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13章
結べない約束
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あと少しでやってくるかもしれない春を、せかすように降り出した湿った雪は、鋭い冬の寒さを運ぶ景色とは違い、心の中に小さな水溜りを作った。
「凪ちゃん。」
澤村は背中をむけて眠っている凪の肩に手を置くと、凪は背中を丸くした。
「けっこう頑固だね。」
澤村は凪の髪を撫でた。
「俺はこういう方が好きだよ。」
そう言って凪を自分の方に向かせた。
「どっちの事?」
「髪型もこういう性格も。」
「ねぇ澤村さん。好きになるって本能ですか?」
凪は澤村に聞いた。
「どうしたの急に。」
「本能って何だろう?」
「そりゃあ、押さえられないものだろう。理性が働くものは本能じゃないよ。食べたいとか、寝たいとか、それが本能。」
「じゃあ、誰かを好きになるって事は?」
「本能だろうね。欲望とは違う。」
「いろんな女の人を傷つけて、それをわかってやってるって澤村さんの恋愛は、欲望なんじゃないですか?」
「そうだね、そういう考えになるね。」
「私といると、本能は出てこないの?」
「出てきているよ。だからこんなに苦しいんだ。凪ちゃんに断れたらと思うと、本能の前に理性が邪魔して、近くにいる程、辛くなる。」
「よく言いますよ。他の女の人に同じように言ってるくせに。」
「今、凪ちゃんに言った事は嘘じゃない。」
「なんか面倒くさい、こんな話し。」
「自分から言っておいてなんだよ。」
「澤村さんといると、辛くなる。」
「じゃあ、友達に戻るかい?今なら戻れるだろう。まだキスだけの関係なんだし。」
澤村には凪の気持ちがわかっていた。自分は特別な存在なんだと言ってほしいのだろう。だけど、それを言ったところで、凪の心も、自分の心も満たされはしない。2人でいても、隙間のあいた空間は、同じ様な寂しさの風が吹いている。そんな気持ちを抱えて生きてきた者にとって、隙間を吹き抜ける風は、時に心地良くさえ感じる。
「キスだけとかって言わないでよ。」
澤村は少しふてくされている凪の手を包むと、
「凪ちゃん、俺は汚くないよ。だから触ってよ。」
そう言って、自分の頬に凪の手をつけた。
凪は澤村の顔近づくと、あと少しの所で澤村の方から凪に唇を重ねた。何度も凪の顔を見てキスを繰り返すしながら、澤村は凪の服を脱がせた。
「澤村さん、明日も来てくれる?」
凪がそう言うと、
「当たり前だろう。」
澤村は自分も服を脱いだ。
凪の体は、澤村に触れられる度に痛みに近いような感触を覚えた。時々意識が遠のく様な不思議な感じは、麻酔がかかっているかと勘違いする程、体中が痺れて動かなくなった。
ふわふわとした夢の中にいるようで、時々澤村が自分の名前を呼ぶ度に現実に連れ戻される。
「凪ちゃん。」
「ん?」
「大丈夫?」
「うん。」
「彼氏がいたって聞いてたから。」
凪は澤村の腕から頭を取った。
「このまま寝ると腕が痛くなるよ。」
澤村の腕を下ろした凪は、2人の距離を少し開けた。
「そんなの気にしなくてもいいんだよ。」
澤村は凪の体を両腕で包んだ。
「明日は仕事?」
「そうだよ。凪ちゃんは学校?」
「うん。」
「バイトは?」
「20時まで。」
「じゃあ、明日は家においでよ。ご飯作ってあげるから。」
澤村は凪の顔を上にむけると、凪が眠るまでキスを繰り返した。
次の日。
昨日きた女性とは別の女性が、凪の所にやってきた。
「あなたが澤村さんの彼女?」
凪が何も言えないでいると、松川がその場にやってきた。
「この子も騙されているだけだよ。澤村さんは口がうまいから。」
そう言って凪を昨日の書庫まで連れていった。
「敵だらけだね。凪ちゃんはそれでも平気なの?」
「平気なわけないですよ。」
凪は棚の上を見上げた。
「澤村さんのどんな所が好きなの?」
「なんだろう。寂しそうな所かな。」
凪が言った。
「あんなに人が周りにいても、凪ちゃんには寂しそうに見えるんだ。」
「そう。」
「澤村さんに言って、ちゃんと後始末をしてもらうんだよ。中にはしつこい子もいるだろうけど、凪ちゃんにむかってくる事もあるんだから。」
「松川さん。」
「何?」
「どうもありがとうございます。」
スーパーが閉店する頃、父がやってきた。
「元気か?」
父はそう言って、お菓子がたくさん入っているカゴを出した。
レジを済ませると、凪に買ったばかりのお菓子を渡した。
「お父さん、もうすぐで終わるから、待ってて。」
凪はそう言ったが、父は手を振って帰ってしまった。バイトが終わり、凪は急いで父を探した。
「凪。」
父が入り口の近くで待っていた。
「お父さん。」
「母さんからここにいるって聞いたから。」
「お金、ありがとう。」
「凪が卒業するまでの分はちゃんと蓄えてあったから。」
「あの、お父さん。」
言い出せない言葉を飲み込もうとしていた凪に、
「母さんには悪い事をしたと思ってる。だけど、今お父さんが一緒にいる人は、結婚の約束までしておいて、それを果たせなかった人なんだ。」
「どうして?」
「彼女が交通事故あってね、寝たきりの状態になったし、記憶がなくなったんだ。彼女の家族から、こんな状態だから別れてほしいって言われてね。それっきり。」
「そうだったの。」
「それから、母さんと出会って…。母さんとは友達の紹介でね、結婚するならこんな女性がいいなぁと思ったから。」
「お父さんはただのわがままだよ。」
「そうかもしれないな。凪、こういうのって理屈じゃないんだよ。」
「お母さんがかわいそう。」
「家まで送るよ。」
凪は首を振った。
「大丈夫。」
澤村のアパートのチャイムを鳴らすと、女性が出てきた。
「おい!勝手に出るなよ。」
澤村が女性の後から顔を出した。
「入って。」
澤村はそう言ったが、不機嫌そうな女性の顔を見て、凪はそのまま家に帰った。
家に向かう途中、
“別れよう”
澤村からラインがきた。
冷たい風が、凪の濡れた頬を凍らせようとしているくらい、強く吹き付けた。
澤村は女性が家に帰った後、凪に連絡しようとスマホを覗いた。凪へのラインには、記憶のない“別れよう”の文字が送信してあった。
女性のした事を、今更責めても仕方がない。元々の原因は自分なんだから。
澤村は何度も凪に連絡をしたが、その日も次の日も、凪が電話に出る事はなかった。
3日後。
「凪ちゃん。」
澤村が大学の前にやってきた。
凪は顔を合わせないようにその前を通り過ぎた。
「俺の番号、消しただろう。家に行ってもいないし。」
澤村は凪の肩を掴んだ。
「宗!」
凪の後ろからきた女性が、凪の肩にあった澤村の腕を掴んだ。
「この子とは別れたんでしょう?1回したら終わり。それが宗だから。」
凪は2人が言い合いをしてきる場所から遠ざかった。
「凪ちゃん。後ろ、大変な事になってるね。」
松川がやってきた。
「澤村さん、遊んでたツケが回ってきたんだろう。」
松川がそう言うと、
「松川さんにはわかりませんよ。」
凪は早足から駆け足で、玄関にむかった。
「ちょっと待って。ちゃんと話しておいでよ。バイトまでまだ時間があるだろう。」
松川は凪を澤村の前に連れていった。
「澤村さん、何やってるんですか!」
松川が言った。
「あんたは黙ってて。」
女性は松川にそう言ったが、
「澤村さんにつきまとうのはやめなよ。元々彼女でも何でもないだろう。」
松川は女性に言った。
「こんな子には負けたくない!」
女性は凪の髪を掴んだ。咄嗟に女性の前に立った松川は、
「そんな事して、澤村さんが振り向くとでも思っているのか!それに、凪ちゃんを監視するようは事はやめなよ。」
「失礼ね!」
「こんな女、宗には釣り合わないって言ってんの。ちょうど良かった、あんたとこの女はお似合いよ。さっさと2人で消えなさいよ。」
騒ぎを聞きつけて、人が集まってきた。澤村は女性とその場を離れると、松川は凪を澤村と反対方向へ連れていった。
「凪ちゃん、もうわかっただろう。」
約束なんて、最初から守れないんだ。
守れると思って結んだ約束も、心のどこかでは守れない事を知っている。
澤村さん、
この先、どうしていいのかわからないよ。
澤村さんを忘れられない女の人はたくさんいる。
それは澤村さんがお母さんにしてきた仕返しなんだよね。
こんな自分は、澤村を独り占めできる自信なんてない。澤村さんが抱えている辛い気持ちを、笑って受け止めるなんてできないし。
ごめんなさい。
父の言っていた事は、こういう事なんだ。本気で誰かを好きになっても、それだけでは前に進めない道がある。もう一度立ち止まる事は、けして逃げ道を辿る事なんかじゃないけど、前に進む度に、別の誰かの心を失望させる。
私はね、
いつか澤村さんに再会できても、後を追いかけるかどうかはわからない。きっと足が竦んで、ただ見ているだけしかできないと思うから。
也にだってそうだよ。同じ時間を過ごした事すら、時々無性に自分を苦しめる。
うまく笑えないよ。
うまく話せない。
全部、作り話しだったらいいね。
最初から嘘だってわかっていたなら、最後のページがどんなに悲しい結末でも、黙って本を閉じて、大きなため息が後始末してくれるのに。
澤村はスマホを手に取ると、凪の事を考えた。
トボトボと山へ帰る狸の背中は、けして寂しそうではなく、やっぱり人なんて信じてはいけないんだという二度と姿を見せない強い意識を感じる。
凪ちゃん、ごめん。
フラフラと生きてきた自分の罪を、きちんと精算しないと君には二度と会いに行ってはいけないね。 それは少し遠い未来になるかもしれないけれど、必ず君を探しに行くから。
「凪ちゃん。」
澤村は背中をむけて眠っている凪の肩に手を置くと、凪は背中を丸くした。
「けっこう頑固だね。」
澤村は凪の髪を撫でた。
「俺はこういう方が好きだよ。」
そう言って凪を自分の方に向かせた。
「どっちの事?」
「髪型もこういう性格も。」
「ねぇ澤村さん。好きになるって本能ですか?」
凪は澤村に聞いた。
「どうしたの急に。」
「本能って何だろう?」
「そりゃあ、押さえられないものだろう。理性が働くものは本能じゃないよ。食べたいとか、寝たいとか、それが本能。」
「じゃあ、誰かを好きになるって事は?」
「本能だろうね。欲望とは違う。」
「いろんな女の人を傷つけて、それをわかってやってるって澤村さんの恋愛は、欲望なんじゃないですか?」
「そうだね、そういう考えになるね。」
「私といると、本能は出てこないの?」
「出てきているよ。だからこんなに苦しいんだ。凪ちゃんに断れたらと思うと、本能の前に理性が邪魔して、近くにいる程、辛くなる。」
「よく言いますよ。他の女の人に同じように言ってるくせに。」
「今、凪ちゃんに言った事は嘘じゃない。」
「なんか面倒くさい、こんな話し。」
「自分から言っておいてなんだよ。」
「澤村さんといると、辛くなる。」
「じゃあ、友達に戻るかい?今なら戻れるだろう。まだキスだけの関係なんだし。」
澤村には凪の気持ちがわかっていた。自分は特別な存在なんだと言ってほしいのだろう。だけど、それを言ったところで、凪の心も、自分の心も満たされはしない。2人でいても、隙間のあいた空間は、同じ様な寂しさの風が吹いている。そんな気持ちを抱えて生きてきた者にとって、隙間を吹き抜ける風は、時に心地良くさえ感じる。
「キスだけとかって言わないでよ。」
澤村は少しふてくされている凪の手を包むと、
「凪ちゃん、俺は汚くないよ。だから触ってよ。」
そう言って、自分の頬に凪の手をつけた。
凪は澤村の顔近づくと、あと少しの所で澤村の方から凪に唇を重ねた。何度も凪の顔を見てキスを繰り返すしながら、澤村は凪の服を脱がせた。
「澤村さん、明日も来てくれる?」
凪がそう言うと、
「当たり前だろう。」
澤村は自分も服を脱いだ。
凪の体は、澤村に触れられる度に痛みに近いような感触を覚えた。時々意識が遠のく様な不思議な感じは、麻酔がかかっているかと勘違いする程、体中が痺れて動かなくなった。
ふわふわとした夢の中にいるようで、時々澤村が自分の名前を呼ぶ度に現実に連れ戻される。
「凪ちゃん。」
「ん?」
「大丈夫?」
「うん。」
「彼氏がいたって聞いてたから。」
凪は澤村の腕から頭を取った。
「このまま寝ると腕が痛くなるよ。」
澤村の腕を下ろした凪は、2人の距離を少し開けた。
「そんなの気にしなくてもいいんだよ。」
澤村は凪の体を両腕で包んだ。
「明日は仕事?」
「そうだよ。凪ちゃんは学校?」
「うん。」
「バイトは?」
「20時まで。」
「じゃあ、明日は家においでよ。ご飯作ってあげるから。」
澤村は凪の顔を上にむけると、凪が眠るまでキスを繰り返した。
次の日。
昨日きた女性とは別の女性が、凪の所にやってきた。
「あなたが澤村さんの彼女?」
凪が何も言えないでいると、松川がその場にやってきた。
「この子も騙されているだけだよ。澤村さんは口がうまいから。」
そう言って凪を昨日の書庫まで連れていった。
「敵だらけだね。凪ちゃんはそれでも平気なの?」
「平気なわけないですよ。」
凪は棚の上を見上げた。
「澤村さんのどんな所が好きなの?」
「なんだろう。寂しそうな所かな。」
凪が言った。
「あんなに人が周りにいても、凪ちゃんには寂しそうに見えるんだ。」
「そう。」
「澤村さんに言って、ちゃんと後始末をしてもらうんだよ。中にはしつこい子もいるだろうけど、凪ちゃんにむかってくる事もあるんだから。」
「松川さん。」
「何?」
「どうもありがとうございます。」
スーパーが閉店する頃、父がやってきた。
「元気か?」
父はそう言って、お菓子がたくさん入っているカゴを出した。
レジを済ませると、凪に買ったばかりのお菓子を渡した。
「お父さん、もうすぐで終わるから、待ってて。」
凪はそう言ったが、父は手を振って帰ってしまった。バイトが終わり、凪は急いで父を探した。
「凪。」
父が入り口の近くで待っていた。
「お父さん。」
「母さんからここにいるって聞いたから。」
「お金、ありがとう。」
「凪が卒業するまでの分はちゃんと蓄えてあったから。」
「あの、お父さん。」
言い出せない言葉を飲み込もうとしていた凪に、
「母さんには悪い事をしたと思ってる。だけど、今お父さんが一緒にいる人は、結婚の約束までしておいて、それを果たせなかった人なんだ。」
「どうして?」
「彼女が交通事故あってね、寝たきりの状態になったし、記憶がなくなったんだ。彼女の家族から、こんな状態だから別れてほしいって言われてね。それっきり。」
「そうだったの。」
「それから、母さんと出会って…。母さんとは友達の紹介でね、結婚するならこんな女性がいいなぁと思ったから。」
「お父さんはただのわがままだよ。」
「そうかもしれないな。凪、こういうのって理屈じゃないんだよ。」
「お母さんがかわいそう。」
「家まで送るよ。」
凪は首を振った。
「大丈夫。」
澤村のアパートのチャイムを鳴らすと、女性が出てきた。
「おい!勝手に出るなよ。」
澤村が女性の後から顔を出した。
「入って。」
澤村はそう言ったが、不機嫌そうな女性の顔を見て、凪はそのまま家に帰った。
家に向かう途中、
“別れよう”
澤村からラインがきた。
冷たい風が、凪の濡れた頬を凍らせようとしているくらい、強く吹き付けた。
澤村は女性が家に帰った後、凪に連絡しようとスマホを覗いた。凪へのラインには、記憶のない“別れよう”の文字が送信してあった。
女性のした事を、今更責めても仕方がない。元々の原因は自分なんだから。
澤村は何度も凪に連絡をしたが、その日も次の日も、凪が電話に出る事はなかった。
3日後。
「凪ちゃん。」
澤村が大学の前にやってきた。
凪は顔を合わせないようにその前を通り過ぎた。
「俺の番号、消しただろう。家に行ってもいないし。」
澤村は凪の肩を掴んだ。
「宗!」
凪の後ろからきた女性が、凪の肩にあった澤村の腕を掴んだ。
「この子とは別れたんでしょう?1回したら終わり。それが宗だから。」
凪は2人が言い合いをしてきる場所から遠ざかった。
「凪ちゃん。後ろ、大変な事になってるね。」
松川がやってきた。
「澤村さん、遊んでたツケが回ってきたんだろう。」
松川がそう言うと、
「松川さんにはわかりませんよ。」
凪は早足から駆け足で、玄関にむかった。
「ちょっと待って。ちゃんと話しておいでよ。バイトまでまだ時間があるだろう。」
松川は凪を澤村の前に連れていった。
「澤村さん、何やってるんですか!」
松川が言った。
「あんたは黙ってて。」
女性は松川にそう言ったが、
「澤村さんにつきまとうのはやめなよ。元々彼女でも何でもないだろう。」
松川は女性に言った。
「こんな子には負けたくない!」
女性は凪の髪を掴んだ。咄嗟に女性の前に立った松川は、
「そんな事して、澤村さんが振り向くとでも思っているのか!それに、凪ちゃんを監視するようは事はやめなよ。」
「失礼ね!」
「こんな女、宗には釣り合わないって言ってんの。ちょうど良かった、あんたとこの女はお似合いよ。さっさと2人で消えなさいよ。」
騒ぎを聞きつけて、人が集まってきた。澤村は女性とその場を離れると、松川は凪を澤村と反対方向へ連れていった。
「凪ちゃん、もうわかっただろう。」
約束なんて、最初から守れないんだ。
守れると思って結んだ約束も、心のどこかでは守れない事を知っている。
澤村さん、
この先、どうしていいのかわからないよ。
澤村さんを忘れられない女の人はたくさんいる。
それは澤村さんがお母さんにしてきた仕返しなんだよね。
こんな自分は、澤村を独り占めできる自信なんてない。澤村さんが抱えている辛い気持ちを、笑って受け止めるなんてできないし。
ごめんなさい。
父の言っていた事は、こういう事なんだ。本気で誰かを好きになっても、それだけでは前に進めない道がある。もう一度立ち止まる事は、けして逃げ道を辿る事なんかじゃないけど、前に進む度に、別の誰かの心を失望させる。
私はね、
いつか澤村さんに再会できても、後を追いかけるかどうかはわからない。きっと足が竦んで、ただ見ているだけしかできないと思うから。
也にだってそうだよ。同じ時間を過ごした事すら、時々無性に自分を苦しめる。
うまく笑えないよ。
うまく話せない。
全部、作り話しだったらいいね。
最初から嘘だってわかっていたなら、最後のページがどんなに悲しい結末でも、黙って本を閉じて、大きなため息が後始末してくれるのに。
澤村はスマホを手に取ると、凪の事を考えた。
トボトボと山へ帰る狸の背中は、けして寂しそうではなく、やっぱり人なんて信じてはいけないんだという二度と姿を見せない強い意識を感じる。
凪ちゃん、ごめん。
フラフラと生きてきた自分の罪を、きちんと精算しないと君には二度と会いに行ってはいけないね。 それは少し遠い未来になるかもしれないけれど、必ず君を探しに行くから。
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