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3、
消えたコイン②
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…麻実視点…
影子ちゃんと再会できたのは、退院日の3日前だった。
「お久しぶりです。」
「影子ちゃん…元気にしてた?」
影子ちゃんは私の心配を他所に、清々しく微笑んでいた。
「はい。宗太君も友人関係は修復できているはずです。」
でも……報告に来た時点で…影子ちゃんは…。
「…宗太君をお返しします。」
「どうしても行ってしまうの?」
「そう決めていましたから、今更曲げるつもりはありません。」
そう言って影子ちゃんは一通の手紙を私に手渡した。
「影子ちゃんはどうするの?行く場所は?」
「帰る場所は一つだけですから。」
「…施設に戻るのね。」
影子ちゃんの言葉に私はせめて安堵した。
手を握ると影子ちゃんは私の目をじっと見つめた。
「最後に…麻実さんに聞きたいことがあるんです。」
「何?」
「どうして愛人の子供の私に情けをかけてくれたんですか?」
「…初めてあなたを施設の外から見た日…あぁ、あの子は私の子だって……母親の勘よ。」
「私に家族はいりません。」
「影子ちゃん…。」
「私に人と同じ幸せは不相応ですから。」
影子ちゃんはそう言って私に改めて頭を下げた。
「息子さんと幸せに暮らしてください。」
止めようと手を伸ばしたけれど、影子ちゃんの腕は私をすり抜けて病室の扉の向こうに消えていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…悠一視点(回想)…
俺が退院した次の日、俺は担当医の『念のために』に付き合わされ、薬の吸入にもう一度病院を訪れていた。その帰り道、見覚えのある顔を見つけて声を掛けようと手を上げた。
しかし彼女……影子の顔からはいつもの覇気を感じられなかった。
どこかに電話をしているのか声はとても明るい……表情との差が薄気味悪くて俺は電話が終わったのを確認してから恐る恐る顔を覗き込んだ。
「び……くりした。」
「いなくなるのか?」
俺は咄嗟にそう口走っていた。
「……だったら?」
「いや……別に。」
「フフッ、訳も聞いてくれないの?」
「聞いたって立ち止まる気にはならないだろ?」
「……悠一君のそういうところ、好きだよ。」
「ッ?!」
思わぬ告白に顔に熱が集まってきて、俺は鼻をこすった。
「元気でね!宗太と喧嘩しないでよ?」
「したら飛んでくる?」
「ざんね~ん、その資格はもう無効なの。」
影子はひらひらと手を振って病院を後にした。
追いかけたいのは山々だった、しかしまだ会計の済んでいない状態だった。
俺は長椅子に腰かけ、これでもかと会計に座る男の事務員を睨みつけているしかできなかった。
影子ちゃんと再会できたのは、退院日の3日前だった。
「お久しぶりです。」
「影子ちゃん…元気にしてた?」
影子ちゃんは私の心配を他所に、清々しく微笑んでいた。
「はい。宗太君も友人関係は修復できているはずです。」
でも……報告に来た時点で…影子ちゃんは…。
「…宗太君をお返しします。」
「どうしても行ってしまうの?」
「そう決めていましたから、今更曲げるつもりはありません。」
そう言って影子ちゃんは一通の手紙を私に手渡した。
「影子ちゃんはどうするの?行く場所は?」
「帰る場所は一つだけですから。」
「…施設に戻るのね。」
影子ちゃんの言葉に私はせめて安堵した。
手を握ると影子ちゃんは私の目をじっと見つめた。
「最後に…麻実さんに聞きたいことがあるんです。」
「何?」
「どうして愛人の子供の私に情けをかけてくれたんですか?」
「…初めてあなたを施設の外から見た日…あぁ、あの子は私の子だって……母親の勘よ。」
「私に家族はいりません。」
「影子ちゃん…。」
「私に人と同じ幸せは不相応ですから。」
影子ちゃんはそう言って私に改めて頭を下げた。
「息子さんと幸せに暮らしてください。」
止めようと手を伸ばしたけれど、影子ちゃんの腕は私をすり抜けて病室の扉の向こうに消えていった。
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…悠一視点(回想)…
俺が退院した次の日、俺は担当医の『念のために』に付き合わされ、薬の吸入にもう一度病院を訪れていた。その帰り道、見覚えのある顔を見つけて声を掛けようと手を上げた。
しかし彼女……影子の顔からはいつもの覇気を感じられなかった。
どこかに電話をしているのか声はとても明るい……表情との差が薄気味悪くて俺は電話が終わったのを確認してから恐る恐る顔を覗き込んだ。
「び……くりした。」
「いなくなるのか?」
俺は咄嗟にそう口走っていた。
「……だったら?」
「いや……別に。」
「フフッ、訳も聞いてくれないの?」
「聞いたって立ち止まる気にはならないだろ?」
「……悠一君のそういうところ、好きだよ。」
「ッ?!」
思わぬ告白に顔に熱が集まってきて、俺は鼻をこすった。
「元気でね!宗太と喧嘩しないでよ?」
「したら飛んでくる?」
「ざんね~ん、その資格はもう無効なの。」
影子はひらひらと手を振って病院を後にした。
追いかけたいのは山々だった、しかしまだ会計の済んでいない状態だった。
俺は長椅子に腰かけ、これでもかと会計に座る男の事務員を睨みつけているしかできなかった。
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