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プロローグ
しおりを挟むピピピピッ、ピピピピッ、ピピピ……
スマホのホームボタンを押して目覚ましのアラームを止めると、画面の数字を確認する。
午前6時。
ーー眠い!あと5分だけ寝ちゃいマショ。
そう考えて布団を肩まで引っ張り上げた時、視界の隅に見慣れないものが映って目を凝らした。
ーーんっ?
黒い……ワカメ?髪の毛?……カツラじゃないわよね?
恐る恐る布団を指で摘み上げてみる。ほっそりとした首筋から筋肉質な肩へと続く骨格は、どう見ても男性のそれで……。
「ヒッ!」
声にならない悲鳴が出た。
ーーこれは……っ!
酔いの残るぼんやりした頭で記憶を辿ると、身に覚えがあり過ぎる。
額に手をあて俯くと、黒い頭がモソリと動き、そのままクルリとこちらを向いた。
「あ……ヨーコさん……おはようございます」
「オーマイガッ!」
頬をほんのり赤らめてフワッと微笑んでいる優男は……。
ーーマジデスカ……。
彼は今日から同じ会社で働く人物……。
しかも上司で親友の黒瀬朝哉の兄である……黒瀬透。
「トオルさん……私たち……イタシテしまったのデスカ?」
「えっ?……あっ、はい……致しました」
「やはり!」
酔った弾みで一夜を共にするなんて、そんなの漫画かドラマの中でしか起こらないと思っていた。
だけど事実は小説より奇なり。そんな事が実際に起こってしまったのだ。
男女が素っ裸で同じベッド、しかもジンジンと痛む股間が全てを物語っている。
というか目の前で相手がそうだと認めているし。
しかも何故かめちゃくちゃ嬉しそう。
「ヨーコさん」
ガバッと上半身を起こした透に両肩を掴まれる。
「ヒッ!……はっ、ハイ」
「結婚しましょう」
「ええっ?!何言ってるんデスカ!」
「あなたの処女を奪った責任を取らせて下さい。昨日は2人でデートも済ませているし、意気投合してこうして結ばれた。流れ的には可笑しくないと思うんです。プロポーズの順序だけが逆になってしまいましたが……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいヨ!結婚シマセンヨ!」
「どうしてですか?!」
肩を掴む手に力が籠もり、真剣な顔がズズイと迫る。
ーーこの男、何イッテルンダ?!
ピピピピッ、ピピピピッ……
2度目のアラームが鳴る。
ということは既に6時5分。出勤の準備をしなくてはならない。
「トオルさん、とりあえず帰って下さいナ。アナタも私も出勤の準備をしなくては!」
「えっ、途中でアパートに寄って鞄を取って来ればいいだけだし、俺はこのままここから一緒に出勤でも……」
「駄目に決まってるデショ! 何言ってるんデスカ、アホですか!コレはトモヤとヒナコには絶対に内緒デスヨ! 言ったら尻子玉を引っこ抜きますヨ!」
「ハハハッ、尻子玉って……ヨーコさん、面白いですね」
「面白くないデスヨっ!」
慌ててガウンを羽織ると、渋る透に洋服を押し付けてシャワールームに押し込んだ。
すぐに聞こえてきた水音をBGMに、目まぐるしいスピードで脳をフル回転させ、今後の対策を練る。
ーーうん、コレは……無かったことにシマショウ!
それが一番いい。
大好きな親友夫妻に軽蔑されたくないし、何よりお酒の上の過ちで責任などと言われたくない。
こういうものはお互い様、男女平等だ。
ヨーコは1人で「うん、そうしまショ」と自分に言い聞かせるように頷くと、手早く朝食の準備に取り掛かるのだった。
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