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運命のいたずら
しおりを挟む「いやー、参っちゃったわ」
久々に会った友人がため息を付いた。
「なに?どうしたの?」
めったに弱音を吐かない彼女が、珍しくそう言ったので、私は心配して尋ねた。
「実はね」
目を落とし、眉にシワを寄せて彼女は言った。
「この間、ある女に訴えられちゃってねえ」
「訴えられた?!何で?!」
私は驚いて、つい大声を出した。
「私がマンガ描いているのは知ってるでしょう?」
友人が聞いてきた。
私はすぐにうなずいた。友人はずいぶん前からマンガを描いていて、今ではプロだ。
「それで、この前、ある雑誌に推理モノの作品を載っけてもらったのよ。で、その話の中に、殺人が趣味という女を登場させたんだけど、その女の顔が訴えてきた女の顔とそっくりだったようなの。で、肖像権の侵害だ、名誉毀損だって」
「はあ?」
私は驚いた。そんな偶然があるのか?
「それ本当?ちゃんと顔を見せてもらった?と言うか、確認した?」
「ええ、ちゃんとしたわ。相手は自分の顔写真送ってきたし、フェイスブックとか、インスタとかでも確認したけど、間違いなく、私が描いた女にそっくりだった」
「ふえー、そんなこと、あるんだー」
私はただただ驚いた。世の中にはまだまだ不思議な事が転がっているのかもしれない。
「まあ、そんなに不思議な偶然でもないんだけどね」
友人が、また意外なことを言った。
「はあ?何で?!」
私はやや語気を荒らげた。なに?意味わかんない!
「実は、その殺人鬼の女の顔を作るとき、参考にしたものがあったのよ」
「なにそれ?その訴えてきた女の写真だったの」
「いいえ」
友人は頭を振った。
「実はある有名な美容整形外科医院のホームページに載っていた、術後の女の顔をモデルにしたの」
「ああ、なるほど」
美人というのは、そうでない我々と違って、どうしてもバリエーションに乏しくなるらしい。同じ整形病院に行った人は、美人にしてくれと言うと、どうしても同じような顔になるのだとか。
「なら、そのことをちゃんと説明したら大丈夫なんじゃないの。まあ、相手は整形を指摘されることになるから余計、つむじを曲げるかもしれないけど、訴えられても、勝てるんじゃない?」
「ん?まあ、それだけならそうなんだけどね。そうじゃないんだ」
友人が、暗い目をして言った。
「そうじゃないって?」
私は聞いた。
「何で、美容整形後の人の顔を参考にしたかって言うと、作品の中では、その殺人鬼は整形して美人になってる、って設定だったからなの。それで、話の中で、都合上、整形前の顔も描いたんだけど……。それも、訴えてきた女の整形前の顔に似てたの」
私は言葉が出なかった。
そんな事があるんだろうか?
「整形前の顔はかなりあれに描いたから、まあ、私でも事情を知らなければ、誰かが、マンガを通して自分をバカにしている、と思うだろうと、訴えてきたことには納得はしてるんだ」
「じゃ、その、相手に慰謝料かなんか払うつもりなの?」
偶然とはいえ、一人の人を傷つけたなら、仕方がないのかもしれない。
そんなふうに私が考えたとき、友人が言った。
「慰謝料?ああ、慰謝料ね。んー、多分払わなくて良さそう」
「なら、まあ、大変な目にあったんだろうけど、少しは良かったのかな?」
「いや、全然良くないのよ」
友人は苦悩した声で言った。
「それどころじゃなくなっててね。実は、私が描いた問題の整形前の顔は、すっぴんの私がモデルだったの。ブス役を描くときはいつもそうしてるんだけど、そのモデルが私の顔と、訴えてきた女の顔がとても似ていたわけで」
「えっ、それって?まさか」
「そう。不思議に思って調べてみたら、あのクソ親父、浮気してよそに子供作ってたった。訴えてきた女は私の妹に当たるみたい。母も私も訴えてきた女もそのことは全然知らなかったので、今はもう、すごい修羅場。両親は離婚するかも」
なんとまあ!これは百万に一つの偶然とでもいうのか、悪事は必ずバレるということなのか。
私はその日、夜通し友人を慰めた。
終わり
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