誘拐記念日

木継 槐

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4、

自首⑥

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僕の事情聴取が終わって部屋を出ると、悠一が既にベンチに座って壁に背中を預けていた。
その状態でスマホをいじりながら右足で貧乏ゆすりをする姿に、あまり良い状態で聴取が終わらなかったんだと悟ることになった。
思わず立ち止まった僕に気が付いたのか、悠一は顔を上げた。
「終わったのか?」
「……うん。」
「そうか……他のやつもさっき来てすぐに部屋に引っ張られてった。」
「……そうなんだ。」
僕が横に座ると、悠一は深いため息をついた。
「宗太お前、何聞かれた?」
「全部聞かれたよ。」
「……全部答えたのか。」
「うん、その方が影子さんとリサさんのためになるから。」
「……あぁ。俺は答えたくなかったけど誘導されてぶちまけることになった……クソッ。」
悠一は悔しそうに頭をかいた。
するとしばらくして、部屋から透が出てきた。
「透。」
「宗太君ッ……大丈夫でしたか?威圧的なことされませんでしたか?」
「う、うん。」
透は僕のことを見つけるなり速足で飛んできて僕の肩をつかんだ。
その目は透が家出から帰る時に見たあの緊張感を含んだものだった。
悠一はそれを見て、わざわざ大きな声で吐き捨てた。

「つまり、第二は外れだな。」
「やめなよ悠一。」
「事実を言っているだけですし仕方ないでしょう。」
てっきり一緒に諭すものだと思った透は、部屋からちょうど出てきた若い男性の刑事さんを睨みつけながら、嘲笑を漏らした。僕はその目が刑事さんにばれないように透の腕を引いてから、刑事さんに会釈をした。
「悠一も透も、本当にダメ。影子さんにも影響したらどうするの?」
「チッ。」
「すみません。」
「憲司は?」
「別室で取り調べを受けてます。」
「そっか……。」
「第三ですがあたりでしょうかね。」
透はこういうところは根に持つんだよね……本当に気を付けないと。
僕がひやひやしながら2人をなだめていると、話を終えた憲司がちょうど僕が話を聞いてもらった村田刑事と一緒に出てきた。

「お、宗太。聴取終わってたんだな……って泣き顔酷いな~。」
「いやぁ、うっかり泣かせちまったからな~、すまんすまん。」
悠一は僕な顔を改めて見てから、村田刑事に詰め寄った。
「このくそじじぃ……」
「悠一!」
僕がと憲司が必死に止めにかかると、その状況を見て村田刑事がけらけらと笑い出した。
「青春だな~、大いに結構!!こういう仲間は大きな財産になるぞ。」
「その財産を大いに痛めつけていただき恐悦至極に存じます。」
何でこういう時に限って悠一と透は結託するのかな?!!
「ハハハ!!すごい嫌味だな、よっぽど隣の取調室で腸引っ掻き回されたんだな。」
「あぁ、おかげさまで!!」
「えぇえぇ、貴重な経験でしたよ!!」
「悪いことしたな~、これが仕事だから仕方ないって事で大目に見てくれ、な?」
村田刑事は先ほど第二の部屋にいた若い男性の刑事さんを引っ張ってきて僕たちに引き合わせた。
「どうしてこの僕がこんな子供に謝罪など!」
「そりゃ相手に酷いことしたなら謝るのが基本だろ。」
「ふん!彼らが口を割らないからです。所詮、子供の戯言ではないですか!!」
「その戯言を頼りに調べを進めてるは俺たちだ、違うか?」
若い刑事さんは悔しそうに僕たちを睨みつけてから舌打ちをした。
悠一は眉間にしわを寄せた詰め寄ろうとした。
しかし、透の方が一足早く詰めよっていた。
「はぁ?今舌打ちしましたよね!」
「透、落ち着こう!」
「我々は虚偽を発言などしていません!!すべて話した子供相手に何故そこまでするんですか!あなたたちはそんなに偉いんですか!一ミリも仲間をかばおうと思ったこともないんですか!!それはご立派だ!!税金でご飯を食べてる方は我々のような庶民とは違いますね!!大層いいご身分ですね!!」
これ以上何か言わせるのはさすがに何が出てくるかわからない。
透の勢いに悠一まで相当怯んでるし、僕たちは一緒に透の口を押えていた。
もしかしたら起こると歯止めが利かなくなるのって、透なのかもしれない。

若い刑事さんは透の気迫に押されて、謝罪もないままその場を去っていった。
「透君といったな。」
「ッ……えぇ。」
「部下が無礼なことをしてすまんかった。あれはちょっと過激でな……俺の顔に免じて納めてくれないか。」
刑事さんは苦笑いを浮かべた。
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