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呪文
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子供の頃、私は不思議な体験をした。今思い出してみると、それは夢だったのではとも思える。しかし、現実にそれは起こり、私は取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
それは私が小学5年生の時のことだった。その頃の私はけして良い子だとは言わないが、かと言って手の付けられない問題児だったわけでもない。どこにでもいる、普通の子だったと思う。
それまでは平凡に過ごしていた私だったが、五年生になった時、問題が持ち上がった。それはクラスで一緒になったサキちゃんのことだった。
サキちゃんはいわゆる女子のリーダーだった。背が高く、体格も良くて、物怖じしない積極的な人間で、そして無神経だった。
それに対し私は小柄でやせっぽっち、引っ込み思案で自分の意見を皆に言うことはまずなかった。その機会を与えられてもいなかったのだが。
私はサキちゃんと仲良くしようとは思っていなかった。けれど、何故かサキちゃんの方から私にやたらちょっかいを掛けてきたのだ。サキちゃんにすれば親愛の情のつもりだったのだろうか。それとも、ただ、いじりやすいおもちゃだとでも思っていたのだろうか。とにかく、やたらと私に声をかけてきた。しかし、その話の内容は私を喜ばすものではなかった。はっきり言ってかなり傷ついていたことを覚えている。いじめとは違ったのかもしれないが、私はそれが原因で学校にいくのが嫌になっていた。
そんなふうに鬱々としていたある日、帰り道の公園で不思議な女の人にあった。その人は学校の行き帰り、時々見かけていたような気がするのだが、確信はない。
私は余程思いつめた顔をしていたのだろうか。その女の人が私に声をかけてきたのだ。
女の人の顔は今となってはよく思い出せない。綺麗な、どことなく神秘的な感じのする人だったと思う。
私は問われるままに、自分の悩み、サキちゃんのことをその女の人に話した。ひょっとしたら泣いていたかもしれない。
すると女の人がその解決法として呪文を教えてくれたのだ。その言葉を教えられた通りにサキちゃんに言えば、二度とサキちゃんは自分にちょっかいを掛けてこないだろうと女の人は言った。
私は半信半疑でそれを聞いていたが、それでも自分の胸に溜まった思いを吐き出したことで、だいぶ気を良くして女の人にお礼を言った。女の人はにっこり笑って私と別れたのを覚えている。
それでも呪文など馬鹿らしいと思っていた私は、それを試してみることはためらっていた。けれど数日後、サキちゃんの物言いにひどく傷つけられた時、私はついに女の人に教わったとおりにサキちゃんに呪文を唱えた。
その言葉は驚くほど効果があった。サキちゃんは最初良く分からないような顔をしたが、なにか意味が取れないような言葉を発し、私から去っていった。その姿は普段のサキちゃんとは違って、急に体が小さくなったように見えた。
私は呪文の効果に驚かされたが、それはまだ序の口だったのだ。二度と自分にちょっかいを掛けてこなくなる、という効き目は正しかったのだが、それだけにとどまらず、サキちゃんはほかのみんなともあまり遊ばないようになった。活発だった行動もなにか力が抜けたようになり、ついに半年ほどして入院してしまった。
六年生になってからはクラスも変わり、サキちゃんの様子がどうなったかは詳しくは知らない。ただ、学校を休みがちでいることは噂で知っていた。
中学校になってからはもうほとんど顔も合わせることもなく、私はサキちゃんに呪文をかけたことも忘れていた。けれど高校に入った今、サキちゃんが亡くなったことを聞いた。長い闘病の末、病院で死んだという。
私は深く後悔した。見知らぬ人から授けられた呪文を、よく理解もせず使ってしまった。まさかこんな大事になってしまうとは、あの頃の私には分からなかった。そう、私はただ、何気なく、軽く言っただけなのだ。
「サキちゃんってぽっちゃりしているよね」、と。
サキちゃんは拒食症で亡くなった。
終わり
それは私が小学5年生の時のことだった。その頃の私はけして良い子だとは言わないが、かと言って手の付けられない問題児だったわけでもない。どこにでもいる、普通の子だったと思う。
それまでは平凡に過ごしていた私だったが、五年生になった時、問題が持ち上がった。それはクラスで一緒になったサキちゃんのことだった。
サキちゃんはいわゆる女子のリーダーだった。背が高く、体格も良くて、物怖じしない積極的な人間で、そして無神経だった。
それに対し私は小柄でやせっぽっち、引っ込み思案で自分の意見を皆に言うことはまずなかった。その機会を与えられてもいなかったのだが。
私はサキちゃんと仲良くしようとは思っていなかった。けれど、何故かサキちゃんの方から私にやたらちょっかいを掛けてきたのだ。サキちゃんにすれば親愛の情のつもりだったのだろうか。それとも、ただ、いじりやすいおもちゃだとでも思っていたのだろうか。とにかく、やたらと私に声をかけてきた。しかし、その話の内容は私を喜ばすものではなかった。はっきり言ってかなり傷ついていたことを覚えている。いじめとは違ったのかもしれないが、私はそれが原因で学校にいくのが嫌になっていた。
そんなふうに鬱々としていたある日、帰り道の公園で不思議な女の人にあった。その人は学校の行き帰り、時々見かけていたような気がするのだが、確信はない。
私は余程思いつめた顔をしていたのだろうか。その女の人が私に声をかけてきたのだ。
女の人の顔は今となってはよく思い出せない。綺麗な、どことなく神秘的な感じのする人だったと思う。
私は問われるままに、自分の悩み、サキちゃんのことをその女の人に話した。ひょっとしたら泣いていたかもしれない。
すると女の人がその解決法として呪文を教えてくれたのだ。その言葉を教えられた通りにサキちゃんに言えば、二度とサキちゃんは自分にちょっかいを掛けてこないだろうと女の人は言った。
私は半信半疑でそれを聞いていたが、それでも自分の胸に溜まった思いを吐き出したことで、だいぶ気を良くして女の人にお礼を言った。女の人はにっこり笑って私と別れたのを覚えている。
それでも呪文など馬鹿らしいと思っていた私は、それを試してみることはためらっていた。けれど数日後、サキちゃんの物言いにひどく傷つけられた時、私はついに女の人に教わったとおりにサキちゃんに呪文を唱えた。
その言葉は驚くほど効果があった。サキちゃんは最初良く分からないような顔をしたが、なにか意味が取れないような言葉を発し、私から去っていった。その姿は普段のサキちゃんとは違って、急に体が小さくなったように見えた。
私は呪文の効果に驚かされたが、それはまだ序の口だったのだ。二度と自分にちょっかいを掛けてこなくなる、という効き目は正しかったのだが、それだけにとどまらず、サキちゃんはほかのみんなともあまり遊ばないようになった。活発だった行動もなにか力が抜けたようになり、ついに半年ほどして入院してしまった。
六年生になってからはクラスも変わり、サキちゃんの様子がどうなったかは詳しくは知らない。ただ、学校を休みがちでいることは噂で知っていた。
中学校になってからはもうほとんど顔も合わせることもなく、私はサキちゃんに呪文をかけたことも忘れていた。けれど高校に入った今、サキちゃんが亡くなったことを聞いた。長い闘病の末、病院で死んだという。
私は深く後悔した。見知らぬ人から授けられた呪文を、よく理解もせず使ってしまった。まさかこんな大事になってしまうとは、あの頃の私には分からなかった。そう、私はただ、何気なく、軽く言っただけなのだ。
「サキちゃんってぽっちゃりしているよね」、と。
サキちゃんは拒食症で亡くなった。
終わり
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