二人ぼっちがいいみたい

黒井かのえ

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無いに等しい砦。

 唇からまた湿った感触が伝わってきた。
 栗原の舌先が自分の唇を舐めている。
 ゆっくりと、なぞるような動きにぞくりとした。
 潤すように何度も舐められる。
 
 柔らかくて明らかに他人のものとわかる動き。
 
 一太郎の喉が小さく上下した。
 ただ舐められているだけなのに、息が上がってくる。
 心拍数があがり過ぎて、苦しくなっていた。
 知らず目を伏せ、手を後ろにしてベッドについている。
 
 栗原の舌がゆっくりと唇から離れていった。
 息をつこうとしたとたん下唇を噛まれる。
 びくっと体が震えてしまう。
 呼吸はできているはずだったけれど、大きく息を吸い込みたくなっていた。
 
 体がその欲求に応えて口を開く。
 とたんに、にゅる……と栗原の舌が入ってきた。
 そのせいで深呼吸は阻まれ、わずかな空気しか肺に送りこめない。
 代わりに口の中で舌が動きまわっている。
 
 思考が途中で切れた。
 
 くるんと舌を巻き取られる。
 そして、裏側や上を舐められた。
 口の端から、ちゅくちゅくと音がもれている。
 
 高校生にもなれば、性的なことにも一応の興味はあった。
 キスやそれ以上の行為をしてみたいとの欲求もなくはない。
 けれど、ネガティブ思考に毒されていて彼女を作る気にはなれなかった。
 だから、彼女の存在と恋人につきものの行為、それらは一太郎にとって現実感のないものだったのだ。
 
 こんなふうにキスを経験するなんて、予想外で頭がついてこない。
 
 栗原の手が首筋をなでながら落ちていく。
 シャツの上から胸にふれられた。
 一瞬、ん?と思ったものの、上顎を舐められ、ぼんやりする。
 息は苦しいのに、舌の感触が気持ちいい。
 
 心地良さにひたっている一太郎の体に唐突なしびれが駆け抜けた。
 思わず体を引いてしまい、唇が離れる。
 栗原の指がシャツの上から胸の先をこすっていた。
 ひっかくようにこすられると背中がぞくぞくしてしまう。
 
「…………ぅ…………ん……っ」
 
 わけのわからない感覚に歯をかみしめた。
 体がじわじわと熱を溜めはじめているのに気づいて焦る。
 
「くり、はら……」
 
 そんな場所にふれられるのは恥ずかしい。
 しかも、微妙な熱にとらわれはじめているのだ。
 
「好き……いちたろ……すっげー好き」
 
 言って栗原が顎をつかんでくる。
 言葉に照れる間もない。
 また唇を重ねられ、舌で歯をつつかれた。
 開けと催促されているようで、一太郎は噛み締めた歯のこわばりをほどく。
 
「……ふ……っ……ぁ…………」
 
 舌をからめとられつつ、胸から広がる波に耐えた。
 それでも体中が小刻みに震える。
 これ以上されたら、体がどう変化するかわかっていた。
 まるで気づいたかのように、栗原が一太郎の胸からさらに下へと手を移動させる。
 
「あ……っ」
 
 短く声をあげ、体を反らせた。
 二人の唇が、ちゅぱっと離れる。

 ズボンの上から、そっとあてがわれた手。
 
 自分がどうなっているのかバレバレだ。
 栗原にどう思われているのか。
 一太郎にとって、それがなによりの関心事。
 
 顎が引かれ、鼻がくっつきそうなほど顔を寄せられる。
 薄く唇を重ねた栗原にじいっと顔を見られていた。
 恥ずかしくて一太郎は目を合わせられない。
 
「どうする?」
 
 熱を煽るように、指先がソレをなぞってくる。
 みっともないと思ったら、目にうるっと涙が溜まった。
 
「どーするもこーするもねーよな……もう勃っちゃってるもんね」
 
 一太郎は、言葉を詰まらせる。
 自分から穴を掘って埋まってしまいたい気分だ。
 
「チューきもち良かった? はじめてだった? ねえ?」
「そ、れは…………」
 
 どっちの質問から答えればいいのか迷っている間に、栗原がベルトを外した。
 まるであたりまえみたいな手つきでファスナーも下げてくる。
 
「お、おい……」
「だって、お前の勃ってるもん。出してーだろ?」
 
 栗原は、一太郎が聞いたことに答えなくても、気にしていないようだった。
 下着とスボンを中途半端にずらせて、ソレを引き出してくる。
 あわあわしているうちにも握られた。
 
「わ……っ……わ……」
 
 きゅっと下腹がひきつる。
 人の手でふれられたのは、はじめてだ。
 ごつごつとしたタコの感触は、自分の手とはまるで違う。
 スポーツをする人間の手だった。
 
 自分のソレを、栗原がじかにさわっている。
 意識した瞬間、体を引いて、後ろにずり下がった。
 けれど、栗原の手は離れない。
 それどころか上下にこすりあげてくる。
 
「わ……う、うわ……わっ……」
「なんだよ、逃げんなよ、きもち良くねーのか?」
「ち、ちが……っ」
 
 気持ちがいいから困るのだ。
 こらえようとしても体が栗原を意識してしまう。
 みっともない姿を見せたくないと、一太郎は本当に必死だ。
 なのに、栗原があっけらかんと言った。
 
「そっか、手じゃもの足んねーんだ。そんならクチでしてやるよ」
 
 涙に潤んだ瞳で栗原を見ると、自分の足の間にかがんでいる。
 言葉の意味と行動が合致して本気でパニックになった。
 
「や……いいって! いいっ! いいからっ!」
 
 栗原が顔をあげる。
 まじわった視線に、心拍数があがった。
 こめかみで脈を感じる。
 
「してもらったこたーねーけどさ。たぶん手でするより十倍はきもち良くなれる。たぶんだけどね」
 
 言葉も思いつかないまま、一太郎は首を横に振った。
 手だけでも危険だったのに口でなんてとんでもない。
 
「エロいカオ見せろ」
 
 絶対に嫌だ。
 
 言おうとしたけれども、まともな言葉が出なくなる。
 ぱくんっと栗原が自分のものをくわえた。
 それをまともに見てしまい、恥ずかしくて泣けてくる。
 
 じゅぷじゅぷという卑猥な音がそこから響いていた。
 腰が重くなっていくのを止められない。
 栗原の口に出すわけにはいかないと、わずかな理性が告げている。
 必死で熱を抑えこもうとすればするほど、舌や唇の動きを鮮明に感じた。
 
 押すようにして裏側をなぞりあげられ腰が浮く。
 栗原が内股に手をかけ足を開かせてきた。
 恥ずかしさに突き動かされ、一太郎は右手で顔をおおう。
 
 すると、栗原の口の動きが止まった。
 ちゅぽっとソレから唇が離れていく。
 
「手ぇどかして」
 
 不満げな声にも手は動かせない。
 いいかげんみっともない姿をさらしていようとも、守りたいものはあるのだ。
 思っている一太郎の耳に栗原の声が聞こえた。
 
「どけろ」
 
 低くてかすれた声に、びくりとなる。
 見られたくない気持ちでいっぱいなのに、手が動いていた。
 自分の意思とは関係なく栗原の言葉に従ってしまう。
 
 手が顔から離れたとたん、ぱたぱたっと涙がこぼれる。
 恥ずかしくてたまらなかった。
 
「エロいカオ見せろって言ったじゃん」
 
 すぐに、ぬるりとした感触を覚える。
 ソレをすっぽりとおおった唇が自分のものをこすりあげてきた。
 乱れる姿を栗原に見られている。
 カッコ悪くて死にたくなった。
 
「ぁ、あ……いや、やだ…………見ん、な……見、んなよ……くしょ……あ……ぁっ」
 
 腰から下がどんどんおかしくなっていく。
 栗原の唇の動きだけがはっきりしていて、自分の体の感覚ほうが曖昧になっていた。
 
 じゅっと先端を強く吸われて喉の奥から悲鳴がもれる。
 強い快楽の波に涙がぽろぽろこぼれた。
 栗原にこんな姿を見せてしまうなんてと、羞恥に体が焼けつきそうなほど熱くなる。
 
「あ、も、もう……っ」
 
 どくどくとソレに血液が集まっていた。
 先になにが待っているのかぐらいわかる。
 
「……っ……栗原……っ……もう無理っ! 無理っ」
 
 訴えても栗原は行為をやめない。
 舌先で先端をいじられて体がこわばった。
 
「……あ、あ……や、だ…………い…………んんぁっ!」
 
 どくんっとソレが震える。
 欲望の解放に頭がくらくらした。
 
 栗原がごそごそと後始末をしてきても、一太郎の頭はぼんやりしたままだ。
 両手を後ろにつき、かくんとうなだれる。
 ぼや~となっている一太郎の膝にまたがり、栗原が抱きしめてきた。
 
「お前ってば、かわいいカオするなー」
 
 こんなデカい男をつかまえて、どこがかわいいのか。
 褒められているとは思えなかったけれど、栗原がなにか満足そうなので聞き流すことにした。
 はふ……と息をついてから、ハッとなった。
 
「お、お前……っ……いきなり、な、なんてことすんだよっ?」
「え~、オレ、ちゃんとエッチしてえって言っただろ?」
 
 にっこりされて顔がひきつった。
 自分だけしてもらったのは居心地が悪い。
 とはいえ、この先を考えるとちょっぴり怖いような気もする。
 
 ふにゃりと一太郎の眉が下がった。
 栗原がニっと口元をゆるめる。
 
「ンなかわいいカオしてっとやっちゃうぞ」
 
 困って首をかたむける。
 自分は栗原に好きだとは言っていない。
 それなのにどんどん話が先に進んでいた。
 
「やっぱオレ、お前が好きだよ」
 
 言われて、ますます困る。
 なにをされるにしてもするにしても、拒めそうになかったからだ。
 
 きっと栗原のことだからエロいことには違いないのに。
 そして、あまり見られたくない姿をさらすのだろうに。
 
 栗原から好かれているというのは悪い気がしない。
 ほんのりと一太郎の顔が赤くなる。
 たとえどんなに勉強ができなくてもエロくても、栗原への評価はおおむね変わらない。
 
 一緒にいたいと思える相手で、スポーツ万能でカッコいいヤツ。
 
「すっげー好きなんだなーって思った」
 
 こんなふうに言われてしまったら最後の砦さえも簡単に崩されてしまう。
 本当には、もっと悩んだりこだわったり、葛藤したりしてから出したかった結論を、一太郎はしぶしぶ口にした。
 
「……あ~…………うん…………オレも……」

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