聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜

CHACOとJAGURA

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第四部 聖王編

第八十七回

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 あの集団は何者達か。イズヴァルトはオーガの衆に尋ねた。

「サンノヘ河の水賊集団だべ!」

 サンノヘの水賊団といえば、主にナンブロシアしている集団だ。

 河の下流流域とハチノヘジンスクの沿海では、荷を扱う船を動かし、中流があるサンノヘスクからクノーへの国境にあるニノヘスクでは、船から通行税をせしめとっていた。

 料金をケチろうとする、あるいは、手土産を持って挨拶をしない船主や旅客船は容赦なく襲うという。

「……随分と、遠いところから来ておらぬでござるか?」
「あいつらの本拠が、ここからほど近いイチノヘップ山地にあるんだべよ!」
「イチノヘップはクノーへで一番人口密度が高い地域だべ! 人をさらい、船大工にしたり、本拠の果樹園や薬草園でこき使っているんだべ!」

 そうしたニンゲンの労働者は、昼だけでなく夜も過酷だ。特製の強精剤を飲まされ、毎晩のように女オーガやゴブリンの女をあてがわれた。人口を増やすためにである。

 亜人をはらませるほど、というのが何を意味しているのか。つまりは、腹上死するまで搾り取られるということだ。それでも人は増えた。

 そんな商売をかれこれ1000年近くやっていて、ニンゲンも大量に増え、イチノヘップ山地は10万近い人口になっていた。村でつくる薬草や果物の品質も良くなり、ナンブロシアに輸出されているという。

「……なるほど。では賊らが乗っている、あの『ぞう』に似た小さないきものは?」
「『こぞう』だべな? 『ぞう』のできの悪いものをかけあわせて作った、南ナンブロシアの家畜だあ。馬っこの代わりみたいなもんだべ」
 
 体高は2メートルぐらいだ。50年ぐらい生きる。しかし『ぞう』とは違い、ものがしゃべれない。獰猛だという。

 賊は迫りつつあった。その先頭の何騎が、威嚇の鏑矢を放ってきた。大した距離を飛ばず、皆に当たらなかったが音だけでやる気であると示していた。

「おもしろい。さて、あの賊はどれほどの強さでござろう?」
「戦士じゃねえけど、油断は禁物だべ」
「なるほど。では貴殿ら、慢心しきって痛い目に遭う、拙者の情けない姿をとくとご覧ぜよ!」

 というわけで、イズヴァルトは村の者から刃がついた遊戯用の履物を借り、それを靴に取り付けると、凍った河の真ん中に立った。

 イナンナに呼びかけた。騒ぎを聞きつけたオクタヴィアもやってきた。

「風魔法で、拙者をあの賊の中に放り込んでいただいたい!」
「……えれえ自信たっぷりずらな?」
「そのスケート靴で氷の上を滑って、あいつらと戦うわけズラな?」
「さよう。ヒッジランドのエドワードどのから教えてもらったことがござる」

 北の国の冬の戦いでは、スケート靴が装備に加わる。凍った河の上を素早く渡るためにだ。

 ちなみにローラの荷車にも、氷上を進むための似た装備を取り付けていた。ミツクニュモスが押して持ってきた荷車を見て、オクタヴィアがぼやいた。

「だったら、ローラさんの荷車に乗ればいいのに?」
「これからすることをやったら、壊しちゃうかもしれぬでござるよ?」
「そうかもしんねえズラな……おっぱじめるズラ」

 イナンナとオクタヴィアは、2人がけで突風の魔法の印を切る。とてもかたい指揮棒を握るイズヴァルトの背後に強い風が起こった。

「いざ!」

 北の方角へ、彼は滑った。いや、飛んだ。

 この男、下半身で屈強なのはちんぽだけではない。腿や脛、足首やそれを支える骨と腰も強靭だった。

 へこんでいるところをジャンプして避け、波がそのまま凍ったような起伏にはわざと乗り上げ、空中で四回転半もジャンプして見ている者を驚かせた。

【ギルバート=カツランダルク注:つまりはアイススケートの話なのだが、イズヴァルトの故郷、シギサンシュタウフェンでも、子どもだけでなく大人もよくやるそうだ。】

 独楽のように宙を回転し、はたまた身体をくねらせて指揮棒を振り回しながら氷上を舞う。とても力強く。

 しかしスピードはますますあがっていた。イズヴァルトの背後で、削り取られた氷が舞い、風魔法に飛ばされ、キラキラと輝く奔流となった。

 その姿はさながら、氷雪ブリザード加速機アクセルと見えた。そしてイズヴァルトは数々の武勲を成し遂げた勲章者メダリストだ。

 その華麗な姿は賊達は息を呑んだ。いつしか氷上を疾走する聖騎士は、空を舞い、その一団のど真ん中に飛び込んでいた。

 彼を飛ばしていた風魔法が氷と雪の粒と混じり、光に照らされて、銀色の蝶の羽のような幻を、賊らの瞳に映っていた。

「なんだべ、あれ?」
「氷の魔物だべさ」
「……しかもあの棒っきれ、なんだか」

 イズヴァルトが握りしめていた指揮棒に刻まれていた古代文字が、青く輝き出していた。

 イズヴァルトはそれを、一番はじめにと決めたオーガの桃色の具足の肩甲に叩きつけようとする。そのオーガは3メートルある大野太刀を振るって受け止めようとした。

 だが。

「おわああっ!」
 
 驚きの声をあげたのは、イズヴァルトだった。大太刀とぶつかった指揮棒から蒼い光の粒が飛び、またたく間にあたりに広がった。

 突如、寒いクノーへの空気でも真っ白に見えてしまうとてつもない冷気が一団を襲い、彼らが乗っていた『こぞう』が驚き、乗り手達を振り払って逃げていってしまった。

 賊達の中で動揺が走る。大声をあげたがなぜだかわからぬ不思議な現象が与えてくれた、この好機を逃してはならぬと思ったイズヴァルトは驚く相手の野太刀を叩き砕いた。

 大立ち回りが始まった。単騎突入したイズヴァルトは、同士討ちの恐れがないことを幸いに、その指揮棒を振るって暴れに暴れた。

 賊達も身のこなしや受け流し方で負けてはいなかったが、長く強敵たちとの戦いを繰り広げてきたイズヴァルトの武には敵わなかった。

 30分もすると大勢が決まった。動ける者は恐れをなした逃げ、こっぴどくやられて動けない者たちは、駆けつけた騎兵たちに捕らえられて集められた。

 ここはシゲニウス帝らヒッターチの勢が裁きを担うこととなった。剣を持って厳しい顔をしたホージュリアが、賊たちに尋ねてまわる。

「お前たちが我らを襲った理由は何だ! 我らがヒッターチとワターリの混成軍だとわかっての狼藉か!」

 尋問はミツクニュモスによって、素早くクノーへ人がわかるように翻訳された。

「……ヒッターチ? なじょしてそんなえれえ遠くから!」
 
 賊たちは襲撃の理由を白状した。脊梁山脈の街道から、数多くの列を見かけたので人さらいをしようと襲撃するに至った。しかしイズヴァルト1人にこてんぱんにされてしまった。

「どうか、どうか命だけは助けてくだせえ……」
 
 ホージュリアとシゲニウス帝はイズヴァルトを見た。

「人さらいなど、かようなことを二度とせぬと誓えば帰すでござるよ?」

 賊たちは解き放たれた。この事件を機に、サンノヘ河の水賊達は、悪行のうち人さらいをやめたと言い伝えられている。

【ギルバート=カツランダルク注:このあたりの話はサーガで語られていることは事実である。
 但しイズヴァルトたちは余勢をかってイチノヘップ山地を攻め込んでから約束させたらしい。
 その戦いではゲオルギー公子の騎馬愚連隊が獰猛なまでの活躍をし、1000人以上の賊の首を討ち取った。現地には今でも、その戦いの時の死者を弔う首塚が残っている。】


□ □ □ □ □


 その戦いから数日して、イズヴァルト達はクノーへの公都・ミズサワスチにたどり着いた。

 土塁囲みのその城市は、それほど大きい街では無かった。東西に1キロ、南北に至っては800メートルほどの小都市だ。

 街の中は家がまばらで、商店もそれほど数は無かった。酒場も2軒だけ。しかも宿屋の1階で、宿泊客が飲んで食うのに使うぐらいだ。

 市場はあったがこの季節は冬野菜と穀物しか置いておらぬ。武器屋と防具屋は隠れた名刀や美麗な具足を揃えていたが、買い手がおらず、ホコリをかぶっていた。

 その中心、大公の屋敷も決して広くは無かった。ホーデンエーネンで言えば、ちょっと大きな目な騎士の屋敷程度であった。藁葺で華美なところは無く、質素な外観だった。

【ギルバート=カツランダルク注:その頃のミズサワスチの記述は全て、サーガと地域史によるものだ。
 ミズサワスチ市自体、今の市街地はイズヴァルトの時代のものから1キロ程南にずれている。
 理由は『聖王編』の頃より50年ほど後に起こった世界大戦の、この地方の最大の激戦が起きて焼亡したと言い伝えられているが、詳細は不明である。】

「なんとも、寂しい街でござるなあ……」

 イズヴァルトは横にいる、案内役の若いオーガの戦士に尋ねた。

「ルー=シュンどの。この街は変でござる。商店と市民の住居しか、ござらぬではないか? 武将や大臣どのら館はいずこに?」
「それだけクノーへには人がいないんだべ。それからな、郊外のあちこちの丘や山に、館を置いているんだべよ。ミズサワスチにひとたび事があれば、そうしたお館を支城代わりにするんだべ」
 
 ルー=シュンはそう語る。この若者は国境で出迎えに来てからずっと、エルフやローラのおまんこでイキ狂っていた。

 温泉場では、この数日で亀頭が腫れたまま縮まない、と笑って、ますますご立派になったものを見せたりもした。

【ギルバート=カツランダルク注:ムーツ大陸人だが、姓が前に、名が後ろになる。戦士ルー=シュンの名前はシュンだ。ちなみにだがこの若者は、次のクノーへ大公の時代では、近衛衆の隊長となって活躍した。】

「で、おれたち戦士団は大公さまの護衛でもあるだよ。もとは大公さまの実弟さま、キン=セン様のお守り役でもあったんだべ」
 
 大公はこの歳61。その弟でオーガとして生を享けたキン=セン公弟は、まだ10歳になったばかりであった。オーガとしては、おむつがとれたばかりの幼児のようなものであった。

「61歳と10歳でござるか……」
「おふたかたのお母上様は、『ぴっちぴち』で『ぼんきゅっぼん』の、わがままな体つきのまだ若い女オーガだべさ。ニンゲンでいうと24かそのぐらいかなあ」

 その女オーガは、アテールイを輩出した里の出であり、その英雄の弟の子孫にあたった。

 一度先代のクノーへ大公に側室として嫁いで、現大公を産んだが、早いうちに先立たれたので実家に戻り、同郷のオーガ男と結婚した。その息子がキン=セン公弟であった。

「で、今の大公さまは前妻様に先立たれ、ナンブロシアの公女さまを後妻として娶ったんだべ。合わせて12人の子宝に恵まれたけどなあ、とうとう男児が生まれなかったから、弟さまを次の大公に指名したんだべよ」

 しかし他国から激しい物言いがあった。純粋なオーガを大公にすることを、激しく嫌う実力者がいたのだ。

「それが……お隣のナンブロシアの、ドミトリー公子さまなんだべ」
「……なにゆえでござる?」
「そいつを俺から話そうか、ちんぽと態度が偉そうな司祭騎士団長殿?」

 聞き覚えがある声だった。響いたのは頭上からだ。

 イズヴァルトは真上を見あげた。すると、いつぞや見たことがある人物がサキュバスのヴァネロペと抱き合った格好で浮かんでいた。

「ドミトリー公子どのでござらぬか!」
「わはは! 気にくない女たらしの面をまた見るとは、俺もなんて不幸だ!」
 
 むかっとする返事をかけると、ナンブロシアのドミトリー公子は降りてきた。

 彼に抱きついていたヴァネロペは、上は二の腕が見える紫色の肌着のみで、下は何も身に着けていなかった。

 長い尻尾をふりふりとし、公子がズボンのポケットから出した太いちんぽを股の奥に入れ、「……♡♡♡」と気持ちよさそうにため息をついていた。

「公子どの! なにゆえここにおられるのでござるか!」
「お前のご友人、ブライアンという女ったらし臭い面のやつと知り合ってな、いろいろと頼んでこいつを借りたのだ!」

 公子は人前だというのに、軽く腰を振ってヴァネロペを喘がせた。精液をありったけ与える代わりに、転移魔法の便利さを体験させてもらったという。

「で、俺様は貴様の金玉の裏くさい面をまたも拝んでしまった、というわけだ!」
「相変わらずお口が悪いお方でござる……」
「でな、その跡継ぎの件で大公殿に文句を言いに来たわけだ。ハハッ!」

 とはいえだ。その前に飯を喰おうじゃないかと公子は重そうな革袋を掴んで持ち上げた。砂金がたくさん詰まった革袋だった。

「姉貴の件で、お前にはちょっと手を貸してもらうぞ、竿男?」

 さて、突如現れた北国の公子は、イズヴァルトに何を持ちかけたのか?

 その続きについてはまた、次回にて。
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