53 / 99
3、
不信感③
しおりを挟む
…松岡透視点…
部室を飛び出して昇降口まで走ってくると古びた下駄箱が足音の振動でぎしっと鳴いた。
やっと息をつくと、後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。
「透!!」
「……なぜ追いかけてきたんですか?」
「そりゃおまえのこと諫められるの俺だけだから?」
「諫める?僕は先ほど言ったことに後悔することはありません。」
靴を履き替えて足を速めると、憲司も下駄箱を開ける音が聞こえる。
すぐにかけてくる音がして、おせっかいに話を続ける。
「そう言うこと言うなって。透だって宗太の姿見て分かってるんだろ?」
「何がです?」
「何でも善悪だけで図れないことだってあるってこと。」
「」
「まぁ透の気持ちもわかるけどさ。」
「君の善意は君自身を潰すだけでしょう。」
「そうか?」
憲司はそうやっていつもいつも……周りに流される。
ずっとそういう男だとは感じていたが、ついに誘拐犯探しにまで。
「君は柔すぎるんです!誰にでも優しくだなんてありえません。それだから中学の全国模試だって……。」
「」
「ごめん。」
「俺は後悔してないよ。上の高校を目指すより透と同じ高校を取っただけだよ。」
憲司の清々しいほどの諦めの顔に対するように、成績や知識にしがみつく僕が馬鹿に見えて、僕は通学路を逸れた。
「……もうどうでも構いませんよ。」
「あれ?どこ行くの?」
「塾です。僕は君のようにすね齧って気楽に生きていけませんから。」
足を速めると、もうついてくる足音は聞こえてこなかった。
ほら、所詮は一人だ。
他人なんて金と頭がなくなれば簡単に背を向ける。
僕は、二度と行くこともないいつもの塾の前に足を運んだ。
ビルの室内は電気がついて、塾の中に入っていく生徒たちが参考書に噛り付いている。
彼らを一瞥して僕は一人家路についた。
酒屋の裏口の玄関から今に入ると、珍しく父親がお茶を飲んでいた。
「ただいま。」
「透。ちょっとこちらに座れ。」
「はい。」
父親は僕が据わったのを確認すると、母親も呼びつけた。
「何のご用件でしょうか?」
「蔵の継承権についてお前に伝えることがある。」
僕が父親の前に座ると母親は父親の少し後ろに腰を下ろした。
「継承権の剥奪ですか?」
「」
「透!」
僕の問いかけに父親は顔をしかめた。
母親はそれを見て慌てたように声を荒げた。
「考えなくても分かることです。結構ですよ、こんな蔵あなたが天に召されたら勝手に受け継げますから。」
「ッなんてことを!!お父さんに謝りなさい!!」
「何故?不要に首を垂れるなんてしみったれもいいところです。」
「透ッ!!」
僕の言葉に母親が僕に飛びつかんとばかりだったが、父親がそれを腕で制した。
そして僕の顔を見てため息とともに口を開いた。
「しみったれ……か。やはりわかってないな。」
「理解したくもありません。」
「お前への継承は確かに法的に問題はないだろう。ただな、このしみったれに付いて来てくれたやつらがお前についていくかは別の問題だ。」
「結構ですよ。あなたが死んだら彼らには出て行ってもらいます。」
「……何だと?」
「僕は完璧な酒を造りたいんです。彼らのようなしがらみに染まった存在は僕の蔵には必要ありませッ……!!」
父親は僕の胸ぐらをつかんだ。
しかしその瞳の僕は揺れて一滴が零れた。
こんなに近くで父親の顔を見たのは久しぶりだった。
そして……こんな悔しい顔をした父親は初めてだ。
父親は僕の胸ぐらを叩き落として息を吐いた。
「出て行け。」
「」
僕は父親を睨みあげ、カバンを掴んで家を飛び出した。
部室を飛び出して昇降口まで走ってくると古びた下駄箱が足音の振動でぎしっと鳴いた。
やっと息をつくと、後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。
「透!!」
「……なぜ追いかけてきたんですか?」
「そりゃおまえのこと諫められるの俺だけだから?」
「諫める?僕は先ほど言ったことに後悔することはありません。」
靴を履き替えて足を速めると、憲司も下駄箱を開ける音が聞こえる。
すぐにかけてくる音がして、おせっかいに話を続ける。
「そう言うこと言うなって。透だって宗太の姿見て分かってるんだろ?」
「何がです?」
「何でも善悪だけで図れないことだってあるってこと。」
「」
「まぁ透の気持ちもわかるけどさ。」
「君の善意は君自身を潰すだけでしょう。」
「そうか?」
憲司はそうやっていつもいつも……周りに流される。
ずっとそういう男だとは感じていたが、ついに誘拐犯探しにまで。
「君は柔すぎるんです!誰にでも優しくだなんてありえません。それだから中学の全国模試だって……。」
「」
「ごめん。」
「俺は後悔してないよ。上の高校を目指すより透と同じ高校を取っただけだよ。」
憲司の清々しいほどの諦めの顔に対するように、成績や知識にしがみつく僕が馬鹿に見えて、僕は通学路を逸れた。
「……もうどうでも構いませんよ。」
「あれ?どこ行くの?」
「塾です。僕は君のようにすね齧って気楽に生きていけませんから。」
足を速めると、もうついてくる足音は聞こえてこなかった。
ほら、所詮は一人だ。
他人なんて金と頭がなくなれば簡単に背を向ける。
僕は、二度と行くこともないいつもの塾の前に足を運んだ。
ビルの室内は電気がついて、塾の中に入っていく生徒たちが参考書に噛り付いている。
彼らを一瞥して僕は一人家路についた。
酒屋の裏口の玄関から今に入ると、珍しく父親がお茶を飲んでいた。
「ただいま。」
「透。ちょっとこちらに座れ。」
「はい。」
父親は僕が据わったのを確認すると、母親も呼びつけた。
「何のご用件でしょうか?」
「蔵の継承権についてお前に伝えることがある。」
僕が父親の前に座ると母親は父親の少し後ろに腰を下ろした。
「継承権の剥奪ですか?」
「」
「透!」
僕の問いかけに父親は顔をしかめた。
母親はそれを見て慌てたように声を荒げた。
「考えなくても分かることです。結構ですよ、こんな蔵あなたが天に召されたら勝手に受け継げますから。」
「ッなんてことを!!お父さんに謝りなさい!!」
「何故?不要に首を垂れるなんてしみったれもいいところです。」
「透ッ!!」
僕の言葉に母親が僕に飛びつかんとばかりだったが、父親がそれを腕で制した。
そして僕の顔を見てため息とともに口を開いた。
「しみったれ……か。やはりわかってないな。」
「理解したくもありません。」
「お前への継承は確かに法的に問題はないだろう。ただな、このしみったれに付いて来てくれたやつらがお前についていくかは別の問題だ。」
「結構ですよ。あなたが死んだら彼らには出て行ってもらいます。」
「……何だと?」
「僕は完璧な酒を造りたいんです。彼らのようなしがらみに染まった存在は僕の蔵には必要ありませッ……!!」
父親は僕の胸ぐらをつかんだ。
しかしその瞳の僕は揺れて一滴が零れた。
こんなに近くで父親の顔を見たのは久しぶりだった。
そして……こんな悔しい顔をした父親は初めてだ。
父親は僕の胸ぐらを叩き落として息を吐いた。
「出て行け。」
「」
僕は父親を睨みあげ、カバンを掴んで家を飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる