婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

田沢みん

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裏 あしながおじさまは元婚約者でした

㊙︎ 裏おじさま奮闘記 4 sideヨーコ

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「わぁ、素敵な食器セット。ヨーコさん、ありがとう!」
「どういたしマシて」

 ヨーコがドイツブランドの洋食器と宮内庁御用達ブランドの和食器のセットを見せると、雛子は「使うのがもったいないわね」と一つ一つ箱から手にとってながめ、目を輝かせる。

 「これは専務からの贈り物デスよ」……と付けくわえると、とたんに雛子の表情が曇った。

ーーコレはかなりの重症デスね。婚約までしてた人からココまで嫌われるなんて、どんなヒドいフリ方をしたんでしょう。トモヤはバカチンです。


 高級タワーマンションの25階、2LDKの角部屋。
 ここは竹千代が雛子の帰国に間に合うよう準備した、『社宅』という名目の雛子の住居だ。
 もちろんこんな豪勢な社宅があるわけがなく、朝哉が購入したのだが。

 じつは同じマンションの最上階、2面バルコニー付きの3LDK角部屋には朝哉が住んでいる。
 雛子に少しでも近くにいてほしい (そしてあわよくば一緒に住みたい) という朝哉の希望を叶えた結果こうなったのだが、雛子はそのことをまだ知らされていない。
 聞いたらきっとドン引きだろう。

 朝哉の計画では、空港であらためて愛の告白。そして手をつないでラブラブで帰国して、すぐにでも同棲開始……のつもりでいたようなのだが。

ーーデモ、一緒に住むのはムリだったみたいデスね。

「あの臆病者メ! まったくフヌケのフニャチン野郎デスよ!」
「えっ?」
「あっ、なんでもないデスよ」

 雛子が小さく首をかしげたけれど、ヨーコはあわててごまかして、上品に微笑んでみせた。

 日本のBL漫画とアニメで日本語を学んだヨーコは下ネタ大好き腐女子である。
 だが同時にキティちゃんをはじめ日本の『カワイイ』物も大好きなので、雛子のようなカワイイ日本女子も大好き。
 純粋な雛子のまえでは腐った自分をひた隠しにして、素敵で優しいお姉さんキャラをつらぬいている。


 雛子とヨーコの付き合いは、雛子がニューヨークにきた4年前にさかのぼる。
 朝哉から雛子の見張り役を頼まれて、自分から計画的に近づいたのだ。


『――えっ、見張り役……デスか?』
『そう、俺の元婚約者に近づいて、近況を報告してほしいんだ』

 その年に大学を卒業し、日本のクインパス営業所で働くことが決まっていた朝哉から頼まれたのは、元婚約者の白石雛子を近くで見守り、日常の様子を逐一伝えること。そしてできれば写真を撮って送ってほしい……ということだった。

『トモヤ、アメリカではそういう行為をストーキングというのですヨ』
『いや、日本でもそうだ』

『トモヤはヒナコのストーカーなのデスか?』
『う~ん、そうかもしれないけど、危害を加える気はないよ。ただ彼女の笑顔を見たいだけ。彼女を近くに感じたいだけなんだ』

 ストーカー行為の手助けだと思うと気が引けるが、コレは日本では殿様につかえる忍者や隠密おんみつがやる重要な仕事なのだと言われて、俄然がぜんやる気になった。

 そのために必要なお金はいとわない、ちゃんと報酬を支払うという朝哉に、お金は必要経費以外いらないから、かわりに日本の新鮮なBL漫画とお菓子を定期的に送ってほしいと頼んだ。
 おたがいの利害が一致した2人は笑顔で握手をかわしたのだった。


 雛子と近づくためにヨーコがまず行なったのは、ちょうどNYUに入学予定だった自分の従妹いとこと雛子を近づかせることだった。
 大学の寮に入るまえに生徒はルームメイト募集の申請をする。そこから従妹が雛子とコンタクトをとり、2人部屋で同室になることに成功した。

 ヨーコと同様に日本好きだった従妹(彼女は腐女子ではないが)はすぐに雛子を気にいり、ヨーコに言われるまでもなくあっというまに親友となる。
 英会話の個別レッスンを受けたいという雛子に従妹はこれさいわいとヨーコを推薦し、週に一回ヨーコのアパートでのレッスンを開始して。

 こうしてヨーコはまんまと雛子と知り合うことに成功し、その距離を順調に縮めていったのだ。
 隠し撮りではなく堂々と一緒に写真を撮り、せっせと朝哉に転送しつづけた。

 ヨーコが雛子にハグして頬をすり寄せている写真を送った時には、『ヨーコが邪魔。そしておまえ、ヒナとの距離が近すぎ。ムカつく』というメールがきた。
 ケツの穴が小さい男だ。ガチムチの男に掘られてしまえ、と心から思った。

 それでもお礼に送られてきた日本の『うま◯棒』やBL漫画の新刊はヨーコを大いに楽しませてくれたので、まあ許す。

『ヒナに近づく男を徹底的に排除してくれ』という依頼には、どうしたものかと悩んだけれど、それもあっさりと解決した。
 雛子本人が誰とも付き合おうとしなかったのだ。

 日本の『リ◯ちゃん人形』みたいにパッチリした瞳に愛らしい小さな口元。華奢な身体つきに細くて長い手足の雛子は、国籍問わず多くの男子生徒から声をかけられた。
 だけどヨーコや従妹が妨害するまでもなく、本人があっさりと振ってしまう。

『日本に彼氏でもいるの?』
 そうたずねたヨーコに彼女はこう答えた。

『もう恋なんてしたくないの。夢中になればなるほど、そのあとの苦しみが大きいから』

 婚約者に裏切られた過去がある……とさみしく微笑む雛子の表情が、朝哉との別れのつらさを物語っていた。

 朝哉から婚約破棄の理由を聞いていたヨーコは、真実を告げてしまおうかと何度も思った。
 だけどそれを言ったら自分が朝哉からつかわされた隠密だとバレてしまう。
 隠密は絶対に素性を明かしてはならないのだ。
 それに、自分が計画的に近づいたのだとわかれば雛子にきらわれてしまう。
 ヨーコは目の前にいる可愛いジャパニーズガールを心底気に入っていた。口をつぐむほうを選んだ。


 雛子が大学を卒業する年の春休み、一足先に日本に行くことが決まっていたヨーコは、最後に従妹と3人でフランス旅行に行こうと提案した。

『知り合いが持っているコンドミニアムを無償で貸してもらえるの』

 その嘘も全部、朝哉が計画したものだ。

 朝哉が企業の展示会でパリにくるのに合わせて企画された3泊4日の旅。
 朝哉が手配した高級コンドミニアムに泊まり、ヨーコが働いているクインパスも出展しているからと、企業展示会に足を運んだ。
 ヨーコからのメールで彼女たちの位置を把握した朝哉は、ブースの陰からコッソリと雛子を盗み見て、目に涙を浮かべたという。

 クインパスのブースで商品をながめながら、懐かしげで、だけど悲しそうに長い睫毛をふせた雛子の顔が忘れられない。


 そして今年の4月。

『日本のクインパス本社では、新しいボスのもとで秘書として働きマス。また会いましょうネ』

 日本に旅立つヨーコの言葉に、雛子はふんわりと微笑んだ。

『私はあしながおじさまの秘書になって、彼のために全身全霊でつくします。おたがい働く場所は違うけれど、おなじ秘書として、それぞれの場所でがんばりましょうね』

 ハグを交わして別れを告げた。

『日本でまた会いましょうね』

 二人で交わした約束は、朝哉の告白ののち、羽田空港で笑顔のサプライズとともに果たされるはずだった。
 一緒に働けるはずだったのに……

ーーくそ~、あのヘタレめ。チ◯コが腐ってもげてしまえ!

 自分こそがあしながおじさまだと告白しているはずの朝哉が、なぜかおじさまの知り合いポジションになっていた。
 そして空港で朝哉の秘書として出迎えたヨーコの笑顔が、瞬時に凍りつくことになったのだった。

 もちろんヨーコを見た雛子は驚いていた。

 『あの、朝哉……さん、実は私とヨーコさんは知り合いなんです。彼女があなたの秘書になっていたとは知らなかったけれど』
 『そうそう、センム、そうなんですヨ~。ワタシとヒナコはニューヨークで親友だったのデス』

 そう雛子のまえで白々しい演技をしなければならなかったのが悔しくて仕方がない。
 それにこのに及んでハッキリしない朝哉が歯痒いのだ。

 親友でボスの朝哉と、大好きな雛子にはしあわせになってほしい。
 それにヨーコと朝哉との昔からのつながりがバレて、雛子に嫌われるようなことがあってはならない。絶対に!

ーーコレは早いとこトモヤにがんばってもらわないとデスね……。

 ヨーコは2人の仲を元にもどすために、そしてなにより自分と雛子の友情を守るために、全力で動こうと決意した。


 
 
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