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判決、そして……⑤
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戻ってきた裁判員と裁判長が席に座ると、裁判長はすぐに口を開いた。
「まずこれは我々の決定を理由づけるものとして告げるとします。被告人は強い反省の色があり執行猶予がつく刑となるのが原則となっていましたが、被告人の強い思いを汲むことになりました。被告への刑罰を伝えます。被告は初犯、未成年の誘拐と殺人未遂。そして殺人、遺体遺棄は少年法に掛ける年齢を下回っている。しかしどちらの罪も重く到底、許されるものではありません。被告人、あなたには懲役2年の判決を下します。」
「」
影子さんは肩で軽く息を吐いた。
「被告人、橘リサ、そして交代人格の影子。あなたには異論があれば控訴ができる権利があります。言いたいことはありますか?」
「はい。私の重罪に判決を与えていただき、ありがとうございます。刑期を全うすることをここに誓います。」
その声はリサさんにも影子さんにも聞こえる穏やかな声だった。
顔は見えなかったけど、今の2人は安堵の笑顔を浮かべているんだろうな……。
僕にとっては悔しいのに、影子さん達が正式に罪を償えずに苦しんでいた時間を思うと、何故か肩の荷が降りてしまった。
閉廷という裁判長の言葉を合図に、影子さんは深く頭を下げると、抗うことなく両手を警察官に預けた。
手錠を掛けられて影子さんは部屋を出ていく。
僕は抑えられずに追いかけるように部屋を飛び出した。
「お姉さん!!」
影子さんは、僕の声に立ち止まった。
僕は言いたい事の全てを飲み込んで無理やり手を使って、口角を上げた。
「行ってらっしゃい。」
しかし、影子さんは振り返ることがなかった。刑事さんに頷いて影子さんは歩いて行ってしまう。
影子さんが見えなくなって、僕は必死に押さえ込んでいた涙が溢れて、崩れてしまった。
「宗太……頑張ったな。」
「ごめん、泣かないはずだったのに。」
「宗太くんは無理でしょう……我々ですら泣いてるのですから。」
「そうだよ、もう影子さんを誇ろう。」
「……こんなに呆気なく懲役が決まるんだな。」
「ダメだ……涙止まんねぇ。」
それから僕は影子さん向けに、毎日毎日、日記のような手紙を書くようになった。でも、返事は一度も帰ってこない。南川さんからそっと聞いた話だと、今でも影子さんもリサさんも自分を責め続ける事をやめていないらしい。手紙を返さない事を贖罪にするときかないんだと中井さんも複雑な顔をしていた。
母さんはどんなに質問しても、影子さん達のことは何も話してはくれなかった。
きっと母さんなりの償い方なのかもしれない。それでも母さんは笑顔を絶やさずにいてくれた。
…………
その1年後の事だった。いきなり母さんが影子さんのことを報告してくれた。
「影子とリサが来月釈放されるわ。」
「……え?!」
影子さん達はものすごく模範囚で、1年ちょっとで十分と判断されたのだ。僕はすぐに悠一達にLINEを入れた。
びっくりするほど、即レスだった。
「本当か?!」
「何か持っていきますか?」
「とりあえず、宗太。やっと息をつけるか。」
「おう!良かったな!」
「分かった!」
みんなも影子さんのことを忘れずに待ってくれていたことに涙が滲んだ。
そして1ヶ月後、監獄の門の前で僕達は待機していた。すると門が開き、出てきた影子さんが見えて僕たちはすぐに駆け寄った。影子さんは目を見開いていた。
「姉さん、お帰りなさい!!」
影子さんは少しうつむいて息を吐いてから、思い切り口角を上げた。
「ただいま。」
・・・・・・END・・・・・・
「まずこれは我々の決定を理由づけるものとして告げるとします。被告人は強い反省の色があり執行猶予がつく刑となるのが原則となっていましたが、被告人の強い思いを汲むことになりました。被告への刑罰を伝えます。被告は初犯、未成年の誘拐と殺人未遂。そして殺人、遺体遺棄は少年法に掛ける年齢を下回っている。しかしどちらの罪も重く到底、許されるものではありません。被告人、あなたには懲役2年の判決を下します。」
「」
影子さんは肩で軽く息を吐いた。
「被告人、橘リサ、そして交代人格の影子。あなたには異論があれば控訴ができる権利があります。言いたいことはありますか?」
「はい。私の重罪に判決を与えていただき、ありがとうございます。刑期を全うすることをここに誓います。」
その声はリサさんにも影子さんにも聞こえる穏やかな声だった。
顔は見えなかったけど、今の2人は安堵の笑顔を浮かべているんだろうな……。
僕にとっては悔しいのに、影子さん達が正式に罪を償えずに苦しんでいた時間を思うと、何故か肩の荷が降りてしまった。
閉廷という裁判長の言葉を合図に、影子さんは深く頭を下げると、抗うことなく両手を警察官に預けた。
手錠を掛けられて影子さんは部屋を出ていく。
僕は抑えられずに追いかけるように部屋を飛び出した。
「お姉さん!!」
影子さんは、僕の声に立ち止まった。
僕は言いたい事の全てを飲み込んで無理やり手を使って、口角を上げた。
「行ってらっしゃい。」
しかし、影子さんは振り返ることがなかった。刑事さんに頷いて影子さんは歩いて行ってしまう。
影子さんが見えなくなって、僕は必死に押さえ込んでいた涙が溢れて、崩れてしまった。
「宗太……頑張ったな。」
「ごめん、泣かないはずだったのに。」
「宗太くんは無理でしょう……我々ですら泣いてるのですから。」
「そうだよ、もう影子さんを誇ろう。」
「……こんなに呆気なく懲役が決まるんだな。」
「ダメだ……涙止まんねぇ。」
それから僕は影子さん向けに、毎日毎日、日記のような手紙を書くようになった。でも、返事は一度も帰ってこない。南川さんからそっと聞いた話だと、今でも影子さんもリサさんも自分を責め続ける事をやめていないらしい。手紙を返さない事を贖罪にするときかないんだと中井さんも複雑な顔をしていた。
母さんはどんなに質問しても、影子さん達のことは何も話してはくれなかった。
きっと母さんなりの償い方なのかもしれない。それでも母さんは笑顔を絶やさずにいてくれた。
…………
その1年後の事だった。いきなり母さんが影子さんのことを報告してくれた。
「影子とリサが来月釈放されるわ。」
「……え?!」
影子さん達はものすごく模範囚で、1年ちょっとで十分と判断されたのだ。僕はすぐに悠一達にLINEを入れた。
びっくりするほど、即レスだった。
「本当か?!」
「何か持っていきますか?」
「とりあえず、宗太。やっと息をつけるか。」
「おう!良かったな!」
「分かった!」
みんなも影子さんのことを忘れずに待ってくれていたことに涙が滲んだ。
そして1ヶ月後、監獄の門の前で僕達は待機していた。すると門が開き、出てきた影子さんが見えて僕たちはすぐに駆け寄った。影子さんは目を見開いていた。
「姉さん、お帰りなさい!!」
影子さんは少しうつむいて息を吐いてから、思い切り口角を上げた。
「ただいま。」
・・・・・・END・・・・・・
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