【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん

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80、 はやる気持ちと試合前

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 試合当日の土曜日は、 真っ青な空に白い綿雲わたぐもがのんびり浮かんでいる、 絶好のドライブ日和びよりとなった。
 まあ、 今回はドライブを楽しむんじゃなくて応援に行くんだし、 室内競技の観戦かんせんだから、 雨でも晴れでも関係ないんだけど……。

 それでも、 今日はコタローの大事な試合の日なんだ。
 やっぱり曇天どんてんよりも、 青空の方がいいに決まってる。



『あっ、 ハナ? そっちはどう? 私たちは四日市JCTを通過した辺りだよ』

「えっ、 もうそんなとこ?! こっちはまだ。 私はもう準備万端で部屋で待ってるんだけど」


 今は朝の7時20分。

 京ちゃんは応援団を乗せた学校のバスで試合会場に向かっているところで、 あと1時間ほどで、 目的の『京都武道センター』に到着するという。
 対して私はと言うと、 父親の車で家族揃って応援に行くはずが、 差し歯が取れたとかで急患が来ることになって、 両親がそろってクリニックで待機中で……。


『急患じゃ仕方ないよ。 試合は9時からだけど、 すぐにコタローの試合があるとは限らないし、 コタローが1回戦で負けることはないだろうから、 ちょっとくらい遅れたって大丈夫だよ』

「でも、 ちゃんと最初の試合から見たかったのに…… 私もバスで一緒に行けば良かった」

『だってハナは準備もあったしさ。 まあ、 試合の様子は私が実況してあげるから。 席を取って待ってるね! 』

「分かった。 試合の様子、 伝えてね! お願いね! コタローにもよろしくね! 」

 電話を切ってから、 もう一度時計を見る。
何度見たって仕方ないけど、 見ずにはいられない。
 どうにも落ち着かなくてベッドにダイブして、 コタローから預かった芝犬しばいぬの抱き枕を思いっきり抱きしめる。


「コタロー、 頑張れ! 」

ピコン

 その時、 スマホからメールの着信音が聞こえてきた。
バッと手に取って見たら、 コタローからだった。

『今、 竹刀しないの計量が終わった。 これから準備体操。 もうスマホをさわれないから今言っとく。 俺の勇姿ゆうしをしかと見届けろよ! 』

ーー ええ~っ、 まだこんな所にいたら勇姿を見れないじゃん! 

『ごめん、 急患が入ってお父さんの診察待ち。 終わり次第けつける。 頑張って! 』

 慌てて返信したけれど、 その後はウンともスンとも言ってこない。
 もうスマホは手元にないんだろう。


 ジレジレしながら待たされて、 結局私たちが出発出来たのは、 8時をちょっと過ぎた頃だった。


『今、 家を出ました。 到着は10時頃の予定』
『分かった。 こっちはあと20分くらいで会場に着く』

ーー いいなぁ…… 京ちゃん。

 窓の外の景色をぼんやり眺めながらも、 意識はずっとスマホに向かっている。


花名はな、 父さんのせいで遅れて悪かったな。 だけど、 虎太朗こたろうくんは強いから、 きっと勝ち上がる。 何試合もあるんだ、 着いたら大声で応援してあげなさい」

「うん…… 分かった、 ありがとう」


ピコン

『会場に到着。 すごい観客。 ハナの席は最前列で確保したからね! 』
『やった! ありがとう! コタローは? 』

紺色こんいろ道着どうぎ姿ばかりがウジャウジャいるから分からない。 これから探してみる』

『あっ、 発見!  観客席の女子が写真を撮って騒いでたから分かった。 背が高いから目立ってる。 コタローの道着姿、 ヤバイね』

『え~っ! 私も見たい! 』

『同じ学校のメンバーと一緒に、 壁に貼ってある組み合わせ表を確認中。 上から声を掛けてみる。 ちょっと行ってくるね』

『分かった。 遅れるけど絶対に行くから頑張れ! って伝えておいて』

 それからしばらく京ちゃんからは応答なし。
 コタローと話せたのかな?
 コタローは私が最初からられないって知ったらガッカリするかな。

 私だって早く、 コタローの道着姿をおがみたいよ……。


ピコン

『上から声を掛けたら気付いてくれた。 ハナが遅れるって言ったら、『マジか?!』って言ってた。 でも、 『勝ち続けとくから早く来いって言っといて』だってさ。 笑ってた。 コタローの試合はBコートで3番目』

『サンキュ! 』


 そうか、 笑ってたのか…… うん、 良かった。
 きっとリラックスして万全のコンディションで試合にのぞめているんだろう。


ピコン

『コタローの道着姿ナウ』

 そこには観客席を見上げながらピースサインをしているコタロー。
 満面の笑みで、 余裕綽々しゃくしゃくといった感じだ。


ーー うわぁ~っ! やっぱり道着姿、 ヤバイな。

 早く本物に会いたい…… 会って大声で応援したい!


「お父さん、 スピードを思いっきり上げて1時間くらいで着けないかな? 」

「こら、 無理を言わないの! お父さんにプレッシャーをかけて事故ったらどうするのよ! 」

「だけどさ…… 」

 そんな事を言ってたから、 ばちがあたったのかも知れない。


「あら、 渋滞してるわね」

 助手席に座っている母のつぶやきが合図かのように、 急に車のスピードがゆっくりになった。


「えっ、 どうしたの? 」
「う~ん、 これはこの先で事故があったのかも知れないなぁ」

「ええっ?! 」

 そうこう言ってるうちに、 車は更にスピードを落とし、 とうとう完全にストップしてしまった。


「えっ、 何これ、 嫌だ! 」

「あっ! 検索してみたら、 やっぱりこの先で3台の玉突き事故が起こったみたいよ」

「参ったな…… 事故が起こったばかりだとすると、 これはしばらく動かないかも知れないぞ」

「ええっ?! 」


ーー どうしよう、 コタロー! 
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