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第五章
第64話 初の進軍
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魔族の軍勢を率い、祖国に攻め入った僕は、一夜にして自分の生まれ故郷を火の海に変えた。
当時は人界も領土を巡って人族同士で争っていた時代。境界の防衛もないに等しかった。ラダ国はクレスター山脈の麓に広がる小国だったので、攻め入るのは容易かった。
隣国との戦が平定したことで、用なしと言わんばかりにイルをはじめとした勇猛な兵士たちを始末した王国軍。王都を守る騎士団は貴族の子弟が多く、家柄だけで出世した者たちが大半だった。
この上もなく脆くなった王国軍を全滅させるのに、一時間も掛からなかった。
最後に残ったのは王国軍の総指揮官である将軍だ。
どう見ても戦いに向いているような体型じゃない。
帯剣はしているが、衣装は金糸が贅沢に使われた高級品。
体格は良いが、脂肪のみで大きくなった身体だった。
僕たちに追い込まれ、将軍はその場にへたり込む。
そして震えた声で僕たちに訴えてきた。
「……許してくれ。イルを殺したのは国王陛下の命令で」
「そのイルの手柄を自分のものにしていたな」
「手柄はイルに返す! だから……」
「返す相手を殺したのは貴様だろうが!?」
バシュドラーンはイルたちの殺害を指示した将軍の首を、大剣でもってはねた。
彼の隣にはメルザが寄り添うように立っている。
「この悪魔どもめ!」
「将軍の仇だ!」
「いくら何でもこれだけの兵を相手には出来――」
兵の一人の声は最後まで続かない。
メルザは兵士達に向かって石化魔法をかけて石に変えてしまった。
将軍直属の兵士たちも多数でもってバシュドラーンに挑むが、大剣を横に一線薙いだだけで全員の胴体が真っ二つになる。
「バーシュ、お疲れ」
「ああ……」
メルザはバシュドラーンの肩に手を置いて、労いの声を掛ける。
仲間達の復讐を果たすことが出来たバシュドラーンは、とても満足げな笑みを浮かべていた。
僕は後始末をバーシュドラーンとメルザに任せ、オルティスと共に王の間へ足を踏み入れた。
護衛である五人の騎士たちが一斉に躍りかかってきたけれど、オルティスが衝撃波魔法を唱え、あっという間に退かせた。
父親である国王は、随分と見ない間に老いていた。まるでミイラのように痩せ細っていて、もしかしたら病にかかっていたのかもしれない。
国王は落ちくぼんだ目で僕を睨み付け、叫び声をあげた。
「やはり、予言は間違っていなかった……お前は、この国を滅ぼす悪魔だったんだ!」
「そうだね、そこの予言者の言う通りになったね」
僕は部屋の隅でぶるぶる震える予言者の方を見て拍手をする。
随分と私腹を肥やしていたのか、予言者の身体は球体のように丸く太っていた。
「赤子のお前を殺そうとした余の判断は間違っていなかった!! それをあのケビンが邪魔をしたからこんなことになったんだ!!」
声高に叫ぶ父親に、僕は思わず吹き出した。
憎々しげにこっちを睨み付けるその眼差し、人間の時だったら悲しい気持ちになっていただろうな。
だけど、今は何とも言えない滑稽な光景にしか見えなかった。
こんな小さな男に対して父としての情を求めていたのかと思うと、おかしくて仕方がなかった。
「な、何が可笑しい!?」
「これが笑わずにいられないだろ……余の判断は間違っていなかったって。お前の判断じゃなくて、そこの予言者の判断だろう?」
「な、なんだとぉ!?」
「自分で考えもせず判断を下すことができなかったあんたは、いつもそこの予言者に頼っていたじゃないか」
「予言者が言っていることは絶対だ! いつもこの男に余は助けられていた!」
相変わらず予言者に依存しちゃっているんだね。
肝心な予言者は僕の姿を見てすっかり怯えているけどね。もし人間の頃の僕が相手だったら、こいつは国王の威を借りて、横柄な態度をとっていただろうな。
横にいるオルティスは、まるでゴミでも見るかのような眼差しを国王と予言者に向けていた。
「お前がイルを殺さなかったら、僕はこんな悪魔にならずにすんだんだよ? お前がきちんとイルとの約束を守ってくれていれば、僕は大人しく平和に暮らしていたのに。イルを殺すように命じたお前が、この国を滅ぼしたんだ」
「ちがう……ちがう……お前がいなければ。予言者がお前のことは滅びの悪魔だと言っていたんだ! この日のことを予言していたんだ!!」」
予言者の方を指差し声を上げる国王に、僕は首を傾げて予言者の方を見た。
「そうなの? 僕のこと、悪魔って言ったんだ?」
「い……いえ……あなた様が悪魔だなんてとんでもない! 私はそんなことは言った覚えはないです。国王が勝手にそう解釈しただけで」
「き、貴様!?」
ずっと予言者の言葉を信じて疑っていなかった国王は、思わぬ裏切り発言に愕然とする。
そのショックたるや相当なものだったのだろうな。
国王は顔だけでなく、手足まで青白くなりる。
僕は可笑しくて腹がよじれそうだった。
「魔王様、そこは笑う所じゃないと思いますよ」
「御免……あまりの馬鹿さ加減に笑うしかなくて」
僕に笑われたことに羞恥心を覚えたのか、国王は顔を真っ赤にして。怒りに震えた声で予言者に向かって怒鳴りつけた。
「貴様、言っていたではないか! アシェラを王座から遠のかせればこの国は救われる。できれば、アシェラを殺せと」
当時は人界も領土を巡って人族同士で争っていた時代。境界の防衛もないに等しかった。ラダ国はクレスター山脈の麓に広がる小国だったので、攻め入るのは容易かった。
隣国との戦が平定したことで、用なしと言わんばかりにイルをはじめとした勇猛な兵士たちを始末した王国軍。王都を守る騎士団は貴族の子弟が多く、家柄だけで出世した者たちが大半だった。
この上もなく脆くなった王国軍を全滅させるのに、一時間も掛からなかった。
最後に残ったのは王国軍の総指揮官である将軍だ。
どう見ても戦いに向いているような体型じゃない。
帯剣はしているが、衣装は金糸が贅沢に使われた高級品。
体格は良いが、脂肪のみで大きくなった身体だった。
僕たちに追い込まれ、将軍はその場にへたり込む。
そして震えた声で僕たちに訴えてきた。
「……許してくれ。イルを殺したのは国王陛下の命令で」
「そのイルの手柄を自分のものにしていたな」
「手柄はイルに返す! だから……」
「返す相手を殺したのは貴様だろうが!?」
バシュドラーンはイルたちの殺害を指示した将軍の首を、大剣でもってはねた。
彼の隣にはメルザが寄り添うように立っている。
「この悪魔どもめ!」
「将軍の仇だ!」
「いくら何でもこれだけの兵を相手には出来――」
兵の一人の声は最後まで続かない。
メルザは兵士達に向かって石化魔法をかけて石に変えてしまった。
将軍直属の兵士たちも多数でもってバシュドラーンに挑むが、大剣を横に一線薙いだだけで全員の胴体が真っ二つになる。
「バーシュ、お疲れ」
「ああ……」
メルザはバシュドラーンの肩に手を置いて、労いの声を掛ける。
仲間達の復讐を果たすことが出来たバシュドラーンは、とても満足げな笑みを浮かべていた。
僕は後始末をバーシュドラーンとメルザに任せ、オルティスと共に王の間へ足を踏み入れた。
護衛である五人の騎士たちが一斉に躍りかかってきたけれど、オルティスが衝撃波魔法を唱え、あっという間に退かせた。
父親である国王は、随分と見ない間に老いていた。まるでミイラのように痩せ細っていて、もしかしたら病にかかっていたのかもしれない。
国王は落ちくぼんだ目で僕を睨み付け、叫び声をあげた。
「やはり、予言は間違っていなかった……お前は、この国を滅ぼす悪魔だったんだ!」
「そうだね、そこの予言者の言う通りになったね」
僕は部屋の隅でぶるぶる震える予言者の方を見て拍手をする。
随分と私腹を肥やしていたのか、予言者の身体は球体のように丸く太っていた。
「赤子のお前を殺そうとした余の判断は間違っていなかった!! それをあのケビンが邪魔をしたからこんなことになったんだ!!」
声高に叫ぶ父親に、僕は思わず吹き出した。
憎々しげにこっちを睨み付けるその眼差し、人間の時だったら悲しい気持ちになっていただろうな。
だけど、今は何とも言えない滑稽な光景にしか見えなかった。
こんな小さな男に対して父としての情を求めていたのかと思うと、おかしくて仕方がなかった。
「な、何が可笑しい!?」
「これが笑わずにいられないだろ……余の判断は間違っていなかったって。お前の判断じゃなくて、そこの予言者の判断だろう?」
「な、なんだとぉ!?」
「自分で考えもせず判断を下すことができなかったあんたは、いつもそこの予言者に頼っていたじゃないか」
「予言者が言っていることは絶対だ! いつもこの男に余は助けられていた!」
相変わらず予言者に依存しちゃっているんだね。
肝心な予言者は僕の姿を見てすっかり怯えているけどね。もし人間の頃の僕が相手だったら、こいつは国王の威を借りて、横柄な態度をとっていただろうな。
横にいるオルティスは、まるでゴミでも見るかのような眼差しを国王と予言者に向けていた。
「お前がイルを殺さなかったら、僕はこんな悪魔にならずにすんだんだよ? お前がきちんとイルとの約束を守ってくれていれば、僕は大人しく平和に暮らしていたのに。イルを殺すように命じたお前が、この国を滅ぼしたんだ」
「ちがう……ちがう……お前がいなければ。予言者がお前のことは滅びの悪魔だと言っていたんだ! この日のことを予言していたんだ!!」」
予言者の方を指差し声を上げる国王に、僕は首を傾げて予言者の方を見た。
「そうなの? 僕のこと、悪魔って言ったんだ?」
「い……いえ……あなた様が悪魔だなんてとんでもない! 私はそんなことは言った覚えはないです。国王が勝手にそう解釈しただけで」
「き、貴様!?」
ずっと予言者の言葉を信じて疑っていなかった国王は、思わぬ裏切り発言に愕然とする。
そのショックたるや相当なものだったのだろうな。
国王は顔だけでなく、手足まで青白くなりる。
僕は可笑しくて腹がよじれそうだった。
「魔王様、そこは笑う所じゃないと思いますよ」
「御免……あまりの馬鹿さ加減に笑うしかなくて」
僕に笑われたことに羞恥心を覚えたのか、国王は顔を真っ赤にして。怒りに震えた声で予言者に向かって怒鳴りつけた。
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