実はお互いさまでした。

黒井かのえ

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周が思うこと

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 結局のところ、そういうことなのだろうと周は思った。
 自分の考えは大きく間違ってはいなかったのだ。

 あれから半月。

 隆志との関係はぎくしゃくしたまま、元に戻らない。
 相変わらず、毎日のように隆志は周の家に寄ってはいる。
 けれど、泊めてほしいとせがむことはなくなった。
 もちろん、しごき合うこともしなくなっている。

 あんなことがあったあとでは、お互いその気になれなくてもしかたがない。
 食事を済ませ、数時間一緒に過ごしたあと隆志は自宅へと帰っていた。
 会話も弾まず、確実に距離ができている。

 なのに、隆志はなにも言わない。
 甘えてくることもなかった。

 もとより隆志が甘えてきて、それに周が応えるという形で成り立っていた関係だ。
 隆志が甘えてこない以上、周も手を伸ばすことができずにいる。
 そして、結局のところそういうことなのだろうと思っていた。
 自分がいなくても隆志はやっていける。

 隆志は「幼馴染みのままでいたいだろう」との問いに頷いたのだ。
 関係を変える気がないとの意思表示をされて傷ついているなんて認めたくもない。

 周は机に頬杖をついて、窓から外を見ていた。
 昼休みに隆志が自分の教室を訪ねてこないのにもまだ慣れない。
 他の友達と騒いでいれば忘れられるのかもしれないけれど、それも面倒に感じる。
 隆志と一緒にいるのに慣れ過ぎていて、誰と一緒にいても居心地が悪いのだ。

 隆志は、なんでも素直に、従順に自分を受け入れてくれていた。
 周が間違えた時ですら、自分がヘマをしたと思いこむ。
 思い返せば、周は隆志に謝ったことが一度もなかった。
 今回のことにしても、本当には隆志が悪いのではないとわかっている。

 彼女を作れと言っておきながら隆志からの「嫌だ」という返事を期待していた。
 隆志のように面と向かってすがりつけない自分の女々しさが嫌になる。

 周はため息をついて、イスから立ち上がった。
 たまには自分から歩み寄ってみようかという気持ちになっている。
 隆志から来ないのであれば、自分から行くしかない。
 恋人にはなれなくても、せめて幼馴染みとしてのポジションは守りたかった。

 廊下をぶらぶらと歩いて、隆志の教室へと向かう。
 なにを話そうなんて考えていることに気づいて、顔をしかめた。
 今まで話題で悩んだりはしていない。
 なにを話したのか忘れるくらい自然に言葉がぽんぽんと出てきたのだ。

 隆志からのアクションがないと、たちまち自分の立ち位置を見失う。
 甘やかしているつもりで、隆志の従順さに甘えていた。
 今度ばかりは自分のほうから手を伸ばさなければと思った時だ。

 ちょうど隆志が教室から出てくるのが見える。
 声をかけようと駆け寄りかけた足が止まった。
 隆志が無目的に教室から出てきたわけではないと気づいたからだ。

 ポケットに手を突っ込んでいたけれど、そこから白いものがはみ出している。
 手紙だとすぐに気づいた。
 きっと女子からの呼び出しに違いない。
 隆志はモテるのだから珍しくない光景。

 けれど、心臓が痛くなってくる。
 彼女を作れと言った自分の言葉を隆志が忘れているとは思えなかった。
 
 どうしようと悩んでいる間にも、どんどん隆志の背中は遠くなっていく。
 放っておいたら従順な隆志のことだから、彼女を作ってしまう。
 そうなれば隆志の隣はもう自分のものではなくなるのだ。

「……嫌だ……あいつの隣は……オレの……」

 隆志の笑った顔を思い出す。
 年中ひっつき回って、自分を笑わせてくれもした。
 隆志がいなければ、背中はすかすかのままだ。
 ひとりぼっちだと感じる夜をずっと続けていかなければならない。

「無理だろ……そんなん……っ……」

 さみしいと思った瞬間、初めて隆志の背を追って周は駆け出す。
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