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3章
非常口の緑
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体の痛みを感じて起きると、時計は16時を回っていた。
嘘! もう終わってしまうよ。
蓮見は慌てて身支度を済ませ、あの店に向かった。
店の前に着くと、半分降りたシャッターをくぐって、中からあの男性が出てきた。
男性と蓮見の目が合う。
「あっ、ごめん。もう閉店なんだ。」
「また、来ます。ここは何時までですか?」
「普段は20時だけど、今日は19時なんだ。また待ってるから。」
蓮見は男性の言葉に、はい、と小さく頷くと、今来た道を戻っていった。
蓮見の背中を見ていた男性は、その子を掴もうとする影がある事に気がつく。
「ちょっと、待って。」
男性が蓮見を追いかけてくる。
「良かったら、これからここにおいでよ。俺、夜はバーをやってるんだ。」
蓮見は男性のくれた名刺を見ていた。追いかけてきた男性を見上げる。
「変なお店じゃないよ。俺が選んだ客しかこない店だから。」
「私が行ってもいいんですか?」
「いいよ。良かったら一緒に行こうよ。ここから歩いていける距離だし。」
蓮見は男性の後を付いていく。
「その手袋、使ってくれているんだね。」
「はい、使わせてもらってます。ちょうどこれと同じ色の手袋を片方失くして、新しい手袋を探してたんです。」
「その片方はどうしたの? 捨てた?」
「捨てられません。なんか、いろいろ思い出して、捨てられないんです。」
「そんなに思われて、幸せな手袋だね。」
男性の声もケンに似ている。
「どうしたの?」
ボーッとした蓮見に男性が足を止める。
「いえ、なんでもないです。」
男性は微笑むと、そのまま歩き出した。
小さなバーの入口の鍵を開けると、古着屋と同じお香の匂いがした。
「そこに座ってて。」
男性は蓮見をカウンターに案内した。
店の一番目立つ場所にギターが飾ってある。蓮見は近くでそのギターを見ようと近づいた。
「ナオのギターだよ。」
男性はそう言った。
ライブが始まる前の控室。
鏡の前で髪を整えているケン。
「ナオ、お目当ての子は来てるかよ。」
「ああ、たぶん。もう、どこで見てるか分からないけどな。」
「この前の曲、お前の気持ちはわかるけど、やっぱり暗くて歌いたくないわ。」
ケンはそう言ったが、ナオは黙ってギターを弾いていた。
「やっぱり解散するのか?」
ヒサシがナオに聞く。
「デビューしてこれからって時なのによ。なんだよ、本当。」
「それぞれやっていくいい時期だろう。ヒサシは別のバンドからも誘われてるって聞いたぞ。」
ケンはそう言った。
「レイはどうすんだよ。」
ヒサシはレイの方を向く。
「俺は友達の所の美容室に来てくれって言われてんだ。しばらく、音楽からは離れて暮らすよ。ナオはどうするんだ?」
「俺は、少し休もうかな。」
片時もギターを離さないナオ。
「もったいねぇーな。お前からそれを取ったら、なんにも残らないだろう。」
ヒサシが言った。
「そうかもな。」
ナオそう答えた。
「解散の事、今日、言うのか。」
レイがケンに聞いた。
「ああ。」
「ケンはいいよな。一人で歌っていくんだろう。お前だけでソロでいく話しがあるからな。レイも美容師の道があるからさ、何も決まらないのは、俺とナオだけか。」
ヒサシが言う。
「俺はもう歌わないって。」
「実家でも継ぐのか?」
レイはケンに聞く。
「大学に戻るつもりだ。」
「そっか、休学してたんだもんな。」
「もしかして、毎日この頭で行くつもりか?」
「悪いかよ。」
ケンは言った。
「ナオ、もう1回考え直せよ。」
ヒサシがナオの隣りに座る。
「もう、決めた事だよ。」
「ひたすらやって来たのに、なんか淋しいな。」
「全部なくなるわけじゃないんだから、ヒサシだって、また始めればいいじゃんか。」
ヒサシは納得がいかない。
「ナオ、さっき、言ってたあの子って誰だよ。麻美ちゃんの事か?」
レイが聞いた。
「少し前まで、非常口の下にいたんだよ。かわいい子がさ。今は席が決まってるから、どこにいるかわからないけど、小さい所でやってた時は、その子がよく見えたんだ。」
「俺は、客の顔なんかいちいち覚えてないぞ。だいたいその子って、ナオのファンなのかよ。」
「それは、わからない。」
「どうせ、ケンのファンだろう。前に出てる連中は羨ましいよな。」
ヒサシはそう言って水を飲んだ。
「やっぱり暗過ぎるわ。あの曲。」
レイがナオの隣りにくる。
「ケンも言ってただろう。もう少し、雰囲気変えてみたらどうだ? 歌詞はそれでいいとして。」
「あの感じ、耳に残るだろう。俺はそれでやりたいんだ。」
「ナオは頑固だからな。」
ケンはそう言って立ち上がると、ナオの肩に手を置いた。
「曲が完成したら、あの子のために歌ってやるよ。」
驚いて言葉が出ない蓮見に、
「非常口の下によくいた子でしょう?」
「本物のケンなの?」
「もう、けっこう経ってるのに、よく俺だってわかったね。」
男性は蓮見の頭を撫でた。
「座ってよ。なんでも飲める? 今、用意するから。」
蓮見はカウンターに戻ると、お酒を用意するケンを見ていた。氷がコップにぶつかる音と、どこからか懐かしいギターの音色が聞こえてきて、居心地が良かった。
「はい。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「今日は早めに閉めるから、その後少し話そうよ。」
ケンがそう言うと、入口から次々に客が入ってきて、あっという間に席が埋まった。
忙しそうに働くケンを見ていると、隣りに座った女性客が、蓮見に話しかけてきた。
「ここは初めて? 見ない顔だから。」
「そうです。」
「リュウの知り合い?」
「いえ、古着屋さんで会って。リュウって? あの人はケンじゃないんですか?」
「本当の名前はリュウって言うんだよ。」
「ケンは双子の兄の名前。リュウが小2の時に亡くなったんだって。昔、ケンって名前でバンドをやっていたって聞いた事ある。ほら、あのギターはリュウがバンドしてた時のメンバーの物なんでしょう? 持ち主はもう亡くなったらしいけど。」
「そうなんですか。」
「ごめん、私、リュウの昔を知らないの。」
キレイな女性の隣りに座っている自分は、店の雰囲気には合わないような気がして、なんだか恥ずかしくなった。
「何してる人?」
「病院で働いています。」
「看護師さん?」
「そうです。」
「私は、リュウが古着屋をやってる場所で、花屋をしてたの。」
「覚えてます。あのお花屋さん。」
「今は別の場所に移ったんだけど、その時にリュウと知り合ってね。ここに時々来てるの。」
「ここは、ケンさんの紹介じゃないと入れないんですか?」
「ケンじゃなくて、リュウの事ね。」
「あっ、そうだった。」
「リュウはこの店を大切にしてるから、自分の好きな人しか呼ばないよ。だから、あなたも勝手に友達を連れてきてはダメ。そういえば、名前は?」
「里田蓮見と言います。」
「私は早川咲江《はやかわさきえ》。よろしくね。」
咲江はそう言うとリュウを呼んだ。
「リュウ、おかわりくれる?」
リュウは注文を聞く事なく、咲江のお酒を作っている。
「蓮見はリュウの事、好きなんでしょう?」
「えっ、……。」
咲江はクスッと笑った。
「わかりやすいわね。ここにいる人はみんなリュウが好きなの。リュウはね、古着屋やバーの店長だけじゃなくて、会社もやってるから。ライバルは周りにたくさんいるよ。」
グラスをかき混ぜるリュウを見つめた。
「はい、おまたせ。」
「ねぇ、リュウ。このヒヨコみたいな子は、どこで見つけてきたの?」
「咲江、ヒヨコはないだろう。」
「私にしたら、ヒヨコはかわいいって表現なんだけどな。」
「かわいいだろう。店にきてくれたんだよ。それで声を掛けた。」
「客をナンパしたんだ。」
「ナンパじゃないって。ねっ。」
リュウは蓮見の方を見た。リュウは客に呼ばれて席を離れた。
「仕事、楽しい? 」
咲江が聞いた。
「楽しくないです。」
「大変だねって、よく言われるでしょう?」
「言われますけど、私はそれしかやった事がないから。」
「ほら、あの子。あの赤い服の子も看護師だよ。派遣で半年働いて、半年は好きな事をやって暮らしてる。麻美! こっちこっち。」
咲江はその赤い服の女性を呼んだ。
「麻美、この子も看護師だって。」
「へぇ~。どこで働いてるの?」
「医療センターです。」
「何科?」
「ICUにいます。」
「おっとりしてるかと思ったら、けっこうハードな所で働いてんだ。名前は?」
「里田蓮見です。」
「私は河合麻美《かわいあさみ》よろしく。私は派遣だから、蓮見みたいに縛られるものがないの。ちなみに今は失業中。」
咲江と麻美は顔を合わせて笑った。
「いろんな生き方があるからさ。ほら、リュウだって、いろんな顔がある。」
麻美はそう言うと、咲江の隣りに座った。
「あのギターの持ち主は、私の幼馴染。3年前に肺がんで亡くなったの。病気が見つかったのは、ちょうどバンドが、デビューして、1年目の時だよ。リュウは1人でデビューすることだってできたのに、音楽を辞めるっていう道を選んだ。この店はね、咲江のお父さんから、譲り受けた場所なの。今でもメンバーを繫ぐ場所がこの店。ほら、あそこにいるのが、ドラムのヒサシ、今日は来てないけど、ベースのレイもよく来るのよ。」
「麻美さん、ナオと同じ歳なの?」
「そう! 知ってるの? カカオの事。」
「すごく好きだったんです。」
「いい曲、たくさんあるからね。だけど、今のリュウの前では絶対その話しをしてはダメ。もう、昔の事だからね。ここにいるリュウは、バーの店長のリュウなんだし。」
「そうなんですか……。」
蓮見はリュウにケンと呼んだ事を後悔した。
「ねえ、蓮見。どんな子がタイプ?」
咲江が蓮見に聞く。
「私、女子校だったから、男の人って身近にいなくて……。」
「芸能人とかでも、好きな人はいないの?」
「ドラマとか、あんまり見ないし。この人って、いません。」
「へぇ~、もったいないね。白衣着たら、モテるだろうに。」
「リュウがタイプなんだよね。」
咲江がそう言った。
「ここにいる女子は、みんなリュウが好きだからね。そうだよね、麻美。」
「そう。リュウはあんな感じだから、みんなにチャンスがあると思っちゃう。少し前まで、彼女が途切れなかったみたいだけど、今はいないみたいね。」
麻美はそう言った。
「私ね、頭が良くて、ぶっきらぼうな人がタイプ。」
「麻美が最初に就職した病院の外科医の話しよ。結局、恋敗れて派遣になったんでしょう? 」
「敗れたわけじゃないよ。譲ったんだって。」
「咲江の好きな人も聞いてやって。笑えるよ。」
蓮見が咲江の顔を見ると
「私はね、いつも荷物を持ってくる配達員さん。」
「カッコいいんですか?」
蓮見は咲江の顔を見た。
「いつも玄関先でいいって言うのに、店の中まで運んでくれるんだよ。きっと私の事が好きなんだろうね。」
「それって仕事のひとつでしょう。ねっ、勘違いだと思わない?」
麻美は蓮見に相槌も求めた。
「蓮見は、背が高いとか優しいとかいろいろあるでしょ?」
咲江がそう言うと、リュウが3人の前にきた。
「今日は23時で閉店だから。」
「えっー。」
咲江と麻美は残念そうだった。
「リュウ、明日仕事なの?」
咲江が聞いた。
「これから用事があるんだ。」
「次はいつ来るの?」
「水曜日。」
「水曜日は遅くまでやる?」
「そうだね。コージが遅くまでいるよ。」
「今日はコージいないの?」
「たまには休みをやらないと。」
「コージがいても、リュウがこないと淋しいよ。」
麻美はリュウにそう言った。
「だいたい店長なのに水曜日だけしか店に出ないなんておかしいよ。」
「麻美、リュウは昼も会社で働いてるの。古着屋もやってるし。」
咲江は麻美の頭を撫でた。
「そっか、しかたないね。だけど、会いたいよ~。」
麻美と咲江は顔を合わせて笑った。
「蓮見も、ここにくるなら水曜日だよ。それ以外の日はバイトのコージが店にいるから。コージもカッコいいよ。リュウとはまた違った感じ。」
咲江は蓮見にそう言った。
「ねえ、リュウ。蓮見に出してるのって何? 私にも作って。」
麻美がケンに言うと
「いいよ。咲江はどうする? 同じの飲む?」
「私はこれでいい。」
咲江は飲んでいたグラスを龍に渡す。
「君は何にする? 俺が考えていい?」
リュウが付けていてるネックレスが、証明に照らさせれてキラキラ光った。キレイだな、蓮見がそう思ってると、
「起きてる?」
リュウは蓮見に声を掛けた。
「私はなんでもいいです。」
「チョコ、食べる?」
咲江と麻美は食べる! とリュウが出したチョコに手を伸ばした。
「リュウ、このチョコは女の子からの貰い物でしょ? ほら、蓮見も食べよ。」
麻美が言った。そして、ケンが作った青いカクテルを飲んだ麻美は
「ねえ、これレモン? なんかすっぱい。」
そう言った。蓮見には緑色カクテルが出された。
「リュウ、なんで蓮見だけ特別なの?」
麻美の言葉にリュウは笑った。
「蓮見って言うんだ。」
リュウは蓮見を見つめた。
「リュウ、今までここに名前も知らない子を連れてくるなんてなかったよね。」
咲江がリュウにそう言った。
「咲江と麻美にもたくさんサービスしてるだろ。忘れたか?」
リュウは2人と楽しそうに話している。あんなふうにリュウと緊張せずに話せるの咲江と麻美が羨ましい。
23時が近くなると、リュウは小さな紙を3人に渡した。書いてある金額見て、それぞれが財布を出し、会計を済ませる。
蓮見の紙には、店の前で待ってて、そう書いてあった。
蓮見は麻美と咲江と別れると、リュウの店の前で待っていた。
客が帰った後、龍はナオのギターの前にいた。
「やっと見つかったな。」
ナオがそんな事を言っている気がした。
「ナオ、やっぱり、死にたくなかったよな。」
少しすると、店のドアが開き、リュウが出てきた。
「明日は仕事?」
「仕事は夕方からです。」
「それなら、これから海に行こうよ。」
「海、ですか?」
「朝日を一緒に見たくてさ。車、そこに止めてあるから。」
「疲れてないんですか?」
「疲れてるから朝日を見に行くんだよ。大丈夫、俺は酒飲んでないし、ちゃんと目的地まで蓮見ちゃんを連れて行くよ。」
蓮見はリュウの後をついて行く。
リュウは突然立ち止まり、後ろを歩く蓮見を待っていた。蓮見は下を向いて歩いていたせいか、止まったリュウにぶつかった。ごめんなさいと少し後ろに下がったが、少し触れただけなのに、リュウの匂いが包み込む。
「大丈夫?」
「えっ、ごめんなさい。バンドの事は言ってはいけないって言われました。私、無神経で。」
「ああ。麻美達が言ったのかい?」
「……。」
「別にいいよ。早く行こう。」
リュウは蓮見の手を握った。
「冷たい手だね。」
「あっ、手袋。」
ポケットの手袋を探した。
「いいよ。」
龍は蓮見の手を自分のポケットに入れた。
「もう片方の手は、冷たいまんまだね。」
リュウの車の助手席に乗った蓮見は、かじかんだ手のせいかシートベルトを締めるのに手間取った。
リュウが代わって蓮見のシートベルトを締める。突然リュウとの距離が近づいたので、蓮見は息ができなかった。
「そんなに逃げなくてもいいじゃん。」
「ごめんなさい。びっくりして。」
リュウは笑ってエンジンを掛けた。
「好きだったの、ケンの事?」
「大好きです。」
蓮見は堂々と告白したようで、恥ずかしくなり下を向いた。
「夕方から仕事って、何してるの?」
「病院に勤めてます。」
「病院って言ったら、看護師さん?」
「……そうです。」
「頭下がるなぁ。尊敬するよ。」
「ケンさんこそ、お店を2つもやって、会社もやってるって。」
「誰の事?」
「あっ! えーと、ケンじゃなくて、リュウさん。」
「アハハ、もう、ケンでいいよ。」
「ごめんなさい。」
「謝る事ないよ。蓮見ちゃんにとってはケンなんでしょう。」
「本当の名前はケンじゃないのに、ごめんなさい。」
「昔から、よく間違われてたよ。親にも。」
「双子だって、咲江さんから聞きました。」
「兄貴がケンって名前なんだ。これから伊豆に行くよ。明日は夕方から仕事だって言ってたから、少し遠出しても大丈夫だよね。」
「私、初めて伊豆に行きます。」
「俺は伊豆で暮らしてた。蓮見はどこの出身?」
「私は北海道です。」
「えっ、北海道?」
「はい。北海道です。」
「なんで、こっちに?」
「高校の先生に薦められて、こっちの大学を受けて、看護師になりました。」
「今、家には両親だけなの?」
「兄夫婦がいます。」
「しばらく家には帰ってないの?」
「帰ってないです。帰る事もできるけど、仕事が忙しいって言い訳にしています。」
「札幌には何度か行ったけど、今度、帰る時に実家の方に連れて行ってよ。」
「えっ?」
「ダメか……。 こんな金髪を連れて行ったら、ご両親はびっくりするだろうし。」
「大丈夫です。そういうの、気にする人じゃないですから。」
「好きな人はいる? 」
「えっ?」
「好きな人はいるの?」
「いません……。」
「病院なら、たくさん人もいるんじゃないの? 」
「そんなに話す人はいません。リュウさんは、すごくかっこいいから、女の子が放っておかないでしょう?」
蓮見はそう言った。
「自分が好きな子から好きって言われなきゃ意味がないじゃん。」
蓮見はリュウの横顔を見た。
「どうした? 俺に見惚れてるか?」
図星の言葉に蓮見はびっくりした。
「あの、その、家は海が近いんですか?」
「近いよ。冬の海は灰色で空と同じ色。」
「そういえば昨日のお酒、青色と緑色。」
「青は好きな色なんでしょう。普通の女の子なら、ピンクや淡い色が好きだったりするんじゃないの? 青ってわざわざ選ぶ色じゃないでしょう。」
「昔、そういう色のTシャツを着たジャケットがありましたよね。」
「ああ、そういう事なんだ。あの青色のTシャツね。」
「あの青、すごく素敵でした。」
「本当は緑の方が好きなんじゃない? ナオの着てた色。」
「どうして?」
「なんとなく聞いてみた。」
「私は青の方が好きです。」
「もし、俺が緑を着てたら、緑が好きになった?」
「それは……、どうかな……。」
リュウの実家に着いた二人。実家は大きな旅館だった。
「ただいま。」
リュウがふすまを開けると、和室には、小学生くらいの子の遺影があった。男の子の顔をじっと見ている蓮見に、リュウは座りなよ、と座布団を勧めた。
二人の元に、リュウの母と思われる人が現れた。
「おはよう。リュウ、帰ってたの?」
「ああ。今着いた。今日はケンの誕生日だろう。」
「そうね。ケンの誕生日よ。リュウ、その人は?」
「彼女だよ。」
リュウの言葉に戸惑いながら、蓮見はおはようございます、とリュウの母に挨拶をした。
「おはよう。」
ケンの母と人は、朝早いのにしっかり着物を着ていた。
「リュウが女の子を連れてくるなんてびっくりだわ。あのね、リュウとケンはね、双子だけど本当は誕生日が違うの。ケンが2月1日でリュウが1月31日よ。リュウは昔からせっかちなのよ。
双子ってね、あとから生まれた子の方が兄になるのよ。だから、二人共、戸籍では今日が誕生日になってるの。」
「母さん、いつもその話しをするんだよ。」
「だって、母さんにとっては命懸けの日なのよ。ゆっくりしていって。うちのお風呂に入っていくといいわよ。すごく温まるから。」
リュウの母が出ていくと、リュウは蓮見を大浴場に案内した。
「これ、使って。」
浴衣を蓮見に渡すと、リュウは男湯に入って行った。
いつもはシャワーで済ませているので、冷え切った体が首までお湯に浸かると、自然と目が閉じていく。蓮見は顔にお湯をかけた。
お風呂から上がると、急に眠気が襲ってきた。いつもはなかなか寝付けなくて寝返りを打ってばかりなのに、体が温まったせいか、瞼が自然に落ちていく。
長い廊下を渡り、リュウの部屋についた蓮見は、ドアの前で立ち止まった。
自分とは別の世界にいたケンに会えて、こうして話しができるなんて夢見たいだ。蓮見は恐る恐るドアを開ける。
リュウはまだ戻っていない。
部屋の中にはランドセルが置いてあった。机の上には鉛筆削りと、止まったままの時計。窓から見える海は、灰色で空と境目がわからないほど。
リュウを待っているうちに、蓮見はベッドに寄り掛かり、いつの間に眠ってしまった。
「蓮見ちゃん。」
誰かが呼ぶ声で目が覚める。
「あっ、リュウさん。ごめんなさい、私、寝ちゃってて。」
蓮見は顔を両手で覆った。
「浴衣、はだけてたよ。」
「えっ、やだ。」
「うそだよ。ここはケンの部屋で、隣りが俺の部屋。待ってても来ないから、もしかしてと思ってこっちに来てみたら、寝てるからびっくりした。」
「ごめんなさい。向かって右って聞いたから。」
リュウは蓮見の右手を掴んで、こっちだよ、と笑った。
「今日は誕生日なんでしょう?」
「そう。俺は昨日が誕生日。今日はケンが誕生日。ここは時が止まったままだろう。」
「そうだね。」
「家族みんなが、ケンの事を受け止められないんだ。」
蓮見は黙っていた。
「蓮見は病院にいるから、よく人が死ぬ場面に遭うんだろう。そういうのって、どんな気持ち? 仕事だって、すぐに割り切れるもんなの?」
「その時は実感が沸かないです。次の日、違う人がそこにいると、なんとも言えない気持ちになる。」
蓮見はまだキレイな青のランドセルを見つめた。
「俺は笹田龍《ささだりゅう》兄は賢《けん》」
「私はずっと、ケンが本当の名前だと思ってました。」
「小2の時に親と大喧嘩してさ。夏休みなのにどこにも連れて行ってもらえないって、飯も食べないでストライキだよ。それならって、夏休みにケンと新幹線に乗って神戸のおじさんの所に遊びに行く事になって、初めて二人だけで伊豆を出たんだ。
駅の階段でケンが転んでさ、その時は元気だったのに、帰りの新幹線の中で具合が悪くなって、そのまま死んでしまった。」
「頭?」
「そう。頭の中に大きな血の塊ができてたんだよ。転んだ時に、ちゃんと病院に行っていれば良かったのに、小学生の俺にはそんな知識もないし、出掛ける事で気持ちがいっぱいになってたから。」
「……。」
「誰も俺を責めないんだ。それがまた辛くてさ。俺とケンが間違られる事もなくなったけど、バンドを始めるって決めた時に、ケンの名前で歌おうと思ってさ。」
蓮見は黙って龍を見つめていた。時間が経てばカサブタになっていく悲しみも、時間が止まったままの龍や龍の家族には、今でも生々しい傷のままだ。
龍も蓮見の顔を見つめ、2人の目があった。
「ねえ、なんで髪を切ったの?」
龍は蓮見に聞いた。
「えっ?」
「前はこう、丸くしてたじゃない?」
「あれは学生だったからです。」
「学生って、みんなそんな髪型なの?」
「そうです。実習に行く時、そうしないとダメだから。」
「これくらいの髪も似合うね。」
龍が蓮見の髪を触った。
「龍さんは仕事を3つもやってて、いつ寝てるの?」
「俺はね、バンドをしてた頃から、ぐっすり眠る事ができないんだ。朝方に眠気が少しあるくらいで、それ以外の時間なかなか寝付けない。」
「じゃあ、今はすごく眠いでしょう?」
「さっき、蓮見ちゃんが気持ちよさそうに眠ってる姿を見て、羨ましかったよ。」
「ごめんなさい。ここのお風呂、すごく気持ち良かったから。」
龍はケンのベッドに横になった。蓮見を隣りに呼ぶと、
「さっき、みたいに寝てみて。」
そう言った。
「絶対、無理です。」
「どうして?」
「男の人の横で寝るなんてできません。」
龍は笑った。
「いいから、こっちにおいで。」
龍は蓮見の腕を掴む。
「龍さんはこういう事に慣れているんでしょう? 女の子なんかたくさん寄ってくるだろうし。」
「そりゃあ、昔はね。」
「龍さんが眠るまでここで見てます。」
蓮見はベッドの下に座ったまま、龍の方を見た。
「隣りにきてよ。」
「……。」
龍はなかなかベッドに入らない蓮見に近づくと、優しく髪を撫でた。
「ねぇ、朝日が見えるかもよ。」
龍の誘いを断るように、オレンジ色に明るくなった窓辺に、蓮見は立った。
「ほら。朝日が見える。」
龍は朝日に照らされている蓮見の隣りに並ぶ。
「失くした手袋って、どうして捨てないの? 片方だともう役に立たないじゃない。」
「両方ある時は当たり前なのに、片方だけになると思い出が溢れてくる。」
龍はそう話す蓮見を見ていた。朝日の中にいる蓮見は、このまま光に溶けていきそうだった。
「優しいんだね。ナオがよく言ってたんだ。あの非常口の下の子がすごくキレイな目をしてるって。」
「龍さんの方からはお客さんは見えないでしょう?」
「非常口の下は明るいから顔が見えるんだよ。それを知っててあの下にいるのかと思ってた。」
「私は、前の方だと押されてしまうからあの場所にいたんです。本当はもっと近くで見たかったけど。」
「それなら、ほら、一番近くで見てもいいよ。」
龍は蓮見の顔を覗いた。
急に距離が近くなって、蓮見は後退りした。
「アハハ、そんなにビクビクするなよ。」
龍は蓮見の頬を撫でる。
「龍! ご飯できたよ。二人で食べちゃって。」
龍のお母さんの声がした。
「行こうか。」
龍は蓮見を連れて台所に向かった。
テーブルの上には、旅館の朝ご飯が並べられていた。
「龍さん、いつもこんな朝ご飯を食べたの?」
「いつもはパンだよ。自分で焼いて。今日は蓮見が来たから、特別なんだろう。」
「お母さんは?」
「もう仕事だよ。親父も調理場にいるよ。」
「皆で揃って食べるってなかったの?」
「ないね。ケンがいなくなってからは、ずっと一人。」
龍のお母さんが足速にやってきた。
「龍、食べ終わったら宮田さんの所に行ってきて。ケーキ予約してるの。」
「ああ、わかったよ。」
「それ食べたら、調理場に下げておいてね。お父さんが龍に食べさせろって用意したんだから。顔を見せてやって。」
「はいはい。蓮見、座ろうよ。」
「さっ、食べて。」
龍のお母さんは忙しそうに仕事へ戻って行った。
「大変だね、お母さん。ご飯食べたの?」
「食べてないと思うよ。蓮見だって、働く時間がバラバラだといつ食べていつ寝るか、困るだろう?」
「私は、いつも食べてるし、いつも寝てるし。」
それを聞いて龍は笑った。
「病院の近くにラーメン屋さんがあって、私はそれで生きてるかも。龍さんは、いつ食べてるの?」
「昼間は設計会社をやってるんだ。会社が休みの日とか、休みの前の日に店に出てる。それ以外はバイトに任せてるんだよ。だから、蓮見より普通の生活してるだろう。ちゃんと自炊してるし。」
「設計って家を建てるの?」
「そうだよ。」
「龍さん、器用なんですね。私、昔からまっすぐに線が引けないんです。ハサミもまっすぐに切れない。右と左も間違えるし。」
「だったら、これからは俺がつきっきりで教えるよ。蓮見は左利きなんだ。」
「箸はね。ハサミは右なの。」
二人が楽しそうにご飯を食べていると、龍の父がやってくる。
「おはよう。どう? 口に合うかな?」
龍の父が蓮見に質問する。
「おはようございます。どれもおいしいです。」
「うれしいね。龍が彼女を連れてきてるって、母さんに聞いたもんだから。」
黙々と食べている龍を見て、
「ケーキはみんなで一緒に食べような。」
龍の父はそう言って仕事に戻っていった。
「龍さんの家って誕生日は特別なんだね。」
「誕生日しか、顔を合わせないからね。蓮見ちゃんの家は、いつも皆でご飯食べてたんだろう。」
「一緒だよ。」
「全部食べれなかったら残していいよ。」
「ううん。全部食べるよ。」
朝ご飯を食べ終えた二人は、歩いてケーキ屋さんに向かっていた。雨が上がり、生暖かい空気が街を包んでいた。
「今日は何時まで帰ればいい?」
「4時半から勤務だから、それまでに戻れば。」
「仕事は何時まで?」
「12時半。」
「夜中の?」
「そうです。」
「次の日は?」
「夜中の12時に仕事に行きます。」
「いつ仕事なのか、休みなのかわからなくならないの?」
「もう慣れました。」
「ねえ、蓮見ちゃんの連絡先教えて。」
二人は携帯を出した。
ケーキ屋に着くと、
「あら、龍くん。久しぶりね。いくつになったの?」
お店にいた中年の女性が龍に声を掛ける。
「30になります。」
「お宅のお母さんは、毎年家族の誕生日にここでケーキを頼むよのね。龍くん、ちゃんと帰ってるの?」
「はぁ、たまに。」
「笹田さん。これ、頼まれてたケーキ。2つあるけど、持っていける?」
お店の奥から女性が出てきた。
「賢ちゃんと龍ちゃんの分よ。配達しようかって言ったのに、取りに行くからって女将さんが言うから。あっ、彼女が一緒なら大丈夫ね。龍ちゃん、またすぐ帰っちゃうの?」
「そうです。昼にはこっちを出ます。」
「たまにはゆっくり帰っておいで。女将さんも淋しいでしょうから。」
ケーキをひとつずつ持った二人は帰りの道を歩く。
「あの、私、龍さんの彼女じゃないですよ。」
「彼女だろう。男の家にきて、ベッドに誘われてるんだから。」
「……。」
「大丈夫、持てる? 上り坂だけど。」
「持てますよ。大事なケーキだもの。」
宿泊客の見送りを終えた龍の母は、買ってきたケーキを分けた。龍の父も呼び、4人で食卓に座った。
「龍、もっと食べなよ。」
空になった皿にもう一つケーキを乗せようとする母に、
「さっき、ご飯食べたからもう食べれないって。」
龍はそう言った。
「あなたは? あら、お名前なんていうのかしら?」
「蓮見さんだよ。この子ももう無理だから。」
龍が代わって答える。
「女の子は甘いものは別腹でしょう?」
龍の母は蓮見の皿にさっきと違うケーキを乗せた。そして、リュウお誕生日おめでとうと書いたチョコレートも上につけた。
「母さん、無理やり置いたら断れないだろう。」
「食べれなかったら、残してもいいわよ。」
「私、食べますよ。」
「蓮見さんはどこの出身なの?」
龍の父が聞く。
「私は北海道です。」
「いつからこっちにきたの?」
「9年前になるのかな……。」
「なんの仕事?」
「病院に勤めてます。」
「看護師さん?」
「そうです。」
「そりゃ、もっと堂々としてもいいんじゃない? 大変な仕事なんだし。」
「私はそれしかやった事がないから。」
今度は龍の母が蓮見に話し掛ける。
「実家は何をしてるの?」
「酪農です。」
「あらぁ、そうなの。北海道の食べ物って美味しいわよね。私も死ぬ前にもう一回行ってみたいのよ。」
「母さん、北海道に行った事あるの?」
龍は驚いたように聞くと、
「あるよ。新婚旅行で行ってきたの。」
嬉しそうに母は答えた。
「街全体が大きな冷蔵庫みたいなんだよ。何もかも新鮮で、何を食べても美味しかったなぁ。お父さん、ここをこの二人に任せて行って来ましょうよ。」
「そうだな。あれからどこにも行ってないからな。」
「龍、蓮見ちゃん、いいかしら?」
「なんでも勝手に決めるなよ。」
龍はそう言って蓮見が食べ掛けていたケーキを全部食べた。
「東京に戻るから、少し寝るわ。」
龍はそう言うと、蓮見を連れて2階へ上がった。
お腹がいっぱいになって動けなくなった蓮見を見て、
「だから、断れば良かったのに。」
龍はそう言った。
「せっかくだからもう一回、お風呂に入りたいんだけど。」
蓮見は龍にそう言った。
「もう少しで掃除が終わるから、ちょっと待ってて。」
蓮見はさっき脱いだ浴衣をたたみ直していた。
龍が蓮見を後ろから抱きしめる。
「お風呂に行ってくる。」
蓮見から離れた龍は
「今度は部屋を間違えるなよ。」
そう言って蓮見の右手を握った。
温泉に浸かっていた蓮見は、このまま時が止まればいいのにそう思っていた。
憧れのケンが目の前にいるのに、男の子にからかわれていた過去や、仕事に行く時間が自分を追いつめる。
部屋に戻ると、窓を見ている龍がいた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「少し寝ないと、仕事中に寝てしまうかもよ。」
龍はそう言ってカーテンを閉めると、蓮見をベッドに座らせた。蓮見の隣りに座った龍は、蓮見の肩を抱き、自分の顔の近くまで蓮見の顔を引き寄せる。
キスをしてから、ベッドに押し倒されたのは、あっという間の出来事だった。固く目を閉じた蓮見に向かって、
「そんなに緊張しなくてもいいから。」
龍はそう言って蓮見を自分の胸に抱いた。龍の鼓動が聞こえる。それ以上に、蓮見の心臓は早くなっていた。
龍は腕の中にいる蓮見を見つめたが、蓮見は目を逸らした。
蓮見は自分を拒んでいるような感じがして、龍はそれ以上は何もできなかった。
今まで自分が誘った女の子は、自分の事を拒む事はなかったし、そういう関係になる事を望んでいるかのように思っていた。
好きだと言ってついてきたのに、この子はなんで目を逸らしたのだろう。
「眠りなよ。」
龍はそう言った。
蓮見は頷くと龍の胸で寝たふりをしていた。
少しして龍が眠ると、蓮見は龍の肩に静かに毛布を掛け、反対側に体を向き直した。
目を閉じるとさっきの龍とのキスが浮かんで、胸の奥が熱くなる。蓮見はこのまま深く眠って、今日の事は全部忘れてしまおうと思っていた。
13時半。龍の携帯が鳴った。
ぐっすり寝ていた龍は、目を閉じたまま携帯を探していた。
蓮見が鳴っている携帯を龍に渡すと、やっと目を開けた龍が「もうこんな時間かよ。」
そう言って、龍は蓮見を抱きしめ、また眠りにつこうとした。温かい龍の体が、閉じ込めた想いを呼び戻していく。
「眠れたか?」
龍はそう言った。
「眠れました。」
本当は眠ることなんかできなかったのに、蓮見はベッドから起き上がる。
玄関で靴を履いた時、龍の母がやってきた。
「よかったらこれ持っていって。蓮見ちゃん、また来てね。」
たくさんのみかんをもらったん蓮見は
「こんなに! ありがとうございます。」
龍の母にお礼を言った。
「蓮見ちゃんのお陰で、家族で話しができたわ。龍、またね。」
「ああ。」
車に乗り込んだ二人。海沿いの道を走りながら、蓮見は窓をを眺めていた。
「海、好きなの?」
「私がいた所は海が遠かったから。」
「緑の方が多かった?」
「うん。緑がほとんど。疲れてるのに運転させてすみません。」
「本当は眠れなかったんだろう。」
「……。」
「車で少し、寝ていくといいよ。」
「大丈夫です。お風呂、すごく気持ちよかった。」
「そう、良かった。帰りに病院の近くのラーメン屋さん教えてよ。俺、せっかちだから、30分しか待てないけど、仕事が終わったら一緒に食べようよ。」
「いいんですか?」
「ねぇ、このまま仕事休んじゃえば?」
「それはちょっと……。」
「そうだよな。」
「……。」
「時間大丈夫かな? このまま病院直行でもいい?」
「いいです。すみません、急がせちゃって。」
嘘! もう終わってしまうよ。
蓮見は慌てて身支度を済ませ、あの店に向かった。
店の前に着くと、半分降りたシャッターをくぐって、中からあの男性が出てきた。
男性と蓮見の目が合う。
「あっ、ごめん。もう閉店なんだ。」
「また、来ます。ここは何時までですか?」
「普段は20時だけど、今日は19時なんだ。また待ってるから。」
蓮見は男性の言葉に、はい、と小さく頷くと、今来た道を戻っていった。
蓮見の背中を見ていた男性は、その子を掴もうとする影がある事に気がつく。
「ちょっと、待って。」
男性が蓮見を追いかけてくる。
「良かったら、これからここにおいでよ。俺、夜はバーをやってるんだ。」
蓮見は男性のくれた名刺を見ていた。追いかけてきた男性を見上げる。
「変なお店じゃないよ。俺が選んだ客しかこない店だから。」
「私が行ってもいいんですか?」
「いいよ。良かったら一緒に行こうよ。ここから歩いていける距離だし。」
蓮見は男性の後を付いていく。
「その手袋、使ってくれているんだね。」
「はい、使わせてもらってます。ちょうどこれと同じ色の手袋を片方失くして、新しい手袋を探してたんです。」
「その片方はどうしたの? 捨てた?」
「捨てられません。なんか、いろいろ思い出して、捨てられないんです。」
「そんなに思われて、幸せな手袋だね。」
男性の声もケンに似ている。
「どうしたの?」
ボーッとした蓮見に男性が足を止める。
「いえ、なんでもないです。」
男性は微笑むと、そのまま歩き出した。
小さなバーの入口の鍵を開けると、古着屋と同じお香の匂いがした。
「そこに座ってて。」
男性は蓮見をカウンターに案内した。
店の一番目立つ場所にギターが飾ってある。蓮見は近くでそのギターを見ようと近づいた。
「ナオのギターだよ。」
男性はそう言った。
ライブが始まる前の控室。
鏡の前で髪を整えているケン。
「ナオ、お目当ての子は来てるかよ。」
「ああ、たぶん。もう、どこで見てるか分からないけどな。」
「この前の曲、お前の気持ちはわかるけど、やっぱり暗くて歌いたくないわ。」
ケンはそう言ったが、ナオは黙ってギターを弾いていた。
「やっぱり解散するのか?」
ヒサシがナオに聞く。
「デビューしてこれからって時なのによ。なんだよ、本当。」
「それぞれやっていくいい時期だろう。ヒサシは別のバンドからも誘われてるって聞いたぞ。」
ケンはそう言った。
「レイはどうすんだよ。」
ヒサシはレイの方を向く。
「俺は友達の所の美容室に来てくれって言われてんだ。しばらく、音楽からは離れて暮らすよ。ナオはどうするんだ?」
「俺は、少し休もうかな。」
片時もギターを離さないナオ。
「もったいねぇーな。お前からそれを取ったら、なんにも残らないだろう。」
ヒサシが言った。
「そうかもな。」
ナオそう答えた。
「解散の事、今日、言うのか。」
レイがケンに聞いた。
「ああ。」
「ケンはいいよな。一人で歌っていくんだろう。お前だけでソロでいく話しがあるからな。レイも美容師の道があるからさ、何も決まらないのは、俺とナオだけか。」
ヒサシが言う。
「俺はもう歌わないって。」
「実家でも継ぐのか?」
レイはケンに聞く。
「大学に戻るつもりだ。」
「そっか、休学してたんだもんな。」
「もしかして、毎日この頭で行くつもりか?」
「悪いかよ。」
ケンは言った。
「ナオ、もう1回考え直せよ。」
ヒサシがナオの隣りに座る。
「もう、決めた事だよ。」
「ひたすらやって来たのに、なんか淋しいな。」
「全部なくなるわけじゃないんだから、ヒサシだって、また始めればいいじゃんか。」
ヒサシは納得がいかない。
「ナオ、さっき、言ってたあの子って誰だよ。麻美ちゃんの事か?」
レイが聞いた。
「少し前まで、非常口の下にいたんだよ。かわいい子がさ。今は席が決まってるから、どこにいるかわからないけど、小さい所でやってた時は、その子がよく見えたんだ。」
「俺は、客の顔なんかいちいち覚えてないぞ。だいたいその子って、ナオのファンなのかよ。」
「それは、わからない。」
「どうせ、ケンのファンだろう。前に出てる連中は羨ましいよな。」
ヒサシはそう言って水を飲んだ。
「やっぱり暗過ぎるわ。あの曲。」
レイがナオの隣りにくる。
「ケンも言ってただろう。もう少し、雰囲気変えてみたらどうだ? 歌詞はそれでいいとして。」
「あの感じ、耳に残るだろう。俺はそれでやりたいんだ。」
「ナオは頑固だからな。」
ケンはそう言って立ち上がると、ナオの肩に手を置いた。
「曲が完成したら、あの子のために歌ってやるよ。」
驚いて言葉が出ない蓮見に、
「非常口の下によくいた子でしょう?」
「本物のケンなの?」
「もう、けっこう経ってるのに、よく俺だってわかったね。」
男性は蓮見の頭を撫でた。
「座ってよ。なんでも飲める? 今、用意するから。」
蓮見はカウンターに戻ると、お酒を用意するケンを見ていた。氷がコップにぶつかる音と、どこからか懐かしいギターの音色が聞こえてきて、居心地が良かった。
「はい。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「今日は早めに閉めるから、その後少し話そうよ。」
ケンがそう言うと、入口から次々に客が入ってきて、あっという間に席が埋まった。
忙しそうに働くケンを見ていると、隣りに座った女性客が、蓮見に話しかけてきた。
「ここは初めて? 見ない顔だから。」
「そうです。」
「リュウの知り合い?」
「いえ、古着屋さんで会って。リュウって? あの人はケンじゃないんですか?」
「本当の名前はリュウって言うんだよ。」
「ケンは双子の兄の名前。リュウが小2の時に亡くなったんだって。昔、ケンって名前でバンドをやっていたって聞いた事ある。ほら、あのギターはリュウがバンドしてた時のメンバーの物なんでしょう? 持ち主はもう亡くなったらしいけど。」
「そうなんですか。」
「ごめん、私、リュウの昔を知らないの。」
キレイな女性の隣りに座っている自分は、店の雰囲気には合わないような気がして、なんだか恥ずかしくなった。
「何してる人?」
「病院で働いています。」
「看護師さん?」
「そうです。」
「私は、リュウが古着屋をやってる場所で、花屋をしてたの。」
「覚えてます。あのお花屋さん。」
「今は別の場所に移ったんだけど、その時にリュウと知り合ってね。ここに時々来てるの。」
「ここは、ケンさんの紹介じゃないと入れないんですか?」
「ケンじゃなくて、リュウの事ね。」
「あっ、そうだった。」
「リュウはこの店を大切にしてるから、自分の好きな人しか呼ばないよ。だから、あなたも勝手に友達を連れてきてはダメ。そういえば、名前は?」
「里田蓮見と言います。」
「私は早川咲江《はやかわさきえ》。よろしくね。」
咲江はそう言うとリュウを呼んだ。
「リュウ、おかわりくれる?」
リュウは注文を聞く事なく、咲江のお酒を作っている。
「蓮見はリュウの事、好きなんでしょう?」
「えっ、……。」
咲江はクスッと笑った。
「わかりやすいわね。ここにいる人はみんなリュウが好きなの。リュウはね、古着屋やバーの店長だけじゃなくて、会社もやってるから。ライバルは周りにたくさんいるよ。」
グラスをかき混ぜるリュウを見つめた。
「はい、おまたせ。」
「ねぇ、リュウ。このヒヨコみたいな子は、どこで見つけてきたの?」
「咲江、ヒヨコはないだろう。」
「私にしたら、ヒヨコはかわいいって表現なんだけどな。」
「かわいいだろう。店にきてくれたんだよ。それで声を掛けた。」
「客をナンパしたんだ。」
「ナンパじゃないって。ねっ。」
リュウは蓮見の方を見た。リュウは客に呼ばれて席を離れた。
「仕事、楽しい? 」
咲江が聞いた。
「楽しくないです。」
「大変だねって、よく言われるでしょう?」
「言われますけど、私はそれしかやった事がないから。」
「ほら、あの子。あの赤い服の子も看護師だよ。派遣で半年働いて、半年は好きな事をやって暮らしてる。麻美! こっちこっち。」
咲江はその赤い服の女性を呼んだ。
「麻美、この子も看護師だって。」
「へぇ~。どこで働いてるの?」
「医療センターです。」
「何科?」
「ICUにいます。」
「おっとりしてるかと思ったら、けっこうハードな所で働いてんだ。名前は?」
「里田蓮見です。」
「私は河合麻美《かわいあさみ》よろしく。私は派遣だから、蓮見みたいに縛られるものがないの。ちなみに今は失業中。」
咲江と麻美は顔を合わせて笑った。
「いろんな生き方があるからさ。ほら、リュウだって、いろんな顔がある。」
麻美はそう言うと、咲江の隣りに座った。
「あのギターの持ち主は、私の幼馴染。3年前に肺がんで亡くなったの。病気が見つかったのは、ちょうどバンドが、デビューして、1年目の時だよ。リュウは1人でデビューすることだってできたのに、音楽を辞めるっていう道を選んだ。この店はね、咲江のお父さんから、譲り受けた場所なの。今でもメンバーを繫ぐ場所がこの店。ほら、あそこにいるのが、ドラムのヒサシ、今日は来てないけど、ベースのレイもよく来るのよ。」
「麻美さん、ナオと同じ歳なの?」
「そう! 知ってるの? カカオの事。」
「すごく好きだったんです。」
「いい曲、たくさんあるからね。だけど、今のリュウの前では絶対その話しをしてはダメ。もう、昔の事だからね。ここにいるリュウは、バーの店長のリュウなんだし。」
「そうなんですか……。」
蓮見はリュウにケンと呼んだ事を後悔した。
「ねえ、蓮見。どんな子がタイプ?」
咲江が蓮見に聞く。
「私、女子校だったから、男の人って身近にいなくて……。」
「芸能人とかでも、好きな人はいないの?」
「ドラマとか、あんまり見ないし。この人って、いません。」
「へぇ~、もったいないね。白衣着たら、モテるだろうに。」
「リュウがタイプなんだよね。」
咲江がそう言った。
「ここにいる女子は、みんなリュウが好きだからね。そうだよね、麻美。」
「そう。リュウはあんな感じだから、みんなにチャンスがあると思っちゃう。少し前まで、彼女が途切れなかったみたいだけど、今はいないみたいね。」
麻美はそう言った。
「私ね、頭が良くて、ぶっきらぼうな人がタイプ。」
「麻美が最初に就職した病院の外科医の話しよ。結局、恋敗れて派遣になったんでしょう? 」
「敗れたわけじゃないよ。譲ったんだって。」
「咲江の好きな人も聞いてやって。笑えるよ。」
蓮見が咲江の顔を見ると
「私はね、いつも荷物を持ってくる配達員さん。」
「カッコいいんですか?」
蓮見は咲江の顔を見た。
「いつも玄関先でいいって言うのに、店の中まで運んでくれるんだよ。きっと私の事が好きなんだろうね。」
「それって仕事のひとつでしょう。ねっ、勘違いだと思わない?」
麻美は蓮見に相槌も求めた。
「蓮見は、背が高いとか優しいとかいろいろあるでしょ?」
咲江がそう言うと、リュウが3人の前にきた。
「今日は23時で閉店だから。」
「えっー。」
咲江と麻美は残念そうだった。
「リュウ、明日仕事なの?」
咲江が聞いた。
「これから用事があるんだ。」
「次はいつ来るの?」
「水曜日。」
「水曜日は遅くまでやる?」
「そうだね。コージが遅くまでいるよ。」
「今日はコージいないの?」
「たまには休みをやらないと。」
「コージがいても、リュウがこないと淋しいよ。」
麻美はリュウにそう言った。
「だいたい店長なのに水曜日だけしか店に出ないなんておかしいよ。」
「麻美、リュウは昼も会社で働いてるの。古着屋もやってるし。」
咲江は麻美の頭を撫でた。
「そっか、しかたないね。だけど、会いたいよ~。」
麻美と咲江は顔を合わせて笑った。
「蓮見も、ここにくるなら水曜日だよ。それ以外の日はバイトのコージが店にいるから。コージもカッコいいよ。リュウとはまた違った感じ。」
咲江は蓮見にそう言った。
「ねえ、リュウ。蓮見に出してるのって何? 私にも作って。」
麻美がケンに言うと
「いいよ。咲江はどうする? 同じの飲む?」
「私はこれでいい。」
咲江は飲んでいたグラスを龍に渡す。
「君は何にする? 俺が考えていい?」
リュウが付けていてるネックレスが、証明に照らさせれてキラキラ光った。キレイだな、蓮見がそう思ってると、
「起きてる?」
リュウは蓮見に声を掛けた。
「私はなんでもいいです。」
「チョコ、食べる?」
咲江と麻美は食べる! とリュウが出したチョコに手を伸ばした。
「リュウ、このチョコは女の子からの貰い物でしょ? ほら、蓮見も食べよ。」
麻美が言った。そして、ケンが作った青いカクテルを飲んだ麻美は
「ねえ、これレモン? なんかすっぱい。」
そう言った。蓮見には緑色カクテルが出された。
「リュウ、なんで蓮見だけ特別なの?」
麻美の言葉にリュウは笑った。
「蓮見って言うんだ。」
リュウは蓮見を見つめた。
「リュウ、今までここに名前も知らない子を連れてくるなんてなかったよね。」
咲江がリュウにそう言った。
「咲江と麻美にもたくさんサービスしてるだろ。忘れたか?」
リュウは2人と楽しそうに話している。あんなふうにリュウと緊張せずに話せるの咲江と麻美が羨ましい。
23時が近くなると、リュウは小さな紙を3人に渡した。書いてある金額見て、それぞれが財布を出し、会計を済ませる。
蓮見の紙には、店の前で待ってて、そう書いてあった。
蓮見は麻美と咲江と別れると、リュウの店の前で待っていた。
客が帰った後、龍はナオのギターの前にいた。
「やっと見つかったな。」
ナオがそんな事を言っている気がした。
「ナオ、やっぱり、死にたくなかったよな。」
少しすると、店のドアが開き、リュウが出てきた。
「明日は仕事?」
「仕事は夕方からです。」
「それなら、これから海に行こうよ。」
「海、ですか?」
「朝日を一緒に見たくてさ。車、そこに止めてあるから。」
「疲れてないんですか?」
「疲れてるから朝日を見に行くんだよ。大丈夫、俺は酒飲んでないし、ちゃんと目的地まで蓮見ちゃんを連れて行くよ。」
蓮見はリュウの後をついて行く。
リュウは突然立ち止まり、後ろを歩く蓮見を待っていた。蓮見は下を向いて歩いていたせいか、止まったリュウにぶつかった。ごめんなさいと少し後ろに下がったが、少し触れただけなのに、リュウの匂いが包み込む。
「大丈夫?」
「えっ、ごめんなさい。バンドの事は言ってはいけないって言われました。私、無神経で。」
「ああ。麻美達が言ったのかい?」
「……。」
「別にいいよ。早く行こう。」
リュウは蓮見の手を握った。
「冷たい手だね。」
「あっ、手袋。」
ポケットの手袋を探した。
「いいよ。」
龍は蓮見の手を自分のポケットに入れた。
「もう片方の手は、冷たいまんまだね。」
リュウの車の助手席に乗った蓮見は、かじかんだ手のせいかシートベルトを締めるのに手間取った。
リュウが代わって蓮見のシートベルトを締める。突然リュウとの距離が近づいたので、蓮見は息ができなかった。
「そんなに逃げなくてもいいじゃん。」
「ごめんなさい。びっくりして。」
リュウは笑ってエンジンを掛けた。
「好きだったの、ケンの事?」
「大好きです。」
蓮見は堂々と告白したようで、恥ずかしくなり下を向いた。
「夕方から仕事って、何してるの?」
「病院に勤めてます。」
「病院って言ったら、看護師さん?」
「……そうです。」
「頭下がるなぁ。尊敬するよ。」
「ケンさんこそ、お店を2つもやって、会社もやってるって。」
「誰の事?」
「あっ! えーと、ケンじゃなくて、リュウさん。」
「アハハ、もう、ケンでいいよ。」
「ごめんなさい。」
「謝る事ないよ。蓮見ちゃんにとってはケンなんでしょう。」
「本当の名前はケンじゃないのに、ごめんなさい。」
「昔から、よく間違われてたよ。親にも。」
「双子だって、咲江さんから聞きました。」
「兄貴がケンって名前なんだ。これから伊豆に行くよ。明日は夕方から仕事だって言ってたから、少し遠出しても大丈夫だよね。」
「私、初めて伊豆に行きます。」
「俺は伊豆で暮らしてた。蓮見はどこの出身?」
「私は北海道です。」
「えっ、北海道?」
「はい。北海道です。」
「なんで、こっちに?」
「高校の先生に薦められて、こっちの大学を受けて、看護師になりました。」
「今、家には両親だけなの?」
「兄夫婦がいます。」
「しばらく家には帰ってないの?」
「帰ってないです。帰る事もできるけど、仕事が忙しいって言い訳にしています。」
「札幌には何度か行ったけど、今度、帰る時に実家の方に連れて行ってよ。」
「えっ?」
「ダメか……。 こんな金髪を連れて行ったら、ご両親はびっくりするだろうし。」
「大丈夫です。そういうの、気にする人じゃないですから。」
「好きな人はいる? 」
「えっ?」
「好きな人はいるの?」
「いません……。」
「病院なら、たくさん人もいるんじゃないの? 」
「そんなに話す人はいません。リュウさんは、すごくかっこいいから、女の子が放っておかないでしょう?」
蓮見はそう言った。
「自分が好きな子から好きって言われなきゃ意味がないじゃん。」
蓮見はリュウの横顔を見た。
「どうした? 俺に見惚れてるか?」
図星の言葉に蓮見はびっくりした。
「あの、その、家は海が近いんですか?」
「近いよ。冬の海は灰色で空と同じ色。」
「そういえば昨日のお酒、青色と緑色。」
「青は好きな色なんでしょう。普通の女の子なら、ピンクや淡い色が好きだったりするんじゃないの? 青ってわざわざ選ぶ色じゃないでしょう。」
「昔、そういう色のTシャツを着たジャケットがありましたよね。」
「ああ、そういう事なんだ。あの青色のTシャツね。」
「あの青、すごく素敵でした。」
「本当は緑の方が好きなんじゃない? ナオの着てた色。」
「どうして?」
「なんとなく聞いてみた。」
「私は青の方が好きです。」
「もし、俺が緑を着てたら、緑が好きになった?」
「それは……、どうかな……。」
リュウの実家に着いた二人。実家は大きな旅館だった。
「ただいま。」
リュウがふすまを開けると、和室には、小学生くらいの子の遺影があった。男の子の顔をじっと見ている蓮見に、リュウは座りなよ、と座布団を勧めた。
二人の元に、リュウの母と思われる人が現れた。
「おはよう。リュウ、帰ってたの?」
「ああ。今着いた。今日はケンの誕生日だろう。」
「そうね。ケンの誕生日よ。リュウ、その人は?」
「彼女だよ。」
リュウの言葉に戸惑いながら、蓮見はおはようございます、とリュウの母に挨拶をした。
「おはよう。」
ケンの母と人は、朝早いのにしっかり着物を着ていた。
「リュウが女の子を連れてくるなんてびっくりだわ。あのね、リュウとケンはね、双子だけど本当は誕生日が違うの。ケンが2月1日でリュウが1月31日よ。リュウは昔からせっかちなのよ。
双子ってね、あとから生まれた子の方が兄になるのよ。だから、二人共、戸籍では今日が誕生日になってるの。」
「母さん、いつもその話しをするんだよ。」
「だって、母さんにとっては命懸けの日なのよ。ゆっくりしていって。うちのお風呂に入っていくといいわよ。すごく温まるから。」
リュウの母が出ていくと、リュウは蓮見を大浴場に案内した。
「これ、使って。」
浴衣を蓮見に渡すと、リュウは男湯に入って行った。
いつもはシャワーで済ませているので、冷え切った体が首までお湯に浸かると、自然と目が閉じていく。蓮見は顔にお湯をかけた。
お風呂から上がると、急に眠気が襲ってきた。いつもはなかなか寝付けなくて寝返りを打ってばかりなのに、体が温まったせいか、瞼が自然に落ちていく。
長い廊下を渡り、リュウの部屋についた蓮見は、ドアの前で立ち止まった。
自分とは別の世界にいたケンに会えて、こうして話しができるなんて夢見たいだ。蓮見は恐る恐るドアを開ける。
リュウはまだ戻っていない。
部屋の中にはランドセルが置いてあった。机の上には鉛筆削りと、止まったままの時計。窓から見える海は、灰色で空と境目がわからないほど。
リュウを待っているうちに、蓮見はベッドに寄り掛かり、いつの間に眠ってしまった。
「蓮見ちゃん。」
誰かが呼ぶ声で目が覚める。
「あっ、リュウさん。ごめんなさい、私、寝ちゃってて。」
蓮見は顔を両手で覆った。
「浴衣、はだけてたよ。」
「えっ、やだ。」
「うそだよ。ここはケンの部屋で、隣りが俺の部屋。待ってても来ないから、もしかしてと思ってこっちに来てみたら、寝てるからびっくりした。」
「ごめんなさい。向かって右って聞いたから。」
リュウは蓮見の右手を掴んで、こっちだよ、と笑った。
「今日は誕生日なんでしょう?」
「そう。俺は昨日が誕生日。今日はケンが誕生日。ここは時が止まったままだろう。」
「そうだね。」
「家族みんなが、ケンの事を受け止められないんだ。」
蓮見は黙っていた。
「蓮見は病院にいるから、よく人が死ぬ場面に遭うんだろう。そういうのって、どんな気持ち? 仕事だって、すぐに割り切れるもんなの?」
「その時は実感が沸かないです。次の日、違う人がそこにいると、なんとも言えない気持ちになる。」
蓮見はまだキレイな青のランドセルを見つめた。
「俺は笹田龍《ささだりゅう》兄は賢《けん》」
「私はずっと、ケンが本当の名前だと思ってました。」
「小2の時に親と大喧嘩してさ。夏休みなのにどこにも連れて行ってもらえないって、飯も食べないでストライキだよ。それならって、夏休みにケンと新幹線に乗って神戸のおじさんの所に遊びに行く事になって、初めて二人だけで伊豆を出たんだ。
駅の階段でケンが転んでさ、その時は元気だったのに、帰りの新幹線の中で具合が悪くなって、そのまま死んでしまった。」
「頭?」
「そう。頭の中に大きな血の塊ができてたんだよ。転んだ時に、ちゃんと病院に行っていれば良かったのに、小学生の俺にはそんな知識もないし、出掛ける事で気持ちがいっぱいになってたから。」
「……。」
「誰も俺を責めないんだ。それがまた辛くてさ。俺とケンが間違られる事もなくなったけど、バンドを始めるって決めた時に、ケンの名前で歌おうと思ってさ。」
蓮見は黙って龍を見つめていた。時間が経てばカサブタになっていく悲しみも、時間が止まったままの龍や龍の家族には、今でも生々しい傷のままだ。
龍も蓮見の顔を見つめ、2人の目があった。
「ねえ、なんで髪を切ったの?」
龍は蓮見に聞いた。
「えっ?」
「前はこう、丸くしてたじゃない?」
「あれは学生だったからです。」
「学生って、みんなそんな髪型なの?」
「そうです。実習に行く時、そうしないとダメだから。」
「これくらいの髪も似合うね。」
龍が蓮見の髪を触った。
「龍さんは仕事を3つもやってて、いつ寝てるの?」
「俺はね、バンドをしてた頃から、ぐっすり眠る事ができないんだ。朝方に眠気が少しあるくらいで、それ以外の時間なかなか寝付けない。」
「じゃあ、今はすごく眠いでしょう?」
「さっき、蓮見ちゃんが気持ちよさそうに眠ってる姿を見て、羨ましかったよ。」
「ごめんなさい。ここのお風呂、すごく気持ち良かったから。」
龍はケンのベッドに横になった。蓮見を隣りに呼ぶと、
「さっき、みたいに寝てみて。」
そう言った。
「絶対、無理です。」
「どうして?」
「男の人の横で寝るなんてできません。」
龍は笑った。
「いいから、こっちにおいで。」
龍は蓮見の腕を掴む。
「龍さんはこういう事に慣れているんでしょう? 女の子なんかたくさん寄ってくるだろうし。」
「そりゃあ、昔はね。」
「龍さんが眠るまでここで見てます。」
蓮見はベッドの下に座ったまま、龍の方を見た。
「隣りにきてよ。」
「……。」
龍はなかなかベッドに入らない蓮見に近づくと、優しく髪を撫でた。
「ねぇ、朝日が見えるかもよ。」
龍の誘いを断るように、オレンジ色に明るくなった窓辺に、蓮見は立った。
「ほら。朝日が見える。」
龍は朝日に照らされている蓮見の隣りに並ぶ。
「失くした手袋って、どうして捨てないの? 片方だともう役に立たないじゃない。」
「両方ある時は当たり前なのに、片方だけになると思い出が溢れてくる。」
龍はそう話す蓮見を見ていた。朝日の中にいる蓮見は、このまま光に溶けていきそうだった。
「優しいんだね。ナオがよく言ってたんだ。あの非常口の下の子がすごくキレイな目をしてるって。」
「龍さんの方からはお客さんは見えないでしょう?」
「非常口の下は明るいから顔が見えるんだよ。それを知っててあの下にいるのかと思ってた。」
「私は、前の方だと押されてしまうからあの場所にいたんです。本当はもっと近くで見たかったけど。」
「それなら、ほら、一番近くで見てもいいよ。」
龍は蓮見の顔を覗いた。
急に距離が近くなって、蓮見は後退りした。
「アハハ、そんなにビクビクするなよ。」
龍は蓮見の頬を撫でる。
「龍! ご飯できたよ。二人で食べちゃって。」
龍のお母さんの声がした。
「行こうか。」
龍は蓮見を連れて台所に向かった。
テーブルの上には、旅館の朝ご飯が並べられていた。
「龍さん、いつもこんな朝ご飯を食べたの?」
「いつもはパンだよ。自分で焼いて。今日は蓮見が来たから、特別なんだろう。」
「お母さんは?」
「もう仕事だよ。親父も調理場にいるよ。」
「皆で揃って食べるってなかったの?」
「ないね。ケンがいなくなってからは、ずっと一人。」
龍のお母さんが足速にやってきた。
「龍、食べ終わったら宮田さんの所に行ってきて。ケーキ予約してるの。」
「ああ、わかったよ。」
「それ食べたら、調理場に下げておいてね。お父さんが龍に食べさせろって用意したんだから。顔を見せてやって。」
「はいはい。蓮見、座ろうよ。」
「さっ、食べて。」
龍のお母さんは忙しそうに仕事へ戻って行った。
「大変だね、お母さん。ご飯食べたの?」
「食べてないと思うよ。蓮見だって、働く時間がバラバラだといつ食べていつ寝るか、困るだろう?」
「私は、いつも食べてるし、いつも寝てるし。」
それを聞いて龍は笑った。
「病院の近くにラーメン屋さんがあって、私はそれで生きてるかも。龍さんは、いつ食べてるの?」
「昼間は設計会社をやってるんだ。会社が休みの日とか、休みの前の日に店に出てる。それ以外はバイトに任せてるんだよ。だから、蓮見より普通の生活してるだろう。ちゃんと自炊してるし。」
「設計って家を建てるの?」
「そうだよ。」
「龍さん、器用なんですね。私、昔からまっすぐに線が引けないんです。ハサミもまっすぐに切れない。右と左も間違えるし。」
「だったら、これからは俺がつきっきりで教えるよ。蓮見は左利きなんだ。」
「箸はね。ハサミは右なの。」
二人が楽しそうにご飯を食べていると、龍の父がやってくる。
「おはよう。どう? 口に合うかな?」
龍の父が蓮見に質問する。
「おはようございます。どれもおいしいです。」
「うれしいね。龍が彼女を連れてきてるって、母さんに聞いたもんだから。」
黙々と食べている龍を見て、
「ケーキはみんなで一緒に食べような。」
龍の父はそう言って仕事に戻っていった。
「龍さんの家って誕生日は特別なんだね。」
「誕生日しか、顔を合わせないからね。蓮見ちゃんの家は、いつも皆でご飯食べてたんだろう。」
「一緒だよ。」
「全部食べれなかったら残していいよ。」
「ううん。全部食べるよ。」
朝ご飯を食べ終えた二人は、歩いてケーキ屋さんに向かっていた。雨が上がり、生暖かい空気が街を包んでいた。
「今日は何時まで帰ればいい?」
「4時半から勤務だから、それまでに戻れば。」
「仕事は何時まで?」
「12時半。」
「夜中の?」
「そうです。」
「次の日は?」
「夜中の12時に仕事に行きます。」
「いつ仕事なのか、休みなのかわからなくならないの?」
「もう慣れました。」
「ねえ、蓮見ちゃんの連絡先教えて。」
二人は携帯を出した。
ケーキ屋に着くと、
「あら、龍くん。久しぶりね。いくつになったの?」
お店にいた中年の女性が龍に声を掛ける。
「30になります。」
「お宅のお母さんは、毎年家族の誕生日にここでケーキを頼むよのね。龍くん、ちゃんと帰ってるの?」
「はぁ、たまに。」
「笹田さん。これ、頼まれてたケーキ。2つあるけど、持っていける?」
お店の奥から女性が出てきた。
「賢ちゃんと龍ちゃんの分よ。配達しようかって言ったのに、取りに行くからって女将さんが言うから。あっ、彼女が一緒なら大丈夫ね。龍ちゃん、またすぐ帰っちゃうの?」
「そうです。昼にはこっちを出ます。」
「たまにはゆっくり帰っておいで。女将さんも淋しいでしょうから。」
ケーキをひとつずつ持った二人は帰りの道を歩く。
「あの、私、龍さんの彼女じゃないですよ。」
「彼女だろう。男の家にきて、ベッドに誘われてるんだから。」
「……。」
「大丈夫、持てる? 上り坂だけど。」
「持てますよ。大事なケーキだもの。」
宿泊客の見送りを終えた龍の母は、買ってきたケーキを分けた。龍の父も呼び、4人で食卓に座った。
「龍、もっと食べなよ。」
空になった皿にもう一つケーキを乗せようとする母に、
「さっき、ご飯食べたからもう食べれないって。」
龍はそう言った。
「あなたは? あら、お名前なんていうのかしら?」
「蓮見さんだよ。この子ももう無理だから。」
龍が代わって答える。
「女の子は甘いものは別腹でしょう?」
龍の母は蓮見の皿にさっきと違うケーキを乗せた。そして、リュウお誕生日おめでとうと書いたチョコレートも上につけた。
「母さん、無理やり置いたら断れないだろう。」
「食べれなかったら、残してもいいわよ。」
「私、食べますよ。」
「蓮見さんはどこの出身なの?」
龍の父が聞く。
「私は北海道です。」
「いつからこっちにきたの?」
「9年前になるのかな……。」
「なんの仕事?」
「病院に勤めてます。」
「看護師さん?」
「そうです。」
「そりゃ、もっと堂々としてもいいんじゃない? 大変な仕事なんだし。」
「私はそれしかやった事がないから。」
今度は龍の母が蓮見に話し掛ける。
「実家は何をしてるの?」
「酪農です。」
「あらぁ、そうなの。北海道の食べ物って美味しいわよね。私も死ぬ前にもう一回行ってみたいのよ。」
「母さん、北海道に行った事あるの?」
龍は驚いたように聞くと、
「あるよ。新婚旅行で行ってきたの。」
嬉しそうに母は答えた。
「街全体が大きな冷蔵庫みたいなんだよ。何もかも新鮮で、何を食べても美味しかったなぁ。お父さん、ここをこの二人に任せて行って来ましょうよ。」
「そうだな。あれからどこにも行ってないからな。」
「龍、蓮見ちゃん、いいかしら?」
「なんでも勝手に決めるなよ。」
龍はそう言って蓮見が食べ掛けていたケーキを全部食べた。
「東京に戻るから、少し寝るわ。」
龍はそう言うと、蓮見を連れて2階へ上がった。
お腹がいっぱいになって動けなくなった蓮見を見て、
「だから、断れば良かったのに。」
龍はそう言った。
「せっかくだからもう一回、お風呂に入りたいんだけど。」
蓮見は龍にそう言った。
「もう少しで掃除が終わるから、ちょっと待ってて。」
蓮見はさっき脱いだ浴衣をたたみ直していた。
龍が蓮見を後ろから抱きしめる。
「お風呂に行ってくる。」
蓮見から離れた龍は
「今度は部屋を間違えるなよ。」
そう言って蓮見の右手を握った。
温泉に浸かっていた蓮見は、このまま時が止まればいいのにそう思っていた。
憧れのケンが目の前にいるのに、男の子にからかわれていた過去や、仕事に行く時間が自分を追いつめる。
部屋に戻ると、窓を見ている龍がいた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「少し寝ないと、仕事中に寝てしまうかもよ。」
龍はそう言ってカーテンを閉めると、蓮見をベッドに座らせた。蓮見の隣りに座った龍は、蓮見の肩を抱き、自分の顔の近くまで蓮見の顔を引き寄せる。
キスをしてから、ベッドに押し倒されたのは、あっという間の出来事だった。固く目を閉じた蓮見に向かって、
「そんなに緊張しなくてもいいから。」
龍はそう言って蓮見を自分の胸に抱いた。龍の鼓動が聞こえる。それ以上に、蓮見の心臓は早くなっていた。
龍は腕の中にいる蓮見を見つめたが、蓮見は目を逸らした。
蓮見は自分を拒んでいるような感じがして、龍はそれ以上は何もできなかった。
今まで自分が誘った女の子は、自分の事を拒む事はなかったし、そういう関係になる事を望んでいるかのように思っていた。
好きだと言ってついてきたのに、この子はなんで目を逸らしたのだろう。
「眠りなよ。」
龍はそう言った。
蓮見は頷くと龍の胸で寝たふりをしていた。
少しして龍が眠ると、蓮見は龍の肩に静かに毛布を掛け、反対側に体を向き直した。
目を閉じるとさっきの龍とのキスが浮かんで、胸の奥が熱くなる。蓮見はこのまま深く眠って、今日の事は全部忘れてしまおうと思っていた。
13時半。龍の携帯が鳴った。
ぐっすり寝ていた龍は、目を閉じたまま携帯を探していた。
蓮見が鳴っている携帯を龍に渡すと、やっと目を開けた龍が「もうこんな時間かよ。」
そう言って、龍は蓮見を抱きしめ、また眠りにつこうとした。温かい龍の体が、閉じ込めた想いを呼び戻していく。
「眠れたか?」
龍はそう言った。
「眠れました。」
本当は眠ることなんかできなかったのに、蓮見はベッドから起き上がる。
玄関で靴を履いた時、龍の母がやってきた。
「よかったらこれ持っていって。蓮見ちゃん、また来てね。」
たくさんのみかんをもらったん蓮見は
「こんなに! ありがとうございます。」
龍の母にお礼を言った。
「蓮見ちゃんのお陰で、家族で話しができたわ。龍、またね。」
「ああ。」
車に乗り込んだ二人。海沿いの道を走りながら、蓮見は窓をを眺めていた。
「海、好きなの?」
「私がいた所は海が遠かったから。」
「緑の方が多かった?」
「うん。緑がほとんど。疲れてるのに運転させてすみません。」
「本当は眠れなかったんだろう。」
「……。」
「車で少し、寝ていくといいよ。」
「大丈夫です。お風呂、すごく気持ちよかった。」
「そう、良かった。帰りに病院の近くのラーメン屋さん教えてよ。俺、せっかちだから、30分しか待てないけど、仕事が終わったら一緒に食べようよ。」
「いいんですか?」
「ねぇ、このまま仕事休んじゃえば?」
「それはちょっと……。」
「そうだよな。」
「……。」
「時間大丈夫かな? このまま病院直行でもいい?」
「いいです。すみません、急がせちゃって。」
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