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2章
ひどい雨の日
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金曜日。
真由との飲み会の誘いを断った美里は、コンビニで大量のお菓子を買い、ベッドの上で寝ながら食べていた。
今日はDVDを見ていないので、余計に時間が経つのが長い。
こうしているうちに、気がついたら定年になって、母も死んで、姉とも疎遠になり、友人もいなくて、私の人生、何やってたんだろうって思いながら死んでいくのだろうな、美里は考えていた。
それでも、いいか。めんどくさい人付き合いをして、余計な時間を過ごすよりも、1人でこのまま腐って部屋から発見されても。
美里はベッドから手を伸ばし、ぬるくなったコーラを飲んだ。
やっぱり一人で死ぬのは淋しいな、せめて、腐らないうちに発見されてほしい、そんな事を思いながら、いつの間にかその夜はぐっすり眠りに落ちていた。
土曜日。
眩しくて起きた美里は、恐る恐るカーテンを開けてみた。
抜けるような青くて高い空が見える。
美里は窓を開け、外の空気を感じながら、青く高い空をしばらく見つめていた。
窓を閉めると、大きなため息をひとつついた。寝過ぎたのか体のあちこちが痛む。
天気と気持ちは関係がないけれど、こんなに晴れてると、ダラダラと過ごしている自分を、お天道様が責めている様に感じる。
北風と太陽の話しのように、太陽が高く出ている日は、自分も厚いコートを脱がないといけないのだろうか、そう考えた。
美里は実家にでも行こうかと思ったけれど 行った所で母はいない。
買い物にでも行こうか、だけど、近所のコンビニに行くことすら、めんどくさい。
一人が好きなくせに、一人で外食する事もできない。
歯磨きをしながら鏡の前に立っている美里は、ボサボサの頭を見て、仕方なく美容室にでも行くか、そう思った。家から一番近い美容室をネットで探すと、ダラダラと支度をして玄関を出た。
外を歩く美里は、風を吹かせることしかできない北風にしてみたら、旅人のコートを脱がせるなんて最初から無理な勝負なんだよ、そう思って美容室まで向かっていた。もし、旅人にコートを着せる勝負なら、太陽はどんな手を使うのだろう。
「私は絶対、コートを脱がない。」
美里は独り言を言った。
お昼過ぎの美容室のドアを開けると、数人の美容師がいる中で、手が空いている男の美容師が美里を席まで案内した。
しまった、男の人か、と美里は思った。
席に案内された美里は、鏡に映るボサボサの髪をした自分を見るのが恥ずかしくてうつむいていた。
澤崎が亡くなって以来、美容室には来ていない。そう思うと、もう2年にもなるのか。
ショートだった髪は背中の半分越え、いつも束ねていたせいか、なかなか真っ直ぐに戻らなくなっていた。
美容師は下を向いている美咲の顔を真っ直ぐに向けると
「今日はどうします?」
そう言った。
当たり前の質問なのに、美里は焦った。美容室に行く事に決めては来たけど、それ以上の事は考えていなかった。
心の中でしばらく切らないように坊主にでもしてほしいと思っていた時、
「ばっさり切りましょうか。」
美容師は、美里の髪を手で束ねると、ジョキジョキと肩の上まで切っていった。
美里の前に雑誌を並べると、あとはお任せでいいですね、そう言って黙々と髪を切っていた。
髪をとかし、軽快なハサミの音が聞こえ、美里はだんだんと心地よくなってきた。
いつもこの時間に寝ていたためか、眠くなり、何度か首がカクンとなる度、慌てて目をしっかり開ける。
美里はとうとう眠ってしまっていることすら気が付かず、
「シャンプーするんで、起きてください。」
美容師の言葉に慌てて起きた。
「ごめんなさい。寝てました。」
お疲れですね、と美容師は美里をシャンプー台へ案内した。
ちょうどいいお湯と、頭を洗う美容師の手で、魔法がかかったように、また睡ってしまいそうになる。
セットが終わり、鏡に映った自分は、緩いパーマがかかっていた。肩まで短くなった美里の髪は、椅子から立ち上がると頬のあたりで揺れていた。
「ありがとうございます。」
美里がそういうと、
「いえいえ、こちらこそ、お客さん、時々美容室に行かないとだめですよ。」
男性はそう言った。
「どうもありがとうございます。」
美里は軽くなった頭を触り、このまま家で寝てしまうにはもったいないと思い、本屋に寄ってから帰ろうと歩き始めた。
自分の髪が、風に揺れるのは心地いい。
本屋に寄ると、様々なプロ野球名鑑が並べられているのが目についた。そろそろ開幕の時期なのか。
美里はそのひとつ手に取ると、澤崎と話していた頃、美里が押していた選手を探してみた。
たった2年の間、野球を見なかっただけなのに、好きだった選手はなかなか見当たらない。
別の本を手に取り、二軍の選手の中にも探したがいない。また別の本を手に取り、たまたま最初に開いた別のチームのコーチの中に、お目当ての選手が載っていた。
思わず本を落としてしまった美里を、隣りの人がチラッと見ていた。美里は恥ずかしくなり、そのままその本と、あとは近くに並んでいた本を適当に手に取り、レジを済ませ店を出た。
さっきまであんなに晴れていた空が、曇天に変わっている。早く帰ろう、美里が帰りを急いでいると、ポツポツ雨が振り始め、そして急に土砂降りになった。
美里はコンビニに駆け込み、雨宿りしていたが、なかなか雨は弱くならず、仕方なく傘を買おうとしていると、
「こんな日に傘は役に立たないよ。」
近くにいたお客さんが美里に声を掛けた。
余計な事をいう人だと、美里はその人の顔を見上げると、その人はレンタルショップで会ったあの男性だった。
「送っていくよ。」
男性はそう言うと、美里の手を取り、車の助手席に乗せた。
美里はこのまま殺されるかもしれないと思い、車のドアを開けて外に出ていこうとしたが、男性は美里の腕を掴み、
「これから雨はもっとひどくなる。このまま、歩いて帰ると危ないよ。早くシートベルトを締めて。」
そう言った。
怖くてなかなかシートベルトをしない美里のシートベルトを締め、男性は車を走らせた。
「降ろしてください!」
美里は強い口調で男性に言った。
「そんな心配しなくても、ただのお節介なだけだよ。」
男性は美里に
「家はどこらへんなの?」
そう聞いたが、美里はアパートがわからないように、別のアパートに近い曲がり角を伝えた。
「さっき、俺と本屋で会ったんだけど、知ってた?」
「知りません。」
「俺、ここで先生やってるんだ。」
男性が指さした向こうには、雨で歪んで見える学校があった。美里はそんな話しもどうせ嘘だろうと思い、窓を見ていると、ワイパーも効かないほどの雨が降ってきた。
前が見ずらくなったのか男性は前かがみになり、ハンドルをしっかり握った。
ひどい雨の中、美里が伝えた曲がり角までくると、
「ここでいいです。」
美里は車を止めてるほしいと言うと、男性にお礼を言い、助手席から降りた。
男性が何かを言うのを待たず、さっき買った本が濡れないように両手で抱えると、急いで別のアパートまで走っていった。
美里は男性の車がないのを確認してから、大雨の中、自分のアパートまで走る。家に着くと、買ってきた本を机に投げたし、雨が絞れる程濡れた服を洗濯機に入れ、冷たくなった体を温めようとシャワーに向う。
洗濯機のガタゴトとした音が聞こえる中、たいして温まる事もせず、雨だけを流したシャワーのせいか、急に寒気が襲ってきて急いでベッドに潜り込んだ。
さっきの男性への恐怖もあったのか、しばらく体の震えが止まらない。
私、下手したら殺されて埋められてたかも? そんな事を思いながら、寒くて怖くて自分の体をさすった。
雨が窓を叩く音がますます激しくなる。だんだんと風が強くなってきたのかも。美里はその雨の音よりも、自分の心臓の音が気になってなかなか眠れない。
何か飲みたいけれど、冷蔵庫まで歩いていくのが億劫に感じる。
口の中がカラカラに乾いていた。
さっきから震えが止まらない。
なんとか、冷蔵庫まで歩いてきた時、ちょうど洗濯機が終了のお知らせがなる。こんなに軽快な音だったかな? そう思い、なんとか美里は冷蔵庫の扉を掴み立ち上がる。
コーラを一口飲み、震えながら洗濯物を干した。
いつも以上に洗濯物を干すのに時間がかかったけれど、なんとか干し終わり、冷蔵庫から飲みかけのコーラを抱えてベッドに戻ると、このまま眠ろうと目を閉じた。
自分の心臓の音がやけにうるさく感じる。
日曜日。
明け方起きた美里は、喉が乾いて、ベッドの下に置いてあったぬるいコーラを飲んだ。
布団の上で飲むことも、こんな時間にコーラを飲むことも、母が見たらきっと怒り出すに違いない。
美里は半分残っているコーラのペットボトルをおでこに乗せると、ぬるいはずなのに、ヒンヤリしているように感じだ。
風邪をひいたのかも。もう一度眠るればきっと良くなる。そう思い目を閉じたが、体のあちこちが痛くて、何度も寝返りを打った。
昨日出掛けたから、こんなことになったんだ。美里は自分を責めた。もう、らしくないことはしない事にしよう、こんなふうにバチが当たるのはゴメンだ。
体の置き場のない美里は、体温計を探して熱を測ってみる。あっという間にアラームがなり、熱は39℃を超えていた。ぼんやりする意識の中で、たしか解熱剤があったと、薬が入っている箱の中を探した。看護師をしてる姉が風邪薬も用意してくれたていたはず。
美里は箱から風邪薬を見つけ、解熱剤と一緒にコーラで飲んだ。薬が通る時、喉が痛く。冷蔵庫からお茶を持って再びベッドに潜り込んだ。
美里は目を閉じた。風邪薬のせいなのか、さっきよりすんなり眠りに落ちいていく。
薬が効いてきたのか、体の痛みが少し消えた。喉が乾いたとお茶のペットボトルを開けようとしたが、手に力が入らず諦めて眠った。
また、寒気が襲ってきて、震えが止まらない。時計を見るとぼんやり2時の所に針があるのがわかる。体温計を脇に入れる事すら、ひんやりと冷たく感じた。
ピピピッ、熱は39.6分。さっき薬を飲んでから、まだ少ししかたってないのに、また熱が上がってきた。
薬を飲むにはまだ早いし、喉が乾いたがペットボトルを開ける事ができない。
美里は諦めてまた眠った。
どれくらい眠ったのだろう。カラカラに乾いたのは喉だけでなく、唇もまぶたも、髪の毛までもが、少し触れると砂のように砕ける気がする。
夜になったのだろうか、だから暗いのだろうか。
美里は何も考える事ができず、また目を閉じる。
私、このまま死んでいくのかも。
お母さん、おにぎり残してごめんなさい。喉が痛くて、食べれなかったの。
~ピンポン~
玄関の呼鈴がなる。
~ピンポン~ピンポン~
今度は玄関を叩く音まで聞こえる。
~ピンポン~ピンポン~ピンポン~
「真中さん!」「真中さん!」
頭のどこかでは玄関に向かっているのに、
だんだんと自分を呼ぶ声が、遠ざかっていく。
手の感覚もない、目を開ける事も忘れた。カラカラに乾いた気道は、息をするだけでびひ割れていきそうだ。
大丈夫。私もうすぐ目を開けるから。
真由との飲み会の誘いを断った美里は、コンビニで大量のお菓子を買い、ベッドの上で寝ながら食べていた。
今日はDVDを見ていないので、余計に時間が経つのが長い。
こうしているうちに、気がついたら定年になって、母も死んで、姉とも疎遠になり、友人もいなくて、私の人生、何やってたんだろうって思いながら死んでいくのだろうな、美里は考えていた。
それでも、いいか。めんどくさい人付き合いをして、余計な時間を過ごすよりも、1人でこのまま腐って部屋から発見されても。
美里はベッドから手を伸ばし、ぬるくなったコーラを飲んだ。
やっぱり一人で死ぬのは淋しいな、せめて、腐らないうちに発見されてほしい、そんな事を思いながら、いつの間にかその夜はぐっすり眠りに落ちていた。
土曜日。
眩しくて起きた美里は、恐る恐るカーテンを開けてみた。
抜けるような青くて高い空が見える。
美里は窓を開け、外の空気を感じながら、青く高い空をしばらく見つめていた。
窓を閉めると、大きなため息をひとつついた。寝過ぎたのか体のあちこちが痛む。
天気と気持ちは関係がないけれど、こんなに晴れてると、ダラダラと過ごしている自分を、お天道様が責めている様に感じる。
北風と太陽の話しのように、太陽が高く出ている日は、自分も厚いコートを脱がないといけないのだろうか、そう考えた。
美里は実家にでも行こうかと思ったけれど 行った所で母はいない。
買い物にでも行こうか、だけど、近所のコンビニに行くことすら、めんどくさい。
一人が好きなくせに、一人で外食する事もできない。
歯磨きをしながら鏡の前に立っている美里は、ボサボサの頭を見て、仕方なく美容室にでも行くか、そう思った。家から一番近い美容室をネットで探すと、ダラダラと支度をして玄関を出た。
外を歩く美里は、風を吹かせることしかできない北風にしてみたら、旅人のコートを脱がせるなんて最初から無理な勝負なんだよ、そう思って美容室まで向かっていた。もし、旅人にコートを着せる勝負なら、太陽はどんな手を使うのだろう。
「私は絶対、コートを脱がない。」
美里は独り言を言った。
お昼過ぎの美容室のドアを開けると、数人の美容師がいる中で、手が空いている男の美容師が美里を席まで案内した。
しまった、男の人か、と美里は思った。
席に案内された美里は、鏡に映るボサボサの髪をした自分を見るのが恥ずかしくてうつむいていた。
澤崎が亡くなって以来、美容室には来ていない。そう思うと、もう2年にもなるのか。
ショートだった髪は背中の半分越え、いつも束ねていたせいか、なかなか真っ直ぐに戻らなくなっていた。
美容師は下を向いている美咲の顔を真っ直ぐに向けると
「今日はどうします?」
そう言った。
当たり前の質問なのに、美里は焦った。美容室に行く事に決めては来たけど、それ以上の事は考えていなかった。
心の中でしばらく切らないように坊主にでもしてほしいと思っていた時、
「ばっさり切りましょうか。」
美容師は、美里の髪を手で束ねると、ジョキジョキと肩の上まで切っていった。
美里の前に雑誌を並べると、あとはお任せでいいですね、そう言って黙々と髪を切っていた。
髪をとかし、軽快なハサミの音が聞こえ、美里はだんだんと心地よくなってきた。
いつもこの時間に寝ていたためか、眠くなり、何度か首がカクンとなる度、慌てて目をしっかり開ける。
美里はとうとう眠ってしまっていることすら気が付かず、
「シャンプーするんで、起きてください。」
美容師の言葉に慌てて起きた。
「ごめんなさい。寝てました。」
お疲れですね、と美容師は美里をシャンプー台へ案内した。
ちょうどいいお湯と、頭を洗う美容師の手で、魔法がかかったように、また睡ってしまいそうになる。
セットが終わり、鏡に映った自分は、緩いパーマがかかっていた。肩まで短くなった美里の髪は、椅子から立ち上がると頬のあたりで揺れていた。
「ありがとうございます。」
美里がそういうと、
「いえいえ、こちらこそ、お客さん、時々美容室に行かないとだめですよ。」
男性はそう言った。
「どうもありがとうございます。」
美里は軽くなった頭を触り、このまま家で寝てしまうにはもったいないと思い、本屋に寄ってから帰ろうと歩き始めた。
自分の髪が、風に揺れるのは心地いい。
本屋に寄ると、様々なプロ野球名鑑が並べられているのが目についた。そろそろ開幕の時期なのか。
美里はそのひとつ手に取ると、澤崎と話していた頃、美里が押していた選手を探してみた。
たった2年の間、野球を見なかっただけなのに、好きだった選手はなかなか見当たらない。
別の本を手に取り、二軍の選手の中にも探したがいない。また別の本を手に取り、たまたま最初に開いた別のチームのコーチの中に、お目当ての選手が載っていた。
思わず本を落としてしまった美里を、隣りの人がチラッと見ていた。美里は恥ずかしくなり、そのままその本と、あとは近くに並んでいた本を適当に手に取り、レジを済ませ店を出た。
さっきまであんなに晴れていた空が、曇天に変わっている。早く帰ろう、美里が帰りを急いでいると、ポツポツ雨が振り始め、そして急に土砂降りになった。
美里はコンビニに駆け込み、雨宿りしていたが、なかなか雨は弱くならず、仕方なく傘を買おうとしていると、
「こんな日に傘は役に立たないよ。」
近くにいたお客さんが美里に声を掛けた。
余計な事をいう人だと、美里はその人の顔を見上げると、その人はレンタルショップで会ったあの男性だった。
「送っていくよ。」
男性はそう言うと、美里の手を取り、車の助手席に乗せた。
美里はこのまま殺されるかもしれないと思い、車のドアを開けて外に出ていこうとしたが、男性は美里の腕を掴み、
「これから雨はもっとひどくなる。このまま、歩いて帰ると危ないよ。早くシートベルトを締めて。」
そう言った。
怖くてなかなかシートベルトをしない美里のシートベルトを締め、男性は車を走らせた。
「降ろしてください!」
美里は強い口調で男性に言った。
「そんな心配しなくても、ただのお節介なだけだよ。」
男性は美里に
「家はどこらへんなの?」
そう聞いたが、美里はアパートがわからないように、別のアパートに近い曲がり角を伝えた。
「さっき、俺と本屋で会ったんだけど、知ってた?」
「知りません。」
「俺、ここで先生やってるんだ。」
男性が指さした向こうには、雨で歪んで見える学校があった。美里はそんな話しもどうせ嘘だろうと思い、窓を見ていると、ワイパーも効かないほどの雨が降ってきた。
前が見ずらくなったのか男性は前かがみになり、ハンドルをしっかり握った。
ひどい雨の中、美里が伝えた曲がり角までくると、
「ここでいいです。」
美里は車を止めてるほしいと言うと、男性にお礼を言い、助手席から降りた。
男性が何かを言うのを待たず、さっき買った本が濡れないように両手で抱えると、急いで別のアパートまで走っていった。
美里は男性の車がないのを確認してから、大雨の中、自分のアパートまで走る。家に着くと、買ってきた本を机に投げたし、雨が絞れる程濡れた服を洗濯機に入れ、冷たくなった体を温めようとシャワーに向う。
洗濯機のガタゴトとした音が聞こえる中、たいして温まる事もせず、雨だけを流したシャワーのせいか、急に寒気が襲ってきて急いでベッドに潜り込んだ。
さっきの男性への恐怖もあったのか、しばらく体の震えが止まらない。
私、下手したら殺されて埋められてたかも? そんな事を思いながら、寒くて怖くて自分の体をさすった。
雨が窓を叩く音がますます激しくなる。だんだんと風が強くなってきたのかも。美里はその雨の音よりも、自分の心臓の音が気になってなかなか眠れない。
何か飲みたいけれど、冷蔵庫まで歩いていくのが億劫に感じる。
口の中がカラカラに乾いていた。
さっきから震えが止まらない。
なんとか、冷蔵庫まで歩いてきた時、ちょうど洗濯機が終了のお知らせがなる。こんなに軽快な音だったかな? そう思い、なんとか美里は冷蔵庫の扉を掴み立ち上がる。
コーラを一口飲み、震えながら洗濯物を干した。
いつも以上に洗濯物を干すのに時間がかかったけれど、なんとか干し終わり、冷蔵庫から飲みかけのコーラを抱えてベッドに戻ると、このまま眠ろうと目を閉じた。
自分の心臓の音がやけにうるさく感じる。
日曜日。
明け方起きた美里は、喉が乾いて、ベッドの下に置いてあったぬるいコーラを飲んだ。
布団の上で飲むことも、こんな時間にコーラを飲むことも、母が見たらきっと怒り出すに違いない。
美里は半分残っているコーラのペットボトルをおでこに乗せると、ぬるいはずなのに、ヒンヤリしているように感じだ。
風邪をひいたのかも。もう一度眠るればきっと良くなる。そう思い目を閉じたが、体のあちこちが痛くて、何度も寝返りを打った。
昨日出掛けたから、こんなことになったんだ。美里は自分を責めた。もう、らしくないことはしない事にしよう、こんなふうにバチが当たるのはゴメンだ。
体の置き場のない美里は、体温計を探して熱を測ってみる。あっという間にアラームがなり、熱は39℃を超えていた。ぼんやりする意識の中で、たしか解熱剤があったと、薬が入っている箱の中を探した。看護師をしてる姉が風邪薬も用意してくれたていたはず。
美里は箱から風邪薬を見つけ、解熱剤と一緒にコーラで飲んだ。薬が通る時、喉が痛く。冷蔵庫からお茶を持って再びベッドに潜り込んだ。
美里は目を閉じた。風邪薬のせいなのか、さっきよりすんなり眠りに落ちいていく。
薬が効いてきたのか、体の痛みが少し消えた。喉が乾いたとお茶のペットボトルを開けようとしたが、手に力が入らず諦めて眠った。
また、寒気が襲ってきて、震えが止まらない。時計を見るとぼんやり2時の所に針があるのがわかる。体温計を脇に入れる事すら、ひんやりと冷たく感じた。
ピピピッ、熱は39.6分。さっき薬を飲んでから、まだ少ししかたってないのに、また熱が上がってきた。
薬を飲むにはまだ早いし、喉が乾いたがペットボトルを開ける事ができない。
美里は諦めてまた眠った。
どれくらい眠ったのだろう。カラカラに乾いたのは喉だけでなく、唇もまぶたも、髪の毛までもが、少し触れると砂のように砕ける気がする。
夜になったのだろうか、だから暗いのだろうか。
美里は何も考える事ができず、また目を閉じる。
私、このまま死んでいくのかも。
お母さん、おにぎり残してごめんなさい。喉が痛くて、食べれなかったの。
~ピンポン~
玄関の呼鈴がなる。
~ピンポン~ピンポン~
今度は玄関を叩く音まで聞こえる。
~ピンポン~ピンポン~ピンポン~
「真中さん!」「真中さん!」
頭のどこかでは玄関に向かっているのに、
だんだんと自分を呼ぶ声が、遠ざかっていく。
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