誘拐記念日

木継 槐

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2、

焦眉

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僕が言った覚えのない学校日程を把握している影子さんは、参観日当日の今日も……僕にニッコリとほほ笑んだ。
「じゃ、また学校でね。」
「は……はい。」

教室に着くと、みんながどことなく浮足立ったように和やかな雰囲気に包まれていた。
……悠一の席以外は。
悠一の席の状態は日々深刻に変化していた。
今日も悠一は廊下に出された机と椅子を無言で運び入れ、何も言わないまま席に着いた。
足元は靴下……上履きはもう無くなったのかもしれない……。

『思いっきりぶちかましてみなさい!』
頭の中で影子さんの声が響いたものの、僕は俯く悠一に声もかけられないまま、ただ時計を見つめているしかできない。
そもそも、自分のいじめも止められない僕にどうして悠一へのいじめを止められると思うんだろう。
僕はノートの端に意味もなく爪を立てた。

給食の時間になると、父兄が参加できる珍しい学校開放日ということのあって、多くの父兄が参加していた。影子さんはまだ来てないみたいだけど……。
僕は、いじめに加担してから松岡、長谷川、矢嶋、佐野の4人と悠一の席の近くで昼休憩を過ごしている。
悠一の隣で食事をすることを提案したのは、松岡だった。
『僕たちは彼と仲も良かったんだ。彼の分も僕達が食べてあげないと。』
この松岡の一言で悠一の給食は取り上げられ、4人の嫌いなものは『お供え』の名目で無理矢理口に突っ込まれる。悠一が吐き出すとそれを罵る。
僕はそれを見て見ぬふりをして悠一から目を逸らす。

今日もそのはずだった。
「宗太。お待たせ。」

「ケホッ……。」
しかし、悠一の何気ない咳払いに目を向けて、僕は目を見張った。
悠一の口が赤く腫れあがってきている。
机には給食で出されたキウイが置かれていて、悠一は途中で手を止めて胃のあたりを抑えてせき込んでいる。
あれって……。

「ウッ……。」
その時、悠一が腹を抱えたまま机から崩れ落ちた。
悠一の様子にクラスメイトも一瞬目を向けるが、すぐに目を逸らしていく。
4人が一斉に罵るが、いつもとは確実に違う悠一に足がすくんで立ち上がれない。

「宗太ぁ!!」
「ッ!!」
聞きなれた張りつめた声に振り返ると、影子さんが僕の肩を掴んで無理やり立ち上がらせた。
「え、いこさん「職員室からAED持ってきて!!」えっ?!」
「早く!!」
「ッはい!!」

僕は、真っ白な頭に『職員室』『AED』と書き込んで、クラスを飛び出した。
職員室に飛び込むと、すぐにAEDを見つけた。
まっすぐにAEDに向かうと、よりによって担任の胸に飛び込んでしまった。
「お、田中どうした?そんなに慌てて。」
「AEDどこですか?」
「は?あぁ、悠一にパシられたのか?遊びで使うようなものじゃないんだぞ。」
「その悠一が死にそうなんです!!先生は悠一を殺したいんですか!!」

僕が大声を張り上げると、担任は顔を引きつらせて慌てて体をどかした。
ガラスの扉を開けると、ものすごい音量の警告音が鳴り響いた。
でも、その音が気になることはなかった。

僕がAEDをもってふりかえると、担任がまた立ちはだかった。
「お前、使い方は?いいのか?」
「どけ。」
咄嗟に口から出た声は、自分の物とは思えないほど低く凄んでいた。
担任がもう一度道を開けたのを確認してから、僕は職員室を飛び出した。
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