実はお互いさまでした。

黒井かのえ

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隆志はマイペース

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「あっ……あ……っ……も、もう……っ……」

 下腹が、くっくっとひきつりはじめる。
 限界が近いとわかっていた。
 幼馴染みであるところの岩竹周いわたけ あまねの手の感触が気持ち良くてたまらない。
 つむった瞼の裏に、自分のものを包みこんでいる手のイメージが広がっている。

 長くてきれいな指。

 同じ男なのに、周の手はきれいなのだ。
 ごつごつと節くれている自分の指とは違って、しゅっとしている。
 器用でなんでもできる手だった。

 三歳の頃からずっとこの手に憧れている。
 雪だるまを作るのも、虫を取るのも、漢字を書くのも、すべて周のほうが上手だった。
 それは高校生になった今でも変わらない。

「んっ……あ! がんちゃ……っ……もうイくっ」

 立てた膝が小刻みに震える。
 これをしている時も、隆志は周より長持ちしたことがない。
 あの大好きな手が自分のものを握っていると思うだけで昂ぶってしまうからだ。
 こすりあげられる感触に、すぐ耐えられなくなってしまう。

 いつも自分より上を行く周を隆志は追いかけていた。
 だから、自分と同じくらい周を気持ち良くしたいと思っている。
 なのに、我慢しきれない
 気がつけば、自分だけが先に欲望を解放していた。
 自分の欲望に溺れてしまう隆志に対して、周はどこか冷静なのだ。

「ちょ……お前、ティッシュは?」

 周の声に熱っぽさはなく、少し慌てたような色が漂っているだけだった。

「え……ぁ……そこいらに……ある、はず……っ」
「ねぇよ。ねぇから、聞いて……あーもう、お前、蹴っただろ。ちょっと待てよ」

 ううーと隆志はうめく。
 体はもう限界ぎりぎり。
 早くぶちまけたくてしたがない。

「が、がんちゃ……も、無理っ! はやくっ!」
「なこと言ったって手が……もうちょいだから待てって!」

 強い口調に必死で我慢した。
 けれど、下腹はせわしなく引きつりっ放しだ。
 どうなっているのかと、うっすら目を開く。
 周が手を伸ばして、自分が蹴り飛ばしたらしいティッシュの箱を取ろうとしていた。

 真っ黒い髪が少し顔にかかっている。
 羨ましくなるほどサラサラなストレート。
 横顔からだとよくわかる小ぶりでかわいらしい鼻は、つんと高かった。

 指先を箱にひっかけると、ちょっぴり肉厚な唇をとがらせ、細い眉を寄せる。
 細身で小柄な周は、自分とはなにもかもが違っていた。
 いつも強気で頼りがいがあって、しっかりしている。
 精悍な顔立ちも手伝って、周は年上のように感じられた。

 だから、甘えたくなる。

「あと、ちょい……っ」

 周が体をかしがせたせいで、隆志のものが、ぐりっと手の中でしごかれた。
 ぞくぞくっと背筋にしびれが走る。
 隆志は思わず目をきつくつむった。

「あっ! もうヤバいっ! イく、イく……っ」
「隆志、こら……っ!」

 周の声に、いよいよ煽られてしまった。
 特徴のあるソフトな周の声は、耳を刺激するのだ。
 視力が悪く、黙っていると不機嫌そうに見える切れ長の目が思い出される。
 その瞳が優しく細められるのが大好きだった。

 自分だけを見ていると思うと、胸がほかほかしてくる。
 と、同時に体は熱を加速させていた。

「がんちゃ……っ……も、無理っ! んん……ぅっ」

 耐えきれなくなって、うわずった声をもらす。
 隆志は体をふるっと震わせ、自分の欲望を解放した。
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