二人ぼっちがいいみたい

黒井かのえ

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たくさんの好き。

 
「ここまできて……往生際がわりいぞ」
「ンなこと言っても……無理だっつーの」
 
 ぼそぼそと歯切れ悪く話す。
 栗原は膝にまたがったままだ。
 むす~っと顔をしかめていた。
 
「なんでムリなんだよお」
「お、お前が……い、入れてえなんて言うからじゃねぇか!」
 
 とたん、きょとんとした顔をされる。
 一太郎としてはものすごく意を決して放った言葉だ。
 スルーされてなるものかと、栗原を諭すように言った。
 
「あのな……オレらは男同士なんだぞ」
「そうだな、わかってるよ。さっきさわったばっかじゃん……お前のチ……あだっ!!」
 
 直接的なことを言いそうになった栗原の頭にゲンコツを食らわせる。
 頭をさすりながら栗原が口をとがらせた。
 その顔を見つつ一太郎も口をとがらせる。
 
「オレは痛えのはごめんだかんな」
「痛えかな?」
「痛えだろ!!」
 
 怒鳴りつけても、栗原は悪びれた様子も見せない。
 軽く肩をすくめる。
 
「そっか、んじゃ、しょうがねーな。そいでどーすんの?」
「どうって……し、調べたりとか……とにかく勘じゃできねぇのは確かだよ」
 
 まばたき数回。
 栗原が急に目をキラキラさせはじめた。
 なにか嫌な感じがする。
 
「そんなら、オレ、ネットで調べとく!」
「…………ネットって」
「ウチ、パソコンあるし、兄貴に言や、すぐに……いでででででっ!」
 
 嫌な感じがするわけだ。
 一太郎は、栗原の頬を思いきりつねっていた。
 
「お、ま、えは! すんげーバカ! バカにもほどがある! そんなもん、人に聞こうとしてんじゃねぇよ! そんなことしたら、オレは、お前んち行かねぇからな!」
 
 ぷちんっとつねったまま手を離す。
 少し赤くなった頬をなで、ちょっぴり涙目で栗原が首をかたむけた。
 
「ノロ、なんかいい考えねーのかぁ?」
 
 いい考えと言われても困る。
 アンナコトができてしまった手前、言い訳は効きそうにない。
 とはいえ、戸惑ってもいるし、抵抗もなくはなかった。
 男として、挿れられる立場というのは納得しがたいものがある。
 
「わぁかったよ。そんな不満そうなカオすんじゃなー。しょうがねえ、交代でしよーぜ、交代で! そんで先にノロがやっていいよ」
「えっ?!」
 
 本気で驚いていた。
 目を丸くしている一太郎に、栗原は平然と言った。
 
「気持ち良くしてくれんならかまわねーよ。オレはノロとエッチしてえだけじゃん」
「あ……や…………その……」
「なんだよ~、オレのコト、好きにできちゃうんだぞ。嬉しいだろ!」
 
 嬉しいとかどうとか言う以前の問題だ。
 一太郎には、栗原を気持ち良くする自信なんてまるでない。
 そもそも立場を代わってまで体を重ねたい気持ちもよくわからなかった。
 
「お、お前さぁ……そこまでしてやりてぇのかよ……?」
 
 挿れられる側になるというのは、自分のように抵抗する気持ちがあってしかるべきなのではないだろうか。
 けれど、栗原の表情にそうした葛藤のようなものは見当たらなかった。
 
(なんも考えてねぇのか……こいつ……すんげーバカだからな……)
 
 と、不意に栗原がくしゅっと顔をしかめる。
 
「……そりゃあ、してえよ、してえに決まってるじゃん」
 
 ぽつ……と、口から言葉が転がり落ちた。
 うつむきかげんになっていても、困ったような顔になっているのがわかる。
 栗原を膝に乗せ、一太郎は頭をかりかりとかいた。
 
「えっと……なんで?」
 
 聞くと、栗原がすぐに返事をする。
 
「だって好きな相手とエッチできるんだよ? 幸せじゃねー?」
 
 あたりまえのように言われ、なんだか納得してしまいそうになった。
 そういう趣味もないのに男同士で体を重ねたいと思う理由なんて、そうたくさんはないからだ。
 思いつかなかったのは、あまりにも現実感がなかったからかもしれない。
 
「それに……」
 
 今度はなにやら言いよどんでいる。
 気になって、続きを促した。
 
「…………んだよ?」
 
 栗原が顔を上げる。
 頬が赤くなっていて、見ている一太郎まで顔が熱くなってきた。
 
「や……うーん……あのさぁ、エッチするってすんげー特別じゃん……だから……その……エッチできたら、安心できそーって……思っちゃった」
 
 言葉に胸がきゅっとなる。
 安心できそうだという意味が理解できたからだ。
 少しずつ栗原との関係が現実味を帯びてきた。
 
「オレ、超へこんだもん……避けられてんのはノロにカノジョできたからなんじゃねーかって思ってさ」
 
 もしかすると球技大会のときに女子生徒から呼ばれたのが尾を引いているのだろうか。
 忘れたような顔をしていたけれども、内心は穏やかでなかったのかもしれない。
 
「どうしよって思っても、オレってバカじゃん。だから、どうしたらいいかわかんなくって、超ビビってたんだぞ」
「そっ、そうなんだ」
 
 なににしても動じることなんてなさそうな栗原が、自分の行動で動揺しただなんて信じられない気分だった。
 栗原の今の言葉に一太郎のほうが動揺している。
 そんな気持ちにはちらとも気づいていないのだろう。
 栗原が小さな声で言った。
 
「そうだよ……お前はさ、一緒にいてえなーって初めて思った相手だもん。離れていかれたら、すんげーさみしいし……さみしくなるのは怖えよ?」
 
 肩をつかんで栗原の顔をのぞきこむ。
 不安そうな口調に安心させてやりたくなった。
 
「け、けど、離れてねぇだろ! オレら、り、両思いじゃねぇか!」
 
 一瞬、驚いた顔をしてから、栗原がにひっと笑う。
 やはり栗原は笑った顔のほうが似合っていた。
 
「だよな!!」
 
 嬉しそうな顔に、胸がほかほかしてくる。
 男同士でもかまわないような気持ちになっていた。
 好きという感情に性別なんてないのだ。
 いや、あっても関係ないのだ。

 少なくとも、自分たちにとっては。
 
 一太郎は自分から唇を寄せ、軽くキスをする。
 唇を離すと、栗原がにっこりした。
 
「あーめちゃくちゃ幸せ!」
 
 思い立った時に行動したほうがいいかもしれないと思う。
 そうでなければまたいつネガティブ思考に戻ってしまうかわからない。
 よし!と、心に決めてその覚悟を一太郎は言葉にした。
 
「あ、明日! 明日の放課後、調べに行くぞ」
「どこに?」
「ネカフェ……とか……」
 
 栗原が目をきらめかせる。
 それがものすごく恥ずかしかった。
 
「そっか! そのテがあった!」
 
 きらきらの目から視線を外して、一太郎はもっと恥ずかしいことを口にする。
 
「それと……お前、先でいいや……オレ……超ウルトラスーパーデラックス鈍くさいからな」
「マジ?」
 
 声にはものすごく期待があふれていた。
 これでは、うなずかないわけにはいかない。
 
 栗原の笑顔と羞恥心、それに逡巡を秤にかけると答えは自ずと導かれる。
 一太郎は顔を赤らめつつ、こくりと頷いた。
 瞬間、栗原が声をあげる。
 
「ぃやったー! すっげーすっげー嬉しい!」
 
 気恥ずかしいこと、この上もない。
 けれど、それは嫌な恥ずかしさではなかった。
 
「……このバカスケが」
「そうそう、オレってバカでスケベなの」
 
 栗原が両手で一太郎の頬をつつんでくる。
 引き寄せられ、唇を重ねながら、栗原がものすごく嬉しそうに、言った。
 
「たくさんたくさん好き、のキスだよ」

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