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魔王城にて(ソラとウィル6)
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小さい頃から何度も毒を盛られ、身体は毒に慣れていたはずだ。だが今回は、吐き出した瞬間に分かった。もう、ダメだ。だから、最後に名を呼んだ。せっかく番と分かったのに、せっかく出会えたのに…すまない。もっとともにいたかった、と言いたかった。最後までは言えなかった。深い闇に落ちた。身体から何かがするすると抜けていく。そして酷く眠くて、寒い。それから、もう何も分からなくなった。
ふと気がつくと、温かい水色の雲の中にゆらゆらと浮かんでいた。どこも痛くないし、苦しくもない。目を開けているのか閉じているのかも分からないが、夜明け前の空のような、微かな光を感じた。ラベンダーの香りが漂ってくる。
(ソラだ。ソラだ。)
全身が喜んでいる。ソラがそこにいる。
なのに、そちらへ行けない。漂っているだけだ。大声で叫んだ。
「ソラ!!」
変だ。口も上手く動かないし、声も出ない。恐怖で身体が強張る。その時
「ウィル、ウィル、聞こえるか?」
ソラの声がした。温かい手を感じる。
ぱっと目を開ける。光が眩しい。そしてソラが泣いていてた。涙がウィルの顔に落ちた。
「何だ、お前、泣いているのか。」
やっと声が出た。老人のような、ひどくかすれた声だった。
「10日も、10日も、意識が無かったのだぞ。泣いて当然だ。」
いつの間にか、怪我は随分と良くなっていた。ソラは初めて思い切りウィルを抱きしめることができた。
「もっと、ぎゅっと、してくれ。」
一層細くなったウィルの身体をギューッとしながら、ソラはまた涙を流した。ほっとしたのか、嬉しいのか、ウィルが愛し過ぎるのか、おそらくその全部か、何が何やらたまらなくて、魔王は生まれて初めてこんなに泣いた。
あの日、ウィルに毒が盛られた日、魔王城は絶望の中に落ちた。最初は
「人間の捕虜に毒が盛られた。いい気味だ。たまたま魔王様の目にとまったから生かされただけであろう。よくやってくれた。」
という雰囲気だった。
ところが、魔王が
「此奴は我の運命の番だ。毒を盛ったものは誰だ。その者、一族郎党一人残らず許さぬ。咎人には死を。血族は永久に追放とする。人間界で生きよ。そして、もし番が死ぬようなことがあれば、自ずと我も後を追うこととなろう。」
と言ったのだ。当然名乗り出るものなどいない。恐らく魔王に懸想する者が妬んだのではと思われた。
豪放磊落で動じない魔王が別人のようになってしまった。番の部屋から出て来ず、眠っている姿も見ない。誰の話にも耳をかさず、何も語らない。時々、静かに涙を流し、番の顔をじっと見ているだけ。このままでは本当に最悪の事態になる。万が一魔王様が急に崩御されれば、壮絶な跡目争いが始まる事も容易く想像できた。平穏なだった魔族の世界が戦乱の場と化すだろう。皆、戦々恐々とした。
毒が盛られて3日後、吉報がもたらされた。やっと毒の種類がわかったのだ。体内の魔力を全て消滅させるラプスの花のエキスであった。魔力が尽きれば死に至る。魔族でも人でも同じである。魔王城の魔族達は真っ青になった。ラプスを盛られて命をつないだ者など、かつて存在しない。しかし、ソラは微笑んだ。ウィルの魔力なら、よく知っている。他人では不可能だが番ならば可能だ。
「助かった。俺が助けてやれる。」
それから7日間、ソラはウィルに魔力を与え続けた。そして、遂にウィルは目覚めた。実はソラも魔力枯渇寸前であったが、そんなことはおくびにも出さない。
魔王城は沸きに沸いた。
「番様、万歳!魔王様、万歳!」
の大騒ぎ。大変な掌返しである。
その頃、魔王城から大将軍の娘がひっそりと姿を消した。自責の念に駆られたのだろう。その後の生死は不明である。証拠もあるわけではないし、将軍を責めるものは誰もいなかった。
ふと気がつくと、温かい水色の雲の中にゆらゆらと浮かんでいた。どこも痛くないし、苦しくもない。目を開けているのか閉じているのかも分からないが、夜明け前の空のような、微かな光を感じた。ラベンダーの香りが漂ってくる。
(ソラだ。ソラだ。)
全身が喜んでいる。ソラがそこにいる。
なのに、そちらへ行けない。漂っているだけだ。大声で叫んだ。
「ソラ!!」
変だ。口も上手く動かないし、声も出ない。恐怖で身体が強張る。その時
「ウィル、ウィル、聞こえるか?」
ソラの声がした。温かい手を感じる。
ぱっと目を開ける。光が眩しい。そしてソラが泣いていてた。涙がウィルの顔に落ちた。
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やっと声が出た。老人のような、ひどくかすれた声だった。
「10日も、10日も、意識が無かったのだぞ。泣いて当然だ。」
いつの間にか、怪我は随分と良くなっていた。ソラは初めて思い切りウィルを抱きしめることができた。
「もっと、ぎゅっと、してくれ。」
一層細くなったウィルの身体をギューッとしながら、ソラはまた涙を流した。ほっとしたのか、嬉しいのか、ウィルが愛し過ぎるのか、おそらくその全部か、何が何やらたまらなくて、魔王は生まれて初めてこんなに泣いた。
あの日、ウィルに毒が盛られた日、魔王城は絶望の中に落ちた。最初は
「人間の捕虜に毒が盛られた。いい気味だ。たまたま魔王様の目にとまったから生かされただけであろう。よくやってくれた。」
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ところが、魔王が
「此奴は我の運命の番だ。毒を盛ったものは誰だ。その者、一族郎党一人残らず許さぬ。咎人には死を。血族は永久に追放とする。人間界で生きよ。そして、もし番が死ぬようなことがあれば、自ずと我も後を追うこととなろう。」
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