マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

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43、婚約者になりマシタ!

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 松濤の黒瀬家本宅。
 L字型に置かれているレザーのソファーで、ヨーコを真ん中に置いて、黒瀬家の面々が座っている。

 サキの煎れてくれた濃い被せ茶を一口飲んでから、定治が「どうにか丸く収まったな……」と肩の力を抜いた。

 琴子も「本当に……」と、手に持っていた湯呑みを茶托に置く。

「透が馬鹿正直に、結婚したい相手がいるとか言い出した時には殴って黙らせてやろうかと思ったけれど、結果的にはそれで納得していただけて良かったわ」

「母さん、何言ってるんだよ! 約束ごとを反故にするんだ、嘘をついて誤魔化すわけにいかないだろう?」

 透が目を見開いて反論すると、時宗がどちらに加勢するでもなく苦笑する。

「お前は良くも悪くも毒が無いからな。今回はそれが功を奏したと言うか……まあ、ヨーコさんの突拍子もない行動で、そんな事はどうでも良くなったが……」

 時宗がヨーコを見ると、釣られるように全員の視線がヨーコに集まった。

「誠に……申し訳ゴザイマセン……」





 本城家の庭に突然現れたヨーコに、茜以外の全員が驚愕した。

「きっ、君は何なんだね?!」

「ヨーコ?!」
「「「 ヨーコさん!」」」

 ヨーコを中に招き入れると、茜はイタズラが成功した子供みたいにフフッと笑って、父親に向き直る。

「お父様、彼女は透さんの恋人のヨーコさんです。透さんを心配してわざわざアメリカから追い掛けていらしたそうよ。そして今も、彼が虐められてはいないかと様子を見に来ていたの」

「なんと……アメリカ人…ですか」

 茜は、透がニューヨークに行く時に追い掛けて行くなどという考えは全く無かったし、彼が帰国するまで気長に待っているつもりでいた。

「私にはそこまでの情熱なんて無い。こうして日本で悠長に待っていられる時点で……私の気持ちなど、その程度のものだったのよ」

 それに、ヨーコさんが素敵で意気投合した……とまで娘に言われれば、龍一郎も怒りを引っ込める以外に無かった。
 大人しい透の相手が予想外の迫力ハーフ美女で、すっかり度肝を抜かれたというのもある。

「まあ……娘の言う通り、婚約していた訳でもないのに、私が一方的に感情をぶつけすぎましたな……しかし、驚いたな。この女性が透君の……」

 こちらこそ、申し訳ない……と頭を下げたことで、和解が相成ったのだった。





「お家の一大事にジッとしてはいられなかったのデス」

 シュンと肩を丸めたヨーコの手を、隣から透が握り締め、指を絡めた。

「俺の事を心配してくれたのは嬉しいけれど、あまり無茶をしないでよ。俺だってヨーコが心配なんだから」

 そう言いながらも、瞳は柔らかく細められ、眩しそうにヨーコを見つめている。

「うん、ヨーコさん、それでこそ透の嫁だ。武士の妻は常に懐剣を懐に忍ばせておってな、いざとなったらそれで喉を突いて夫に殉ずる覚悟を持っておったんだ」

「ワオ……デスガ私は殉死よりも、透を死なせないために戦う方を選びますヨ。それに……まだ嫁では無いの……デス」

「おお、そうだったな。それではなってしまえ」
「えっ?」

 定治とヨーコのやり取りに、周囲の者も、「えっ?」と固まった。

「サキさん、悪いが今から結納3点セットを揃えてもらえないか?」
「「「「 ええっ?! 」」」」

「お父さん、それ雛子さんの時と同じパターンじゃないですか。いくら何でも急過ぎるわ」

 だけど定治は、琴子に心外だと言う顔を向ける。

「何を言ってるんだ。お前だって透の相手がヨーコさんだと聞いて、手放しで喜んでいただろう」

「ちょっと、お父さん!」
「えっ、そうだったの?!」

 焦る琴子と驚く透。

 定治によると、実は琴子は以前からヨーコを気に入っていたのだと言う。

 見栄えの良さだけでは無く、優秀な秘書としての仕事スキルに語学力。そして何より暴漢にも立ち向かう勇気と行動力。

『透の妻となる女性がハーフだなんて素晴らしいわ! ヨーコさんがグローバルなクインパスを印象付けるシンボルになってくれるに違いない! 今後は彼女を前面に押し出して行きましょう!』

 何処までも会社本位の考えではあるものの、とにかく琴子は最初から透とヨーコの交際に好意的だったのだ。

 そして時宗も……。

「あなただって、透がやっと一人前に恋をした!って喜んでたものね」

 水を向けられて狼狽えながらも、時宗はどうにか威厳を保って透に言った。

「透、会長がこう言ってくれてるんだ。お前たちの気持ちが前向きであるのなら、これから結婚に向けて話を進めようじゃないか」

 駐在終了後の2~3年後を目処に……と話したところで、定治が「いや、遅い」と口を挟む。

「せっかく透が日本に来ているんだ。この機会を使わずして、いつにすると言うんだ。 サキさん、やはり結納セットを……」

「ちょっと待ってよ、俺はまだ指輪も買えてないんだ!ヨーコの御両親に挨拶だって……」

 ふむ……と顎に手を当て定治が考えた。

「よし、透、町田市に行け」
「へっ?」


 そこからは怒涛の展開だった。
 ヨーコの祖母が住む町田市に2人で挨拶に行き、その場でFaceTime をして、ニューヨークのヨーコの両親にも結婚の許可を得た。
 2人で婚約指輪を選び、改めて結納の準備を整えて……。

 1週間の日本滞在期間は結納準備期間となり、アメリカ帰国前日に、2人は晴れて婚約者となったのだった。
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