【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん

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<< バレンタイン特別編>>

カレカノ初のバレンタイン (1)

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 日曜日のショッピングモールは幸せそうな恋人達で溢れかえっていた。
 店のウインドウも赤やピンクのハートで飾られて、華やかな気分を盛り上げるのに一役かっている。
 さすがバレンタインデイだ。

 その恋人達の中に俺達も含まれているのだと思うとなんだか面映ゆく、胸がソワソワしてしまう。
 隣のハナをチラリと見たら、ちょうどハナも俺を見上げていた。

「ヘヘッ、なんだか照れちゃうね」

 そう言ってヘラリと目を細めるその笑顔にキュンとする。

ーーく~っ、俺の彼女、めっちゃ可愛い!

 普通に繋いでいた手を持ち替えて、指を絡ませる恋人繋ぎにする。
 ハナは「あっ!」と小さく声をあげたけど、特に抵抗することなくそのままにしていた。
 嬉しくて頬が緩む。
 俺は握る手にギュッと力を込めると、「それじゃ、行こうか」と言ってエスカレーターで2階のフードコートに向かった。


 今日は俺達の初デートだ。
 今までだって散々2人で出掛けていたのだから今更だと思われるかもしれないが、恋人としてちゃんとしたデートというのはしていなかった。

 去年の夏の終わりに晴れて幼馴染から恋人同士にステップアップ出来たものの、同時に俺達は受験生でもあって。
 高校受験を控えた大事な時に浮かれてばかりもいられない。

 だから、付き合い始めてからすぐに2人で決めた。
『ちゃんと合格してから晴々とした気持ちでデートをしよう』と。

 ハナの滝山高校受験はかなりのチャレンジで合格ギリギリのラインだったから、じいちゃんだけでなく俺も一緒になって勉強を手伝った。

 クリスマスも正月も関係なくスパルタ式で公式や年表を詰め込んだ結果……無事に2人揃って滝山高校に合格することが出来たのだ。

 そして合格発表後はじめての週末、バレンタインデイに彼女との初デートに漕ぎ着けた俺は、もちろんめちゃくちゃ浮かれていて。
 もう一度ハナを見下ろしたら目が合って、「コタローこっちを見過ぎ!」と叱られた。

 いやいやいや、俺が見るたびに目が合うってことはお前も俺を見てるってことだろ?
 ……とは口が裂けても言うまい。
 せっかくハナが頬を赤らめた照れ顔を見せてくれてるのに、ここで茶化したら台無しだ。
 そのあたりは俺も長年の付き合いで心得ているのだ。


 フードコートの2人用テーブルに向かい合って座り、俺がラーメン、ハナがオムライスを食べる。
 食べながら俺は、ハナのお尻の後ろにちょこんと置かれている小さな紙袋が気になって仕方ない。

ーーあの紙袋には、チョコレートが入っているはずだ。

 しかも俺はチョコの種類まで知っている。
 ハート型のミニタルトにチョコが入ってる手作りのやつ。

 ハナは一足先にうちの父さんとじいちゃんにはバレンタインチョコを渡していた。
 今年は初の手作りチョコということで、俺にだけサプライズのつもりでいるのだろう。

 だがなハナ、ちゃんと口止めしていないとはぬかったな。
 昨日じいちゃんがハナにもらったと自慢げに見せてきたぞ。

 ハナの初の手作りチョコをじいちゃんに先に食べられるのは癪にさわるけど、ハナの受験が成功したのはじいちゃんのお陰でもあるのでそこは譲ろう。
 それよりも、ハナがどんな顔して何と言ってチョコを渡してくれるのか……。
 それが気になって気になって、俺はラーメンを啜りながら、心臓をワクワクドキドキさせていた。





『やっぱ彼氏へのチョコは手作りでしょ』
 そう私に言ったのは京ちゃんだった。

 京ちゃんと一緒に滝山高校の合格発表を見に行った帰り道、これでコタローとバレンタインデートが出来る! チョコを買いに行こう! と浮かれていた私を見て、京ちゃんが腰に手を当てため息をつく。

「今までコタローからさんざんチョコをもらっててさ、それに普通にチョコを買ってプレゼントしたってただの物々交換じゃない。彼女らしくガツンと手作りしなよ」

「ええっ! そんなの作ったことないよ」
「だから意味があるんでしょ!」

 確かに京ちゃんの言うとおりかも。
 コタローは小4から6年近くにも渡ってせっせとチョコを運び続けてくれた。
 私が今更そこらのチョコを買って渡しても、コタローの努力と愛情には到底敵わない。
 それに対抗できるものといったら……うん、やっぱり手作りだよね。

「京ちゃん……」

 縋る目で見つめる私に京ちゃんがうなずいた。

「大丈夫、中学3年間『お菓子部』だった私が全面協力するから!」

 持つべきものは料理上手の親友だね!
 私は京ちゃんの指導の元、素人でも簡単にできる、溶かして混ぜて流し込むだけの簡単チョコを作って今日のこの日に備えたのだった。


ーーだけど、どうしよう。

 どう言ってどのタイミングで渡せばいいのかな。
 今まではどうしてたっけ?
 たしか学校から帰ってコタローの家に遊びに行って、コタローと哲太さんと宗次郎先生のぶん3つのチョコを「はい、どうぞ」ってまとめて渡して終了だった。

 コタローは幼い頃からずっと私を好きだったって言ってた。
 そういえば学校や塾で女子からチョコを渡されても絶対に受け取らなかったっけ。
 だけど私があげたのだけはニコニコしながらその場で食べてくれてたんだよね。
 お母さんがスーパーで買ってきてくれた、ただの市販品だったのに、『これ、美味しいな。ありがとう』って毎年喜んでくれて。

 今思えば私は本当に鈍感で無神経だった。
 バレンタインになんて何の思い入れもなく、ただのお約束のイベントとして義理チョコを渡してただけで……。

ーーコタローは今年も私が市販品を用意してると思ってるのかな。

 それとも彼女からの手作りに期待してるかな。
 いや、私がわざわざ作るなんて思っていないよね。

 ただひとつ言えること。
 私がどんな物をあげたって、コタローは全力で喜んでくれるに違いない。

ーーうん、カレカノ初のバレンタインチョコ。勇気を出して彼女らしく渡そう。


 2人分のトレイと食器を片付けたコタローが戻ってくるのを待って、私は後ろに隠していた小さな紙袋を手に持つ。

「コタロー、これ、あげる」
「えっ、なに?」

 キョトンとしているコタローに向かって両手で袋を突き出すと、「ハッピーバレンタイン!」と短く告げる。
 やっぱり恥ずかしいな。顔が熱を持つ。

「えっ、バレンタイン?」

 コタローは中からリボンのついた赤い箱を取り出してフタを開き……中を見た途端、パアッと表情を明るくした。
 正方形の箱には市販のハート型ミニタルトに入ったチョコが4個。
 ビターとホワイトとイチゴと抹茶の4種類。

「すっげ、ハート型か。可愛いな。わざわざ買ってきてくれたの?」
「違うよ、今年は京ちゃんに教えてもらって、ちゃんと自分で作ったんだよ! 」
「嘘っ、これをハナが!? すっげ! 食べてもいい?」

 私が頷くと、コタローはビターのを指でつまんで口に放り込む。

「うっま! 甘さ控えめでめちゃくちゃ美味い! すごいなハナ、プロみたいじゃん!」


ーーやった、サプライズ成功!

 そして、ほら、やっぱり。
 コタローは絶対に褒めてくれると思った。
 何をやらせても絶対にコタローの方が上手にできるに決まってるのに、私が作った簡単チョコでさえも宝石をもらったみたいに目をキラキラさせて喜んでくれるんだ。

  そんな顔を見ると、やっぱり手作りにして良かったな。頑張った甲斐があったな……って嬉しくなる。

「コタロー、それ……」
「ん?」
「本命チョコだから」

 私が真っ赤な顔で告げた途端、コタローの顔も真っ赤になった。
 へらっと頬を緩めたタローと顔を見合わせて、同時にヘヘッと笑った。
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