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9章
海の風
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龍の部屋へ引っ越しが住んだ頃、蓮見は看護部長に呼ばれた。
「里田さん。来月からここの離島へ行ってもらうわよ。」
「離島ってどこですか?」
「ここよ。かろうじて関東だけど。」
看護部長は、壁にある地図を指さした。
「どうして、私がここへ行くんですか?」
「あのね、診療所の先生が急に辞めちゃってね。そこの町長は、うちの院長とも繋がりがあって、どうしても診療所を存続させたいのよ。ほら、里田さんと仲の良い原田先生が、水曜日だけ、そこに勤務することになったから。」
「診療は水曜日だけですか?」
「そうね。うちの診療は水曜日だけ。」
「それなら私は毎週水曜日だけ行けば……。」
「里田さんはずっと島に残るのよ。水曜日以外は交代の医者が大学から来るし、ほかにも訪問看護とか、いろいろやってもらうつもり。」
「そこには看護師さんはいないんですか?」
「いるわよ。だけど、いろんな判断ができるあなたを、私が抜擢したのよ。」
反抗的な目をした蓮見に
「里田さん、あなたには期待してたのよ。今もそう。実は牧田師長から相談されてね。あなたのせいで、息子さんが仕事が手につかないって。ねっ、離島に行かないで、こっちで理解のある男性と一緒になったらどう?」
「そんな、」
「あとね、私の顔、けっこうきくから。3ヶ月間は他の病院に流れないように、この前、ここらの辺の師長達と、引き抜きの件について話し合ったから。」
「私は今の彼とは別れるつもりはありません。」
「あなたくらいの看護師なんか他にもいるのよ。せっかく、いい話しをしてるのに残念ね。言う事聞いて、こっちで牧田くんと結婚したら、すぐに主任にしてあげるわよ。もう少しよく考えてちょうだい。」
「……。」
「いずれにしても、あなたが離島を選ぶなら、牧田師長の息子さんも一緒に行くことになるから。二人でゆっくり将来の事、考えるといいわ。」
看護部長室から出た蓮見は、病院の廊下が歪んで見えた。こんな事ってある? 誰も来ない非常階段を駆け上がると、悔しくて涙が止まらない。病院を辞めるという選択もできるし、看護師を辞める選択もできる。だけど、それでは牧田の思い通りになってしまう。涙を拭うと、蓮見は急いで職場へ向かった。
「里田さん、原田先生が呼んでたよ。」
今日は麻美がいないのか。蓮見は原田の所へ行く。
「先生。」
蓮見はメモを取り出すと、医師はいくつかの指示を出す。
「設定変えたから、呼吸状態チェックして。」
「はい。」
「里田さん。守ってやれなくてごめんな。せめて1年だけって条件を出したから、向こうの勤務が終ったら、またここに戻ってきてほしい。」
「ありがとうございます。先生が毎週水曜日に来てくれるって聞きました。島の人も心強いと思います。」
「里田さん、絶対にこの仕事辞めるなよ。ここの師長みたいに強くなれ。」
内線がなった。
「入院くるよ! 里田さん、用意して。」
蓮見はいつもの様に動き出す。
帰り道を急いでるはずなのに、龍になんて言えばいいか悩み、心が重い。
すれ違いが続けば、出会ったばかりの関係はこれで終わりになるのかも。牧田はそれを待っている。いっそ流されて牧田と結婚した方が、無難な選択なんじゃないか。まわりが放っておかない龍の事を、自分なんかが縛りつけるなんて贅沢だ。
いろんな事が頭を巡り、家のドアを開けた。
「おかえり。」
龍はいつものように迎えてくれる。
「ただいま。」
「蓮見の家から、なんか届いてたよ。」
龍は段ボールを指さした。蓮見が箱を開くと、実家でとれた野菜やバターやチーズがたくさん入っている。
「すごいね。こんなにたくさん。」
「この前、龍のお母さんの事を話したから。これ、お母さんに持って行こうよ。」
「そうだね。蓮見、明日は?」
「夕方から勤務。」
「じゃあ、今から行こうよ。」
「龍さん、仕事は?」
「もうすぐ終わるから。」
龍はパソコンに向かった。
こんな風に龍がいつも近くにいる生活が、来月ならできなくなる。
蓮見は龍の横顔を見ていた。それもなんだか辛くなり、段ボールの中のじゃがいもを手にとると、ゴツゴツとした形を見ながら涙を堪えていた。
「終わったよ。行こうか。」
龍がパソコンを閉じると、蓮見の携帯がなる。麻美からだった。
「蓮見、どういう事?」
「麻美さん、原田先生から聞いたの?」
「原田先生からも聞いたし、4階の師長が皆に話してるよ。何、その牧田ってやつ。」
「なんだろうね。」
「ねえ、龍に話した?」
「まだ。」
「蓮見はどうするの? 病院を辞めるなら、私が世話になってる人に仲介してもらおうよ。」
「部長が退職しても近くの病院に流れていかないようにしてる。」
「そんなの脅しだよ。ねぇ、龍に代わって。」
蓮見は龍に電話を渡す。麻美は龍にすべてを話しているようだった。話し終えて電話を切った龍は、目を合わせられない蓮見の顔を覗き込む。
なんて答えればいいのか、言葉が見つからない。
「行こうか。蓮見。」
龍は段ボールを抱えた。
車に乗ると、龍は蓮見のシートベルトを締めた。
「自分でできるよ。」
蓮見との距離が近くなった龍は、蓮見の頬を触る。蓮見は頬を触っている龍の手に触れる。
「言い辛い事でも、ちゃんと話してよ。」
龍は前を向くと車を走らせた。
「来月から小さな診療所で勤務する事になったの。」
「そうか。」
「病院、辞めようか迷ってて。」
「辞めてどうすの?」
「龍と一緒にいたいから、この仕事も辞めようかと思ってて。だけど、辞めたらなんだか逃げた様な気がして……。」
「それで悩んでるんだ。」
「やっぱり、今までの事は夢だったのかな。」
龍は何も言わなかった。二人の間に重い空気が漂う。
「そこで少し休もうか。」
龍はコンビニに車を止めた。
誰もいない駐車場。煌々と照らす照明が暗闇の中にいた二人には眩しかった。
「ほら。」
龍は蓮見に暖かい紅茶を渡す。
「ありがとう。」
「蓮見の母さんにも、荷物のお礼を言っておけよ。」
「龍? 」
「何?」
「ううん。なんでもない。」
龍は少し微笑んだ。
「早く行こうか。眠くなってきた。」
龍はコーヒーを飲んだ。
龍の部屋に着くと、蓮見をベッドに押し倒した。
キスしようと蓮見の顔に近づくと、薄暗い中でも目に涙が溜まっているのがわかる。蓮見は起き上がると、龍の手を握る。
「龍。」
「……。」
「なんでこんな風になったのかな。」
龍は涙を必死で堪えてる蓮見を抱きしめた。
「嫌になったら、うちの店で雇ってやるよ。」
蓮見の頬に涙がつたう。
「蓮見の両親は、大事な娘を一人で遠い旅に出させたんだ。東京の看護師さんって、きっと自慢の娘なんだよ。だから、とことん、やってみろよ。ちゃんと俺が後ろで待ってるから。1年だけだぞ。俺はせっかちだから。」
蓮見は龍を見つめた。
「麻美が言ってたぞ。ラーメンが好きな原ちゃんがなんとかしてくれるって。俺にはよくわからない話しだけど。」
「原ちゃんって、麻美さん、そんなに原田先生と仲良しなんだ。なんか羨ましいな。」
「蓮見。」
「何?」
「あの夜さ、ずっと眠れなかったんだよ。」
龍はそう言って微笑んだ。
「派手な生活してたしさ、女なんか声掛けたらついてくるもんだと思ってたけど、蓮見にはけっこう待たされたな。」
「ごめんね。」
「謝るなよ。俺、どうしたら、蓮見と一緒になれるかいろいろ考えたよ。こうやって誘おうとか、こんなムードがいいとかさ。まさか、カギを忘れて玄関の座ってるとは思わなかったけどな。それなのに、また、一人の夜が続くのか……。」
蓮見は龍の顔を覗き込んだ。
「あの日、寒かったね。」
龍は蓮見を自分の胸に引き寄せる。
「時間を巻き戻すのと、未来を見るのは、どっちがいい?」
「巻き戻すほうかな。未来なんてあるのかもわらかないし。」
「そっか。やっぱり蓮見はナオに似てるわ。」
「そんな、似てないよ。」
「似てるよ。」
「ナオは真っすぐだったし。」
「蓮見は真っすぐじゃないのか?」
「私はグネグネ曲がってる。」
「アハハ、あいつもそういう所がけっこうあるんだって。」
龍は蓮見の手を握る。
「ナオがいなかったら、こうして会うこともなかったな。」
「そうだね。」
龍は蓮見を見つめた。朝日が二人を照らす。
「好きだよ。」
龍は蓮見の唇にキスをすると、蓮見の首筋にキスの後をつける。
「龍、また怒られる。」
「わざとこうしてるんだよ。」
次の朝。
「おはよう。」
龍の母は食卓にいる二人に声を掛ける。
「蓮見ちゃん、昨日はたくさんありがとう。ご両親にお礼言っておいてね。」
「こちらこそ、ケーキ、ありがとうございます。」
「また、龍に持たせるから。それに、時々こうしてここに食べにきてちょうだいね。」
龍の父が顔を出す。
「龍、東山さんの息子さんが結婚するんだよ。家を建てるっていうから、お前話し聞いてやってくれないか?」
「隼斗、結婚するのか?」
「そうだ。加賀さんのところの美咲ちゃんと結婚するそうだ。美咲ちゃんは龍はひとつ上だったよな。」
「そうだよ。」
「隼斗はこっちで仕事してたのか?」
「ああ。親父さんのクリーニング店継いでいるんだ。」
「へぇ~。」
「これからは二人で店をやるらしい。」
「今日はすぐに帰るから、隼人にはあとで電話する。」
「仕事か?」
「そうだよ。」
「蓮見ちゃんはここに置いていけよ。」
「なんでだよ。」
「少し、手伝ってもらおうと思って。それに、うちの夕食、ご馳走したくてさ。市場にいい魚があったから。」
「蓮見、どうする? ここに残るか?」
「えっ?」
「父さん、残るわけないだろう。それに動けなくなるだけ食べさせる気だろう。」
「蓮見ちゃん、美味しそうに食べてくれるから嬉しくてさ。」
「そのうちまたくるから。今日は、すぐに東京へ戻る。」
なんとか古着屋の開店時間に間に合った。いつものように、お店の前では女の子達が龍を持っている。
「今日はバイトさんと一緒なの?」
一人の子が龍に聞いている。
「バイトじゃなくて、彼女だよ。」
「えー!」
女の子達が一斉に蓮見を見る。蓮見は会釈をすると、棚に隠れた。
「龍は最も派手な子が好きだと思ってた。」
「違うよ、龍は絶対清楚な子の方が好きだって。」
「あの人は龍より、年上?」
「俺より3つ下だ。」
「何してる人?」
質問責めになっている龍から見えない棚で、蓮見は服を畳んでいた。
「おはよう。」
背の高い男性が店に入ってくる。
「おお、コージ。悪いな、休みだったのに。」
女の子達はその男性の周りを取り囲む。
「ねぇ、コージは彼女なんかいないよね?」
「なんだよ、急に。」
「あの棚に隠れてる子が、龍の彼女なんだって。」
「ここにいる全員がフラレたんだよ。」
コージは大きな声で笑った。
「ここは服屋だよ。龍を見に来る店じゃないんだって。」
女の子達が去った後、コージが棚に隠れていた蓮見に声を掛けた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
蓮見は、コージが自分の手を見ているのに気が付いた。
「何やってるの?」
「畳んでます。」
コージは笑った。
「見りゃあ、わかるよ。なんの仕事したんのかって聞いてんの。」
「病院に勤めてます。」
「やっぱりそうだろうな。手を見てわかった。」
龍がコージを呼んだ。
「コージ、この棚とこっちの棚を替えたいんだよ。それから、ここに鏡を置きたいんだ。」
「蓮見、この服、一旦段ボールに詰めて。」
龍が指示を出すと
「彼女もこき使うのかよ。」
コージは龍にそう言った。
「働き者なんだよ。俺の彼女。コージ、お前こそしっかり持てって!」
蓮見はフラフラしているコージが持っている側を支える。
「おい。蓮見、支えるのは俺の方じゃないのかよ。」
3人は笑い過ぎて力が抜けた。
客もチラホラ来たが、作業は午前中のうちに終わった。
「コージ、ありがとうな。バイト代、楽しみにしておけよ。」
「休みがなくなったんだから、カレーくらい奢れよ。」
「お前が食べたいのは、裏のカレー屋か?」
「俺、この人と買いに行ってくるわ。」
「一人で行けよ。」
「いいだろう。少し話しさせてくれよ。」
数人の客が店に入って来たので、龍はレジに戻った。蓮見はカバンを持ってコージの後をついていく。
「休みの日なら、本当は龍とどこかへ行きたいんじゃないの?」
「ここが好きなんです。」
「二人になりたいってわがまま言ってみたらいいのに。」
「コージさんはそうやって言われたら、店を休むんですか?」
「俺は休むよ。彼女の頼みだもの。」
「彼女は幸せですね。」
「ここがカレー屋。あっ、俺、財布……?」
「奢るって約束です。コージさんは何を食べますか?」
コージが注文すると、蓮見も同じものを頼んだ。
「3つとも、大盛りにしてください。」
「はあ?」
「だって、食べたかったんですよね? それなのに足りなかったら、残念じゃないですか。大丈夫、私は3つくらい平気で持っていけますから。」
コージは蓮見の言葉を聞いて笑った。
「蓮見ちゃんと一緒にいたら、龍は楽しいだろうな。」
「コージさん、やっぱりこれけっこう重いです。」
「そうだろう。俺が持つよ。」
コージは蓮見が持っているカレーの入った袋を手に持った。
「龍はどんな子と付き合うんだろうなって思ってたんだ。」
「がっかりしたでしょう?」
「何言ってんだよ。蓮見ちゃんみたいな子、なかなか探しても会えないよ。」
「私といると、龍は疲れると思います。」
コージは蓮見との距離を近くした。
「龍は今まで、一人だけに特別にするってなかったから。蓮見ちゃんは、なんて言って龍を落としたの?」
「落としてなんかいませんよ。コージさん、やっぱり私が持ちますよ。もうすぐそこだけど。」
「俺が持つからいいよ。」
コージは蓮見の手を繋ごうとしたが、蓮見は反対側に並ぶと、カレーの入っている袋に手を伸ばした。
店についた二人は龍にカレーを渡す。
「誰だよ、大盛りにしたのは。」
龍がコージに言うと
「この子だよ。」
「また食べ過ぎて動けなくなるぞ。」
「食べれるよ。」
「龍の彼女は変わった子だよな。」
コージはそう言った。
「もう食べれないわ、とか、可愛い声で言わないのか?」
「普段、ゆっくり食べる暇ないから、食べれる時に食い溜めするんだよ。」
「ネズミみたいに、ここに貯めておけたら、いつでも食べる事が出来るのにね。」
蓮見は頬を膨らませた。
「たまにどかっと食べるから、胃が勘違いするんだろう。あれっ、今日は来ないのかよって。だから、やたらお腹減ったって思うんだよ。」
龍は蓮見の減らないカレーと、半分になった自分のカレーとそっと取り替えた。
「へぇ、優しい所もあるんだな。」
コージがそう言った。
「蓮見ちゃん、龍のどういう所が好きなの?」
「すごくかっこいい所。」
「それって顔でえらんだって事?」
蓮見は龍の顔を見て微笑んだ。
夕方、店を閉める時間になると、コージが龍と何か話していた。蓮見が店の中をモップ掛けしていると、片方だけのピアスを見つける。
「龍さん、これ。」
蓮見は龍にそれを渡した。
「片方なら捨てればいいだろう。」
コージはそう言った。
「もう片方が待ってるかもしれないだろう。蓮見、今日はコージがバーに行ってくれるから、このまま家に帰ろう。」
「コージさん、いいんですか?」
「龍と一緒に家に帰りな。カレーのお礼。」
蓮見は龍の車に乗ると、窓ばかりを見ていた。
「そんなに外が気になるのか?」
「ううん。龍の横顔を見てる。」
「だったら、こっち、見ればいいじゃん。」
「龍が窓に映ると、ケンになる。」
「こっちに本物がいるだろう。」
「窓に映る横顔って、遠くにいるみたいに見える。」
「毎日、電話するよ。話すことがなくなったら、歌うし。」
「本当に歌ってくれるの?」
「嘘だよ。」
「里田さん。来月からここの離島へ行ってもらうわよ。」
「離島ってどこですか?」
「ここよ。かろうじて関東だけど。」
看護部長は、壁にある地図を指さした。
「どうして、私がここへ行くんですか?」
「あのね、診療所の先生が急に辞めちゃってね。そこの町長は、うちの院長とも繋がりがあって、どうしても診療所を存続させたいのよ。ほら、里田さんと仲の良い原田先生が、水曜日だけ、そこに勤務することになったから。」
「診療は水曜日だけですか?」
「そうね。うちの診療は水曜日だけ。」
「それなら私は毎週水曜日だけ行けば……。」
「里田さんはずっと島に残るのよ。水曜日以外は交代の医者が大学から来るし、ほかにも訪問看護とか、いろいろやってもらうつもり。」
「そこには看護師さんはいないんですか?」
「いるわよ。だけど、いろんな判断ができるあなたを、私が抜擢したのよ。」
反抗的な目をした蓮見に
「里田さん、あなたには期待してたのよ。今もそう。実は牧田師長から相談されてね。あなたのせいで、息子さんが仕事が手につかないって。ねっ、離島に行かないで、こっちで理解のある男性と一緒になったらどう?」
「そんな、」
「あとね、私の顔、けっこうきくから。3ヶ月間は他の病院に流れないように、この前、ここらの辺の師長達と、引き抜きの件について話し合ったから。」
「私は今の彼とは別れるつもりはありません。」
「あなたくらいの看護師なんか他にもいるのよ。せっかく、いい話しをしてるのに残念ね。言う事聞いて、こっちで牧田くんと結婚したら、すぐに主任にしてあげるわよ。もう少しよく考えてちょうだい。」
「……。」
「いずれにしても、あなたが離島を選ぶなら、牧田師長の息子さんも一緒に行くことになるから。二人でゆっくり将来の事、考えるといいわ。」
看護部長室から出た蓮見は、病院の廊下が歪んで見えた。こんな事ってある? 誰も来ない非常階段を駆け上がると、悔しくて涙が止まらない。病院を辞めるという選択もできるし、看護師を辞める選択もできる。だけど、それでは牧田の思い通りになってしまう。涙を拭うと、蓮見は急いで職場へ向かった。
「里田さん、原田先生が呼んでたよ。」
今日は麻美がいないのか。蓮見は原田の所へ行く。
「先生。」
蓮見はメモを取り出すと、医師はいくつかの指示を出す。
「設定変えたから、呼吸状態チェックして。」
「はい。」
「里田さん。守ってやれなくてごめんな。せめて1年だけって条件を出したから、向こうの勤務が終ったら、またここに戻ってきてほしい。」
「ありがとうございます。先生が毎週水曜日に来てくれるって聞きました。島の人も心強いと思います。」
「里田さん、絶対にこの仕事辞めるなよ。ここの師長みたいに強くなれ。」
内線がなった。
「入院くるよ! 里田さん、用意して。」
蓮見はいつもの様に動き出す。
帰り道を急いでるはずなのに、龍になんて言えばいいか悩み、心が重い。
すれ違いが続けば、出会ったばかりの関係はこれで終わりになるのかも。牧田はそれを待っている。いっそ流されて牧田と結婚した方が、無難な選択なんじゃないか。まわりが放っておかない龍の事を、自分なんかが縛りつけるなんて贅沢だ。
いろんな事が頭を巡り、家のドアを開けた。
「おかえり。」
龍はいつものように迎えてくれる。
「ただいま。」
「蓮見の家から、なんか届いてたよ。」
龍は段ボールを指さした。蓮見が箱を開くと、実家でとれた野菜やバターやチーズがたくさん入っている。
「すごいね。こんなにたくさん。」
「この前、龍のお母さんの事を話したから。これ、お母さんに持って行こうよ。」
「そうだね。蓮見、明日は?」
「夕方から勤務。」
「じゃあ、今から行こうよ。」
「龍さん、仕事は?」
「もうすぐ終わるから。」
龍はパソコンに向かった。
こんな風に龍がいつも近くにいる生活が、来月ならできなくなる。
蓮見は龍の横顔を見ていた。それもなんだか辛くなり、段ボールの中のじゃがいもを手にとると、ゴツゴツとした形を見ながら涙を堪えていた。
「終わったよ。行こうか。」
龍がパソコンを閉じると、蓮見の携帯がなる。麻美からだった。
「蓮見、どういう事?」
「麻美さん、原田先生から聞いたの?」
「原田先生からも聞いたし、4階の師長が皆に話してるよ。何、その牧田ってやつ。」
「なんだろうね。」
「ねえ、龍に話した?」
「まだ。」
「蓮見はどうするの? 病院を辞めるなら、私が世話になってる人に仲介してもらおうよ。」
「部長が退職しても近くの病院に流れていかないようにしてる。」
「そんなの脅しだよ。ねぇ、龍に代わって。」
蓮見は龍に電話を渡す。麻美は龍にすべてを話しているようだった。話し終えて電話を切った龍は、目を合わせられない蓮見の顔を覗き込む。
なんて答えればいいのか、言葉が見つからない。
「行こうか。蓮見。」
龍は段ボールを抱えた。
車に乗ると、龍は蓮見のシートベルトを締めた。
「自分でできるよ。」
蓮見との距離が近くなった龍は、蓮見の頬を触る。蓮見は頬を触っている龍の手に触れる。
「言い辛い事でも、ちゃんと話してよ。」
龍は前を向くと車を走らせた。
「来月から小さな診療所で勤務する事になったの。」
「そうか。」
「病院、辞めようか迷ってて。」
「辞めてどうすの?」
「龍と一緒にいたいから、この仕事も辞めようかと思ってて。だけど、辞めたらなんだか逃げた様な気がして……。」
「それで悩んでるんだ。」
「やっぱり、今までの事は夢だったのかな。」
龍は何も言わなかった。二人の間に重い空気が漂う。
「そこで少し休もうか。」
龍はコンビニに車を止めた。
誰もいない駐車場。煌々と照らす照明が暗闇の中にいた二人には眩しかった。
「ほら。」
龍は蓮見に暖かい紅茶を渡す。
「ありがとう。」
「蓮見の母さんにも、荷物のお礼を言っておけよ。」
「龍? 」
「何?」
「ううん。なんでもない。」
龍は少し微笑んだ。
「早く行こうか。眠くなってきた。」
龍はコーヒーを飲んだ。
龍の部屋に着くと、蓮見をベッドに押し倒した。
キスしようと蓮見の顔に近づくと、薄暗い中でも目に涙が溜まっているのがわかる。蓮見は起き上がると、龍の手を握る。
「龍。」
「……。」
「なんでこんな風になったのかな。」
龍は涙を必死で堪えてる蓮見を抱きしめた。
「嫌になったら、うちの店で雇ってやるよ。」
蓮見の頬に涙がつたう。
「蓮見の両親は、大事な娘を一人で遠い旅に出させたんだ。東京の看護師さんって、きっと自慢の娘なんだよ。だから、とことん、やってみろよ。ちゃんと俺が後ろで待ってるから。1年だけだぞ。俺はせっかちだから。」
蓮見は龍を見つめた。
「麻美が言ってたぞ。ラーメンが好きな原ちゃんがなんとかしてくれるって。俺にはよくわからない話しだけど。」
「原ちゃんって、麻美さん、そんなに原田先生と仲良しなんだ。なんか羨ましいな。」
「蓮見。」
「何?」
「あの夜さ、ずっと眠れなかったんだよ。」
龍はそう言って微笑んだ。
「派手な生活してたしさ、女なんか声掛けたらついてくるもんだと思ってたけど、蓮見にはけっこう待たされたな。」
「ごめんね。」
「謝るなよ。俺、どうしたら、蓮見と一緒になれるかいろいろ考えたよ。こうやって誘おうとか、こんなムードがいいとかさ。まさか、カギを忘れて玄関の座ってるとは思わなかったけどな。それなのに、また、一人の夜が続くのか……。」
蓮見は龍の顔を覗き込んだ。
「あの日、寒かったね。」
龍は蓮見を自分の胸に引き寄せる。
「時間を巻き戻すのと、未来を見るのは、どっちがいい?」
「巻き戻すほうかな。未来なんてあるのかもわらかないし。」
「そっか。やっぱり蓮見はナオに似てるわ。」
「そんな、似てないよ。」
「似てるよ。」
「ナオは真っすぐだったし。」
「蓮見は真っすぐじゃないのか?」
「私はグネグネ曲がってる。」
「アハハ、あいつもそういう所がけっこうあるんだって。」
龍は蓮見の手を握る。
「ナオがいなかったら、こうして会うこともなかったな。」
「そうだね。」
龍は蓮見を見つめた。朝日が二人を照らす。
「好きだよ。」
龍は蓮見の唇にキスをすると、蓮見の首筋にキスの後をつける。
「龍、また怒られる。」
「わざとこうしてるんだよ。」
次の朝。
「おはよう。」
龍の母は食卓にいる二人に声を掛ける。
「蓮見ちゃん、昨日はたくさんありがとう。ご両親にお礼言っておいてね。」
「こちらこそ、ケーキ、ありがとうございます。」
「また、龍に持たせるから。それに、時々こうしてここに食べにきてちょうだいね。」
龍の父が顔を出す。
「龍、東山さんの息子さんが結婚するんだよ。家を建てるっていうから、お前話し聞いてやってくれないか?」
「隼斗、結婚するのか?」
「そうだ。加賀さんのところの美咲ちゃんと結婚するそうだ。美咲ちゃんは龍はひとつ上だったよな。」
「そうだよ。」
「隼斗はこっちで仕事してたのか?」
「ああ。親父さんのクリーニング店継いでいるんだ。」
「へぇ~。」
「これからは二人で店をやるらしい。」
「今日はすぐに帰るから、隼人にはあとで電話する。」
「仕事か?」
「そうだよ。」
「蓮見ちゃんはここに置いていけよ。」
「なんでだよ。」
「少し、手伝ってもらおうと思って。それに、うちの夕食、ご馳走したくてさ。市場にいい魚があったから。」
「蓮見、どうする? ここに残るか?」
「えっ?」
「父さん、残るわけないだろう。それに動けなくなるだけ食べさせる気だろう。」
「蓮見ちゃん、美味しそうに食べてくれるから嬉しくてさ。」
「そのうちまたくるから。今日は、すぐに東京へ戻る。」
なんとか古着屋の開店時間に間に合った。いつものように、お店の前では女の子達が龍を持っている。
「今日はバイトさんと一緒なの?」
一人の子が龍に聞いている。
「バイトじゃなくて、彼女だよ。」
「えー!」
女の子達が一斉に蓮見を見る。蓮見は会釈をすると、棚に隠れた。
「龍は最も派手な子が好きだと思ってた。」
「違うよ、龍は絶対清楚な子の方が好きだって。」
「あの人は龍より、年上?」
「俺より3つ下だ。」
「何してる人?」
質問責めになっている龍から見えない棚で、蓮見は服を畳んでいた。
「おはよう。」
背の高い男性が店に入ってくる。
「おお、コージ。悪いな、休みだったのに。」
女の子達はその男性の周りを取り囲む。
「ねぇ、コージは彼女なんかいないよね?」
「なんだよ、急に。」
「あの棚に隠れてる子が、龍の彼女なんだって。」
「ここにいる全員がフラレたんだよ。」
コージは大きな声で笑った。
「ここは服屋だよ。龍を見に来る店じゃないんだって。」
女の子達が去った後、コージが棚に隠れていた蓮見に声を掛けた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
蓮見は、コージが自分の手を見ているのに気が付いた。
「何やってるの?」
「畳んでます。」
コージは笑った。
「見りゃあ、わかるよ。なんの仕事したんのかって聞いてんの。」
「病院に勤めてます。」
「やっぱりそうだろうな。手を見てわかった。」
龍がコージを呼んだ。
「コージ、この棚とこっちの棚を替えたいんだよ。それから、ここに鏡を置きたいんだ。」
「蓮見、この服、一旦段ボールに詰めて。」
龍が指示を出すと
「彼女もこき使うのかよ。」
コージは龍にそう言った。
「働き者なんだよ。俺の彼女。コージ、お前こそしっかり持てって!」
蓮見はフラフラしているコージが持っている側を支える。
「おい。蓮見、支えるのは俺の方じゃないのかよ。」
3人は笑い過ぎて力が抜けた。
客もチラホラ来たが、作業は午前中のうちに終わった。
「コージ、ありがとうな。バイト代、楽しみにしておけよ。」
「休みがなくなったんだから、カレーくらい奢れよ。」
「お前が食べたいのは、裏のカレー屋か?」
「俺、この人と買いに行ってくるわ。」
「一人で行けよ。」
「いいだろう。少し話しさせてくれよ。」
数人の客が店に入って来たので、龍はレジに戻った。蓮見はカバンを持ってコージの後をついていく。
「休みの日なら、本当は龍とどこかへ行きたいんじゃないの?」
「ここが好きなんです。」
「二人になりたいってわがまま言ってみたらいいのに。」
「コージさんはそうやって言われたら、店を休むんですか?」
「俺は休むよ。彼女の頼みだもの。」
「彼女は幸せですね。」
「ここがカレー屋。あっ、俺、財布……?」
「奢るって約束です。コージさんは何を食べますか?」
コージが注文すると、蓮見も同じものを頼んだ。
「3つとも、大盛りにしてください。」
「はあ?」
「だって、食べたかったんですよね? それなのに足りなかったら、残念じゃないですか。大丈夫、私は3つくらい平気で持っていけますから。」
コージは蓮見の言葉を聞いて笑った。
「蓮見ちゃんと一緒にいたら、龍は楽しいだろうな。」
「コージさん、やっぱりこれけっこう重いです。」
「そうだろう。俺が持つよ。」
コージは蓮見が持っているカレーの入った袋を手に持った。
「龍はどんな子と付き合うんだろうなって思ってたんだ。」
「がっかりしたでしょう?」
「何言ってんだよ。蓮見ちゃんみたいな子、なかなか探しても会えないよ。」
「私といると、龍は疲れると思います。」
コージは蓮見との距離を近くした。
「龍は今まで、一人だけに特別にするってなかったから。蓮見ちゃんは、なんて言って龍を落としたの?」
「落としてなんかいませんよ。コージさん、やっぱり私が持ちますよ。もうすぐそこだけど。」
「俺が持つからいいよ。」
コージは蓮見の手を繋ごうとしたが、蓮見は反対側に並ぶと、カレーの入っている袋に手を伸ばした。
店についた二人は龍にカレーを渡す。
「誰だよ、大盛りにしたのは。」
龍がコージに言うと
「この子だよ。」
「また食べ過ぎて動けなくなるぞ。」
「食べれるよ。」
「龍の彼女は変わった子だよな。」
コージはそう言った。
「もう食べれないわ、とか、可愛い声で言わないのか?」
「普段、ゆっくり食べる暇ないから、食べれる時に食い溜めするんだよ。」
「ネズミみたいに、ここに貯めておけたら、いつでも食べる事が出来るのにね。」
蓮見は頬を膨らませた。
「たまにどかっと食べるから、胃が勘違いするんだろう。あれっ、今日は来ないのかよって。だから、やたらお腹減ったって思うんだよ。」
龍は蓮見の減らないカレーと、半分になった自分のカレーとそっと取り替えた。
「へぇ、優しい所もあるんだな。」
コージがそう言った。
「蓮見ちゃん、龍のどういう所が好きなの?」
「すごくかっこいい所。」
「それって顔でえらんだって事?」
蓮見は龍の顔を見て微笑んだ。
夕方、店を閉める時間になると、コージが龍と何か話していた。蓮見が店の中をモップ掛けしていると、片方だけのピアスを見つける。
「龍さん、これ。」
蓮見は龍にそれを渡した。
「片方なら捨てればいいだろう。」
コージはそう言った。
「もう片方が待ってるかもしれないだろう。蓮見、今日はコージがバーに行ってくれるから、このまま家に帰ろう。」
「コージさん、いいんですか?」
「龍と一緒に家に帰りな。カレーのお礼。」
蓮見は龍の車に乗ると、窓ばかりを見ていた。
「そんなに外が気になるのか?」
「ううん。龍の横顔を見てる。」
「だったら、こっち、見ればいいじゃん。」
「龍が窓に映ると、ケンになる。」
「こっちに本物がいるだろう。」
「窓に映る横顔って、遠くにいるみたいに見える。」
「毎日、電話するよ。話すことがなくなったら、歌うし。」
「本当に歌ってくれるの?」
「嘘だよ。」
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