万霊節

火消茶腕

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万霊節

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 人々と共に懸命に祈りを捧げている母親に、幼い息子が聞いた。
「お母さん、どうしてそんなに一生懸命祈ってるの?」
 顔を上げ、母親は言った。
「今日は万霊節だからよ」


「万霊節?」
 息子が聞いた。
「そうよ、今日は万霊節と言って、死んだ人のために祈る日なの」


「どうして今日そうするの?」
「なぜ今日お祈りするのか、お母さんにも分からないけど、昔からそう決まっているのよ」
 息子に正直に答えた。


「祈ると良いことがあるの?」
 息子はまた尋ねた。
「ええ、生きている人が死んだ人のために祈ると、死んだ人がいる煉獄でのお勤めの期間が、短くなると言われているのよ」


「煉獄?煉獄って何?」
 多分聞かれると思っていた母親は、笑って答えた。
「煉獄というのは死んで天国に行く前に、私たちが行かなくちゃいけないところなの。とっても偉い、聖人と言われるような人は別だけど、普通の人たちは、良いこともしているけれど、やはり悪いことも、少しはしているものなのよ。嘘をつくとかね。それで、死んだら最初に煉獄に行って、天国に行けるくらいきれいな心になるように、お勤めするわけ」


「ふ~ん」
 息子はそれで納得したようだった。しかし、また急に母親に尋ねた。
「それじゃ、地獄はどうなの?今の話だと、人は死んだらまず、煉獄に行くけど、最後には天国に行けるんでしょう?地獄に行く人はいないの?」


「勿論、地獄に行く人も大勢いるわ。煉獄に行く人はごく普通の人たちで、悪人は別。すぐ地獄行きよ」
 それを聞き、息子は首をかしげた。
「じゃあ、お母さんはなぜ祈ってるの。お母さん、お父さんは絶対地獄行きだって言ってたよね。お父さんが煉獄に行ってないなら、祈っても無駄じゃない?」


「まだ、警察はお母さんのことを疑ってるからよ。さあ、あなたも一緒に祈りなさい」
 母親は息子をひざまずかせた。


終わり

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