、私が彼女を娶るということは、この国の人間になるということだが」
「もちろん承知の上でございます。この国に骨を埋める覚悟で嫁がせていただきますわ」
そう誇らしげに答えるミーリアム。
僕はちらっとゼムベルトの顔を見上げる。
その表情は無表情に近い。だけど目だけは研ぎ澄まされた冷ややかさを湛えていた。
「――では、その娘がこの国の人間になった瞬間、処刑せねばならぬな」
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