僕とあなたの直往曲折研修

まとりあ

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11.一つの影

 人通りが少ない夕方。強い西日を背中に浴びながら駅までの道をゆっくりと歩く。
 今日は教育実習の最終日で、本来ならもう少し早く学校を出るはずだったのだが別れを惜しむ生徒一人一人に対応していたら遅くなってしまった。僕も少し寂しくて、荷物が多いことを理由に駅まで送っている。
「色々いただいちゃいました」
 一つずつ紙袋をさげ、その中には手紙やプレゼントや折り紙などが詰まっていた。全て先生や生徒から貰ったものだと聞くと、本当に愛されていた存在だったことがよくわかる。
「それだけ別れが名残惜しかったんですよ。いいことです」
「まぁ、そうですね。真飛斗先生と会えるのも最後だと思うと、僕は寂しいです」
「……」
 僕も寂しいですよ。という誰でも思いつく簡単な返事ができない。
 まだ僕のクラスにいてほしいし、クラスじゃなくてもいいから会いたいし、もっと知りたいし仲良くなりたい。
 (告白の返事…した方がいいのかな。でも、もし気が変わっていたら…)
 もう好きじゃなかったら、きっと気を使わせてしまって迷惑をかけてしまう。
 単なる質問がこんなに難しくて、口が動かない。雅楽川先生から話題を出してくれたらなんて自分都合なことを考えてしまう。
 駅に着いたらもう戻れないし、人も多い。今ならまだ間に合う。
 気の利く方法や言葉が見当たらなくて、足を止めて無理やり駅までの道を閉ざした。
「…雅楽川先生!」
「はいっ?なんですか?」
 一歩先にいる雅楽川先生が振り返り僕を見る。
「…えと、っあの僕、のこと、まだ好きですか…」
 落ち着かなくて左手で紙袋の持ち手を強く握り、右手は左腕を触っていた。
「大好きですよ。…でも、もう会えるか分かりませんし、先生の心残りになるならもう一回振ってください」
「……」
 太陽の眩しさのせいか細められた目は、何かをあきらめたように座っていた。
 好きです。ごめんなさい。素直になる覚悟が今になってもできず、黙り込む。
「…ここまでで大丈夫です。改めて、お世話になりました」
 最初に出会った時のように深く頭を下げて、紙袋を僕から引っ張って再び太陽を背に歩き出す。
「あ…っ」
 (違う、違う。嫌だ…!)
 離れたくない。もっと近くにいきたい。
 速足で僕から離れていく先生を追いかけて、ピシッと張ったワイシャツの緩みを強く引く。
「うわっ!?…真飛斗先生?」
「嫌です。行かないで」
「え…?」
 ものすごく近いのにお互いの顔は見えない、いつかの放課後のような体制で小さく息を吸う。
「好きです。僕も。あの時、褒めてくれたのすごく嬉しかった。救われた。先生は僕と真逆でも、壁壊してくる感じで強引に好いてくれて、あの…もう何言ってるんだろう…」
 バクバクとうるさい心臓を鎮めるように息を吸い、口を開く。
「大好きです」
 支離滅裂で訳の分からない言葉を並べ、絶対帰さないとでも言うようにシャツを強く引く。
「ほんと、ですか」
「…僕嘘つかないです」
 強く握っていたはずの手はいつの間にか空になり、代わりに視界が真っ暗、で温もりを感じた。いきなり振り向いたせいで紙袋からは数枚の手紙が落ちてしまっていた。
「絶対幸せにします。大好きです真飛斗先生」
「はい…っ」 
 西日が作るひとつの大きな影が、伸びていた。
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