たかが、青

小谷野 天

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4章

金髪の彼

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龍の車から降りた蓮見を秋田が見ていた。秋田は着替えて病棟に向う蓮見を捕まえて、
「里田さん。あの金髪は誰?」
 そう詰め寄った。
「きっと遊ばれてるだけだよ。看護師はヒモ男が付きやすいんだから。」
「そんな人じゃないですよ。」
「真面目な里田さんだから、きっとあいつの本当の顔に気が付かないんだって。」
「ちょっと、秋田くん。何話してるの?」
 優芽が二人の前に来た。
「蓮見、今日は畑山主任がお休みだって。交代の都合がつかないから、師長が残るってさ。」
「えーっ、早く注射の準備しなきゃ。」
 蓮見は急いでICUの扉を開けた。
「何? 秋田くん。」
「さっき、里田さんが金髪の男の車から降りるのを見たから、心配して。」
「秋田くんは彼女がいるでしょう、関係ないんじゃない?」
「そうだけど。」
「それじゃあ、この話しは終わりだね。」
「あんなチャラチャラした金髪に里田さんを取られるのは、牧田が可哀想だよ。」
「牧田ってあの師長の息子の?」
「そう。あいつ、ずっと里田さんの事、好きみたいだから。」
「そんなに好きなら、牧田ってやつが直接蓮見に言えばいいじゃん。」
「梨田さん、だんだんあの師長に似てきたよ。」
「何! 早く仕事に戻りな!」

 師長と仕事の分担をしていた蓮見は、なんとか残業にならないように願って仕事をしていた。
 午前0時。深夜勤の看護師が出勤してくる。
 ホッとした表情を浮かべる師長を見て、蓮見も気持ちが軽くなった。
「師長、お疲れ様でした。」
「何を言ってるの、里田さん。この30分が魔の時間よ。」
 そう言うと内線がなった。
「ほら、里田さんが言うから。出てよ。」
「はい。ICUです。」
「あっ、里田さん。そっちに輸血用のルートって余ってる? 大至急持ってきてほしいんだけど。」
「わかりました。今、持って行きます。」
 蓮見は電話を切ると、師長はどこから来たのか聞いた。
「6東の川嶋主任さんです。輸血用のルートを持ってきてほしいそうです。」
「わかった。私が行くから。里田さん、こういう時は取りに来るように行ってちょうだい。今晩は一人足りないんだから。」
「そうでした。すみません。」
「さっさと申し送りして。電話は深夜の人に取らせるのよ。」
「はい。」
 申し送りを終え、更衣室に向ってる蓮見に、師長が声を掛けた。
「これから寮に帰るのね。」
「今日は、友達と約束があって。」
「あら、珍しいわね。」
「師長、お疲れ様でした。師長はお休みがぜんぜん取れませんね。」
「そうよ。家庭はとっくに崩壊。今年は一人息子の運動会も行けなかった。この仕事続けるなら覚悟がいるわよ。じゃあ。」
「お疲れ様でした。」
 蓮見は時計を見た。もう少しで1時になる。急いで着替えると玄関に向った。
 ラーメン屋は歩いて10分の所にある。龍が待っていてくれるかどうか。
 玄関を出て走っていると、牧田の車が蓮見の横に止まる。
「里田さん、送っていくよ。」
「ありがとう、牧田さん。私、待ち合わせしてて。ごめん。」
 牧田は車を降りて、蓮見の腕を掴んだ。
「金髪の男がいるって聞いたよ。本当なの?」
 蓮見は牧田の手を離すと、
「ごめん、急いでるから。お疲れ様。」
 蓮見は時計を見た。もう1時を過ぎている。ラーメン屋の赤い看板が見えてくると蓮見はさらに急いだ。
「おい。」
 蓮見が後ろを振り向くと、龍が立ってた。
「遅刻だぞ。俺は待てないって言ったのに。」
「ごめんなさい。」
 息を切らしながら話す蓮見に、
「そんなに走って、もう一仕事できるんじゃないの?」
 そう言って笑った。
 
 ラーメン屋に入ると、店長が蓮見を見て驚いた顔をした。
「お嬢さん、今日は?」
 龍は店長に
「いつもこの子が頼んでいるものを2つください。」
 そう言った。
「はい。それじゃあ、先にビールをどうぞ。」
 店長は冷えたグラスを出すと瓶ビールの蓋を開けて、龍の前に出した。
「龍さん、車は?」
「会社に止めてある。歩いてきたよ。」
 店長がビールの栓を開けて、龍の前に出す。
「お疲れ様。」
 二人はグラスを鳴らす。
「今まで仕事だったの?」
「そう。この時間まで会社で仕事してた。蓮見は早く終わったの?」
「今日は何事もなく終わったの。相手は師長さんだったし、すごく頼りになるし。」
「良かったね。あと5分来なかったら、帰ってたよ。」
 二人の前に湯気を立てたラーメンが運ばれてきた。
「あれ、餃子は?」
 蓮見は店長に聞く。
「今日は、やめておきな。」
 店長は龍と笑っていた。
 二人が食べていると、次々に病院勤めの人や、工事現場の人達が入ってくる。
「この店、みんなの胃袋を支えてるってわけか。」
 龍はそう言った。
「蓮見の家はどこ?」
「私はこの近くです。角のコンビニの裏です。」
「寄って行ってもいい? 明日は夜中に出勤だって言ってたよね。」
「そうですけど。」
 龍は会計を済ませ、蓮見を外に連れ出した。
 外はチラチラ雪が降ってきた。
「うちは龍さんの家の様に広くないですよ。」
「いいよ。そんなの気にしなくても。昨日みたいに隣りで寝てくれるだけでいいから。寒いね。これから本格的に降りそうだ。」
 龍は蓮見の手を握った。
「手袋は?」
「そうだ。」
 蓮見は手袋をポケットから出そうとすると、龍が手を繋いだ。
「いつも冷たい手だね。」
「私が触るとみんなびっくりします。」
 龍は蓮見の手を自分のポケットに入れた。
「そこのコンビニに寄ってもいい?」
「うん。」
 コンビニに入ると、牧田がいた。蓮見と目が合うと牧田は龍の頭を見た。
「里田さん、お疲れ様。」
「お疲れ様。」
 龍は歯ブラシを手に取ると、牧田の横を通り抜けた。
「里田さんの彼氏?」
 牧田は蓮見に聞いた。
 蓮見は答えなかった。
「話したい事があるんだ。」
 レジを終えて蓮見の所に戻ってきた龍は、
「病院の人?」
 蓮見に聞いた。
「そう。病院の人です。それじゃあ。」
 蓮見は牧田と目を合わせず、コンビニを出ていった。
「今の人、ずっと蓮見を待ってたんじゃないのか?」 
「……。」
「ちゃんと話しておいで。」
「ううん。寒いから早く帰ろう。」
 蓮見は早足で歩き出した。

「下の人が寝てるから静かにね。」
 蓮見は龍にそう言うと、静かにカギを開けた。
 電気をつけるとワンルームの小さな部屋がある。
 蓮見は机の上のCDを隠すと、
「隠すのはこっちじゃない?」
 龍は洗濯物を指差した。
「あっ、やだ。」
 蓮見は急いで洗濯物を取り込むとクローゼットに押し込んだ。
「しっ、静かに。」
 龍は慌てている蓮見をそっと抱きしめた。
「隠しても、この前全部見たからね。」
「えっ、嘘!」
「嘘だよ。」
 龍はソファに座った。蓮見は少し離れて床に座った。
「ここは寮なの?」
「そう。独身寮。病院がアパートを買い上げてるの。」
「真面目な里田さんが、金髪を連れてきたら噂になるんじゃないの?」
「金髪は関係ありません。猫飼ってる人もいるし、自由です。」
「それなら俺の事も猫って言えばいいよ。」
 二人は静かに笑った。
「シャワー借りるよ。こっち?」
「こっちです。あっ、ちょっと待ってお風呂場見てくるから。」
「それなら先入ってきてよ。女の子の部屋っていろいろ秘密が多いんだね。」
「わかりました。ここは絶対開けないでください。」
 蓮見は浴室へ向かった。
 蓮見を待っている間、蓮見の携帯が何度も鳴っていた。
 さっきの男性からなのだろうか。龍は蓮見が隠した自分のCDを見つけた。
「あっ、それは……。」
 蓮見が浴室から出てきた。
「俺だろ?」
「これを見てると、ケンって呼びそうになるから。」
 キレイな箱の中に静かにCDを閉まった蓮見。龍は立ち上がり浴室へ向った。
 沙耶からラインがきていた。
「蓮見が金髪の男に騙されてるって、皆心配してるよ。もしかして、ケンに似た人? そんか得体のしれない人なんかやめなよ。」
「得体の知れない人じゃないよ。」
「金髪なんて、普通の仕事なんかしてないでしょう?」
「ちゃんと仕事してるよ、大丈夫。」
「牧田くんの事は?」
「同じ職場の人。」
「牧田くんは、そうは思ってないよ。ちゃんと話しなよ。」
「うん。」
「おやすみ。」
「おやすみ。」
 蓮見は携帯を置いた。水を飲もうとしていると、龍が戻ってきた。
「携帯ずいぶん鳴ってたね。」
「うん。友達。」
「さっきの?」
「ううん。」
「同じ職場の人と付き合うって、よくあるの?」
「あるのかなぁ?」
「そういう話しとか、女同士でしないの?」
「いつも、食べ物の話しばっかりしてますよ。」
 蓮見の話しに笑った龍は、蓮見にキスしようとした。
「ちょっと、待って、あの……。」
 蓮見は龍から離れた。
「ごめんなさい。」
「こういう関係になるのって、嫌なのか?」
 龍は蓮見にそう言った。
「……。」
 龍は蓮見をベッドに連れて行くと、何も言わず、服の中に手を入れた。
 激しいキスをされている蓮見は、龍の事を受け止めきれないでいる。
 蓮見は龍の手を止めた。
 龍は蓮見の頬を撫でる。そして首筋にキスの跡を残し、もう一度強く蓮見を抱きしめた。
 電気を消し、龍は蓮見の服を脱がせようとした。
「ごめんなさい。」 
 蓮見は龍をまっすぐ見つめた。龍は無理やり蓮見の服を脱がせる事もできたが、力のない蓮見の声を聞くと、
「わかったよ。もう眠ろうか。」
 そう言って、下を向いた蓮見の頬に触れた。
「蓮見。」
「何?」
「今日はちゃんと寝ろよ。」
 龍は蓮見を自分の胸に抱いた。少し経ってから、もう一度キスをしようと思って蓮見の顔を見たが、いつの間にか、自分の腕の中で眠っていた。蓮見の寝顔を見ながら、龍もそのまま眠りについた。
 
 3時。
 隣りの人が玄関を開ける音で目が覚めた蓮見は、横で寝ている龍の寝顔を見た。こんなに好きなのに、龍を受け入れる事ができない。きっと嫌われただろうな。蓮見は龍に肩にそっと毛布を掛けた。龍の寝顔を見ながら、蓮見はまた眠りについた。

 6時。
「携帯鳴ってるよ。」
 蓮見は龍の声で起きた。目覚ましを止めるといつものように二度寝しようとして、布団に潜る。
「こっち向いて。」
 龍の声にびっくりして振り返った。そうだった。龍が泊まったんだ。
「ひどいなあ。すっかり忘れてただろう。俺の事。」
 龍は蓮見を自分の方に向かせた。
「ごめんなさい。あの、私……。」
「本当によく眠るね。」
「……。」
「ちゃんとこっち見て。」
 両手で顔を覆った蓮見の手を取ろうと、龍は蓮見の脇をくすぐった。
「ごめんなさい。」
 蓮見が顔を見せる。
「俺達、ずっと友達のままだな。」
 蓮見は龍の顔を見つめた。
「こんなにじらされたのは初めてだよ。」
「ごめんなさい。」
 蓮見の透き通った目。
 ナオはその目を、暗闇の中でもわかると言った。
「もう、謝らなくていいから。」
 龍は蓮見の髪を撫でると、優しくキスをした。
「今度は俺の家に泊まりなよ。」 
「いいの?」
「いいよ。」

 朝ご飯を食べた二人は、そのまま仕事へ向かった。蓮見は龍と一緒に玄関を出ると、ゴミ袋を抱えた隣りの人と目が合い会釈をした。
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