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135、1 year later

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*ごめんなさい。これが最終話のはずが長くなったので2話に分けます。

*・゜゚・* .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。 .。.:*・゜゚・*



「楓花先生、すいません。砂場で遊ばせていたら子供たちが喧嘩しちゃって……」

 新人の木村先生が、ワーワー泣いている4歳児の修斗しゅうとと不貞腐れた顔の克己かつきの手を引いてドアから入って来た。

「フーカせんせ~!  カツキくんがかんだ~!」
「えっ、克己くんが?!」

 楓花は丸テーブルでお絵かき中の幼児2人を見守っていたところだったけれど、慌てて立ち上がると修斗の袖をまくって腕を確認した。
 左腕に薄っすらと歯型が付いている。
 幸い傷にはなっていなくて出血も見られないから、洗っておくだけでしばらくすれば消えるだろう。

「木村先生、すぐに他の子たちの見守りに戻って下さい。この子たちは私がお世話しますから」

 外の園庭にはまだ2人の子供が残っているはずだ。
 楓花は木村先生から喧嘩の詳細を聞くと、彼女をすぐに園庭に戻らせて、自身は修斗の腕の処置を始めた。


 桜の蕾膨らむ3月初旬。
 柊胃腸科内に託児所と託児センターが発足して、もうすぐ1年が経とうとしている。

 今日は託児センターを飯島先生とマキ先生、託児所を楓花と木村先生の2人が受け持っている。
 木村先生が外遊び希望の子供たちを園庭に連れて行っている間に、楓花が室内で女の子2人にお絵かきをさせている最中だった。

 木村先生の説明によると、彼女がブランコ遊びをしている子供2人の相手をしていたら、砂場で遊んでいた男の子2人で喧嘩が始まり、止める間もなく克己が修斗の腕に噛み付いてしまったのだという。
 
 楓花は2人を並んで立たせると、自身はその前にしゃがみ込んで、2人から事情を聞く。

「だってシュウトくんがショベルカーを貸してくれないから!」

ーーああ、なるほど。

 砂場にはスコップやバケツなどの砂遊びセットが置いてあるけれど、中でも黄色いショベルカーは男の子たちに人気なのだ。要はオモチャの取り合いで揉めたのだろう。

 楓花はまず先に克己の目を見て問いかける。

「克己くん、歯は何のためにあるのか知ってる?」
「……ごはんを食べるため」

「そう! 美味しくごはんを食べられるように、みんな毎日ゴシゴシ歯を磨いてるんだよね? 」
「……うん」

「修斗くんの腕は食べ物かなぁ」
「……違う」

「違うよね。克己くんの歯は今頃ビックリしてるよ。食べ物じゃないのを噛んじゃったよ~!って。修斗くんの腕は食べ物じゃないのに、克己くんは噛んじゃったね。お肉みたいにガブって噛んじゃったら痛いよね?」

 克己が再びコクンと頷く。

「それじゃあ、修斗くんになんて言う?」
「ごめんなさい」
「そう! よく分かったね。それじゃあ、修斗くんに向かってちゃんと言えるかな?」

「うん……シュウトくん、ごめんなさい。ボクの歯さんも、ごめんなさい」


 次に楓花は修斗を見つめると、「修斗くんは、じゅんばんこの歌を覚えてる?」と優しく問いかける。

「……覚えてる」
「それじゃあ、楓花先生と一緒に歌ってみようか」

『じゅんばん、じゅんばん、じゅんばんこ~♪ みんなで仲良くあそべるよ。ぼ~くが遊んで次は君、私の次はあの子だよ♪』

「それじゃあ、『修斗くんが遊んで~♪』次はだれ?」
「……カツキくん」

「そう! よく分かったね。『修斗くんが遊んで次は克己くん、克己くんの次は~♪』……克己くん、克己くんの次はだれかなぁ?」

 今度は克己に向かって問いかける。

「シュウトくん」
「そう!2人ともおりこうだね!一緒に歌ってみようか」

 3人で輪になり手を繋ぐと、一緒に『じゅんばんこの歌』を歌い始める。

『じゅんばん、じゅんばん、じゅんばんこ~♪ みんなで仲良くあそべるよ。修斗くんが遊んで次は克己くん、克己くんの次は修斗くんだよ♪』

 これはオモチャの取り合いになった後で必ず歌うお約束の歌。
 楓花の作詞作曲だ。

 繰り返し歌っているうちに、男児2人の顔に笑顔が戻って来た。
 それを見計らったタイミングで、楓花は修斗に話しかける。

「良くできました! それじゃ修斗くん、じゅんばんこがちゃんと出来なかったことを克己くんにごめんなさい出来る?」

「うん……カツキくん、ごめんなさい」

「偉い!2人ともちゃんとごめんなさい出来たね!楓花先生は嬉しいな」

 照れながら笑顔を見せている2人の頭を撫でる。

 しばらくしてお迎えに来た母親2人に事情を説明していると、横から子供たちが「ママ、僕ね、じゅんばんこの歌をうたって、ちゃんと謝れたんだよ!」、「ボクもね、シュウトくんとボクの歯に、ごめんなさいって言った」
 子供たちが我先に誇らしげに報告を始める。

「そう、2人ともちゃんと謝れて偉いねぇ」
 母親は口々にそう言うと、笑顔で頭を下げて帰って行った。


「楓花先生、ご苦労様です」

ーーあっ!

 聞き慣れた声がして、廊下の先に目を向けると、そこには思ったとおり、白衣姿の天馬が立っていた。

「天馬先生、いつからそこにいたんですか?」
「ちょっと前……母親に事情を話してる辺りかな」
「結構前じゃないですか!」

 天馬はニコニコしながら歩いてくると、目の前で立ち止まって楓花を上から下までじっくりと観察する。

「いやぁ~、楓花先生もすっかり貫禄が出てきたなぁ……と思ってさ」
「それは、私の体格のことを言ってるんでしょうか?」

 楓花がチロッと憎らしげに見上げると、

「両方だよ。保育士として堂々と振る舞えるようになったし……お腹もな」
「すいませんね、おデブになって」

「違うだろ」

 天馬はしゃがみ込むと、楓花のお腹にそっと手をあてる。

「太ったんじゃなくて……育ってるんだ」

 目を細めて、柔らかく微笑んだ。
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