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10.歓楽と安心
授業が終わり、黒板を消している雅楽川先生の背中に声をかける。
「雅楽川先生、お疲れ様でした」
黒板消しを持ったまま振り返り、僕の顔を見て笑う。
「真飛斗先生!先生こそお疲れ様でした」
「講評をするので、黒板消したら少し来てください」
「はい、わかりました」
さっと消したため黒板には文字の端々が少し残っているが、気にせず僕の背中を追って廊下にでてきた。
少し歩き、職員室に向けて階段を降りようとすると先生が立ち止まった。
「ここでよくないですか?」
そう言って指を指した先は1組の隣にある空き教室だった。特に場所に規定やこだわりはないが、職員室ならほかの先生のからも言葉をいただけるのではないかと思って勝手に向かっていた。
「大丈夫ですよ」
「じゃあこっちがいいです」
ドアを開けて教室に入っていく先生を追いかける。
「…ということで、とても良かったです。ほかの先生方も褒めていらっしゃいましたよ」
向かい合わせで椅子に座り、授業中に書いた内容を伝える。一通り伝え終えて、用紙を机に置く。
「高評価だったなら良かったです!」
「僕も尊敬できるところが多くて…心の底からすごいと思いました」
「いやいやそんな…光栄です」
嬉しそうに目を細めて笑う。
「僕より担任向いてるかもしれないですよ」
「え?」
嫉妬か、否定を求めているのか分からないが、思わず思っていたことが口から漏れてしまった。さっきまで上がっていた口角は下がり、首を傾げて僕の顔を見つめていた。
「僕の授業は面白くも楽しくもないですから。授業内容はしっかり教えて、尚且つ楽しいならそれが1番ですからね」
返しにくいことを言ってしまったことに焦り、無理やり終わらせようと口を開くと先に先生が話し出した。
「でも、そんなこと言わないでくださいよ」
何かを訴えかけるような目で、真っ直ぐにこちらを見ていた。その目は少し悲しそうで、悔しそうでもあった。
「俺は真飛斗先生のやり方、尊敬してます。俺の授業は全員を楽しませられないですから」
「そうですか?みんな笑ってましたけど」
何も言わずに黙って首を横に振る。
「万人受けするってだけですよ。明るい人や声が大きい人が目立って、大人しい人は傍観になっちゃいますし。でも、真飛斗先生のは違います」
話題が好きなものになった時のように頬が上がり、声のトーンも明るくなる。
「先生は安心できるんです。特別扱いも不平等もなく、陽キャも陰キャも関係なく落ち着ける空気。提出物には必ず全員にメッセージを書くし、何気ない頑張りも見逃さない。二組さんは先生の教育の良さが滲み出てますよ」
唖然とする僕をスルーして言葉を続ける。
「俺はそんな真飛斗先生も、先生の授業も、クラスも、大好きですよ」
瞬きをすると、視界が白くぼやけてまつげが濡れた感覚になった。手を添えると水滴が移り、自分が泣いていると分かった。
「えぇ!?す、すいません分かったような口をきいて!」
椅子から立ち上がってハンカチでも出そうとしているのか、あわあわとポケットをまさぐる。あんなにカッコイイことが言えるのに、慌てる時もあるんだな、と少し頬が緩む。
「雅楽川先生」
「はい…」
名前を呼ぶと動きが止まり、再び僕に向き合う。
「ありがとうございます。こんなこと言われたの先生が初めてで、すごく嬉しかったです」
「元気になったなら良かったです…!残り日数も少ないですけど、よろしくお願いします」
「あ…たしかにそう、ですね…」
ぺこりとお辞儀をして出した椅子をしまう。僕も釣られて立ち上がり、片付けた後廊下へのドアを開ける。
「職員室行きますか?お昼一緒に食べましょう」
短く返事をして職員室に並んで歩きだす。
(この期間が終わったら、もうきっと会うことは無いよね。告白の件は…なかったことになってるのかな。さっきのは会話の流れで出た言葉かもだし)
隣を歩く先生の顔をちらりと見て、視線を戻す。
(…もし、先生の気が変わっていないなら…)
雅楽川先生から受けた数々のかっこいいセリフや表情や行動を思い出して、恥ずかしくて顔を背ける。
(素直になってもいいのかな)
「雅楽川先生、お疲れ様でした」
黒板消しを持ったまま振り返り、僕の顔を見て笑う。
「真飛斗先生!先生こそお疲れ様でした」
「講評をするので、黒板消したら少し来てください」
「はい、わかりました」
さっと消したため黒板には文字の端々が少し残っているが、気にせず僕の背中を追って廊下にでてきた。
少し歩き、職員室に向けて階段を降りようとすると先生が立ち止まった。
「ここでよくないですか?」
そう言って指を指した先は1組の隣にある空き教室だった。特に場所に規定やこだわりはないが、職員室ならほかの先生のからも言葉をいただけるのではないかと思って勝手に向かっていた。
「大丈夫ですよ」
「じゃあこっちがいいです」
ドアを開けて教室に入っていく先生を追いかける。
「…ということで、とても良かったです。ほかの先生方も褒めていらっしゃいましたよ」
向かい合わせで椅子に座り、授業中に書いた内容を伝える。一通り伝え終えて、用紙を机に置く。
「高評価だったなら良かったです!」
「僕も尊敬できるところが多くて…心の底からすごいと思いました」
「いやいやそんな…光栄です」
嬉しそうに目を細めて笑う。
「僕より担任向いてるかもしれないですよ」
「え?」
嫉妬か、否定を求めているのか分からないが、思わず思っていたことが口から漏れてしまった。さっきまで上がっていた口角は下がり、首を傾げて僕の顔を見つめていた。
「僕の授業は面白くも楽しくもないですから。授業内容はしっかり教えて、尚且つ楽しいならそれが1番ですからね」
返しにくいことを言ってしまったことに焦り、無理やり終わらせようと口を開くと先に先生が話し出した。
「でも、そんなこと言わないでくださいよ」
何かを訴えかけるような目で、真っ直ぐにこちらを見ていた。その目は少し悲しそうで、悔しそうでもあった。
「俺は真飛斗先生のやり方、尊敬してます。俺の授業は全員を楽しませられないですから」
「そうですか?みんな笑ってましたけど」
何も言わずに黙って首を横に振る。
「万人受けするってだけですよ。明るい人や声が大きい人が目立って、大人しい人は傍観になっちゃいますし。でも、真飛斗先生のは違います」
話題が好きなものになった時のように頬が上がり、声のトーンも明るくなる。
「先生は安心できるんです。特別扱いも不平等もなく、陽キャも陰キャも関係なく落ち着ける空気。提出物には必ず全員にメッセージを書くし、何気ない頑張りも見逃さない。二組さんは先生の教育の良さが滲み出てますよ」
唖然とする僕をスルーして言葉を続ける。
「俺はそんな真飛斗先生も、先生の授業も、クラスも、大好きですよ」
瞬きをすると、視界が白くぼやけてまつげが濡れた感覚になった。手を添えると水滴が移り、自分が泣いていると分かった。
「えぇ!?す、すいません分かったような口をきいて!」
椅子から立ち上がってハンカチでも出そうとしているのか、あわあわとポケットをまさぐる。あんなにカッコイイことが言えるのに、慌てる時もあるんだな、と少し頬が緩む。
「雅楽川先生」
「はい…」
名前を呼ぶと動きが止まり、再び僕に向き合う。
「ありがとうございます。こんなこと言われたの先生が初めてで、すごく嬉しかったです」
「元気になったなら良かったです…!残り日数も少ないですけど、よろしくお願いします」
「あ…たしかにそう、ですね…」
ぺこりとお辞儀をして出した椅子をしまう。僕も釣られて立ち上がり、片付けた後廊下へのドアを開ける。
「職員室行きますか?お昼一緒に食べましょう」
短く返事をして職員室に並んで歩きだす。
(この期間が終わったら、もうきっと会うことは無いよね。告白の件は…なかったことになってるのかな。さっきのは会話の流れで出た言葉かもだし)
隣を歩く先生の顔をちらりと見て、視線を戻す。
(…もし、先生の気が変わっていないなら…)
雅楽川先生から受けた数々のかっこいいセリフや表情や行動を思い出して、恥ずかしくて顔を背ける。
(素直になってもいいのかな)
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