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酔っ払いモモンガ、捕獲される 3
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「ほら、口開けろ。あーんだ、あーん」
「あ、あーーん…むぐ…」
「そうそう、上手だな。あぁ、口の端からこぼれてる。量が多すぎたか?」
それにしても小さい口だな、と笑いながら唇の隅についたスクランブルエッグを指で拭い、口に運ぶ。
それをできるだけ視界に入れないようにしながらひたすらもぐもぐと与えられた食事にのみ意識を集中していれば、「いい子だな、しっかり食べろよ?」と頭をぽんぽん。
このイケオジ、とにかく褒める。
褒めて褒めて褒め殺しかというくらいに褒める。
最初こそ照れていたが、あまりに殺傷能力の高すぎるそれにもはや直視は不可能だ。
しかも、簡単なもので悪いな、と与えられた食事は、ふわふわのスクランブルエッグと、同じくふわふわのパンケーキにベーコン、キノコのスープ。
「女子力高すぎて敗北感しかわかない…」
「ん?」
「いえ、なんでも……」
「気になることがあるなら何でも聞けよ、隠されたらわからないからな」
「はい…」
―――このイケオジ、ほんっとうにいい人だ。
「寒くないか?これでも羽織ってろ」と私物であろう上品そうなガウンを私に羽織らせてくれて、私に直接手から食事を与え、それでもって今は、なぜか私の背後に回り込んで寝ぐせのついた髪を梳かしている……。
why?
「これはもはや世話を焼くのではなく飼育では―――」
ぼそりと呟いたセリフ一つにもわざわざ耳をそばだて、「ん?なんだ?何か聞きたいことがあるのか?」と尋ねるイケオジ。
え、これどうやって逃げようと混乱しても仕方のないことだと誰もが思うに違いない。
「そういや、俺の名前も教えてなかったな。
俺は榎本貢だ。嬢ちゃんは?」
「あ、藍島 柚香です」
「歳は?」
「にじゅうはち…」
「そうか、俺は48だからちょうど20歳年上だな」
可愛いかわいいと髪を撫でつけ、ほほえましそうに撫でられる。
そうか20歳年下なのか、と茫然としつつも、という事はこの扱いは子供扱いされているだけなのでは、と。
「あ、あの…」
「言っとくが、俺は恋愛ごとには年齢は関係ないと思ってるからな。
年上だろうが年下だろうが、欲しいと思えばそれだけだ。
……それとも嬢ちゃんは、おっさんは嫌いか?」
「—―――――――!!」
とんでもありませんっ!!っと、カフェオレの入ったカップを手に持っていなかったら土下座して謝罪していたかもしれない。
それほど破壊力の強い、イケオジの上目遣いに、柚香の鼻の粘膜が一瞬にしてカッと熱くなった。
ちょっとまて。
流石にまずい。
流石にこの場で鼻血出すとかもはやただの変態女—―――!!!
「どうした?大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶれふ……」
自らの手で端を抑えつつ、そっぽを向いて答える柚香に、イケオジーーーもとい榎本は心配げな表情だ。
「そもそもお前さん、一体なんであんな状態で店にやってきたんだ?真昼間から随分酔ってたみたいだが」
「え…っと。昨日の私は、何か言ってませんでしたか……」
「ん?あぁ、なんかごにょごにょ、なんとかがくっついたから祝杯をとかなんとか……」
「あぁぁぁああぁぁ!!!!」
「おいこら、どうした?あぁ、髪が乱れる」
一気に枕に突っ伏した柚香を心配し、背中をぽんぽんをたたく榎本。
その優しさが胸に痛い。
―――え、これ説明しなきゃダメ?
駄目だよね、そうだよね、最悪だ……。
「えーと、ですね」
「うん」
「昨日?は、私が子供のころから愛読していた本の、完結編が発売される日でして」
「ほぉ?」
「内容は雑誌で読んで知ってたんですけど、改めて単行本として手元に届いてみると、こう、興奮が……」
ビニールを開けてもいない新刊本を手作りの神棚に祀り、昼間から酒をかっ喰らっていたなんてとてもではないが言えない。
そのあたりごにょごにょと言葉を濁す柚香に、なんとなく事情を察したのか、「そうか、つまり嬢ちゃんにとってめでたい日だったんだな」と善意的解釈を下す榎本。
「で、うちの店にやってきたのはたまたまか?」
「それは――――」
「あ、あーーん…むぐ…」
「そうそう、上手だな。あぁ、口の端からこぼれてる。量が多すぎたか?」
それにしても小さい口だな、と笑いながら唇の隅についたスクランブルエッグを指で拭い、口に運ぶ。
それをできるだけ視界に入れないようにしながらひたすらもぐもぐと与えられた食事にのみ意識を集中していれば、「いい子だな、しっかり食べろよ?」と頭をぽんぽん。
このイケオジ、とにかく褒める。
褒めて褒めて褒め殺しかというくらいに褒める。
最初こそ照れていたが、あまりに殺傷能力の高すぎるそれにもはや直視は不可能だ。
しかも、簡単なもので悪いな、と与えられた食事は、ふわふわのスクランブルエッグと、同じくふわふわのパンケーキにベーコン、キノコのスープ。
「女子力高すぎて敗北感しかわかない…」
「ん?」
「いえ、なんでも……」
「気になることがあるなら何でも聞けよ、隠されたらわからないからな」
「はい…」
―――このイケオジ、ほんっとうにいい人だ。
「寒くないか?これでも羽織ってろ」と私物であろう上品そうなガウンを私に羽織らせてくれて、私に直接手から食事を与え、それでもって今は、なぜか私の背後に回り込んで寝ぐせのついた髪を梳かしている……。
why?
「これはもはや世話を焼くのではなく飼育では―――」
ぼそりと呟いたセリフ一つにもわざわざ耳をそばだて、「ん?なんだ?何か聞きたいことがあるのか?」と尋ねるイケオジ。
え、これどうやって逃げようと混乱しても仕方のないことだと誰もが思うに違いない。
「そういや、俺の名前も教えてなかったな。
俺は榎本貢だ。嬢ちゃんは?」
「あ、藍島 柚香です」
「歳は?」
「にじゅうはち…」
「そうか、俺は48だからちょうど20歳年上だな」
可愛いかわいいと髪を撫でつけ、ほほえましそうに撫でられる。
そうか20歳年下なのか、と茫然としつつも、という事はこの扱いは子供扱いされているだけなのでは、と。
「あ、あの…」
「言っとくが、俺は恋愛ごとには年齢は関係ないと思ってるからな。
年上だろうが年下だろうが、欲しいと思えばそれだけだ。
……それとも嬢ちゃんは、おっさんは嫌いか?」
「—―――――――!!」
とんでもありませんっ!!っと、カフェオレの入ったカップを手に持っていなかったら土下座して謝罪していたかもしれない。
それほど破壊力の強い、イケオジの上目遣いに、柚香の鼻の粘膜が一瞬にしてカッと熱くなった。
ちょっとまて。
流石にまずい。
流石にこの場で鼻血出すとかもはやただの変態女—―――!!!
「どうした?大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶれふ……」
自らの手で端を抑えつつ、そっぽを向いて答える柚香に、イケオジーーーもとい榎本は心配げな表情だ。
「そもそもお前さん、一体なんであんな状態で店にやってきたんだ?真昼間から随分酔ってたみたいだが」
「え…っと。昨日の私は、何か言ってませんでしたか……」
「ん?あぁ、なんかごにょごにょ、なんとかがくっついたから祝杯をとかなんとか……」
「あぁぁぁああぁぁ!!!!」
「おいこら、どうした?あぁ、髪が乱れる」
一気に枕に突っ伏した柚香を心配し、背中をぽんぽんをたたく榎本。
その優しさが胸に痛い。
―――え、これ説明しなきゃダメ?
駄目だよね、そうだよね、最悪だ……。
「えーと、ですね」
「うん」
「昨日?は、私が子供のころから愛読していた本の、完結編が発売される日でして」
「ほぉ?」
「内容は雑誌で読んで知ってたんですけど、改めて単行本として手元に届いてみると、こう、興奮が……」
ビニールを開けてもいない新刊本を手作りの神棚に祀り、昼間から酒をかっ喰らっていたなんてとてもではないが言えない。
そのあたりごにょごにょと言葉を濁す柚香に、なんとなく事情を察したのか、「そうか、つまり嬢ちゃんにとってめでたい日だったんだな」と善意的解釈を下す榎本。
「で、うちの店にやってきたのはたまたまか?」
「それは――――」
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