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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

㊙︎ 裏おじさま奮闘記 3 side朝哉 / ヨーコ

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ヨーコ、竹千代

今はまだ上空だが、この文章をヒナに読まれるとマズイので手短に伝える。

計画変更だ。

『あしながおじさま』は急遽、アメリカに行くことになった。
俺はあしながおじさまの知人ということになっているから、お前たちもそれで話を合わせてくれ。

くれぐれもヒナには本当のことがバレないように頼むぞ! 絶対だ!

朝哉

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専務、了解しました。

竹千代

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 機内で竹千代とヨーコに連絡を入れたところ、竹千代からは速攻で返事が来たのにも関わらず、ヨーコからの音沙汰がない。
 おかしいなと思っていたところ、5分ほどしてから届いたのは短い一言。

『このバカタレが! ヨーコ』

――マズイ、めちゃくちゃ怒っている。

 秘書のヨーコと専務補佐けん、運転手の竹千代には、朝哉と雛子についておおよその事情は伝えてあった。

 そして空港で『あしながおじさまからヒナの世話をするよう頼まれたから』と雛子を言い含め、竹千代が運転する車で雛子用に借りたマンションに送り届け、部屋を出た途端……
 ヨーコに『トモヤ、ちょっと顔を貸してもらおうか』と凄まれ、ヨーコと竹千代を伴い自分の部屋に向かうことになったのだった。


 *


 「トモヤ! あなたはバカですか? それでもオトコですか? チ◯コついてますか?」

 都会のど真ん中にある、地上二十九階、 地下一階のタワーマンションの最上階。そこが朝哉の住む部屋だ。
 そこに、自分の部屋なのにソファーの隅で身を小さくして項垂うなだれている朝哉と、キッチンでいそいそとお茶を淹れている竹千代、そして腕を組み仁王立ちしているヨーコの姿があった。

――本当にこのバカチンが! ニューヨークでの私の努力が水の泡じゃないデスカ!
 
 ヨーコがギロリと睨みつけると、朝哉はますます身体を小さくした。

 ヨーコはアメリカのクインパス営業所で総務と受付をしていたところ、朝哉に引き抜かれ、今回彼の秘書として日本に来た。
 しかし実は2人は大学時代からの親友でもある。
 朝哉は大学3年になってすぐ、わけあって雛子と別れているのだが、その直後に編入したニューヨークの大学で1学年上のヨーコと出会い、友達になっていたのだ。

 ヨーコは父親がアメリカ人、母親が日本人のハーフで、日本の文化、とりわけBLボーイズラブに並々ならぬ愛情を注ぐ大の日本好き。
 そんなヨーコが日本人である朝哉に声をかけたのが、2人の交流のはじまりだった。

「ホントーにトモヤにはガッカリデスよ。ワタシの努力をムダにした。オマケにヒナコとの友情もブチコロシじゃないですか!エ~ン!」

「ヨーコ、ブチコロシじゃなくてぶち壊しだ。それと、朝哉さんを呼び捨てにするのはやめろ。彼はもう専務で俺たちのボスだ。あと、泣き真似ウザい」

 ヨーコ渾身の泣き真似に冷静な突っこみを入れているのは、青梅竹千代おうめたけちよ、25歳。
 彼は朝哉の母方の再従弟はとこだそうで、彼を慕ってクインパスに入社してきた。
 朝哉の父、時宗ときむね の下で1年間の修行を経たのち、昨年から朝哉の懐刀ふところがたなとして動いている。

 朝哉のニューヨーク赴任中に日本に残っていた竹千代は、この1年で朝哉派の社員を増やすべく根回しをする傍ら、雛子のためのマンションの手配や秘書課への受け入れ準備を進めてきた。

 ヨーコは朝哉の『女性の目で雛子のマンションの家具や電化製品のコーディネートをしてもらいたい』という依頼で今年の4月に先発隊として日本入りをし、この竹千代と共に専務室の準備を整えつつ、雛子の受け入れ体制を整えてきたのだ。

 雛子の部屋のウォークイン・クローゼットには、ヨーコが見繕ったドレスや小物が所狭しと並んでいる。
 今ごろ雛子はそれを見て、目を輝かせていることだろう。

 帰国前の朝哉がヨーコたちに送ってきたメッセージを思い出す。

『空港のラウンジでヒナにすべてを打ち明けて許してもらうつもりだ』

『帰国した時にはヒナは俺の婚約者だと思って丁重ていちょうに扱ってくれ』

『もしかしたらヒナはそのまま俺のマンションに住むことになるかもしれないなぁ。その時はヒナ用に準備したマンションは賃貸にするかな』

『あっ、食器は日本に着いてからヒナと一緒に買いに行くからいいや。ヒナがペアにしようって言うかもしれないしさ』

 あの脳内お花畑の文面を思い浮かべると、またしても沸々と怒りが湧いてくる。

「ウキーッ! 本当に腹立たしいですヨ!」

 そう言って目を吊り上げるヨーコに向かって、朝哉は切なげに眉尻を下げた。

「ヨーコ、あとで最低限の食器を一揃い買って、ヒナのところに持っていってあげてくれ」

 目の前でしょぼくれている自分の上司を見下ろしながら、ヨーコは「は~っ」と大きなため息をつく。

 それでもこの何でも持っているはずの男が雛子のために必死になっている姿を見ると、どうにかしてあげたいと思うのだ。

ーーそれにワタシはヒナコの親友でもあるんですからネ!


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