56 / 99
3、
不信感⑥
しおりを挟む
…悠一視点…
静まり返った浴室には湯が流れる音だけが響き渡っている。
「」
「」
俺と透は2人だけでどでかい浴槽に浸かっていることになった。
宗太のやつは、一番に浴室を出たかと思えば曇りガラス越しに扇風機に当たる姿が見える。
俺たちを浴室に引っ張り込んだ割に逆上せるのが早いって、どんな神経してんだクソ。
透のほうは一言も口を開かずに肩まで浸かってやがるし。
「逆上せるなよ。」
「君こそ顔が赤くなってきていますよ。」
「この程度平気だ。」
「そうですか。」
透は俺と目も合わせずに返事だけよこして、また口を閉じた。
「……さっきは殴って悪かったな。」
「」
「暴力に関しては謝る。それだけだ。」
「もう気にしていませんから。」
「じゃ、なんでそんな気まずい顔してんだよ。お前は先に謝ってんだから堂々としてりゃいいだろ。」
俺の言葉に透はちらっとこちらを見て軽く口を開いたのに、また口を閉じて眉間にしわを寄せてそっぽ向いた。
「お前、本当……何も言わないよな。」
「はい?口利いているじゃないですか。」
「馬鹿、違ぇよ。思ってること言えって言ってんだよ。」
「言っています。」
「めんどくせぇ物言いじゃ伝わるもんも伝わってこねぇんだよ。」
「悪かったですね面倒な物言いで。」
「ッ……チッ。」
俺が無意識に舌打ちをすると、流れ落ちるお湯の音に被るように浴室内に響いた。
透は俺の舌打ちの音に顔をしかめた。
「俺お前みたいなやつ苦手だ、扱いづらい。」
「そうですか。」
「でも影子のやつよりはましだ。」
「……影子さんですか。」
俺がこぼした“影子”の名前に透の視線がこちらとぶつかった。
「のらりくらりつかめないかと思えば、感情的になりやがって、かと思えばまたのらりくらりと消えやがって。それに比べればお前の嫌味なんかずっっっとましだ。」
「嫌味のつもりは「ねぇんだろ?」ッ……。」
「お前の正常運転がそれなんだろ。ならこっちがその端々の余計なもの削いで聞くしかねぇだろ。」
「……。」
「俺だって自分の口悪いの棚に上げるつもりねぇし、今更これを変えるつもりねぇ。だからお互い様だ。」
「影子さんはそんなに扱いづらかったんですか?」
「あぁ。最初から最後まで胸糞悪い女で……これ宗太に言うなよ。」
「」
「俺、影子に好きって言われてんだよ。」
「……妄想ですか?」
「あ゛?」
「あぁ、事実なんですか。」
「当たり前だろ。俺が後追わないって言ったら『あなたのそういうところ好きよ』ってな。」
「……悠一君って可哀想な頭してるんですね。」
「沈めてられてぇのか?」
「遠慮しますよ。早く上がりましょう、宗太君を湯冷めさせるのはまずいでしょう。」
俺たちが浴室を出ると、着替えの入れてあったかごには宗太の分だけなくなっていた。
あいつ、本気で帰りやがったのかよ。
「置いて行かれてしまったようですね。」
「チィッ!」
着替えを済ませて男湯の暖簾を出ると、先に身支度を整えて出ていた透が肩を震わせていた。
「何やってんだ?」
「……いえ、何でも……フフッ。」
透の視線の先を見ると、一台しかない椅子型のマッサージ器がぶるぶる震えている。
その中にすっぽり収まってよだれを垂らしていびきをかいているのは、まぎれもなく宗太だった。
「」
俺は宗太の頭にタオルを叩きつけた。
宗太は顔にかかったタオルに反応して目を開けた。
「あ……えっと……いい湯だったね。」
「てめぇ、人が気まずい時間過ごしてるときに……。」
「ぐぇ、ごめッ、ごめんなさい!」
宗太の首を軽くつかんで揺らすと、くすぐったかったのか宗太はへらへらっと笑っていた
「別に構いませんよ。湯冷めしていないのなら“気まずい時間”も悪くありませんでしたから。」
嫌味ったらしい声ににらみを利かせると、透も俺を睨み返していた。
それがなぜかツボで3人して噴き出すように笑いだすことになった。
静まり返った浴室には湯が流れる音だけが響き渡っている。
「」
「」
俺と透は2人だけでどでかい浴槽に浸かっていることになった。
宗太のやつは、一番に浴室を出たかと思えば曇りガラス越しに扇風機に当たる姿が見える。
俺たちを浴室に引っ張り込んだ割に逆上せるのが早いって、どんな神経してんだクソ。
透のほうは一言も口を開かずに肩まで浸かってやがるし。
「逆上せるなよ。」
「君こそ顔が赤くなってきていますよ。」
「この程度平気だ。」
「そうですか。」
透は俺と目も合わせずに返事だけよこして、また口を閉じた。
「……さっきは殴って悪かったな。」
「」
「暴力に関しては謝る。それだけだ。」
「もう気にしていませんから。」
「じゃ、なんでそんな気まずい顔してんだよ。お前は先に謝ってんだから堂々としてりゃいいだろ。」
俺の言葉に透はちらっとこちらを見て軽く口を開いたのに、また口を閉じて眉間にしわを寄せてそっぽ向いた。
「お前、本当……何も言わないよな。」
「はい?口利いているじゃないですか。」
「馬鹿、違ぇよ。思ってること言えって言ってんだよ。」
「言っています。」
「めんどくせぇ物言いじゃ伝わるもんも伝わってこねぇんだよ。」
「悪かったですね面倒な物言いで。」
「ッ……チッ。」
俺が無意識に舌打ちをすると、流れ落ちるお湯の音に被るように浴室内に響いた。
透は俺の舌打ちの音に顔をしかめた。
「俺お前みたいなやつ苦手だ、扱いづらい。」
「そうですか。」
「でも影子のやつよりはましだ。」
「……影子さんですか。」
俺がこぼした“影子”の名前に透の視線がこちらとぶつかった。
「のらりくらりつかめないかと思えば、感情的になりやがって、かと思えばまたのらりくらりと消えやがって。それに比べればお前の嫌味なんかずっっっとましだ。」
「嫌味のつもりは「ねぇんだろ?」ッ……。」
「お前の正常運転がそれなんだろ。ならこっちがその端々の余計なもの削いで聞くしかねぇだろ。」
「……。」
「俺だって自分の口悪いの棚に上げるつもりねぇし、今更これを変えるつもりねぇ。だからお互い様だ。」
「影子さんはそんなに扱いづらかったんですか?」
「あぁ。最初から最後まで胸糞悪い女で……これ宗太に言うなよ。」
「」
「俺、影子に好きって言われてんだよ。」
「……妄想ですか?」
「あ゛?」
「あぁ、事実なんですか。」
「当たり前だろ。俺が後追わないって言ったら『あなたのそういうところ好きよ』ってな。」
「……悠一君って可哀想な頭してるんですね。」
「沈めてられてぇのか?」
「遠慮しますよ。早く上がりましょう、宗太君を湯冷めさせるのはまずいでしょう。」
俺たちが浴室を出ると、着替えの入れてあったかごには宗太の分だけなくなっていた。
あいつ、本気で帰りやがったのかよ。
「置いて行かれてしまったようですね。」
「チィッ!」
着替えを済ませて男湯の暖簾を出ると、先に身支度を整えて出ていた透が肩を震わせていた。
「何やってんだ?」
「……いえ、何でも……フフッ。」
透の視線の先を見ると、一台しかない椅子型のマッサージ器がぶるぶる震えている。
その中にすっぽり収まってよだれを垂らしていびきをかいているのは、まぎれもなく宗太だった。
「」
俺は宗太の頭にタオルを叩きつけた。
宗太は顔にかかったタオルに反応して目を開けた。
「あ……えっと……いい湯だったね。」
「てめぇ、人が気まずい時間過ごしてるときに……。」
「ぐぇ、ごめッ、ごめんなさい!」
宗太の首を軽くつかんで揺らすと、くすぐったかったのか宗太はへらへらっと笑っていた
「別に構いませんよ。湯冷めしていないのなら“気まずい時間”も悪くありませんでしたから。」
嫌味ったらしい声ににらみを利かせると、透も俺を睨み返していた。
それがなぜかツボで3人して噴き出すように笑いだすことになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる